BIMモデルで鉄骨梁貫通スリーブのチェックや製作を自動化
東急建設が協力会社と連携したBIM活用を実践(オートデスク)
2018年5月11日

2013年にオートデスクのRevitなどBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソリューションの本格導入を始めた東急建設は、活用レベルを段階的に上げてきた。現在はBIMモデルによる専門工事会社との合意や、BIMモデルからの施工図作成、さらにはタブレットによる現場最前線での施工管理と活用の幅が広がり、鉄骨会社とのBIMデータ連携も行っている。今後はBIMモデルとAR(拡張現実)による施工管理も視野に入れている。

東急建設はRevitなどのツールで作成したBIMモデルの情報を活用、配管などが鉄骨部材を貫通する「スリーブ」の位置チェックや協力会社における工場加工を自動化した

東急建設はRevitなどのツールで作成したBIMモデルの情報を活用、配管などが鉄骨部材を貫通する「スリーブ」の位置チェックや協力会社における工場加工を自動化した

   数千個に及ぶスリーブのチェックと製作を自動化

「BIMモデルから抽出したデータを使って、スリーブの位置や径、数を自動的にチェックし、さらに協力会社における工場製作にも活用できようになったおかげで、鉄骨製作の生産性が格段に上がりました」と言うのは、東急建設建築事業本部技術統括部BIM推進部プロダクトデザイングループの三瓶亮氏だ。

スリーブは、鉄骨の強度に大きく影響する。そのため、スリーブはどこでも設けていいのではなく位置や大きさ、離隔、補強方法などが基準や仕様書などで定められている。これまでは手作業によってBIMモデル上でスリーブを設けたり、位置などをチェックしたりしていたので、大変な手間ひまがかかっていた。

そこで東急建設は、BIMモデルからスリーブに関するデータをCSV形式のテキストデータで抽出し、社内で独自開発したソフトによって自動的にチェックできるようにしたのだ。

BIMモデルをチェックする専用ソフトも市販されているが、スリーブの径や鉄骨材の縁からの距離などについて、細かい設定や処理を行うのは難しかったという。

構造と設備のBIMモデル

構造と設備のBIMモデル

BIMモデルからスリーブのチェックの位置や径などを抽出したデータ

BIMモデルからスリーブのチェックの位置や径などを抽出したデータ

スリーブの位置や離隔などを自動チェックした結果。問題のあるスリーブが1回の手間でわかり、問題となる部分が右端の判定欄に表示されている

スリーブの位置や離隔などを自動チェックした結果。問題のあるスリーブが1回の手間でわかり、問題となる部分が右端の判定欄に表示されている

「例えば、ある建物では約6000カ所のスリーブがありました。これまでは担当者がBIM上のスリーブをひとつひとつ、基準に合っているかをチェックしていました。しかし、このチェックを自動化したことにより、設計変更の際もクリック1回で瞬時にチェックできるようになりました」と三瓶氏は言う。つまり、BIMで最も重要と言われる“I”(インフォメーション)の利用によって作業効率を大幅に高めたのだ。

問題があった箇所のスリーブはBIMモデル上で修正し、そのデータは鉄骨会社で製作に使う鉄骨CADでも使われる。そしてCNC(コンピューター数値制御)の工作機械でI形鋼などを加工するので、ヒューマンエラーによるミスが生じない。

この作業も、以前は工場の技術者がスリーブ1個ずつ、クリックによって加工の指示を行っていたが、東急建設からチェック済みのデータを受け取ることにより、ひと手間で数千個のスリーブを加工できるようになった。

「この手法を使った工事では、実際に造られた鉄骨や設備はBIMモデルそのものでした。スリーブの付け忘れや、余分のスリーブは1つもありませんでした」と三瓶氏は振り返る。専門工事会社からも省力化ができたと好評のBIMデータ連携だ。

   「BIMモデル合意」も実現

東急建設が本格的にBIM活用に乗り出したのは、2013年に本社の建築部門にBIM関連のグループができてからのことだった。「以来、3つの段階を経て、BIM活用のレベルアップに取り組んできました」と、BIM推進部プロダクトデザイングループのグループリーダーを務める吉村知郎氏は説明する。

JR渋谷駅周辺の大規模再開発事業などを手がける東急建設は、建築と土木が交錯する工事を受注するケースもある。建築部門のBIM活用も、土木部門のCIM活用と並行する形で進められ、建築・土木を合わせた同社独自の進化を遂げてきた。

そして社内のBIM活用をリードする部署も、2017年にBIM推進部となり、トップダウンによるBIM活用が推進されることになったのだ。

大規模なプロジェクトでは、構造や設備などの専門工事会社の数も多く、工事関係者間での設計変更の調整や情報共有が大きな課題だ。

そこで東急建設は、従来の図面に代わって関係者がBIMモデルをもとに打ち合わせを行い、工事に関する様々な意思決定を行う「BIMモデル合意」という方法を取り入れている。

「以前から日本建設業連合会が提唱しているBIMモデル合意を行いたいという気持ちはありましたが、2013年当時はできませんでした。その後、少しずつ活用のレベルが上がりBIMモデル合意という現場のワークフローとBIM活用のコラボレーションが可能になったのです」と吉村氏は説明する。

