Vectorworks教育シンポジウム2015
デザイン教育におけるCAD活用の現状とこれから
「テーマ:デジタルデザインのすすめ」(エーアンドエー)
2015年11月5日

東京・大手町サンケイプラザで2015年8月28日(金)、第7回を迎えた「Vectorworks教育シンポジウム2015」が開催された。「デジタルデザインのすすめ」がテーマとなった今回は、SUEP.の末光弘和氏とナカムラデザイン事務所の中村隆秋氏が特別講演を行ったほか、2つの分科会でOASIS加盟校の教職員がVectorworksなどを活用した授業や課外活動について講演した。
開会に先立ち、あいさつしたエーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長は、「最近の建築、空間、都市デザインには意匠性だけでなく、機能性や実現性、経済性、そして環境性など多くの要素が求められる。必然的にデジタルデザインの手法が求められる時代になったことを踏まえて今回のテーマを決定した」と、あいさつした。
会場では今年で5年目を迎えたOASIS研究・調査支援奨学金制度の授与者発表や、昨年の授与者による研究成果発表、Vectorworksによるハンズオン「BIM実践講座」のほか、学生の研究成果の展示コーナーも設けられ、Vectorworksを教育の場で活用する教職員や学生が交流を深めた。

Vectorworks教育シンポジウム2015の開会に先立ち、あいさつをするエーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長

Vectorworks教育シンポジウム2015の開会に先立ち、あいさつをするエーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長


特別講演

デザインとエンジニアリングの横断

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株式会社 SUEP.
末光 弘和 氏

建築家の仕事は、単にデザインをするだけではない。人と情報を共有したり、人を説得したりすることにも努力しなければならず、そこにはコンピューターのテクノロジーは欠かせない。今日はデザインとエンジニアリングを横断しながら進める建築設計についてお話ししたい。

建築設計の世界で、環境シミュレーションは新しいテクノロジーだ。私が2001年から2006年まで籍を置いていた伊東豊雄氏の事務所時代は、環境シミュレーションはあまり使われていなかった。

その理由の一つはコストにあった。ソフトは300万円、500万円というものが多く、建築設計者自身が使うのに適したソフトも少なかった。一方、環境シミュレーションは外注すると1回で100万円単位のお金がかかった。

最近は廉価版のソフトも登場している。これらのソフトを使うと、誰にでも、これまで目に見えなかった風や熱などの情報がよくわかる。

これは設計において、身体のスケールを拡張してくれるものだ。その一つは「空間スケール」だ。普段、われわれが扱っていたスケールは建てようとする建物の周辺くらいがターゲットだった。その空間がデジタルツールを使うと、10キロメートル四方とか、都市全体といった具合にもっと広がる。

マクロな世界では街全体にどのように風が流れているのか、逆にミクロな世界では建物周辺にどのような微気候が存在するのかといったことを考えられるようになる。

もう一つは「時間スケール」の拡張だ。設計作業では写真を撮ったり、図面を描いたりと、ある瞬間で建物を表現することが多い。しかし、実際の建物は長い年月の間、使われるものだ。設計の時間は限られているが、デジタルツールによって、長い年月をシミュレーションしながら「春だとこうなる、夏だとこうなる」、といったことを踏まえて設計できるのだ。

こうした設計を行うため、われわれの事務所ではスマートフォンに取り付けられる携帯型サーモカメラや、太陽軌跡をシミュレーションするスマートフォン用のアプリ、風や熱、温度の解析シミュレーションソフトなどを使っている。

今日はこうした環境シミュレーションやデジタルツールを使って、われわれが建築における環境デザインをどのように実践しているかを、作品を通じて紹介しよう。

まずは、千葉県我孫子市に建設した地下水のシミュレーションをしたエコハウスだ。この地域では縄文時代から豊かな地下水を暮らしに生かしてきた。そこで温度が年間16℃くらいで一定している地下水をくみ上げ、壁裏に取り付けた輻射パネル内を循環させることにより輻射冷房を行った。設計の際に意識する空間を地下深くまで広げることで、自然エネルギーを使った住宅が実現した。

次に紹介するのは福岡市の中心部に建設した住宅だ。この建物の敷地は傾斜地で、地すべりなどの災害も多い。そこで住宅の基礎を地下の岩盤層に接地させるため、半分傾斜地に埋め込んだ構造を採用した。

この住宅では地下3mの地熱を利用した。その温度は年間を通じて温度差5℃と安定している。同時に斜面を吹き上げる風を住宅内に取り入れ、各部屋にうまく循環させるために通風シミュレーションを利用して間取りや部屋、通路の配置を検討した。

部屋の形や位置を変えながら通風シミュレーションで風通しの良い間取りを検討した(画像:(C)株式会社 SUEP.)

部屋の形や位置を変えながら通風シミュレーションで風通しの良い間取りを検討した(画像:©株式会社 SUEP.)

ある都市部に建つ木造の住宅では、オーナーからは大きなテラスがほしい、周辺に建つマンションからのプライバシーも守りたいという二つの要望を受けた。

まず、周囲の街並みの3Dモデルを作り、日射シミュレーションを行い、この住宅周辺にどのような熱が分布するのかを調べた。そして前面のテラスには、周囲のマンションからの視線を遮り、日射を和らげるために前面と上部には多孔質のセラミックパネルをランダムに配置した。

そして、パネルに水を噴霧して、水の気化熱でテラス周辺の気温を下げる仕組みを考えた。パネルに均等に日光が当たるようにするためには、上のパネルの影が下のパネルにできるだけかからないような有機的な配列が必要だ。

そこでパネルの配置を少しずつ変えながら100回以上、日射シミュレーションを繰り返した結果、エネルギー効率の高いパネル配置が得られた。パネルの表面温度は水を噴霧した後、10分ほどで約7℃、空気温度は2~3℃も下がった。デザイン的にも有機的で自然なものとなった。

テラスを覆うセラミックパネルの配置をシミュレーションで検討(画像:(C)株式会社 SUEP.)

