大林組がスマートBIM cloudとBIMx Docsの本格運用を開始
ArchiCADを軸にBIM活用を全社展開(グラフィソフトジャパン)
2014年8月25日

大林組は2014年4月、BIMのモデルデータを、GRAPHISOFT BIMcloudを核とするクラウドコンピューティングによって共有するシステム「スマートBIMクラウド」と、iPad/iPhoneで動作するArchiCAD用のBIMモデルビューワー「BIMx
Docs」の運用を開始した。グラフィソフトジャパンの意匠設計用BIMソフト「ArchiCAD」を軸とし、他社の様々なBIMソフトと連携しながらコラボレーションする体制が本格的にスタートした。

「スマートBIM」クラウドを導入した大林組の現場。BIMモデルや図面をタブレット端末用アプリ「BIMx Docs」でどこでも見られる

「スマートBIM」クラウドを導入した大林組の現場。BIMモデルや図面をタブレット端末用アプリ「BIMx Docs」でどこでも見られる

   「将来起こりそうな課題を設計段階で発見できる」

「スマートBIMクラウドにより、設計中のBIMモデルを社内で共有し始めてから、これまで施工段階で顕在化していた課題を設計段階で発見できるようになりました」と大林組建築本部PDセンターBIM推進第一課の和田一課長は語る。「着工前にプロジェクト関係者が課題を認識して事前に対策を検討できる効果は大きく、生産性と品質の向上につながっています」(同)。

スマートBIMクラウドは、BIMの組織的な活用を推進する大林組がグラフィソフト、日本電気(NEC)とアライアンスを締結し、GRAPHISOFT
BIM Server(現在では、GRAPHISOFT BIMcloud)を核とし、2011年8月から2年がかりで開発したBIM用のクラウドシステムだ。設計事務所やゼネコン、サブコンなど、建設プロジェクト関係者が相互にセキュアで円滑な情報共有を実現するため、BIMの建物情報を共有し早期に合意形成を図るために開発された。

スマートBIMクラウドの運用イメージ

スマートBIMクラウドの運用イメージ

スマートBIMクラウドの開発体制

スマートBIMクラウドの開発体制

グラフィソフトは意匠設計用のBIMソフト「ArchiCAD」のベンダーとしての技術、NECは大規模クラウド構築の実績とノウハウ、そして大林組は設計・施工における豊富なBIM導入実績を生かした。2013年に完成したスマートBIMクラウドは、2014年4月、ついに本格運用が始まったのだ。

   協力会社ともBIMで情報共有

大林組建築本部PDセンター企画管理課の中沢英子課長は、「スマートBIMクラウドの運用開始後、80のプロジェクトで活用されています。各プロジェクトのユーザーが平均10人前後ですので、のべ約800人が活用しています」と説明する。

スマートBIMクラウドの特徴は、大林組の社員だけでなく、協力会社も業務内容に応じてアクセスできることだ。最新の設計情報が瞬時に共有できるため、古い図面や仕様のままでの施工や設備の製作を行ってしまうようなミスを防げる。

「2年ほど前から、設備協力会社とのBIMによるコラボレーションを行っていましたが、モデルデータの受け渡しが煩雑でした。スマートBIMクラウドの導入により、すぐに始められるので、さらに活発になっています。例えば、サブコン自らがクラウド上の建築モデルを積極的に参照し、設備の施工図作成に生かしたりしています」と大林組建築本部PDセンターの本谷淳部長は説明する。

   iPadとも連携し、BIMモデルをどこでも見られる

スマートBIMクラウドには、BIMを組織で活用するために必要な様々な機能を持っている。まずは「オンデマンドな情報取得による早期合意形成」だ。設計や施工、竣工などプロジェクトのあらゆる過程で、建物の3次元情報をインターネットやイントラネットを通じてプロジェクト関係者が見られる。

そして、タブレット端末の「iPad」とも連携する。ArchiCADで作成されたBIMモデルは、BIMモデルビューワー「BIMx Docs」を使って、いつでも、どこでも、常に最新のBIMモデルを確認できるのだ。

iPad上に表示された図面

iPad上に表示された図面

スマートBIMクラウドのもう一つの大きな機能は「大量データの効率的活用による建物品質の向上」だ。社内外のプロジェクト関係者が、建物に関係する大量のデータベースを効率的に利用し、スピーディーで正確な情報連携が行える環境が整った。

「クラウド上のデータベースには建物モデルのほか、設計プロセス、調達や各種シミュレーション情報など、建物にかかわる様々な情報が1カ所で管理される。これにより、円滑な工程の進捗と品質の向上が可能になります。BIMモデルがいろいろなパソコンやサーバーでバラバラに管理されていると、情報を探すだけでかなりの時間的なロスが出てしまいますが、一括管理によってその無駄もかなり削減できます」と、大林組
建築本部 PDセンターの宮川宏 所長は語る。

過去に作ったBIMモデルを将来のリニューアル工事に活用する道も開けてきた。「既存ビルの地下室や基礎を生かしながら、ビルのリニューアルをする例も増えています。BIMモデルがあることで、リニューアルに伴う構造計算も行いやすくなります。また、3Dレーザースキャナーで計測した点群データも、スマートBIMクラウドでプロジェクト関係者が共有できます」と、宮川所長は続ける。

   3Dモデルと図面を見られる「BIMx Docs」

BIMソフトで作成した3DモデルをiPadやiPhoneで見られるアプリは、これまでもBIMベンダー各社から無償提供されていた。また、現場でのニーズが高い図面は、PDF形式に変換することで、iPadなどで見ることができた。

