クレーン作業や足場の施工効率を徹底追求
矢作建設工業がBIMを活用し、働き方改革を実現(オートデスク)
2018年5月10日

名古屋市東区に本拠を置く矢作建設工業は、2014年に本格的なBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)活用に着手し、オートデスクのRevitやNavisworksなどのBIMソリューションを活用しながら現場密着型の施工BIMを展開している。クレーン作業や足場、山留めなど、施工計画のBIM活用の現場を直撃した。

BIMで作成したマンション足場の解体計画。クレーンと足場の干渉部分(ピンク)を取り外すことで、建物背面の足場(グリーン)を吊り上げることができる(左画像)。実際の現場での作業も計画通り行えた(右写真)

BIMで作成したマンション足場の解体計画。クレーンと足場の干渉部分(ピンク)を取り外すことで、建物背面の足場(グリーン)を吊り上げることができる(左画像)。実際の現場での作業も計画通り行えた(右写真)

   BIMが詳細なクレーン計画を可能に

「BIMがなければ、こんな足場の解体方法の検討はできなかったでしょう」と語るのは、矢作建設工業建築事業本部 施工本部 施工部工務グループマネジャーの伊藤篤之氏だ。

建物の施工が終わり、枠組み足場を撤去する際、一般的にクレーンで解体を行う。クレーンが届かない場合は作業員が部材を一つ一つ小ばらししながら解体を行わなければならないため、工期・作業リスクが生じる。

あるマンションの現場では、現場の敷地や建物、そして足場材をオートデスクの「Revit」でBIMモデル化し、独自に開発したクレーンファミリーを配置することで、クレーンの延長ブームが届く範囲を3次元的に検討した。その結果、建物の裏側の足場までクレーンで解体できることがわかったのだ。

「クレーン作業をBIMモデル上でシミュレーションし、クレーンがアームを上げ下げしたり、旋回したりするときに干渉する足場の部分を割り出しました。その足場をあらかじめ撤去し、検討した位置にクレーンを止めることで、現場でも予定通りの解体作業が行えました」と伊藤氏は振り返る。

Revitによる作業シミュレーション。クレーンと干渉する部分の足場(ピンク)をあらかじめ撤去しておくことで、建物裏側の足場材(グリーン)も吊り上げて撤去することができた(左資料)。実際の現場でも足場を一部、撤去することで予定通りの作業が行えた(右写真)

Revitによる作業シミュレーション。クレーンと干渉する部分の足場(ピンク)をあらかじめ撤去しておくことで、建物裏側の足場材(グリーン)も吊り上げて撤去することができた(左資料)。実際の現場でも足場を一部、撤去することで予定通りの作業が行えた(右写真)

これだけでも驚くが、クレーンはアームや延長ブームの角度によって吊り上げられる「定格荷重」が変化し、足場の分割によって吊り荷の重量も変化する。

この施工計画を作る上では、クレーンと足場との干渉だけでなく、定格荷重や足場の重量をスピーディーに計算することが求められた。そこに、同社ならではのBIM活用のノウハウがあるのだ。

   賢い足場用ファミリを開発

矢作建設工業が重点を置いているBIM活用の一つに、足場の施工計画がある。足場をスピーディーに計画し、必要な足場材の数量を正確にはじき出し、足場工事の専門工事会社に発注するためだ。

そこで、Revitのカーテンウオール機能と、足場材のファミリを使って、建物外周に沿って効率的に配置できる機能を開発した。

「足場材は1段目にはベース金具と敷板が付き、2段目以降は作業床が付くといった具合に、使用位置によって部材が異なります。そこで、配置条件により部材が切り替わるパラメーターを内蔵した足場用ファミリを独自に開発しました。仮設材のように同じ部材を繰り返し配置するものは、カーテンシステムと相性が良く、効率的かつ高精度にモデリングが行えます。さらに変更に強いのが特徴です」と工務グループBIM推進担当係長、太江慎吾氏は説明する。

このファミリによって、使用位置に応じた部材の数量などを自動的に算出できるようになったのだ。

定尺の足場材を使って建物を囲むと、最後の閉合部分で発生する半端な部分も自動的に処理し、実際に施工可能な計画が作れるようにした。そして、必要な足場材の種類や数量、重量などを自動的に計算するRevit用のテンプレートも開発した。

「足場の専門工事会社もRevitを導入し始めているため、情報交換を頻繁に行っています。お互いに同じファミリーを使用することで業務を効率化できるようになることが今後の目標です。元請け会社と専門工事会社の間でWin-WinのBIM活用がBIMで行うことの目的の一つ。」と伊藤氏は言う。

Revitのカーテンウオール機能と独自開発の足場ファミリを使って開発した足場の施工計画と自動集計機能

Revitのカーテンウオール機能と独自開発の足場ファミリを使って開発した足場の施工計画と自動集計機能

工事で実際に使用する重機のファミリ。小旗を持った交通誘導員もいる

工事で実際に使用する重機のファミリ。小旗を持った交通誘導員もいる

   鉄骨の建て方検討をRevitのフェーズ機能で効率化

冒頭でも触れたように矢作建設工業は、クレーンのアーム角度による定格荷重の自動計算機能を追加したほか、クレーンのアームの角度や旋回角をBIMモデル上でのマウス操作で現場に合わせて変えられるクレーンのファミリを独自に作成した。