テラスを覆うセラミックパネルの配置をシミュレーションで検討(画像:©株式会社 SUEP.)

プライバシー対策と気化熱による自然空調を兼ねたファサードのセラミックパネル(写真:© DAICI ANO)

プライバシー対策と気化熱による自然空調を兼ねたファサードのセラミックパネル(写真:© DAICI ANO)

山口県に建てた住宅では、日影シミュレーションを使って住宅全体を覆う吊り屋根の設計を行った。夏はできるだけ直射日光をカットしたいが、冬はできるだけ日射が入ってきてほしい。そのためには住宅の天窓と吊り屋根の穴の位置を調整する必要があった。

そこで日影シミュレーションソフトを使って、季節ごとに太陽光の軌跡に基づいて屋根の穴からの日光がどのように住宅に差し込むのかを解析した。

日影シミュレーションの結果に基づいて開口部の位置を決めた木製の吊り屋根(写真:© 中村 絵)

日影シミュレーションの結果に基づいて開口部の位置を決めた木製の吊り屋根(写真:© 中村 絵)

日影シミュレーションは、九州芸文館アネックス1という小さな市民ギャラリーの設計で落葉樹によって夏冬の日射制御を検討したり、地方のリサイクル会社のオフィスで使われた木製ルーバーの最適化に活用したりした。

このほかシミュレーションは山間部の住宅における太陽光を効率的な集熱、学校での雨水利用に向いた屋根形状のデザイン、文化ホールの音響効果を最適化する屋根デザイン、洪水時の避難を考えた学校の設計などにも活用している。

われわれSUEP.は、これからもデザインとエンジニアリングを組み合わせた環境設計をさまざまな建物や施設に生かしていきたい。


特別講演

今、なぜ作るのか?

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ナカムラデザイン事務所
中村 隆秋 氏

私がかかわったプロジェクトを通じて、デザインと社会の関係について話したい。プロジェクトが「なぜその目的を持ったのか」、「なぜその形にしたのか」、「どのように社会に受け入れられたのか」という話だ。

まずは2015年に手がけた墓石店の二上家の事例だ。最近は散骨や樹木葬など、メディアでは「お墓離れ」がよく言われている。

その背景には、人口都市部集中・核家族化・後継者不在や、墓石の品質と価格の問題等がある。これは、今の時代にお墓というものを改めて見つめ直す場を作ろうというプロジェクトだ。

大正14年に創業した二上家は、「お客さまの心を大切にする」という理念を持っており、今回のプロジェクトでは「静かで厳かな空間の創出」という依頼を受けた。そこで展示スペースと接客スペースを兼ねた展示場を作ることになった。

お客さまが墓石に関するモノ、ヒト、コトに向き合うのにふさわしい空間として導き出したのが「墓石の庭」というコンセプトだった。

まず墓石を石庭の石に見立てた。また庭に面した客間を構成する和風建築の要素を現代的にシンボリックに表現しようと思った。

その結果、展示場は、窓際に墓石を並べ、その反対側に客間に見立てた接客スペースを設け、間に縁側に見立てた通路を配置するというレイアウトにした。

接客スペースの奥には床の間、間仕切りには禅画の〇、△、□をモチーフにした開口部を設け、仏具などを展示するスペースは違い棚を現代的にデザインした。また、仕切りを外すと2つの接客スペースがつながり、セミナーを行えるようにした。

この展示場が墓石に対する知識を深めたり、その価値を理解してもらう場となることを願っている。

左側は石庭、右側は客間に見立ててデザインした展示場(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

左側は石庭、右側は客間に見立ててデザインした展示場(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

接客スペース。床の間、間仕切り、違い棚といった客間の要素を現代的にデザインした(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

接客スペース。床の間、間仕切り、違い棚といった客間の要素を現代的にデザインした(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

2014年には、別のクライアントから現代にふさわしい墓石をデザインしてほしいという依頼があった。そこでデザインしたのが「角の丸いお墓」だ。

伝統的な和風の墓石は、上から天を表す「竿(さお)石」、人を表す「上台」、地を表す「中台」という順で重なっている。その様な古来からの意味を大切にしたいと考えた。

墓石の素材、色、形、機能について現代的な表現とは何かを考えて、石の種類と色の組み合わせ、角の丸い形、機能の一体化という要素で多様な展開ができるデザインにした。

この墓石が新しいスタンダードになっていくことを願っている。

現代的にデザインした墓石(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

現代的にデザインした墓石(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

現代のクリニックは、従来からの単なる診察や治療だけでなく、差別化が求められている。ホテルのようなクリニックが登場するなど、多様な付加価値が求められる時代になった。

2014年に手がけた東京・銀座の婦人科のクリニック、キシクリニカフェミナは、女性の社会進出に伴い、これまで重要視されなかったことを見直してデザインに取り組んだ。

婦人科に求められるデリケートな対応、総合病院との連携を行う上でのプライバシー確保、そして質の高い診療を実現するために求められる患者と向き合う姿勢、銀座並木通りに立地する街としてのステータスといった要素から、パーソナルとハイグレードという2つのテーマを設定し、それを実現する「個室」というコンセプトを導き出した。

個室は特別なものという意味もある。そこで空間構成としてはクリニックの待合室や診療室などの機能を個室化し、医療行為の流れに合わせて個室を連続させる「Room to Room」という考えを導き出した。そして、仕切られた空間の入り口には、個室というコンセプトをシンボル化したフレームを取り付けた。

