Revit MEPとDynamoで設備の性能を決める
日本設計のIntegrated BIM戦略(オ―トデスク)
2015年12月23日

日本設計は3Dモデリング前提のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ワークフローを見直し、基本設計から施工、維持管理まで3Dモデルと属性情報を並行して活用できる「Intedrated BIM(インテグレーテッド ビム)」のワークフローを構築した。その中心となるのは、オートデスクのBIMソフト「Autodesk Revit」と、属性情報を自動処理できる「Dynamo」だ。空調設計や施工図作成業務には他社のBIMソフトと直接連携できるツールも開発した。

「Integrated BIM」を推進する日本設計の千鳥義典代表取締役社長

「Integrated BIM」を推進する日本設計の千鳥義典代表取締役社長

   「3Dモデル」と「属性情報」をRevitとDynamoで統合

日本設計が推進する「Integrated BIM」とは、建物の3Dモデルと属性情報を統合して建物の設計をトータルに行うワークフローを意味する。

意匠、構造、設備のBIMモデルをシームレスに扱えるようにするため、各部署とも「Autodesk Revit」を基幹BIMソフトにしている。そのため、データを交換したり、統合したりする時のデータが抜け落ちるなどのトラブルは全くない。

Integrated BIMで特に力を入れているのが、意匠と設備の統合だ。Revit Architectureで建物の基本的な外形や間取り、開口部の大きさ、そして空調ゾーニングなどをBIMモデル化する。

そのモデルから、空調ゾーニングごとの空調負荷を読み取り、各ゾーンに必要なファンコイルユニットの容量や空調機の風量などを計算。自動的に機器の性能やガラリ(空気取り入れ口)などを選定するのだ。

BIMモデルの属性情報を生かして空調負荷計算や機器の選定を行う「Integrated BIM」

BIMモデルの属性情報を生かして空調負荷計算や機器の選定を行う「Integrated BIM」

建物の3D形状などから空調負荷を計算し、空調機器の性能を決定するために導入したのが、オートデスクの「Dynamo(ダイナモ)」という、Revit用のアドオンソフトだ。

BIMモデルから面積や外熱負荷などの属性情報を必要に応じて読み取り、それを計算処理した後の、BIMモデルのライブラリーやデータベース上にある機器と照合して最適な性能や機器を選定したりする処理を担当している。

つまり、BIMモデルの作成は、その段階で必要最小限にとどめながら、使える属性情報を最大限に活用して、空調機の性能などを決める設計作業を、Dynamoが担っているのだ。

Dynamoで機器の属性情報と建物のスペース情報を連携する

Dynamoで機器の属性情報と建物のスペース情報を連携する

   スペースと機器をつなぐ「機器記号」

基本設計の段階では、機械室にある空調機と、各部屋にある吹き出し口やファンコイルユニットなどは、単独でプロットされているだけで、BIMモデル上ではダクトなどはまだ3Dモデル化されていない。

こうした段階で、フロントローディングによる機器の性能決定を行うために、日本設計が考え出した方法は、「対象機器記号」という属性情報の活用だ。この記号を、BIMモデル上のスペースに入力しておいてDynamoで連結する。

そして、BIMモデル上では機器をプロットしただけの状態で、その性能を決定する属性情報をDynamoによって決めていくことができるのだ。

「対象機器記号」という属性情報を使い、機器の性能決定を早期に行う

「対象機器記号」という属性情報を使い、機器の性能決定を早期に行う

この対象機器記号は設備設計だけでなく、建物完成後のFMにも活用できる。例えば、ダクトなどの3Dモデルを作成しシステムを構築しなくても、機器が故障した場合の影響範囲を、この記号から特定することができる。

Dynamoや対象機器記号という属性情報の活用により、建物の開口部やゾーニングを変更すると、対応する対象機器記号の機器に求められる性能や大きさなども自動的に変わる。従来のように、設計変更の度に手作業で空調負荷を計算し、空調機の性能を求める手間ひまはかからない。

そのため、BIMモデルを修正しながら繰り返し検討を行い、設計の最適化を追求することも可能になった。

Integrated BIMについて語る日本設計3Dデジタルソリューション室の吉原和正氏(左)と室長の岩村雅人氏(右)

Integrated BIMについて語る日本設計3Dデジタルソリューション室の吉原和正氏(左)と室長の岩村雅人氏(右)

   「3Dモデル先行」のBIMワークフローを革新

BIMとは、建物の「3Dモデル」をコンピューター内で構築し、その各部分に仕様や材質などの「属性情報」を入力しながら設計を進める方法とよく説明される。

そのため、属性情報をBIMモデルに反映するためには「3Dモデル先行」のワークフローになりがちだ。

確かに、納まりの調整や干渉チェックには、3Dモデルが欠かせない。しかし、機器や部材などは3Dモデルがなくても、性能や材質など、属性情報だけで設計が進められるものもある。