しかし、3Dモデルと図面を見るソフトが別々だったり、同時に見られなかったりしたため、3Dモデルと図面の位置関係が今ひとつ、分かりにくいという問題もあった。

大林組がスマートBIMクラウドと連携して導入した「BIMx Docs」は、iPadやiPhoneでArchiCADのBIMモデルや図面を見るためにグラフィソフトが開発した高機能アプリだ。

その特徴は、ArchiCADのファイルとして作られたBIMモデルデータを3Dと2D図面を同時に表示したり、3Dと2D図面の相互にリンクして行き来したりしながら見られることだ。

BIMモデル上にはナビゲーションマーカーがあり、指でタップするとその図面が見られる

BIMモデル上にはナビゲーションマーカーがあり、指でタップするとその図面が見られる

図面の拡大表示。左上の全体図に表示されている範囲が示される

図面の拡大表示。左上の全体図に表示されている範囲が示される

そのため、図面が建物のどの部分を表しているのかが、一般の人にもよく分かる。またBIMx Docs上のBIMモデルは3D空間で切断面の位置を自由に動かすことができる。さらには、そのBIMモデル上に「ナビゲーションマーカー」という印を付けて図面にリンクを張ったり、図面を階ごとに整理した一覧表からリンクを張ったりすることができるので、必要な図面をすぐに開ける。

図面を拡大して見るときには、左上の全体図上に拡大表示している範囲が示されるので、“迷子”になる心配もない。また、スマートBIMクラウドのサーバーにも接続することができるので、現場など屋外でもスピーディーに最新のデータを取得できる。

   社内に配布された約4000台のiPadとも相乗効果が

大林組では2012年8月から建築現場などで施工管理を担当する技術者全員に約4000台のiPadを配布してきた。こうしたタブレット端末活用の推進もあり、スマートBIMクラウドの導入により、相乗効果が発揮されたのだ。

「施工管理担当者には、BIMモデルを見て理解することが主目的の人もいます。こうした人たちまでが、ArchiCADの操作を習得するのは大変です。その点、BIMx
Docsは、組織としてのBIM活用を推進していくうえで、すそ野を広げる役割も果たしています」と本谷部長は説明する。

大林組では施工管理を担当する技術者全員がiPadを持っている

大林組では施工管理を担当する技術者全員がiPadを持っている

またPDセンターBIM推進第一課の中嶋潤課長は、「設計者自身がiPadを使い、発注者にBIMモデルを見ていただくことで、設計内容に対する発注者の理解がより深まります。これにより、設計内容に対する詳細なニーズを早い段階で引き出す“設計のフロントローディング”効果が期待できます。」と語る。

BIMx Docsは、iPad上で自由にBIMモデルの断面を切って見ることができる。そのため、これまでの業務プロセスにも今後、変化が生まれそうだ。

「例えば、これまでの図面では多くの断面図を描く必要がありましたが、BIMx Docsで自由に断面が見られるようになると、図面の一部は省略できるかもしれません。プロジェクトを通しての、ワークフローや図面そのものをこれまでの概念にとらわれないスタイルに変えていくことが、生産性向上を図るうえで欠かせなくなるでしょう」と、PDセンターBIM推進第二課の浦田明美課長は今後の構想を語る。

BIMモデルの切断位置は自由に動かせる

BIMモデルの切断位置は自由に動かせる

iPad上に表示された図面

iPad上に表示された図面

大林組は“日本のBIM元年”と呼ばれる2009年より前の2008年から、3次元CADソフトやBIMについての調査を始めた。その結果、「これからはBIMが建設業界に普及する」と判断。2010年4月にBIM推進室を発足させた。以来、東京スカイツリーや大林組技術研究所の本館などで、実プロジェクトでのBIM活用を積み重ねてきた。

そして2013年10月に、BIM推進室をPDセンターに組織改編し、全社のBIM導入やプロジェクトの支援を行っている。

メインの意匠設計用BIMソフトとしてArchiCADを選んだのは、BIMの共通データ交換フォーマット「IFC形式」によって他ベンダーのBIMソフトとの積極的な連携を図る「OPEN BIM」の思想で開発されているからだという。

現在、大林組では設計・施工一貫プロジェクトの約60%にBIMを活用しているが、2016年3月までにはこの比率を100%に引き上げる計画だ。今後は、BIMによる生産性向上をさらに強固なものにするため、ワークフローの本格的な変革に取り組んでいくため、2次元の時と同じ成果は求めず、3次元(BIM)にあったワークフローをより進めていく計画だという。

グラフィソフトのArchiCAD、BIMx Docs、そしてスマートBIMクラウドは、同社のBIM戦略をこれからも支えていく。

大林組建築本部PDセンターのスタッフ。前列左から宮川宏所長、本谷淳部長、後列左から和田一課長、中嶋潤課長、中沢英子課長、浦田明美課長

大林組建築本部PDセンターのスタッフ。前列左から宮川宏所長、本谷淳部長、後列左から和田一課長、中嶋潤課長、中沢英子課長、浦田明美課長

 20140825BIMx-11 【問い合わせ】
グラフィソフトジャパン株式会社
<本 社> 〒107-0052 東京都港区赤坂3-2-12 赤坂ノアビル4階
TEL:03-5545-3800/ FAX:03-5545-3804
<大阪事業所> 〒532-0004 大阪府大阪市淀川区西宮原2-27-53 Maruta 2F-A
TEL:06-4807-7337 / FAX:06-4807-7340
ホームページ www.graphisoft.co.jp
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