区切られた個室から個室へと移動する過程で、患者はプライバシーを守られながら、自分のために特別な医療を提供されているという感覚を持つことができる。これが質の高いクリニックの表現として、相応しいデザインになったと思う。

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個室を順番に移動するように配置された各スペース(左)。各室の前室を連続させた通路(右)(写真:© ナカサアンドパートナーズ 大谷 宗平)

潜在的な社会ニーズから求められるものを分析し、デザインとして結実させていくことは他のプロジェクトでも実践している。

2009年に京都にできた9h(ナインアワーズ)というカプセルホテルは、ホテルやビジネスホテルとのヒエラルキーを超えて「道具として使うホテル」というテーマを追求した。ホテルで過ごす9時間の中身を1時間のシャワー、7時間の睡眠、1時間の休息と身支度と考え、これらの機能をシンプルにデザインした。

クリエイティブディレクションとプロダクトデザインに柴田文江氏、サイン・グラフィックデザインに廣村正彰氏、そしてインテリアデザインを手がけた私の3人からなるデザインチームは、それぞれの領域を超えて取り組んだ。レイアウト、デザイン、マテリアル、カラースキーム、ライティングのすべてをシームレスというコンセプトに基づいてデザインした。また、2014年に成田空港にできた2号店と合わせて宿泊の新しい選択肢が提示できたと思う。

2004年に東京駅前に開店した丸善丸の内本店は、本が売れず、電子書籍の出現などで書店がなくなるのではないかと心配されていた時代に、新しい書店を追求するデザインを依頼された。目指したのは本好きの人だけではなく、本屋好きの人もターゲットにした店舗だ。

ブックミュージアムというコンセプトに基づいて各フロアの通路部分に、旬の本等を並べるミュージアムゾーンを設け、そこから奥の売り場に誘導するレイアウトにした。この店舗で大型書店の在り方に刺激を与えることができたと思う。

今、デザインの意義や価値が問われているが、デザインが時代や社会に対してできることはたくさんあると思う。


OASIS研究・調査支援奨学金制度研究成果発表

2014年度のOASIS研究・調査支援奨学金制度のテーマは、「思い切って『新』常識人になろう」だった。奨学金を授与された3人の学生が、この1年間の研究成果を発表した。


避難施設を核とした災害に強い街づくりの研究

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慶應義塾大学大学院
山田 崇史 さん ほか全3名

内閣府の「津波避難ビル等に係るガイドライン」によると、津波が襲ってきた地域の住民は海と反対側に向かって避難すると一律に設定されている。しかし、最近は津波避難ビルなどの整備が進み、避難先の選択肢が増えている。

そこで、東日本大震災で津波が襲った宮城県仙台市、名取市、岩沼市の住民を対象に行った避難行動のアンケート調査結果を分析し、住民がどの施設を選んで避難したのかを調べた。

分析には平成23年9月から12月末までの期間、国土交通省が東日本大震災の津波被害を受けた6県、49市町村を対象に行った「復興支援調査アーカイブデータ」を使用した。

うち、仙台市、名取市、岩沼市の避難経路の総数は387経路だった。

これらのデータを海側から見た避難方向や移動距離、避難施設の高さ、建築面積、そして標高の5つのデータを線形関数でモデル化し、「最尤推定法」という統計解析手法で関数の各係数を求めた。

東日本大震災の津波が襲った3市における避難方向の分析結果

東日本大震災の津波が襲った3市における避難方向の分析結果

この関数で実際の避難所選択との結果が一致した的中率を求めたところ、仙台市は80%、岩沼市は70%、名取市は49%という結果が得られた。名取市は3市の中では的中率が悪かったが、避難施設を6つのグループに分けて分析すると90%まで高まり、高い精度のモデル作成が可能になった。

導き出された避難先の数値モデル

導き出された避難先の数値モデル

研究の結果、短時間での避難や地域ごとの避難施設割り当てを考慮すると、同じ建築面積の避難施設を分散して配置した方が良いことがわかった。


BIMを用いた旧宣教師館「デフォレスト館」の保存・活用に関する研究

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東北学院大学大学院
佐々木 沙和 さん

東北学院大学には、明治20年に建てられた「デフォレスト館」という歴史的建物がある。コロニアル様式をベースにした木造2階建ての洋館で、宣教師館として建てられた。平成25年には国の有形文化財としても登録され、全学を挙げて保存、活用するための取り組みが行われている。

この研究は、「デフォレスト館」をVectorworksでBIMモデルとして保存するというものだ。建物の内部と外部を実測し、BIMモデル化することで、各部材の属性情報に改修履歴や色彩、仕上げなどの素材の情報を組み込み、今後、同館を改修するときの意匠イメージや色彩の検討に使うことを予定している。

デフォレスト館のBIMモデルによる補修工事の色彩検討

デフォレスト館のBIMモデルによる補修工事の色彩検討

何年も補修を繰り返しながら使われてきたデフォレスト館は、屋根のスレート改修や塗装の変更が何度も行われてきた。外観の色彩検討では、デフォレスト館の建設当初や重要人物の生活していた時期など、建物の歴史的背景をとらえた色や意匠を復元することを推奨する。

内観の色は、居間や食事室、書斎などの塗装断面を顕微鏡で観察し、部位ごとの塗装履歴を明らかにした。また、建設当初に葺(ふ)かれていた屋根のスレート材が保存されていたため、屋根部分は当時のスレートで統一することで進めている。

顕微鏡による塗装履歴の分析

顕微鏡による塗装履歴の分析

デフォレスト館の復元工事では、保存や再生計画策定についての協議にBIMの活用が大いに期待できそうだ。そして歴史的建造物の保存・再生は、歴史に参画する重要な取り組みであるといえる。