定格荷重の計算機能などが付いたクレーンのファミリ

定格荷重の計算機能などが付いたクレーンのファミリ

これらのクレーンファミリが威力を発揮するのは、現場で鉄骨を組み上げる順序を決める「建て方検討」だ。鉄骨とクレーンのモデルに時間軸を設定するフェーズ機能を組み合わせることで、容易に鉄骨の建て方検討ができるようになった。

「鉄骨を組み立てる時、クレーン作業が行いやすいように奥の方ばかり先行させると、鉄骨が不安定になるので手前と奥の鉄骨をバランスよく進めていくことが大切です。そこでBIMで建て方検討を行うと、クレーンと鉄骨の干渉を防ぎつつ、鉄骨の重量を考慮したクレーンの選定が可能」と伊藤氏は言う。

BIMによる鉄骨の建て方検討。クレーンと鉄骨の干渉を避けつつ、鉄骨の重量にあったクレーンの選定が行える

BIMによる鉄骨の建て方検討。クレーンと鉄骨の干渉を避けつつ、鉄骨の重量にあったクレーンの選定が行える

鉄骨の重量計算には、「すけるTON」という鉄骨専用BIMソフトを使っている。Revitのアドインで、重量などの情報を保持したままBIMモデルを取り込むことができる。オートデスクのBIMソフトは他社ソフトともデータ連携が行いやすいので、使い慣れたソフトと組み合わせて活用できる点もメリットだ。

同社建築事業本部研究開発推進室の築城寛行課長は、「これまでは鉄骨一つひとつについて、クレーンによる施工が可能かを、図を書いたり手計算したりしながら検討してきました。こうした作業にはノウハウが必要なので、属人的なスキルに左右されがちですが、BIMを使うことにより職員の力量の差が縮まります」とBIMのメリットを説明する。

   計画変更に伴う工事費の変化も自動計算

矢作建設工業ではさらに、基礎工事の施工計画をBIMでスピーディーに作成するシステムの開発に取り組んでいる。

現在、山留や作業構台などのファミリーは、部材やピッチなどの数値がパラメトリックに動作するよう作られている。

「部材のファミリには、単価データも入っているので計画変更に伴う工事費の変化も瞬時にわかります」と、BIM推進担当主任の石田大介氏は説明する。

「仮設計画は変更が多く、さまざまなパターンを検討する必要がある。数量をリアルタイムに把握しながら計画を行うことができるのは、BIMの強み。」と伊藤氏は話す。

今後はRevit用のビジュアルプログラミングツール「Dynamo」によって、計算書のデータをBIMモデルに連携させ、掘削深さや土質によって山留め工の要/不要も自動的に判断しながら、基礎工事の施工計画を効率的に作成するというシステムを構築していくそうだ。

Revitによって作成した山留め図。ファミリの属性情報や定格荷重の計算機能からのデータを図面上に自動表示するほか、工事費の概算も自動計算する

Revitによって作成した山留め図。ファミリの属性情報や定格荷重の計算機能からのデータを図面上に自動表示するほか、工事費の概算も自動計算する

最近は設備や内装の専門工事会社でも、BIMの活用が増えてきた。オートデスク以外の設備用BIMソフトが使われていることも多いが、BIMモデルデータを標準中間フォーマット「IFC形式」などで受け取り、一体化して干渉チェックを行い、現場での手戻りを防いでいる。

床面積約5万5000m2のある商業施設では、天井版を張らずに空調設備などを露出させたままの「現(あらわ)し仕上げ」を採用した。そのとき、設備や配管の吊りボルトを固定する「インサート」を美しく設置するのに、BIMで作成した施工図が役立った。

あらかじめ各設備とインサートの位置を正確に決定することができたため、ムダなインサートは一つも打つことがなく仕上がった。

現し仕上げの天井を採用した商業施設のBIMモデル

現し仕上げの天井を採用した商業施設のBIMモデル

天井には構造や設備、ラックなどを縫うように吊りボルトが交錯している。干渉が生じないように、吊りボルトファミリーを作成しインサートの位置を確定した

天井には構造や設備、ラックなどを縫うように吊りボルトが交錯している。干渉が生じないように、吊りボルトファミリーを作成しインサートの位置を確定した

このほか、鉄筋コンクリート工事では、BIMモデルから生コンクリートの発注量を計算したり、仕口部の鉄筋の納まりをBIMで検討したりすることもある。

こうした施工図は、施工管理技術者に配布されているタブレット端末「iPad」にオートデスクの「BIM360Docs」によってBIMモデルを読み込み、現場最前線で施工管理にも活用している。

今後は、型枠支保工もBIMモデルで作成し、数量計算を自動化したり、労働基準監督署向けの申請図を作成したりする機能の開発にも取り組む予定だ。

「BIMの活用を一部のスゴい人だけに限定せず、社員のだれもが使えるようにすることが、究極の目標です」と、伊藤氏は締めくくった。

矢作建設工業でBIM活用の推進を担うスタッフ。左から築城寛行氏、石田大介氏、太江慎吾氏、伊藤篤之氏

矢作建設工業でBIM活用の推進を担うスタッフ。左から築城寛行氏、石田大介氏、太江慎吾氏、伊藤篤之氏

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