福岡市中央区の建築設計事務所、プランニングビープルの代表取締役を務める栗原洋一氏は2012年、オートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト、Revitを導入し、実務での活用を始めた。独学にもかかわらず、約1年後にはRevitだけで実施設計図を作成できるようになり、そのノウハウをブログで公開するほか、独自開発のファミリを低価格で公開している。その姿勢がオートデスクに評価され、2017年3月には日本で4人目の「Autodesk Expert Elite」メンバーに選ばれた。
BIM活用の成否を決める「ファミリ」に注目
「2012年にBIMソフト、Revitを本格的に使い始めました。使いこなすまでの最初の1年はそれこそ“不眠不休”の覚悟で独学しました。その結果、約1年後にはRevitだけで実施設計までを行えるようになりました」と語るのは、福岡市中央区の建築設計事務所、プランニングピープルの代表取締役、栗原洋一さんだ。
栗原さんは今、Revitを使って企画から実施設計まで行えるようになった。「以前、設計のメインツールだったAutoCADは、全く使っていません」と栗原さんは語る。
今では6階建て程度のビルなら、2週間程度でボリューム検討から外観・内観のデザイン検討、日影・日照シミュレーション、そして実施設計までの一連の設計をこなすようになった。
栗原さんはRevitによる設計業務を重ねていくうち、効率的な設計を行うためにはRevit用のBIMパーツ、「ファミリ」の整備が重要であることを悟った。
「以前は、設計上の必要に応じて、形や寸法が固定されたファミリを力わざで作り、その場をしのいでいました。しかし、このようなファミリは別のプロジェクトに流用しにくかったり、行方不明になったりして、再利用ができず、また新たにファミリを作る必要があり、非効率でした」と栗原さんは振り返る。
そこで、意を決して、木製建具、鋼製建具、アルミ建具、カーテンウオールや道路の縁石、駐車場のラインなど、よく使うファミリを丁寧に作りこむことにした。パラメーターを設定することで、ファミリの形や大きさを変えたり、テクスチャーなどのデザインを変更しやすくしたりした。
「一度、基本設計の段階で配置したファミリは、後の詳細設計段階でもそのまま使えるようにするため、躯体との取り合い部分の形状や寸法もミリ単位の精度で作り込んであります。躯体との納まりが分かる図面は、施工でも使いやすい。それがBIMを使う目的だと思うからです」と栗原さんはファミリづくりに取り組んだ動機を語る。
複層ガラスの厚さもミリ単位で変えられる
栗原さんが特に力を入れて作ったものの一つに「カーテンウオール」のファミリがある。Revitにもカーテンウオールのデザインをするために、「マリオン」のファミリが標準装備されいるが、施工段階でも使える図面を作るために、数多くのバリエーションを用意した。
「カーテンウオールには窓ガラスや換気用のガラリ、床と連結する防火材付きパネルなど、様々なパネルの種類があります。どのパネルが隣に来るかで、パネル間の取り合いや寸法などが微妙に違ってきます。そこで、あらゆるケースに対応できるように、様々な組み合わせを用意しました」と栗原さんは言う。
もちろん、各部の寸法や材質なども、パラメーターを操作することで変えられるようになっている。
「カーテンウオールの複層ガラスの厚さもミリ単位で設定できるようにしました。ガラス厚が変わると、コーキングの位置も変わります。また、ガラスの種類や幅・高さ別に何枚のガラスが必要かの数量集計や、コスト管理も行いたいと思った結果、こうした形のファミリになりました」(栗原さん)
縁石やU字溝などにも細かい配慮が
また、BIMモデルの外構部分の縁石や駐車スペース、側溝などのファミリもさりげないところにこだわって作った。
例えば、道路の縁石ファミリは地中に埋まった基礎部分と地上に見える部分がある。通常は地面を表す「舗装」と縁石の境界線は図面上に表示されない。
そこで、境界線が図面に反映できるように「境界線」をファミリに組み込み、舗装の高さに応じてその位置を自動的に変更できるようにした。隣の土地にはみ出さないように、基礎部分の寸法を変えたり、ドラッグすると一定間隔で一気に並べられるようにしたりと、Revitでの設計を効率化するための「見えない工夫」が施されている。
また、駐車場の表面に表示するラインのファミリも作った。駐車場や駐車スペースには排水用の勾配が付いていることが多い。そこに水平のライン画像を張り込むと、地表面から浮き上がったり、沈み込んだりして地面に張り付いたようにならない。
そこで、ラインのファミリは面として作成し、勾配がある面にもピッタリと張り付けられるようにした。
同時に誘導用の矢印の向きを1~89°の間でパラメトリックに動かせるようにしたり、文字の大きさも自由に変えられるようにしたりした。
手間ひまとノウハウをつぎ込んで開発したこれらのファミリ集は、プランニングピープルのウェブサイトで一般向けに販売している。
日本で4人しかいない「エキスパート・エリート」メンバーに
「BIMソフトを導入し、使いこなすのは誰でも苦労します。我々の体験が少しでも誰かのお役に立つことができればと、自社サイトに『Revitの実例ブログ』を解説しました」と栗原さんは言う。
「Revitの実例ブログ」にはその名の通り、栗原さんや事務所のスタッフが直面したRevit活用の課題について、どんなところでつまずきやすいか、どのように解決していったかが、といった経験を動画付きの解説で丁寧にまとめているのだ。
自らのRevit活用体験を、他のユーザーにも積極的に公開してきた栗原さんの姿勢は、オートデスクの目にもとまり、このほど、同社のエキスパート・エリート(Autodesk Expert Elite)のメンバーに選ばれた。
エキスパート・エリートとは、世界各国のオートデスクユーザーの中から、ユーザーのコミュニティーに対して多くの時間を費やし、知識の共有やユーザー向け掲示板で解決策を書き込むなど、貢献度が高い人がメンバーとして選ばれる制度だ。
日本ではこれまで、首都圏で活躍する意匠や構造、土木分野で活躍するRevitやAutoCAD Civil 3Dなどのユーザー3人がエキスパート・エリートのメンバーに選ばれており、栗原さんは4人目となる。世界中でも約300人しかいない貴重な存在だ。
栗原さんは、九州でもBIMのワークフローを広げようと「Team BIM」のメンバーを募集している。BIMに興味を持つ意匠設計や構造設計の事務所にRevitを勧めて導入を手伝ったり、BIMによる意匠・構造・設備の設計ワークフローの構想を描いたりと、長期的に取り組んでいる。
プランニングピープルを軸として、九州にRevitによるBIMワークフローが実現するのも時間の問題のようだ。
【問い合わせ】
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