現在求められる新コミュニティー建築とは…

東日本大震災の3.11の教訓を活かしたコミュニティー都市構想

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北海道職業能力開発大学校
秋山 愛斗 さん

東日本大震災で大きな津波の被害を受けた岩手県陸前高田市の都市復興計画、防災都市計画を1年半がかりで作成した。

復興計画づくりには居住者の意見が不可欠だと思われた。そこで2014年3月に陸前高田未来商店街など市民に対するアンケート調査を行い、幅広い年齢層の市民24人から生の声を得ることができた。

同年8月に2日間にわたり、陸前高田市で現地調査を行ったときには、海岸沿いにあった高田松原の松が、流木のように朽ち果てている姿にショックを受けた。

こうした調査を踏まえた復興基本計画では、「震災の経験を活かした街づくり」「過去にとらわれない新たな都市構想」「コミュニティーの輪を広げる都市空間」に重きを置いた。高田松原のあった海岸部は公園とし、その背後は農作地区とした。また、高台には住宅地区を配置した。

調査を踏まえて構想した基本計画

調査を踏まえて構想した基本計画

一方、防災計画としては海側から山側に向かって第1、第2の防潮林と盛り土を施し、これらに津波による浸水を食い止める「防災圏」としての機能を持たせた。高台の住宅地区は海抜45mの「安全圏」と位置づけた。

想定したJRの新駅周辺には、ランドマーク的な施設として駅舎や駅前広場、資料館付きの集合住宅を配置し、親水空間や談話空間、復興のシンボルとしての機能を持たせた。

新駅周辺のランドマーク地区

新駅周辺のランドマーク地区

この研究はものづくり大賞2015などの賞を受けたほか、中心市街地企画委員会にも反映される見込みだ。


総評

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エーアンドエー株式会社
非常勤顧問、2014年度 OASIS研究・調査支援奨学金制度審査委員長
大河内 勝司

最近、エンブレムのデザインやバイオテクノロジー分野での研究をめぐって、マスコミなどではオリジナリティーについての議論が目立っている。しかし、最新の研究成果というものは、過去に先人たちが行った研究成果があってこそ出てくるものだ。

慶應義塾大学大学院の山田崇史さんが発表した、津波発生時の避難行動についての研究は、既存のアンケート調査結果のデータを活用して、山田さんのオリジナリティーを生かした研究と言えるだろう。建物の規模や方向と避難行動との関係を解明するテーマだったが、建物の目立ちやすさや、昼と夜の人口分布などの切り口で解析した場合の結果も気になった。

東北学院大学大学院の佐々木沙和さんの研究は、身近な文化遺産があり、それをデジタルデータとして残しておく方法のプロトタイプとなることを期待している。建物自体はなくなっても、3Dモデルという形で残しておくことは今後、必要になってくるだろう。その場合、建物の著作権をどう扱うかもクリアする必要があるかもしれない。

最後の北海道職業能力開発大学校、秋山愛斗さんの発表は、言葉を失うほど衝撃を受けた。非常に実践的な内容で、地元の復興計画にも反映されているという。こうした研究をOASIS研究・調査支援奨学金制度で支援できたことをうれしく思う。今日は皆さんから元気をもらった。

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エーアンドエー株式会社
非常勤顧問、2015年度 OASIS研究・調査支援奨学金制度審査委員長
内田 和子

2015年度の審査委員長を務めることになった。今年度のテーマは「<共存から共生へ>をデザインする」だが、このテーマに決まった経緯を説明したい。

モノや情報が簡単に入手できる社会になった一方、他人を排除するような権利的な主張も多くみられるようになった。共に生かし合える「共生」のデザインを、若い人たちと探ってみたいと思ったのが、今回、このようなテーマを設定したきっかけだ。

テーマが抽象的すぎるのではという不安もあった。事実、応募資料のダウンロード数は76件、応募総数は9件と前年を下回ったが、応募書類を見るとそれぞれしっかりとまとめられており、テーマの趣旨がしっかり理解されていることを感じた。

2015年度のOASIS研究・調査支援奨学金は、金沢美術工芸大学の端悠弼さんほか8名、東北学院大学大学院の三浦悠さん、豊橋技術科学大学大学院の岩谷有加さんほか4名、日本工学院八王子専門学校の松石明香里さん、そして米子工業高等専門学校の野津美晴さんの合計5組に授与することにした。


●2015年度 OASIS研究・調査支援奨学金授与者

・金沢美術工芸大学 デザイン科 端 悠弼さん ほか8名
テーマ:「金沢のら地研究」

・東北学院大学大学院 工学研究科 三浦 悠さん
テーマ:「東日本大震災において発生した空地活用のための空間づくりの研究」

・豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 岩谷 有加さん ほか4名
テーマ:「利用者のアクティビティからみた次世代型の児童館の計画方法-愛知県の児童館を対象として-」

・日本工学院八王子専門学校 建築学科 松石 明香里さん
テーマ:「八王子 蔵発見プロジェクト」

・米子工業高等専門学校 専攻科 野津 美晴さん
テーマ:「公共建築の計画に市民がかかわるための研究~米子駅南北一体化事業について~」

2015年度のOASIS研究・調査支援奨学金の授与者。右端は受賞者代理の高増佳子先生

2015年度のOASIS研究・調査支援奨学金の授与者。右端は受賞者代理の高増佳子先生

また、今回はOASIS加盟校学生作品集に収録された作品の中から、Vectorworks開発元のNemetschek Vectorworks社(現:Vectorworks社)の最高経営責任者、ショーン・フラハティー(Sean
Flaherty)氏から、「Vectorworks Executive Prize 2015」賞が北九州市立大学の東條裕太郎さんと西田紘文さんに贈られた。会場ではエーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長から指導教官のデワンカー・バート・ジュリエン先生に、盾と目録が手渡された。