BIMモデルに含まれる3Dモデルと属性情報は分けて扱える場合もある

BIMモデルに含まれる3Dモデルと属性情報は分けて扱える場合もある

日本設計が展開する「Integrated BIM」は、無理に3Dモデル化を急がないのが特徴だ。3Dモデルと属性情報は最終的には一体化するものの、部材や機器の性能などの属性情報は、3Dモデルとは切り離して設計を進めていくこともできるのだ。

 

3Dモデルと属性情報が並列の関係にある「Integrated BIM」の概念図

3Dモデルと属性情報が並列の関係にある「Integrated BIM」の概念図

 

そのため、設計の初期段階では属性情報が3Dモデルより先行して決まることもある。例えば、空調機に求められる性能は、建物の向きや開口部の大きさ、空調ゾーニングなど、基本設計段階で決めることができる。

しかし、実際に建物に設置されるファンコイルユニットのメーカーや型番などは、施工段階にならないと決まらない。

そこで、基本設計段階では空調機を模した簡易的な3Dモデルに属性情報を入れておき、設計や施工が進むにつれて3Dモデルをより具体的なものに差し替えていく方法で、初期段階から属性情報をBIMモデルに入れておくのだ。

こうした方法を採用することにより、BIMモデルの属性情報を生かした検討がしやすくなった。3Dモデルの完成を待たずに属性情報による検討が行えるので、設計、施工、維持管理のフロントローディングが可能になった。

FMまで続くIntegrated BIMのワークフロー

FMまで続くIntegrated BIMのワークフロー

日本設計がオートデスクとの提携で実現した新しいワークフローの概念図

日本設計がオートデスクとの提携で実現した新しいワークフローの概念図

こうしたIntegrated BIMの取組みは、上越市新水族館の水槽の設計にも生かされた。この水槽は、日本海の海底地形を縮小した複雑な形になっている。

水族館の建屋自体の設計はこれからだが、複雑な水槽の中を水がよどみなく循環し、かつ魚を来場者に見やすいように分布させるために、日本設計は水槽の地形を3Dモデル化。そして数値流体力学ソフト「Autodesk CFD」を使って水流を解析したのだ。

こうしたIntegrated BIMの取組みは、上越市新水族館の水槽の設計にも生かされたれ。この水槽は、日本海の海底地形を縮小した複雑な形になっている。

水族館の建屋自体の設計はこれからだが、複雑な水槽の中を水がよどみなく循環し、かつ魚を来場者に見やすいように分布させるために、日本設計は水槽の地形を3Dモデル化。そして数値流体力学ソフト「Autodesk CFD」を使って水流を解析したのだ。

上越市新水族館の水槽内の水流を「Autodesk CFD」で解析し、3Dプリンターで模型化したもの

上越市新水族館の水槽内の水流を「Autodesk CFD」で解析し、3Dプリンターで模型化したもの

通常は、建屋の設計が固まってから水槽の設計に着手し、最後に解析を行って性能を確認するところだが、既にその検討は済んでいる。水流という属性情報を、フロントローディングで既に得た形だ。

   Revit MEPとRebro、STABRO負荷計算の連携を実現

日本設計は2014年8月27日、オートデスクとパートナーシップを締結した。その成果は、着々と上げつつある。その一つが、Revit MEP 2015とイズミシステム設計の「STABRO負荷計算 for Revit」との、データ交換機能の開発だ。

「STABRO負荷計算 for Revit」によって、Revit MEPで作成した建築モデルから、壁や窓などの躯体情報や方位別の外皮・窓面積、部屋の負荷計算用の諸元を自動的に抽出できるようになった。

Revit MEPとSTABROの連携

Revit MEPとSTABROの連携

また、Revitで設計した設備BIMモデルを、NYKシステムズの設備用BIMソフト「Rebro2015」に、3D形状と属性情報を保ったまま、高精度にデータ交換する機能の開発も進んでいる。

既にRevitから建築と構造のBIMモデルをRebroに受け渡す機能は完成し、現在は設備についても同様な機能開発中だ。

これらの機能により、Revit MEPで作成したBIMモデルは、Rebro2015でさらに詳細モデル化し、施工図作成までを行えるようになりつつある。

これらの機能は、オートデスクのアプリ提供サイト、「Autodesk Exchange Apps」内で、無償提供される。

RevitとRebroの連携機能の開発も進んでいる

RevitとRebroの連携機能の開発も進んでいる

 

Revit MEPとSTABRO、Rebroのデータ連携イメージ

Revit MEPとSTABRO、Rebroのデータ連携イメージ

 

日本設計は今、Integrated BIMという設計から施工、維持管理までを横断するBIMワークフローを実践し、建築設計事務所の在り方を追求している。この取り組みは、日本のBIM界に新しい旋風を吹き込むことになりそうだ。

Integrated BIMを展開する日本設計3Dデジタルソリューション室のメンバー

Integrated BIMを展開する日本設計3Dデジタルソリューション室のメンバー

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