ヒートアイランド緩和効果をWindPerfect DXで確認
都心の”風の道”を発見した流体解析(環境シミュレーション)

2011年11月4日

法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科の宮下研究室は、環境シミュレーションの熱流体解析(CFD)ソフト「WindPerfect DX」を導入。東京都江東区におけるヒートアイランド現象の緩和策を検討に活用しました。1km四方から4km四方といった大規模なCFD解析の結果、都心に存在する“風の道”や海風による冷却効果が明らかになりました。そして、この研究は東京都公園協会賞の優秀賞を受賞したのです。

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法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科、宮下研究室での研究に使用されているWindPerfect DX

   4km四方、高さ300mの巨大空間をCFD解析

 周囲の地域に比べて都心の気温が高くなる「ヒートアイランド現象」の緩和策を探るため、東京・千代田区にある法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科の宮下清栄教授の研究室では、昨年、4年生だった鈴木俊也氏(現在は大学院生)が東京都江東区の内陸部と臨海部の3次元都市モデルを作り、環境シミュレーションの「WindPerfect DX」で解析しました。

 内陸部のモデルは約1km四方、臨海部のモデルは約4km四方で、高さはそれぞれ300mにも及びます。こうした巨大な空間を対象にCFD解析を行い、日射や風のよどみなどによって起こるヒートアイランド現象をパソコン上で再現しました。

 「まずGISソフトのArcGISから地形や建物をAutoCADに読み込み、建物に高さを与えました。そのデータをSTL形式で書き出した後、WindPerfect DXに読み込み、樹木や水面などを入力して都市モデルを作りました。樹木や水面などはパーツが用意されているのでとても効率的に作業できました」と、解析を行った鈴木氏は説明します。

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AutoCADで建物の高さ情報を与えた3次元都市モデルデータ(上)をSTL形式で出力し、WindPerfect DX(下)に読み込み、樹木や水面などを入力した

 こうして作った7つの都市モデルに、8月の午後2時と午後6時を想定した日照や卓越風、湿度、気温のほか、水面の温度などを入力し、あらゆる部分の風向や気温、湿度、建物や地面の表面温度などを解析しました。「樹木の葉による冷却効果も、葉面温度として考慮しました」(鈴木氏)というほど、多くの要素を考慮した解析でした。

 解析対象の空間は「メッシュ」という細かい領域に分割します。「メッシュ数は最大500万にも上りました。風が定常的になるまでのWindPerfect DXでの計算時間は、1ケース当たり180分くらいで済みました」と鈴木氏は語ります。

   WindPerfect DXによる解析で都心に“風の道”を発見

 解析結果はWindPerfect DXによって、3次元で分かりやすく可視化し、都市モデル内の風や気温などの分布を調べました。現地では風向きや温度は目で見えませんが、可視化されたCFD解析の結果を見るとヒートアイランドの分布が一目瞭然です。

 「解析結果を風速で色分けした結果、公園の周囲や川などには気温の上昇を緩和する“風の道”が存在することが分かりました。また、建物や樹木の影の部分は地表の温度が下がることもはっきりと確認できました」(鈴木氏)。

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内陸部にある木場公園(中央部)周辺の風向きを矢印で、風速を色分けで可視化したもの。ビルが密集している部分は青や水色の部分(風の流れが悪い)が多いのに対し、公園やその脇を縦方向に流れる大横川の周辺には黄色やオレンジ色の部分(風の流れがよい)が多く、“風の道”ができていることが分かる
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木場公園周辺の表面温度分布。建物が密集している部分はオレンジ色や赤が多く、温度が50~60℃程度にも達していることが分かる。一方、樹木や芝生に覆われた木場公園や大横川、建物の影となる道路では青色の部分が多く、温度は30℃代と低くなっている

 3次元都市モデル上で解析結果を斜め上空から見ると、さらにヒートアイランド内の細かい現象が明らかになりました。直射日光にさらされる建物の屋上は60℃程度に熱せられているのに対し、建物の影が差す側面や道路上は30℃程度と低くなっていることがはっきりと確認できました。

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3Dで見た表面温度の解析結果。建物の屋上は温度が高いのに対し、影となる側面は温度が低いことがよく分かる

  海風が地面や建物の表面を冷却する臨海部

 一方、海面に近い臨海部の風速は秒速10m程度のところが多く、内陸部に比べてかなり風通しがよいことが分かりました。そして表面温度は内陸部の建物密集地に比べて15℃以上、低いことが分かりました。

 「これは海風によるヒートアイランド緩和効果と言えるでしょう。強い風で地表や建物の表面が冷却されることが解析結果にもよく表れています」(鈴木氏)。

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臨海部の風速分布。黄色や赤の部分が多く、風速が7m/秒以上の部分が多いことが分かる
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臨海部の表面温度分布。オレンジ色や黄色の部分が多く、内陸部の建物密集地に比べて15℃以上低いことが明らかに

 指導教官の宮下教授は「CFD解析が実際の計測データと合っているかどうかも重要です。そこで2010年8月15日に、現地の気温や湿度、赤外線カメラによる表面温度の測定を行いました」と説明します。測定当日は計測用の機材をクルマに積み、鈴木氏をはじめ3人がかりで江東区全域に散らばる24地点を測定して回りました。1回の計測に3時間。これを午前9時から午後10時まで4回繰り返しました。

 「CFD解析の結果を実測データと比較したところ、よく一致していました。WindPerfect DXは自信を持って研究に使えることが実感できました」(宮下教授)。

  都市規模の解析ができることが導入の決め手に

 宮下研究室では、2008年からCFDソフトを導入し、都市内の熱環境などの研究に使ってきました。WindPerfect DXを導入したのは2010年12月のことでした。

 「それまで使っていたソフトは、500m四方程度までの解析しか行えなかったのです。当時、この解析を卒業論文として取り組んでおり、卒論の発表まで1カ月しかないという切羽詰まった時期に、急きょWindPerfect DXを導入し、無事に解析を終えることができました」と鈴木氏は振り返ります。

 「いろいろなCFDソフトを検討しましたが、4km四方もの巨大な空間を解析できるというのが、WindPerfect DXを選んだ決め手になりました。環境シミュレーション主催の講習会に1日参加したら、使い方は大体理解でき、後は分からないときに電話サポートで聞くという方法で使いこなせました」(鈴木氏)。

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宮下清栄教授(右)と鈴木俊也氏(左)

 この研究は「東京都江東区の緑と水がもたらすヒートアイランド緩和効果の検証」という論文にもまとめられ、東京都公園協会が主催する「第46回東京都公園協会賞」の論文部門で優秀賞を受賞しました。

 宮下研究室では、都市環境や中心市街地の活性化、LRT(次世代型路面電車)などの交通分野、都市再開発による景観・環境問題などを手がけています。

 宮下教授は「平成23年度から27年度にかけて、国内外の様々な水都を対象に、歴史と環境の視点から比較研究していく予定です。『水』を媒介に、これまで関係が薄かった建築史や都市史と、河川工学や海岸工学を結びつけるものです。この研究にもWindPerfect DXを積極的に活用していきたいと思います」と、CFDを生かした今後の研究について語りました。

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