「Vectorworks Executive Prize 2015」賞の授与式。エーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長(左)と北九州市立大学のデワンカー・バート・ジュリエン先生

「Vectorworks Executive Prize 2015」賞の授与式。エーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長(左)と北九州市立大学のデワンカー・バート・ジュリエン先生


分科会1

地方都市の空き家活用とアーティストとの協同教育について

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米子工業高等専門学校
建築学科 准教授
高増 佳子 先生

1996年から鳥取県米子市の米子工業高等専門学校でCAD教育を担当している。1、2年生は学校全体のコンピューター室である「メディアラボ」で2D図面の作図、3年生になるとCAD室でデザインの授業と連動したベンチデザインと制作、4年生は2D、3Dからアニメーションまで、そして5年生は設計製図課題や卒業設計の道具としてVectorworksを活用している。

さらに今年は、エーアンドエーから専門のスタッフを招き、エーアンドエーが編集したテキストを使って、BIMの特別授業も行った。初めての試みだったが、学生は興味を持って取り組んでくれた。

授業と並行して課外活動も積極的に行っている。本校の図書館リニューアル工事では、書架などのサインをデザインし、3Dプリンターで制作した。熊本で開催された「デザコン」という地域の課題を解決するデザインコンテストに参加したときは、構造デザイン部門の作品がNHKの目にとまり、500グラムの木材で1トンの荷重を支える橋をプロの技術者と競う番組にも出演した。

空間デザイン部門の一つとして取り組んだのが、米子まちなか空き家活用プロジェクトだ。米子市内には1万2000件もの空き家があり、全家屋の17.4%を占め全国的にも空き家の多い地区である。その有効活用を図ろうと、一昨年、本校のある学生がエーアンドエーのOASIS研究・調査支援奨学金制度にこのテーマを応募し、採用されたこともあり改修だけでなく、居住、そして活用のイベントなど多様な取り組みが可能になった。

このプロジェクトは中心市街地の一角にある築90年の2階建ての空き家を改修し、1階は地域交流スペース、2階は学生3人のシェアハウスとし、単なるシェアハウスではなく地域交流スペースなどを活用した地域住民と居住者、参加者などがお互いに交流から学びを得ようとする「まちの学校」というコンセプトを挙げた。間口に比べて奥行きが長い、伝統的な町家形式の建物だ。

本校や鳥取大学医学部の学生が、地域の建築家からなる米子建築塾などと連携し運営会議を組織した。それに地元の工務店や自治会なども協力した。また、鳥取県からも補助金による支援を受けた。

2013年の8月から9月にかけて、プロジェクトの改修工事を体験し学べるワークショップを13日間にわたって開催したときは、のべ20人以上の学生が参加した。これまで大工道具を使ったことのなかった学生も、プロの職人から指導を受けながら既存壁の撤去や土間コンクリートの打設、床のレベル直し、障子の張り替えなど、自分たちでどんどん作業を進めていった。

延べ20名を越える学生たちが改修作業に参加した

延べ20名を越える学生たちが改修作業に参加した

その過程は、家屋の構造や積算作業、ワイヤメッシュ筋の設置など授業で学んだ内容の復習や実践の機会になった。また、塗装作業や水準器などの道具の使い方、寸法や納まりの検討など、ものづくりの体験もできた。

こうした活動の結果、空き家は「岩倉ふらっと」という女子専用のシェアハウスに生まれ変わった。建物オーナーの好意もあって、家賃は固定資産税がまかなえる程度の低価格に抑えられた。そして1階はさまざまな専門家や地域住民、学生などが交流する「まちの学校」として機能している。

2013年11月にオープニングイベントを行ったのを皮切りに、高齢者を対象にした鳥取大学医学部による健康チェックや料理教室などが行われている。

今、岩倉ふらっとの初代住人の学生は卒業し、2代目の学生が入居している。そしてこのプロジェクトがきっかけとなり、米子の中心市街地ではさらに2件の空き家再生プロジェクトが行われた。

もう一つの地域連携活動として、本校の建築学科では「AIR475(エアヨナゴ)」というプロジェクトにも参加している。国内外のアーティストを鳥取県内に招き、一定期間、居住しながら創作活動を行ってもらうものだ。県内の十数カ所で取り組みがあるうち、米子では米子建築塾がプロジェクトの運営を行っている。

2013年は静岡県熱海市在住の美術作家、戸井田雄氏を招き、シャッター通りと化した商店街を舞台に制作活動やイベントを行った。20軒中、営業しているのはわずか3軒だけという本町横町商店街で戸井田氏が空き店舗の空間を活かしたインスタレーション作品を制作展示し、イベント当日は全店を開けて本校学生も手伝い、地元有志などが制作した作品を展示し、「大人の文化祭」のように盛り上がった。

2014年は戸井田氏のほか、カナダ在住のアーティスト2人も参加し、中心市街地のシャッター商店街のシャッター奥の空き地を使ったインスタレーション作品の展示や、中海に面する湊山公園における映像作品の上映、そして中海に浮かぶ無人島、萱島(かやしま)を船で巡るオーディオ作品鑑賞ツアーを行った。

AIR475プロジェクトは、今年も続いている。米子高専では、今後もVectorworksを生かして教室だけでなく、社会と連携した教育に取り組んでいきたいと考えている。

錦海と呼ばれる夕暮れ時の中海沿いで行われた映像作品の上映会

錦海と呼ばれる夕暮れ時の中海沿いで行われた映像作品の上映会


分科会1

地域産学連携型事業におけるインテリアのデザインプロセス教育

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文化学園大学
造形学部 建築・インテリア学科 准教授
丸茂 みゆき 先生