BIMモデル合意で使われるBIMモデル

BIMモデル合意で使われるBIMモデル

東急建設は、鉄骨や設備などの専門工事会社と一堂に会して施工の会議を行うときに、各社から出されたBIMモデルをIFC形式などで重ね合わせを行い、当初のモデルを比較したり、意見や要望を取り入れたりしながら、解決していく。

「図面で会議を行っていたときは、結果を各社がいったん持ち帰って検討していました。しかし、BIMモデル合意により会議では、原則としてその場で結論を出すので意思決定がスピーディーに進みます。3Dで議論するので各社の理解度も高く、1社だけ置いていかれるということもありません」(吉村氏)。

当初の案と専門工事会社の案が違っていた場合は、干渉チェック機能などで即座に発見し、その場でBIMモデルを修正していく

当初の案と専門工事会社の案が違っていた場合は、干渉チェック機能などで即座に発見し、その場でBIMモデルを修正していく

外装材パネルと鉄骨との取り合いを確認した例。外装材を半透明で表示することで鉄骨との位置関係がよくわかる

外装材パネルと鉄骨との取り合いを確認した例。外装材を半透明で表示することで鉄骨との位置関係がよくわかる

   BIM 360 GlueでBIMモデルを現場最前線に持ち出す

東急建設ではBIMモデルを設計室や現場事務所だけでなく、モバイル端末「iPad」に入れて現場の最前線でも活用している。そのとき使われているのが、オークデスクの「BIM 360 Glue」というシステムだ。

Autodesk Revitで時間軸を与えて作成した複数のフェーズを「Navisworks」で1つのデータとして共有したり、iPadにダウンロードして見たりすることができる。

NavisworksのBIMモデルをiPad上で見られるGlueの活用例

NavisworksのBIMモデルをiPad上で見られるGlueの活用例

東急建設では、施工ステップに応じて変化する現場の様子をiPadで見られるようにして、現場で働く技術者や職人などの工事関係者と情報共有に役立てている。

「ある現場では、Navisworksのタイムライナー機能で施工段階を約80のステップに分割したBIMモデルを使いました。施工ステップごとにBIMモデルと現場を比較して見ることで、計画通りの施工が行えているかを様々な角度から確認することができます」と三瓶氏は言う。

「また、現在の現場と次のステップの現場がどのように変わるのかを、現場でBIMモデルを見て確認することで、作業内容のほか重機の位置、資材搬入の動線なども予測できるので、安全管理や若手社員の教育にも役立ちます」(三瓶氏)。

せっかく作成したBIMデータを、オフィスだけで完結させずに、実際の「現場」に持ち出すことで、よりBIMの”I”を有効に活用できるシーンが増え、生産性の向上につながる。こうした場面では、タブレットやAR(拡張現実)、MR(複合現実)が大いに効果を発揮する。

iPadに入れたBIMモデルと現場とを見比べることで、計画通りの施工ができているかをいろいろな角度から確認できる

iPadに入れたBIMモデルと現場とを見比べることで、計画通りの施工ができているかをいろいろな角度から確認できる

次のステップの現場を表示した例。クレーンなどの重機や構台の位置、資材搬入の動線などが予測できるので安全管理にも役立つ

次のステップの現場を表示した例。クレーンなどの重機や構台の位置、資材搬入の動線などが予測できるので安全管理にも役立つ

タワークレーンや移動式クレーンを使った作業イメージ。高さ方向の位置関係もよくわかる

タワークレーンや移動式クレーンを使った作業イメージ。高さ方向の位置関係もよくわかる

下から構台を見上げたところ。基礎梁と構台の鉄骨の位置関係などがわかる

下から構台を見上げたところ。基礎梁と構台の鉄骨の位置関係などがわかる

建物躯体の反対側に位置するクレーンによる作業検討。各クレーンのオペレーターからは相手のクレーンが見えないが、iPad上で俯瞰すると作業時の様子がよく理解できる

建物躯体の反対側に位置するクレーンによる作業検討。各クレーンのオペレーターからは相手のクレーンが見えないが、iPad上で俯瞰すると作業時の様子がよく理解できる

   マルチプラットフォームでBIMモデルを共有

同じBIMモデルを設計室や現場事務所、現場最前線と様々な場所で活用できるのは、オートデスクのBIMソリューションをまとめた「AECコレクション」が得意とするところでもある。

クラウドサーバーで最新のBIMモデルを共有し、ワークステーションからノートパソコン、タブレット、そしてスマートフォンと、OSや種類が異なる様々名ハード機器でBIMが使えるように設計されたソフトやアプリが、そろっているからだ。

吉村氏は東急建設のBIM活用について「最初はデータを作ることが目的でしたが、これからはいかに現場で使うかフォーカスしていきたいと考えています」と振り返る。

そして「今後はAR機器にBIMモデルを入れて出来形管理なども行っていきたいと思います。また、特定の人だけでなく、だれもがBIMが持つインフォメーションを使えるようにすることがゴールです。そのために協力会社も一緒にBIMに取り組んでいきたいです」と抱負を語った。

左からBIM推進部プロダクトデザイングループの吉村知郎グループリーダーと三瓶亮氏

左からBIM推進部プロダクトデザイングループの吉村知郎グループリーダーと三瓶亮氏

【問い合わせ】
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