過去、現在、未来の現場をiPadで比較
福岡空港改修工事の施工BIM(オートデスク)

2017年7月13日

福岡空港の国内線旅客ターミナルでは再整備事業が行われている。施工を担当する清水・錢高・西鉄JVは、大規模かつ複雑な工事をBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデル化し、工事内容の見える化や合意形成、協力会社とのコラボレーションにオートデスクのBIMソリューションを活用し、効果を上げている。

福岡空港旅客ターミナルビル再整備後のイメージ(設計:梓設計、提供:福岡空港ビルディング)

福岡空港旅客ターミナルビル再整備後のイメージ(設計:梓設計、提供:福岡空港ビルディング)

   iPadで現場の過去、現在、未来を比較する

ターミナルビルを稼働させながら解体、新築、リニューアルを同時並行で行うこの工事は、既存構造物の解体・撤去と新設構造物の施工が、時間的・空間的に交錯する。

毎日のように目まぐるしく変化し続けるこの現場で、現場の過去、現在、未来をその場で確認するため、施工を担当する清水建設が導入したのがオートデスクのBIM 360 Glueだ。

完成後の建物を現在の現場で見る

完成後の建物を現在の現場で見る

BIM 360 Glueとは、RevitやNavisworksなどで作成したBIMモデルや、3Dレーザースキャナーで計測した点群データなどをクラウド上で共有し、現場や工事関係者がパソコンやタブレット端末などでいつでも見られるクラウドサービスだ。

福岡航空の現場では、既存建物(過去)と解体・新設後の建物(未来)のBIMモデルと、工事中の現場(現在)を3Dレーザースキャナーで計測した点群データを重ね合わせてタブレット端末「iPad」で見られるようにした。

竣工図から作成したBIMモデル(過去)と3Dレーザースキャン(現在)を重ね合わせた例

竣工図から作成したBIMモデル(過去)と3Dレーザースキャン(現在)を重ね合わせた例

現在の現場と今後、設置される設備を比較した例

現在の現場と今後、設置される設備を比較した例

BIM 360 Glueを現場で活用する施工管理技術者

BIM 360 Glueを現場で活用する施工管理技術者

「タイムマシンのように、現在の現場に今後、設置される設備を重ねて見ることができる。新しく配置されるBHS(バゲージハンドリングシステム)に、設備や既存建物が干渉しないかなどを現場で確認したりするのに役立っている」と、清水建設生産計画技術部BIM推進グループ主査の水田定光氏は語る。

   ターミナルビルを運用しながらの連続工事

福岡空港は現在、2800mの滑走路が1本だけだが、平成27年度の発着回数は17万4000回。1日当たり約480便が発着し、約5万8000人の旅客が利用する。国内では羽田、成田に次ぐ利用実績となっている。1本の滑走路で運用する空港としては、日本一の混雑度だ。

「多くの旅客が利用するターミナルビルを使い続けながら、工事を進めるのが難しい。これだけ大規模に、既存ビルの解体、新築、改修・移設工事を連続的に行う工事はあまり例がない」と福岡空港ビルディング施設部施設課主任の鳥越源氏は語る。

工事の進ちょく状況や空港の運用状況は、設計者の梓設計や空港を管理する福岡空港ビルディング、そして航空会社、利用客にもわかりやすく伝え、空港の運用に支障をきたさないように、安全に進める必要がある。

そこで清水建設JVは、空港全体の着工から竣工まで12ステップの工事計画をBIMモデル化した。そして、3次元で時系列的に工事の計画をわかりやすく表現することで、工事関係者や空港のユーザーの合意形成をスムーズに行っている。