本学の建築・インテリア教育は、「企画・計画・提案」を重視している。これがサイエンスやテクノロジー、文化・社会といった理論的な教育と、身体・感性やアート・デザインといった情緒的な教育を橋渡ししている。

キャンパスは東京・新宿駅の近くにあるため、学生は東京で木を産出しているという実感を得にくい場所だ。こうした環境下で、建築・インテリア業界で重要となっている国産材について学び、特に東京の木「多摩産材」を使って「地産地消」を意識した地域産学連携型の授業を行ってきた。

この授業が始まったきっかけは、平成22年に東京都の秋川木材協同組合と地域連携を始めたことだ。組合からは家具やインテリア小物、建具などに対する、若い人の自由な発想を見てみたい、そして多摩産材のことを知ってもらう機会を設け、組合員が元気になる取り組みを行いたいという希望があった。その背景には、在来工法の減少によって国産材の需要拡大がなかなか見込めないという危機感があった。

さらに平成25年からは住宅メーカーの株式会社ヤマヒサとも産学連携を行った。ヤマヒサはこれまで60代以上の高齢者が主な顧客だったが、20代後半から40代の子育て世代を新たな顧客として開拓することが課題だった。そのため、新しい企業イメージを作る必要があり、その活動の中で「多摩産材」というキーワードを若い新規顧客に対してどのように提案していくのかが課題だった。

このような組合や企業からの要望にこたえることは、学生にとって社会とのつながりを意識でき、木材への関心を高め、さらには東京産の木を一般の人にも理解してもらう機会になるというメリットがあった。

多摩産材の製材所(中嶋材木店)見学の様子

多摩産材の製材所(中嶋材木店)見学の様子

平成22年から26年までの5年間にわたって行った授業には、約120人の学生が参加し、うち約100人が多摩産材を使った制作を行った。4月から7月まで、15回行った授業の流れは、多摩産材や連携先のニーズについての情報を得るための「知る」、作品を設計し、制作するための「触れる」、そして完成品をプレゼンしたり学外に公表したりする「広げる」という3段階で構成してきた。

学生には、自分たちが作りたいものを作るのではなく、クライアント先(連携先)が求めるものは何かを察知し、それをデザインに反映させることが重要であると説明している。

作品作りは多摩産材の現地見学で知識を得た後、デザインの中間発表、材料の見積もりと発注、ディテール検討と図面化、そして実物の制作と進んでいった。

ディテールの検討を行い、スケッチを描くと学生たちはすぐにでも作り始めたくなる。学生のはやる気持ちを抑えながら、Vectorworksで図面や精密なパースに仕上げていく段階で、ようやく細部の納まりなどがはっきりし、作れる状態になってくる。

しかし、木材で作品を作るのは、スチレンボードをカットして模型を作るのとは違った問題が出てくる。例えば木材をノコギリで切断すると、2~3mmの切り代分だけ木材が短くなる、木目をそろえたいなど、材料を理解したからこそ気づく点だ。CAD図面の修正と行き来しながら進める必要性を学んでいく。

制作は手工具が中心だが、電動帯ノコなどの電動工具も使っている。もちろん、失敗も多い。穴開け中に材料が割れてしまったりしたときも、教員側は驚かず、「穴を開ける場所が端っこすぎたね」「割れやすい方向に木目を使ってしまったね」などと、学びの場として生かしている。

作品の制作作業

作品の制作作業

制作した作品は、連携先を招いての講評会や学外での展示会で公表し、広める活動をしている。

授業の効果としては、制作の前後に学生にアンケート調査を実施したところ、多摩産材を「身近な材料だと思う」「材料に興味を持った」と回答した学生が倍以上に増えた。また、地域産学連携の授業の中で、学生は「相手を知る」「触れる」「成果を公表し広めることで評価をもらう」という過程を通じて人間力のアップにつながったようだ。

特にプロセス教育として効果的だったことは、クライアントである連携先の意見を聞き、スケジュールやコストの管理を行いながらデザインを精査して作品制作を行い、最後は連携先の満足や社会の評価を得るという過程を体験的に理解させることができた。

普段学生は試行錯誤を繰り返すことを嫌う傾向にある。しかし4年生で就職活動をしている時期だが、時には採用面接が翌日に控えているにもかかわらず、作業を続行する姿は、連携型だからこそ使命感や責任感が芽生えたと実感した。


分科会2

遊び環境のデザイン

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日本大学
芸術学部 デザイン学科 教授
桑原 淳司 先生

デザインで大事なことは、指先の感覚を鍛えて身体感覚の伴うデザインを実現することが大切だと思っている。指先を鍛えることは身体感覚に影響してくる。いろいろなものを触って、「冷たい」「温かい」「ざらざら」「つるつる」という感覚は、いつの間にか脳に刺激を与え、デザインに生かされていくのだ。

モノを作るだけではなく、その後にどんなコトが起こるのかを想像することが重要だ。例えば茶道の世界では、亭主と客とが茶碗一つを介して語らい、背景になる庭や借景まで世界が広がっていく。茶碗一つを作る中でどんな環境の中で人が語らうかということまで考えてデザインすることが必要なのだ。

私たちの仕事は環境を新たに作り出すことであり、デザイン教育の場も同じであると考えている。

こうした考えで行ったのが、東京都練馬区立こどもの森に設置した「木を感じる木製遊具」を作る授業だ。2年生の男女合わせて26人が2015年度の前期、毎週土曜日の午後180分の実習を15回にわたって行い、2つの木製遊具を制作した。

