インテリアやデザインに強く、かつBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトの「Vectorworks」は、Mac版からスタートしたが最近はWindows版を使うユーザーの方が多くなっている。発売元のエーアンドエーで商品企画や他ベンダーとの協業に関する業務を担当する福原弘之氏に、日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)のコンパクトなワークステーション「HP Workstation Z220SFF(以下、Z220SFF)」とVectorworksの相性について聞いた。
4つのスレッドがフル稼働するレンダリング
デザインに強いBIMソフトとして定評のある「Vectorworks」は、2009年に本格的モデリングエンジン「Parasolid」を搭載し、近年ではレンダリングエンジンに「Cinema 4D」を採用するなど、ここ数年、大容量のBIMモデルへの対応や、レンダリングスピードの向上がめざましい。
「もともとMacからスタートしたソフトですが、今ではWindowsユーザーの方が多くなりました」とVectorworksの発売元であるエーアンドエーのマーケティング本部で製品開発などを担当するソリューション商品企画部次長の福原弘之氏は語る。
「2000年に発売したVectorworks8.5の時代に1~2晩かかったレンダリング作業も、今では30分くらいで完了するようになりました」という福原氏は、日本HPの省スペース型ワークステーション「HP Z220SFF」(以下、Z220SFF)で、屋内プールのBIMモデルを使ってレンダリング処理を行った。
プールの水面には天井や壁の装飾や、数々の照明機器が反射する。レンダリングにもパワーが求められる部分だ。モニター画面を見ると4カ所の部分で少しずつ、レンダリングされた画像が広がっていくのが分かる。
「4つの部分で画像が広がっていくのは、Z220SFFに搭載されているCPUが4つのスレッドで同時にレンダリング処理を行っているからです。今年発売されたVectorworks2013では、マルチスレッドを生かしてバックグラウンドでレンダリングを行いながら、設計を進めることもできるようになりました」(福原氏)
福原氏の説明を聞いているうちに、レンダリング処理は10分ほどで終了した。VectorworksがZ220SFFのマルチスレッド処理を最大限に生かした結果だ。
社内のWindowsマシンはHP製
エーアンドエーでは、Windows版ソフトの開発やソフトの講習会などで使うWindowsマシンはHP製のワークステーションを使っている。
「当社ではメモリーとしてVectorworksは4GB、高度なレンダリングを行うRenderworksは8GBを推奨しています。Z220SFFはCPU、メモリー、グラフィックボードのバランスがよく、Vectorworksユーザーも安心して使えます」と福原氏は説明する。
Z220SFFは、ユーザーの業務に応じて様々なカスタマイズが行えるが、CPUにインテル® Xeon® プロセッサー、メモリーに8GB、グラフィックボードにコストパフォーマンスの高いAMD FirePro™ V3900を搭載したモデルの価格は16万円程度から購入可能だ。
初めてBIMを導入する設計事務所などが、「Vectorworks Architect」とZ220SFFを同時に購入しても60万円程度と、比較的低コストで済むのだ。
タブレットPCでZ220SFFを外出先から操作
Vectorworksの機能がここ数年で飛躍的に向上したことにより、最近は大規模なビルや商業施設などのBIMによる設計にも使われるようになってきた。
大きな建物の設計にはマシンパワーが必要なため、Z220SFFのようなワークステーションが向いている。一方、客先では、複数の人が同じ画面を囲んでプレゼンテーションできるタブレットパソコンが便利なこともある。
日本HPではWindows8を搭載したビジネス用タブレットパソコン「HP ElitePad 900」を発売している。わずか9.2mmの薄さで重量はなんと、630gという軽量さが売り物だ。
「Z220SFFをElitePad 900で遠隔操作することで、大きなマシンスペックを要するビルのプレゼンを、客先に持って行ったタブレットPCで行うことができるのです」と福原氏は説明する。
これは日本HPが開発した「HP Remote Graphics Software」(以下、RGS)というソフトがなせる業だ。自席のワークステーションをインターネット経由でリモートアクセスや、複数のパソコンでリアルタイムに画面のシェアができる。HP Lab特許の「HP3圧縮技術」がこうした芸当を実現した。
「HP Remote Graphics Software」による大規模ビルのプレゼン例。タブレットPCから自席のZ220SFFを遠隔操作でき、その画面がリアルタイムに表示される | ||
「HP Remote Graphics Software」の概念図 |
「RGSを初めて使ったときは動作があまりにもスムーズなのでビックリしました。ほとんどタイムラグを感じないので、Vectorworks上で部材を選んだり、3Dモデルをカットするときの位置決めを行ったりするときも、ストレスを感じません。複数のワークステーションの画面をメンバーで共有できるので、ペーパーレスな会議もできそうです」(福原氏)
BIMによるものづくりにも対応
Vectorworksで設計し、ドミニカ共和国のサントドミンゴで2011年に完成した集合住宅では、意匠設計のほか構造、設備、エネルギー解析のほか施工段階でもBIMの機能をフルに活用した。
設備設計には「DDS-CAD」、構造解析は「Scia」、そしてエネルギー解析も行った。他のソフトとのデータ交換には、VectorworksからBIMデータの国際標準である「IFC形式」に書き出すことによって行った。
実際の建設工事でも、ファサードのスキン部分の施工にこのBIMモデルデータを使った。スキン部分の形状をVectorworksから「STL形式」に書き出して、カッティングマシンに渡し、スキンの中心部分に入れたスタイロフォームを自動切断したのだ。
STL形式は、3Dプリンターの造形にもよく使われている。VectorworksはBIMによる設計から、3DプリンターやCNCルーター、カッティングマシンなどと連係したものづくりまで一貫して対応できる。
Vectorworksは米国のネメチェック社で開発されているが、日本ユーザー向けにエーアンドエーが独自に改良した機能などもVectorworks本体に採用され、Worldwideのユーザーに利用されている。代表的な物は面の等分割機能や、黄金比率での図形の描画機能などが上げられる。これらの機能は海外でも高く評価され、ネメチェック社がVectorworksに標準搭載しているものもある。
このほか、エーアンドエーは、Vectorworksと連動する様々な解析・シミュレーションソフトを開発している。例えばヒートアイランド現象などを解析する「ThermoRender」や、人の避難行動などをシミュレーションする「SimTread」、気流をシミュレーションする「Windworks」などだ。
VectorworksでBIMを始め、解析ソフトやシミュレーションソフトを活用した設計に進んでいくときも、Z220SFFなら十分に対応できる。「VectorworksのWindows版ユーザーに、Z220SFFは安心してお勧めできるワークステーションです」と福原氏は締めくくった。
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