福岡空港国内線旅客ターミナルビル工事の全体計画

福岡空港国内線旅客ターミナルビル工事の全体計画

   新築と既存の建物接続部を精密にBIMモデル化

工事の中でも、特に複雑なのがターミナルビルの中央部分に位置する「2ビル」と新築する「新1ビル」、そして地下鉄駅をつなぐ部分の構造・設備だ。

2ビル地下には地下鉄空港線の駅舎、埋設水路が通っている。埋設水路は地下鉄上部にあり、今回、水路ルート変更工事や地下鉄出入口工事が行われる。2ビル地下工事はこれらの工事と干渉しないよう進める必要がある。さらに地上では、既設構造物の解体や新設、工事進ちょくに伴う車道、歩道、仮囲の変更が工程によって時間とともに変わっていく。

ターミナルビルと地下鉄駅をつなぐ吹き抜け部の構造と設備。エレベーターのBIMモデルは東芝エレベータがRevitで作成

ターミナルビルと地下鉄駅をつなぐ吹き抜け部の構造と設備。エレベーターのBIMモデルは東芝エレベータがRevitで作成

階段の詳細BIMモデル。横森製作所がAutoCADで作成

階段の詳細BIMモデル。横森製作所がAutoCADで作成

既存、新築、地下鉄が複雑に入り交じる「2ビル接続部」の地下工事

既存、新築、地下鉄が複雑に入り交じる「2ビル接続部」の地下工事

2ビル接続部の構造と設備の工程調整に活用したBIMモデル

2ビル接続部の構造と設備の工程調整に活用したBIMモデル

こうした複雑な工程を管理するため、複数のBIMモデルを合体し、時系列で3Dモデルとして見られるオートデスクのNavisworksを使った。

施工を担当する清水・錢高・西鉄JVの計画長、矢冨保氏は「複雑な施工ステップを2次元の図面と工程表だけで細かいところまで理解するのは難しい。Navisworksによるシミュレーションのおかげで、モデル上で撤去する部材と新設する部材の時系列的な干渉部分も確認でき、事前に解決できた。そして複数の工事協力会社やエアライン関係者と調整のとれた工程計画が作成できた」と振り返る。

   協力会社からも設計変更の提案が

BIMの導入は、複数の協力会社とのコラボレーションにも威力を発揮した。鉄骨工事を担当する永井製作所は鉄骨設計システム「KAP」、エレベーターの三菱電機とエスカレーターの東芝エレベータは「Revit」、設備の九電工は「CADWe’ll Tfas」と、異なるBIMソフトでそれぞれの工事をBIMモデル化した。

清水建設はこれらの構造・設備のBIMモデルをNavisworksによって合成し、干渉部分を事前に調整することで、工事の手戻りを防いだ。

しかし、BIMの効果はそれだけではない。各協力会社から、BIMモデルを使った積極的な改善を受けることもでき、工事計画をさらに効率的なものにできたのだ。

例えば東芝エレベータからは、エスカレーター本体を支える受け鉄骨の位置変更案と補強案が提出された。さらにエスカレーターの動線を3Dで解析し、上部空間を確保する提案もあった。

東芝エレベータからのBIMモデルによる提案

東芝エレベータからのBIMモデルによる提案

既存の2ビルと新1ビルとの間に設置されるスライド支承も、BIMによる設計変更でスムーズな施工が実現した。

当初の設計案は既存の柱鉄骨を補強し、新たな片持ち梁を取り付けてスライド支承を支える構造だった。しかし、この構造だと現場溶接が必要となり、施工の難易度が高い。

そこで清水建設は、既存柱に付いていた梁を受け梁として転用する案を設計監理者に提案し、現場溶接を必要としない改善案を作成した。こうした施工上の工夫を、わかりやすく比較説明するBIMモデルは大いに貢献している。

スライド支承の当初案(左)と改善案(右)。受け梁を示す赤い部分のうち、改善案は現場溶接が必要ないことがよくわかる

スライド支承の当初案(左)と改善案(右)。受け梁を示す赤い部分のうち、改善案は現場溶接が必要ないことがよくわかる

   バゲージハンドリングシステムのルートを干渉チェック

空港ターミナルビルで欠かせないのが、旅客の預け入れ荷物を輸送するバゲージハンドリングシステムだ。工事の進ちょくに伴い、各航空会社が使用するバゲージハンドリングシステムのルートも変更する必要があった。