こどもの森とはプレイリーダーが常駐する遊び場で、2015年4月にオープンした。どろんこ遊びや木登りなど、普通の公園では危険とされているような遊びも楽しめる場だ。

この森に設置する遊具を、こどもも参加して完成させるイベント「こども審査員になっちゃおう」の一環として、この授業を行った。

まずは学生が遊びの記憶をスケッチしてアイデアを出し、個人やグループで模型を作り発表。その案を学生と私がそれぞれ1点ずつ選んで実際に制作し、こども参加により現地で組み立てる、というプロジェクトだ。

遊具は幅900mm×長さ1800mm×2基の車輪付きのデッキ上に組むことにした。メインとなる材料は縦45mm×横60mm×長さ4000mmの1本900円の垂木だ。こどもの森に運搬するための分解・組み立てができること。そしてこどもたちが制作に参加できるようにすることも条件にした。総予算は2台で6万円だ。

VectorworksとCINEMA4Dで基本パーツの3Dモデルや図面を作成し、「これをどう組み合わせてもいいから設計してほしい」と学生たちに課題を出した。個人やグループが合計8点の模型を作り、この中から学生の投票と私とが1点ずつ選び、実際の制作を行った。

学生たちは本来の授業時間以外も集まり、制作に没頭した。同時に移動や運搬の際に考える必要のある遊具全体の重量も計算した。初めは工具も使ったことがない学生がほとんどだったが、制作の過程でどの工具も使いこなせるようになっていった。

できあがった遊具は気温35度以上の猛暑の中、こどもの森でこどもたちと一緒に組み立てた。学生の指導のもと、電動ドリルで穴を開けるのを手伝った子もいた。そしてこどもたちは遊具を思いのままに塗装した。できあがった遊具は、既存のウォータースライダーと連結するなど、新しい遊び方を行うための環境を提供している。今回は授業で制作したため、人件費はゼロだったが、仮に人件費を加えた場合の見積もりは、遊具1台について100万円くらいになる計算となった。

東京都練馬区立こどもの森に設置した「木を感じる木製遊具」

東京都練馬区立こどもの森に設置した「木を感じる木製遊具」

もう一つの事例は、私がボランティアとしてかかわった遊具デザイン開発のプロジェクトだ。東京都練馬区立美術館前庭の練馬区立美術の森緑地に「けもの道のように走り抜けたくなる道」としてデザインした歩道だ。

この庭は噴水も止められて長い間放置され、草木もぼうぼうの状態だった。館長が改装して多くの人が集まる場所にしたいと考え、デザインの依頼があったものだ。このプロジェクトを設計1カ月、工事費800万円、工期4ヶ月で完成させた。

前庭の中央にある高さ約1mの築山につながるように高低差のある歩道を細かい三角形に分解し、各頂点を鋼製フレームでつないだ。各三角形には玉石やタイル、木材、ゴムチップ舗装などのデザインを施した。今、この歩道はこどもたちだけでなく、若いカップルや写生をする人なども集まる場となっている。歩道のデザインが新しい環境を作り出したのだ。

3Dデザインツールなどは以前に比べて簡単に使えるようになり、このプロジェクトでもCADや3Dが有用であった。道具は指先の精度を高める重要なものであると捉えると、アナログツールもデジタルツールも駆使してデザインすることが重要であり、これからも指先の感覚を大切にしたデザイン教育に取り組んでいきたい。

東京都練馬区立美術館前庭の練馬区立美術の森緑地。こどもやカップルなどが集まる新しい環境を歩道のデザインが生み出した

東京都練馬区立美術館前庭の練馬区立美術の森緑地。こどもやカップルなどが集まる新しい環境を歩道のデザインが生み出した


分科会2

テレビ美術におけるCADの有用性

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東放学園専門学校
テレビ美術科 非常勤講師
吉田 章司 先生

私は2007年まで放送局のTBSでデザインの仕事をしていた。私とVectorworksとのかかわりは、15年前、Vectorworksの前身である「MiniCad 6」の時代までさかのぼる。

当時のテレビの世界は電飾など、華やかさは最先端を行っている反面、番組の作り方はアナログで伝統的な手法が多く用いられていた。例えば、道具帳や図面などは全て手描きが普通だった。

その様な環境の中、障害コースをクリアしながらゴールを目指す「筋肉番付」や「SASUKE」といった大きな舞台装置を使う番組で、社内に先駆けてCADを使って設計したところ、急な修正や変更にとても素早く対応ができた。それが他局にも評判となり、今ではテレビ番組にかかわる若いデザイナーはほとんど、CADを使うようになった。

私が現在非常勤講師を務めている東放学園は、TBSが設立したエンタメ業界向けの専門学校だ。教員はTBSのOBのほか、テレビ局などの現場で活躍する実務者が務めている。

私はテレビ美術科で、CAD実習の授業を担当し、1年次には2D、2年次には3Dを教えている。1年次にはまず、Vectorworksで手のひらや自分の姿を描いてもらう。CADというと直線的で堅苦しいツールと思いがちだが、新入生には特にCADの苦手意識をなくしてもらいたいという思いから、あえて曲線とマウス操作で手のひらや自分を描いてもらうのだ。

そしてマウス操作に慣れてきたら自分の携帯電話を、サイズを測りながら描いてもらう。プッシュボタンまで精密に描いてもらうのだ。

基本操作ができるようになった後は、縮尺や単位の設定、レイヤ、クラス設定など、本来のCADの使い方に進んでいく。

ひと通りCADが使えるようになったら、大道具さんや小道具さんが自分の図面を見て理解できるように図面の仕上げ方を教え、最後の課題として自分の住んでいる部屋、または住みたい部屋の図面を描いてもらう。

