矢作建設工業(本社:名古屋市東区)は、ある物流倉庫の工事において傾斜路(ランプ)の施工管理にオートデスクの墨出しシステム「PointLayout(ポイントレイアウト)」およびこの情報連携を行うクラウドサービス「BIM 360 Layout」を導入した。BIMソフト「Revit」で作成した施工図とトプコンのレーザー測量機「LN-100」、そしてタブレット端末を連携させたこのシステムによって、3000点以上の墨出し作業を1人で行えるようにしただけでなく、大幅なスピードアップと高精度化も実現した。
1人でスピーディーに墨出し作業
中部地方のある物流倉庫の工事現場。タブレット端末と測量用のプリズムポールを持った矢作建設工業の施工管理技術者が、位置を見定めるように立ち止まっては鋼板上に数字を書く、という作業を繰り返していた。
彼が行っているのは、らせん状の傾斜路をコンクリート舗装するための墨出し作業だ。鋼板上にコンクリート舗装を行うとき、どの高さまでコンクリートを打設するかを示す治具を設置するため、約2m間隔で鋼板上からコンクリート面までの高さをミリ単位で表示しているのだ。
「以前は3人で行っていた墨出し作業が、Point LayoutおよびBIM 360 Layoutの導入後は1人でできるようになりました」と矢作建設工業建築事業本部工務グループ主任の石田大介氏は説明する。
Point Layoutとは、Revitなどで作成したBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデル上に直接墨出し位置をポイントし、クラウドサービスとの連携にてトプコンのレーザー測量機「LN-100」を使って、墨出しを行うためのシステムだ。
施工管理技術者の手元にあるタブレット端末上にBIM 360 Layoutアプリを開き、構造物のBIMモデルとこれから墨出しを行うポイント、そしてプリズムバーの現在位置がリアルタイムで表示される。
そして現在位置から墨出しポイントまでの方向と距離はXYZ座標で案内してくれるので、1人でも次々とポイントを移動しながら、墨出しを行うことができる。その精度は3mm以内と高い。
矢作建設工業建築事業本部工務グループマネジャーの伊藤篤之氏は「1ポイント当たりの作業時間はわずか30秒程度。3000カ所以上の墨出しが必要なこの現場では、大きな生産性向上につながります」と、その効果を語る。
BIM 360 Layoutによる墨出し作業時(左)のタブレット上の画面の表示(右)1点当たり約30秒で墨出しが完了することがわかる
BIMモデルと測量機「LN-100」を連携
このシステムは、Revitなどで作られたBIMモデルとタブレット端末、そしてトプコンの墨出し用測量機「LN-100」を、オートデスクのクラウドシステム「BIM 360」やWi-Fiで連携させたものだ。
設計室でRevitなどによって作られたBIMモデルをBIM 360に送ると、どこからでもタブレットで開いて閲覧することができる。
LN-100はレーザー光でプリズムバーの位置を自動追尾しながらリアルタイムで計測する。そのデータを、Wi-Fi(無線LAN)経由で毎秒20回の頻度でタブレットに送る。
Point Layoutは、BIMモデル上に直接墨出しポイント指定することや、BIMモデルとLN-100からのデータを統合させて表示や相互のデータ転送などを行う役目を担う。そのため、BIMモデル上のプリズムバーの位置を見ながら、次の墨出しポイントへスムーズに“ナビゲーション”できるのだ。
また、墨出しポイントで計測した現場の座標データも、LN-100からタブレット上のBIMモデルに反映でき、さらにBIM 360 Layoutを通じて設計室などのパソコンでデータを共有することができる。
簡単に設置でき、鉛直軸調整も自動化
BIM 360 Layoutと連携する「LN-100」は、トプコンが墨出し作業専用に開発したレーザー測量器だ。トータルステーションのような機能を持っていながら、人間が視準するための望遠鏡が付いていないユニークな形をしている。
その設置は測量機器というより、作業ツールのような感覚で簡単に行える。作業開始に当たっては、墨出し作業をカバーしやすい場所に置き、座標がわかっている2点をプリズムで示し、LN-100に読み込ませるだけだ。
誤差の少ない計測を行うためには、測量機器を水平に設置し「鉛直軸誤差」をなくすことが必要だ。通常は気泡目盛りなどを備えた水準器を使って調整するところだが、LN-100には自動整準機能が備わっている。
現場に設置して電源スイッチを入れるだけで、LN-100の上部が頭をもたげるように立ち上がり、自動的に水平面に合わせてくれるのだ。
「LN-100は高低差が上下10mずつ、水平距離はWi-Fiが届く半径50m程度ならカバーできます。傾斜路の場合は、墨出しを行う中央付近で見通しがよく、作業のじゃまにならない場所に設置すると便利です」と、矢作建設工業建築事業本部研究開発推進室課長の築城寛行氏は作業のコツを説明してくれた。
測量との連携で高精度化するBIMモデル
矢作建設工業では2017年からICT(情報通信技術)を活用した現場支援プロジェクトを立ち上げ、働き方改革に取り組んでいる。
この物流倉庫の現場では、RevitやNavisworks、BIM 360 DOCSなど、オートデスクのBIMソリューションを中心に活用しながら、施工BIMを実践してきた。そして、Point Layoutを同社で初めて実際の施工に本格導入したものだ。
着工時の仮設計画段階ではBIMモデルの精度はあまり高くなかったが、徐々に施工図レベルまでBIMモデルの精度を上げていった。そして今回、墨出しという測量作業への活用に備えて、実物の構造部と全く同等の精度を持った正確なBIMモデルを作成していったのだ。
このらせん状の傾斜路は、平坦な部分がほとんどなく、カーブの内側に向かって舗装コンクリートが傾斜(バンクしており、各階フロアとの接続部は、水平にすりつけるという複雑な曲面をしている。そして、舗装コンクリートを支える鉄骨や鋼板は、多角形形状なので、コンクリート厚は部分的に少しずつ異なる。
「こうした実物同様のBIMモデルを作れないと、BIMに基づいた施工管理はできません。各施工フェーズに合わせ、BIMモデルの精度を徐々に上げてきました。最終的に、傾斜路の複雑な曲面形状やエキスパンションジョイントなどの取り付け部なども忠実にBIMモデル化しています」と、矢作建設工業建築事業本部工務グループ係長の太江慎吾氏はBIMによる施工管理を振り返った。
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