清水建設関東支店のBIM活用●第3回施工と保全業務
“造り込み型設計” が新しい施工方法、ストックビジネスを可能に(オートデスク)
2011年8月16日

事務所ビルの設計にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を活用し、意匠、構造、設備の干渉を設計段階で解決した清水建設関東支店は、Autodesk Revit Architecture (以下、Revit Architecture)で各種施工図を作成し、施工業務に活用しました。施工後の写真と図面はぴったりと一致し、図面がそのまま竣工図として使えるほどでした。BIMによって施工時の問題をあらかじめ解決しておく“造り込み型設計”は、新しい施工方法や、竣工後の保全業務におけるストックビジネスの可能性も切り開きました。

 

shimizu_img01.jpg 清水建設関東支店
生産支援部生産支援グループ
グループ長
藤咲 雅巳 氏

   BIMの属性情報で素早く概算積算

BIMモデルで意匠、構造、設備の干渉を設計段階で解決した清水建設関東支店では、BIMモデルの属性活用として、積算した構造数量内訳や専門工事会社の見積内訳と、相方の妥当性の検証を行いました。

「特に設備の数量計算は高精度に行えました。ダクトや配管などの設備は、属性情報を基にダクト長や配管長、バルブの個数などを自動集計した数量と、専門工事会社が積算で提出してきた数量とがほぼ一致しました」(藤咲氏)。自前で積算の根拠となるデータを共有できると、専門工事会社の積算について相方評価しやすくなります。

設備と同様に仮設の足場材の計画にも、Revit ArchitectureによるBIMモデルが効率化に役立ちました。建物の形が変わっても、枠組足場などの部材は変わりません。ファミリを作っておくと汎用性が高く、属性情報を利用して数量計算を行うこともできます。行政への届け出対応から協力会社を含めた施工手順の検討会にも、ビジュアルな資料は分かりやすく、役立ちます。とにかく、工事発注者も施工状況が事前に見て分かるのです。

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BIMによる足場材の計画。図面の作成から積算、CGによる施工検討など幅広く使える

躯体の数量はコンクリートの数量で型枠・鉄筋を複合的に判断できます。鉄筋や鉄骨の属性活用として「カットリスト」までの到達はもう一息です。3本のソフトを比較した結果、コンクリートの数量については基準となる構造調書に比べて±5%程度の誤差での集計となりました。Revitから拾い出した数量は2%と最も高い精度でした。現実には施工的に言うと、この段階では十分な結果です。

「これらの属性活用は、早期積算で重要な『複合単価』として扱います。“造り込み型設計”の判断として精度はある程度で、スピードが大切なのです」と藤咲氏は語ります。

  立体画像を盛り込んだビジュアルな施工図

BIMで設計しても、現場で頼りになるのはやはり図面です。しかし、施工図を作成する際は、BIMのメリットを最大限に生かしました。

その一例は「図面のカラー化」です。Revit Architectureで作成した施工図は、配管やダクトなどの種類に応じて色分けされています。そのまま一般に普及した大判のカラープリンターで印刷したのです。「図面をモノクロで印刷しても、現場では色鉛筆などで塗り分けているのをよく見ます。せっかくBIMで配管などが色分けされた図面があるのだから、それを有効活用しようと考えました」と藤咲氏は説明します。

施工図には細部の納まりを3次元パースで表現した立体画像や、品質管理のポイントとなる施工管理基準なども貼り付けました。Revit Architectureによる「設計の可視化」を、施工段階でも活用したのです。

事前にBIMモデルで干渉を解決しておいたために、着工後の設計作業はほとんど必要なくなり、設備工事会社は現場での施工に専念できました。

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設備ごとの色分けを施したカラー図面。細部の納まりを表した3次元パースや施工管理基準なども貼り付けて現場で便利に使えるようにした

仮設や鉄骨・プレキャストコンクリート部材の建て方計画にも、BIMモデルを活用しました。各工種の協力会社が集まり、BIMモデルを基に作った施工手順の4Dシミュレーションで関係者間の意識統一や情報共有、段取りの確認などを行うのに効果的です。

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BIMモデルを生かした施工検討会

らせん階段などは、平面図、立面図、断面図といった図面だけの情報では、細部の配筋や型枠の施工方法が分かりにくいことがあります。他の物件の例ですが、藤咲氏はRevit ArchitectureのBIMモデルデータを「3Dプリンター」という機械にインプットして模型を製作しました。複雑な形状も、模型にすると一目瞭然で、現場の作業員にも分かりやすく、数ある物の場合はプレキャスト化もでき、生産効率が良くなるのです。

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図面では分かりにくいらせん階段の配筋や型枠の納まりを理解するため、Revit ArchitectureのBIMモデルデータを基に3Dプリンターで作成した模型

  BIMモデルと完成した工事がぴったりと一致

BIMによる“造り込み型設計”と施工管理を行って完成した工事は、まさにBIMモデルがそっくりそのまま実物の建物となっていました。

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BIMモデルがそっくりそのまま実物となって完成した

設備のBIMモデルには施工記録として施工写真を属性情報に登録しておくと、後の保全に役立つ資料になります。「完成後に壁や天井裏に隠れる設備は、実物の完成状態を記録したモデルや写真があると、保全に有効活用できます。不具合があったときの記録も属性化することにより、病院の『カルテ』の文化となるのです」と藤咲氏。

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BIMモデルと完成した設備はぴったりと一致していた

タイル割や天井割に連携して設計したサッシや天井照明、ハッチなども、事前の設計を生かして手戻りや設計変更のない施工ができました。

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天井割と連動させた照明器具の位置もBIMモデル通りに仕上がった
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トイレのBIMモデルと完成写真。壁裏の配管や機器の配置もBIMモデルなら一目瞭然

今回、受注前の企画段階から施工まで、一貫してBIMモデルを活用したことで、新しい施工の可能性が見えてきました。着工前に設計部門と協力会社も交えて合意形成することで、設備のプレハブ化も可能になり、現場での作業も少なくなります。これは品質の安定供給と工事原価にも影響を及ぼすでしょう。

  竣工BIMモデルによるストックビジネスの可能性

壁や天井裏に隠れた設備を含めて、竣工時のBIMモデルを保有していると、壁や天井板の裏側にある各種機器や配管、ダクト、電線などの位置が分かるほか、属性情報に施工年月やメーカーなどを記録しておくことで、故障時の対応もスムーズに行えます。また長期修繕計画の時期やコストも属性情報を元に自動作成することも可能です。「設備は完成後に隠れるものだからこそ、そのBIMモデルの価値は高くなる」と藤咲氏は指摘します。

これからの建設会社にとって、竣工BIMモデルを作成し、修繕や点検時に更新していくことで、建物の運用・維持管理を対象にした次世代のストックビジネスを展開できるのです。

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竣工時のBIMモデルと建築、設備の竣工図を作成することで次世代のストックビジネス展開が可能になる

受注前から施工まで、BIMを一貫活用したプロジェクトは2011年2月に無事、竣工した。その建設フェーズを振り返った藤咲氏は「まさに、プロセスイノベーションですね」と締めくくった。

【問い合わせ】
オートデスク株式会社

オートデスク インフォメーションセンター
〒104-6024 東京都中央区晴海1-8-10
晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーX 24F
TEL 0570-064-787
URL http://www.autodesk.co.jp/
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