管理人のイエイリです。
山岳トンネルの工事では、吹き付けコンクリートとロックポルトを使って、周囲の岩盤もトンネルの一部として生かす「NATM工法」が標準になっていますが、土木の中でも特に“経験工学”が求められる分野です。
大林組は「支保工」と呼ばれるトンネル内面の支持材の間隔や大きさなどを決めるため、現場での判断が難しいときは社内の専門部署にいる地質学の専門家による総合的な評価を仰いでいました。
切り羽の写真を3つに分割し、切り羽の強度、風化変質、割れ目の状態や間隔、走向傾斜、湧水量、劣化度合いの7項目を評価するという方法です。しかし人的リソースに頼るため、評価に時間と労力を要するのが課題でした。
そこで同社は
ナ、ナ、ナ、ナント、
AIのディープラーニング
によって、地質学の専門家と同等の評価を、早く、高精度に行えるようにする切り羽評価システムの開発を進めているのです。
これまで、風化変質や割れ目の状態、間隔の3項目について、70カ所の工事現場から集めた1035枚の切り羽画像と専門家の評価結果を、AIに学習させました。
ディープラーニングのモデルには、2012年に行われた画像認識のコンテスト「ILSVRC2012」で優勝した実績のある「Alex Net」を採用しました。システムの開発には、マスワークスが協力しています。
これまでの学習によって、切り羽評価システムは専門家の判断に対して、風化地質(4分類)で87%、割れ目状態(5分類)で89%、割れ目間隔(5分類)で69%という的中率をたたき出しています。
同社は1990年代前半から画像処理や、AIのエキスパートシステムなどを山岳トンネル分野に導入してきましたが限界がありました。それに比べて、ディープラーニングは着実に成果を出していますね。
ディープラーニングを使うことで、切り羽を細かく分けて評価し、切り羽の変状や崩落に対する処置を行えるというメリットもあります。
このシステムでは切り羽の写真を227×227ピクセルごとに分け、それぞれの領域について評価するからです。
そのため、500万画素のカメラでは約70領域、1000万画素のカメラだと
約130領域に細分化
して評価できるのです。
言い換えると、切り羽内に分布する弱点を自動的に発見するシステムでもあるということですね。
大林組はこれからもディープラーニングによる教育を進めて、2017年度内には7つの評価項目をもとにしたシステムを設計し、実証などをへて2018年度にはさらに高精度の切り羽評価システムを完成させる予定です。
いよいよ、「専門家」の同僚や弟子として、コンピューターくんが働く時代になってきました。知的作業の労働生産性もますます高まりそうです。