Vectorworksを使ったCAD実習の風景

Vectorworksを使ったCAD実習の風景

2年次では3Dモデリングを教えるが、こちらも苦手意識を持たないように難しく感じない授業の進め方を心掛けている。3Dの基本操作を教えたら、まず、おでんのモデリングをしてもらう。おそ松くんのキャラクター、ちび太がいつも手にしている三角、丸、円筒からなるあのおでんだ。円筒のちくわは、ちゃんと中空の穴を開けてもらう。そのモデリングの過程で、柱状体や回転体などを描けるように学んでもらうのだ。

教えるときには、「私の通りに描きなさい」とは言わないように心掛けている。おでんを描くときも自分の想像力を生かして、好きな形のおでんを描かせている。目標とするイメージを持ち、それを表現できるようになることが大事だと思うからだ。

おでんの次はケーキ、椅子とテーブルと、だんだん複雑なモデリングを行う。その後、照明を設定してレンダリングで3Dパースを作り、一番いいアングルで見せる工夫をさせる。さらにVectorworksのアニメーション機能にも触れさせる。

そして、最後の課題はセットデザインだ。自分で考えたセットを、相手にデザインの内容が伝わるように平面図と立面図を作り、一番いいアングルのパースも仕上げて、さらにはカメラ目線に沿ったアニメーションも創ってもらう。

学生がVectorworksで制作したスポーツ番組セットの3Dモデル

学生がVectorworksで制作したスポーツ番組セットの3Dモデル

このように、私がVectorworksを使ったCAD授業で心掛けているのは、ストレスなく学べるようにパソコン環境を充実すること、大道具や小道具など将来の仕事に役立つようにすること、表現する喜びを楽しく学ぶこと、やる気に応じて個人差に対応すること、そして自分自身で何かを作り、表現できるように自主性を育むことだ。

本題となるCADの有用性であるが、(1)セットがカメラの画角に足りない「見切れ」や道具や出演者のベストな配置などを事前に高精度にシミュレーションできること、(2)離れたところで作業しているデザイナーと大道具との間でリアルタイムにデータ共有ができること、(3)照明や音響とのスムーズな連動ができることだと思う。

CADは、タイトなスケジュールに追われるテレビ業界においては、非常に心強いツールと言えよう。


BIM実践講座報告

Vectorworks教育シンポジウム2015の会場では、エーアンドエーがOASIS加盟校向けに編集した「BIM演習」のテキストを使った約1時間のBIM実践講座が2回行われ、会場は満員の盛況となった。

BIMとはBuilding Information Modeling の頭文字をとった略称で、建物の3次元モデルに建物データベースとなる属性情報を埋め込んだモデルを使って設計を行う手法だ

操作体験では、RC2階建て住宅をVectorworksで3次元モデル化し、そこから2次元の平面図や立面図、断面図などを取り出す実習を行った。

あらかじめ用意したテンプレートファイルを使って四角形や多角形ツールで2次元の間取り図を作成し、それを元に3次元モデルに変換。そして3次元モデルの各部分に部屋名を埋め込む体験を行った。天井高はフロアの仕上げ高さにより自動設定される。

さらに基礎スラブや壁、建具や階段などを配置して1階部分を完成。続いて2階の壁やスラブ、屋上のスラブやパラペットなども追加し、住宅全体の3Dモデルを完成させた。

最終段階では、3Dモデルのレンダリングや影の動きのシミュレーションを行った後、3Dモデルから図面やパースを作成する実習を行った。3Dモデルの階高を変更すると、平面図、断面図、パースはビューポートを更新するだけですべて最新の図面になることを確認できた。途中、ウォークスルーも体験し、限られた時間ながら、非常に充実したBIM演習に参加者も満足そうだった。

当日、使われた「BIM演習」のテキスト

当日、使われた「BIM演習」のテキスト

教育関係者で満員となった会場

教育関係者で満員となった会場


展示会場報告

毎年、人気を集める展示コーナーでは、500グラムの木材で1トンの荷重を支えることに成功した米子工業高等専門学校の学生が制作した木材トラス橋の模型が展示された。この模型は、NHK番組「超絶 凄ワザ!」で放映されたものだ。また、文化学園大学造形学部の地域産学連携型授業で、東京の木「多摩産材」を使って学生が制作した家具などのユニークな作品も展示された。

大学や高専、専門学校などの教職員や学生らは、講演や分科会の合間に展示コーナーに足を止め、これらの作品を写真に収めたり、いろいろな方向から眺めたりしていた。指導教官らに熱心に質問する姿も目立った。

このほか、OASIS加盟校でのVectorworksを活用した教育についてのパネル展示も行われた。これらの展示物を通じて、参加者の間で授業や実習の情報交換も活発に行われているようだった。OASIS加盟校同士のコミュニケーションが生まれる中で、Vectorworksを使った教育や実習のノウハウが共有され、その成果が翌年の教育シンポジウムで発表されることによって、各校の教育は確実にスパイラルアップしていくことが感じられた。

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OASIS加盟校の活動をまとめた展示パネルや授業で制作された作品を集めた展示コーナーには、講演の合間に多くの参加者が足を運んだ
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NHK番組「超絶 凄ワザ!」で放映された米子工業高等専門学校が製作した橋梁模型(左)。文化学園大学造形学部の地域産学連携型授業で制作された多摩産材を使った家具など(右)

*   *   *

今後もエーアンドエーは、学校同士の情報交流や、学生の自由な研究を支援するOASIS研究・調査支援奨学金制度など、Vectorworks教育支援プログラム「OASIS」を通じてデザイン教育の環境を支援していく。

【A&A.Vectorworks教育支援プログラム】

OASIS(オアシス)についてのお問い合せはこちらをご確認ください。

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