水色部分がバゲージハンドリングシステムのルート。チェックインカウンター裏からトレーラーへの積み込み場所まで複雑なルートを描いている

水色部分がバゲージハンドリングシステムのルート。チェックインカウンター裏からトレーラーへの積み込み場所まで複雑なルートを描いている

チェックインカウンターの裏から、飛行機に荷物を運ぶトレーラーの積み込み場所まで、バゲージハンドリングシステムは、設備を縫うようにして複雑なルートを描いている。場所によっては立体交差している部分もある。ルート切り替えの際には荷物が建物や設備に接触しないようにすることが必要だ。

そこで、清水建設はベルトコンベヤーと取扱手荷物の最大寸法を考慮して、4Dによる干渉チェックを行った。その結果、2次元の図面では気づきにくい躯体との干渉部分などを発見した。

ベルトコンベヤーに荷物を置き荷物をNavisworksで走らせることで建物の躯体や設備などと接触しないかを干渉チェックで確認した

ベルトコンベヤーに荷物を置き荷物をNavisworksで走らせることで建物の躯体や設備などと接触しないかを干渉チェックで確認した

躯体との干渉が発見されたときは事前に設計を変更し、手戻り工事を防いだ

躯体との干渉が発見されたときは事前に設計を変更し、手戻り工事を防いだ

バゲージハンドリングシステムが区画壁を貫通する部分の構造もBIMで検討

バゲージハンドリングシステムが区画壁を貫通する部分の構造もBIMで検討

   協力会社と連携するBIM推進会議

福岡への空の玄関口である福岡空港国内線ターミナルビルを運用しながら大改造する今回の工事で、施工BIMを効果的に活用するために、「トップダウン」と「ボトムアップ」の両面から取り組んだ。

トップダウンの推進は、清水建設JV建設所長の森 隆氏が、建設所のプロジェクトBIMマネージャーを清水建設JV計画長の 矢冨 保氏を推進役として任命するところから始まる。プロジェクトBIMマネージャーは、現場でのBIMの実施計画書を作成するほか、協力会社も参加するBIM月例会議で、それぞれの課題や検討の進ちょくの確認を行う。

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矢冨工事長がBIMマネージャーとして月例会議を進める(上)。協力会社も参加し、BIMで課題を解決する(下)

矢冨工事長がBIMマネージャーとして月例会議を進める(上)。協力会社も参加し、BIMで課題を解決する(下)

一方、ボトムアップで重要な役割は、BIMモデラー(女性1名)が担当する。支店や本社と連携し、RevitやNavisworksでBIMモデルを作成するほか、協力会社が作成したBIMモデルと合成して干渉チェックなどを行う。

このほか、現場全体でBIMを活用するために教育や定例会議で使うBIMの資料作成などを担っている。現場でのBIM展開では欠かせない存在だ。

「BIMの効果は数字では表しにくいが、3Dによるわかりやすさでいろいろな課題がスピーディーに解決できる。従来は5回くらいの打ち合わせが必要だったのが1~2回で終わる感じだ。そのため、時間的余裕を感じる」と清水建設九州支店生産総合センサー生産計画グループ主査の梶原等氏は言う。

現場でのBIM教育(左)と独自に作成したNavisworks用のテキスト(右)

現場でのBIM教育(左)と独自に作成したNavisworks用のテキスト(右)

延べ床面積約 12 万 7000 ㎡の国内線旅客ターミナルビルの再整備事業の進化はまだまだ続く。ターミナルビルと滑走路をつなぐ誘導路は現在1本しかないが、二重化する事業が進んでいるほか、現在の2800m滑走路の西側に新たに2500m滑走路を増設するプロジェクトも控えている。

九州の玄関口として、福岡空港の発展は、今後も続きそうだ。

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