管理人のイエイリです。
東日本大震災で発生した巨大津波は、建物やプラント施設などの津波に対する耐力確保という新しい課題が浮き彫りになりました。
これまでの津波解析は、津波の波形や浸水範囲、水位などをシミュレーションすることが中心でしたが、震災後は実際の建物や構造物などが津波による荷重に耐えられるかどうかを調べる検討業務が実際に出てきているようです。
そこで、この分野に新たなプレーヤーが登場しました。「わが社の解析技術を津波の分野でも生かしたい」というのは、日本イーエスアイの代表取締役社長、湯本公さんです。
津波の規模などを仮定して、同社が試しに解析した結果が下の動画です。「粒子法」という流体解析の手法を用いて、津波が防潮堤に衝突して飛び散ったり、建物内に流入したりする様子が再現されています。また、防潮堤や建物に作用する津波の衝撃力もリアルに計算されていますね。
日本イーエスアイが行った津波解析(資料:日本イーエスアイ。以下同じ) |
防波堤に作用する力(緑のグラフ)と、建物に作用する力(赤のグラフ)もリアルに再現 |
上記の動画(YouTubeより) |
建設業界では、あまり、同社の社名を聞き慣れないという人も多いと思います。しかし、自動車業界では、
衝突解析の第一人者
として、実力と知名度を誇る企業なのです。
同社はもともと、フランスの軍事関連の解析を行ってきました。その技術を自動車の衝突解析に応用して「PAM-CRASH」というソフトを開発。その結果、自動車業界にシミュレーションによる技術革新をもたらしました。
以前は新車の開発過程で、約50台のクルマを衝突実験により壊しては確認するという作業を行っていました。その期間は8カ月にも及びます。
ところが、PAM-CRASHのおかげで衝突実験がコンピューターによる解析シミュレーションに置き換えられるようになり、新車の開発期間は大幅に短縮されました。
自動車業界以外にも航空機や電気・電子、重電、精密機械、医療などの分野に、騒音・振動や流体解析、電磁波解析、溶接変形解析などの様々な設計シミュレーションソフトを提供しています。
自動車の衝突解析の例 |
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飛行機の緊急着水シミュレーションの例 |
同社が得意とするのは、様々な解析手法の“合わせ技”とも言える連成解析です。例えば、流体解析で津波の挙動を予測しつつ、その外力による建物の変形を構造解析で求める、といった複雑なものです。
その一例として、試しに行ってみたのは、海岸のタンクに津波が襲ったとき、どうなるかを検証したシミュレーションです。
ナ、ナ、ナ、ナント、津波の外力で
タンクが変形している
ではありませんか。また、津波も変形したタンクの表面に沿って流れています。
海岸のタンクに津波が襲った様子(左)とタンクの変形(右) |
上記の動画(YouTubeより) |
津波解析を担当する同社原子力産業担当マネージャの小俣一平さんは、「これらの解析は、あくまでも仮のデータに基づいて試しに行ってみたものです。津波の波形や波高、初期速度などの条件や、建物の詳細なデータがあれば、データを入れ替えるだけで同様の解析ができます」と説明しています。
具体的な解析条件のデータをお持ちの方、製造業の現場で培った同社の実力を試してみてはいかがでしょうか。
3Dプリンターや4Dによる組み立てシミュレーション、そして日本イーエスアイの解析シミュレーション技術など、最近は製造業で培われた技術が建設分野に入ってくる例が多いように感じます。
これもBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)など、3次元モデルによる設計と無縁ではなさそうですね。