北海道日建設計は、初めて手がけたBIMプロジェクトで実施設計までをArchiCADでやり遂げることに成功した。このプロジェクトを通じてBIMモデルを図面化するテンプレート整備や、「BIMx」でのプレゼンテーションに自信を深めた同社は、2015年に意匠・構造設計を100%BIM化することを目指した取り組みを続けている。この取り組みについて、同社のBIMプロジェクトを推進する大門氏、奥田氏にお話を伺った。
株式会社北海道日建設計 設計室 大門 浩之 氏 |
株式会社北海道日建設計 設計室 奥田 春香 氏 |
ArchiCADの導入1年で金融機関のビルに挑戦
北海道日建設計はBIMが徐々に話題になり始めた「BIM元年」と呼ばれた2009年ごろから検討を始め、2010年にArchiCADを導入した。
「ArchiCADは取っつきやすく、すぐに使えるようになりました。その半面、奥深さもあります」と大門氏は導入時の感想を語る。最初は建物のモデルを入力して外観やボリュームのチェック、そしてプロポーザル用のプレゼンテーション資料の作成などから少しずつ、現在に至るまで実務でのBIM活用の拡大を続けている。特にプロポーザルに関しては圧倒的にArchiCADを利用することが多いのだと言う。実際、数時間でモデルを作成し、1~2日でプレゼン資料を作ることも可能だそうだ。
導入後から1年ほどたった2011年の初め、大門氏と奥田氏を中心とする3人のチームで、BIMで札幌市内の苫小牧信用金庫のビルを設計することとなった。
金融機関として地域のランドマークとなるよう、インパクトあるファサードが特徴的なこの建物は、断面が150mm×500mmのプレストレスト・コンクリート(PC)をルーバー状のアウトフレームとして大胆に使い、建物の内部には柱が出ないよう、工夫がされている。
初めてBIMでチャレンジした苫小牧信用金庫のビル。PC部材をルーバー状に配置したアウトフレームがインパクトのあるファサードとなっている |
完成した苫小牧信用金庫のビル。BIMモデルとそっくりだ |
「BIMによる説明は分かりやすい」と施工者にも好評
「PC部材の寸法や太陽光を考慮したピッチ、リブの間隔などを確認するのに、ArchiCADによるモデリングがとても役立ちました」(大門氏)
「PC部材には外断熱を採用していますが、途中から内断熱に変わっています。複雑な部材の取り合いや熱伝導の経路となる『ヒートブリッジ』などを施工者に説明したときにも、分かりやすいと好評でした」(同氏)。
PC部材の詳細構造の説明に使用したArchiCADのBIMモデル(左)と完成したファサード(右) |
もちろん、初めてBIMでチャレンジする実務物件としての苦労もあったそうだ。例えばArchiCADで設計した建物のモデルから、平面図や立面図、断面図などの図面を作成するためのテンプレート作りである。
「テンプレート作成には、日建設計の東京本社や大阪支店などの協力を得ることかできました。またグラフィソフト社からも1~2カ月に1回ほど、アドバイスしてもらいました。その結果、2011年の9月ごろにはさらにBIMモデルの詳細化を進めて、詳細図までを作成できるようになりました」(大門氏)
プレゼン用資料の作成を行った奥田氏は「これまでは図面を基に一からCG作成用のソフトにデータを入力していましたが、ArchiCADで作った建物モデルがあることでレンダリングソフトの『Artlantis』を使ったCG作成作業はとても楽になりました。従来のようにパースを作成するだけではなく、『BIMx』も含め、バライエティに富んだ提案が可能になることが実感できました」と振り返る。
また、PC部材の複雑な接続部なども3Dで視覚化し、現場での注意点などを共有することにより、設計のコミュニケーションを高めることにも成功した。結果的に、最初のBIMプロジェクトで施工者にも「こんなに分かりやすい説明は初めてです」と喜ばれ、スムーズに竣工することとなった。
ArchiCADで作ったCGパース(左)と竣工写真(右)はそっくり。設計段階で建物の完成イメージを施主や施工者によく理解してもらうことができた |
BIMxやモルフツールの活用が広がる
初めてのBIMプロジェクトが無事に成功したことで、北海道日建設計の社内でもさらにBIM活用を進化させる取り組みを行っている。
BIMxは別のプロジェクトでも活躍している。「例えば劇場ホールのプロジェクトでは様々な観客席の場所から、大人から子供までのそれぞれの目線でステージがどのように見えるのかをウォークスルーで示したり、観客席が満席の場合はこう見えるなど、レイヤーに分けてクライアントへお見せしました。また、小学校のプロジェクトで建物に吹き抜け構造を採用した時も、安全性を具体的に提示することができました」(奥田氏)
このような提案をパースで行うとすると、通常、何枚も作成しなくてはならなくなってしまうが、BIMxのプレゼンにより、施主との合意形成を加速している。
「設計内容が分かりやすいので意思決定も早くなりました。BIMxによるプレゼンを施主に行うと、その後からもぜひやってほしいと頼まれるほど好評です」と奥田氏は説明する。
BIMで初めて設計し、竣工した苫小牧信用金庫のビル。この経験を踏まえて北海道日建設計ではさらにBIMに対する取り組みが広がった |
ArchiCAD16に搭載された新機能、「モルフツール」も大活躍している。直感的なモデリング操作に加え、3次元のBIMパーツを「モルフ要素」に変換し、形や寸法を自由自在に変えた後、再度、属性情報を与えてBIMパーツ化できる等、柔軟性の高い機能である。
「モルフツールはとても使いやすくて、重宝しています。形状の角を落とすなどの操作も簡単なので、家具や階段などをカスタマイズするのに役立っています」と奥田氏は語る。
3年で意匠、構造の設計を100%BIM化する計画
こうしたBIMによる成果も後押しして、北海道日建設計では2012年に意匠設計部門の若手設計者10人にArchiCADの導入教育を行うとともに、BIMでの設計用に最新鋭のワークステーションを配備した。ArchiCADのライセンス数もネットワーク版を増設し、ArchiCADを使って実務を行っている。
「従来通りの方法で実施設計を行うこともありますが、設計変更の度に各種図面を修正するという作業は、一度BIMを体験すると、非常に骨の折れる作業だと実感しています。また、BIMを使うことによって、効率化され、時間が短縮できた分を「質」を向上させることに回すことができます。私たちだけではなく、お客様に対してもメリットが出せると考えています」(大門氏)
「2013年からは3年計画で意匠設計と構造設計を100%BIM化していく予定です」と大門氏は今後の予定を説明する。
北海道日建設計は、日建設計や日建ハウジングなど、日建グループと毎月ネット上で会議を開き、BIMの活用方法やテンプレートなどのBIM資産を共有するなどの情報交換を行っている。
「プロポーザルでも建物の環境性能に対する関心が高まっているので、今後はArchiCAD 16に標準搭載されたエネルギー評価の機能や、高画質のCG/動画などの作成にもチャレンジしていきたい」と大門氏は将来の抱負を語った。
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