「技術者自身が3D設計しなければ、アイデアは生まれない」
八千代エンジニヤリングがBIM/CIMに取り組む5つの理由(オートデスク)

2019年4月26日

八千代エンジニヤリングは、国土交通省が推進する「i-Construction」施策よりも早く、2005年度にオートデスクの土木用3次元CAD「AutoCAD Land Development Desktop」(当時)を導入し、3D設計を始めた。現在では約800人の技術者の4割に当たる380ライセンスものBIM/CIMソリューション「AEC Collection」を導入し、様々な分野の技術者が自ら、3D設計に取り組んでいる。同社代表取締役社長 執行役員の出水重光氏に「BIM/CIMに取り組む5つの理由」を直撃取材した。

ダムの技術者の経験を生かして、BIM/CIMソフトの導入を推進した八千代エンジニヤリング代表取締役社長 執行役員、出水重光氏

ダムの技術者の経験を生かして、BIM/CIMソフトの導入を推進した八千代エンジニヤリング代表取締役社長 執行役員、出水重光氏

   生産性向上の切り札「i-Construction」施策

日本の土木分野で3次元設計の導入が本格的に進み始めたのは、2012年度後半に国土交通省がCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)試行プロジェクトを始めたときだった。国交省はさらに2016年度から全省を挙げて「i-Construction」施策に取り組み始めた。

「i-Construction」とは、3Dモデルによって土木構造物の調査・設計を行うCIMと、3Dモデルによって施工を行う「情報化施工」、そして完成後の3Dモデルを生かした維持管理をシームレスに連携させたワークフローだ。

日本では少子高齢化によって「生産年齢人口」と呼ばれる15歳から64歳までの人口が、1990年代から減り続けている。特に建設業はその影響を大きく受けており、今後の人手不足は厳しくなる一方だ。

そこで国交省は、i-Construction施策によって2025年までに建設業の労働生産性を20%向上させることで、人手不足問題を克服しようとしているのだ。

   BIM/CIMに取り組む5つの理由

日本を代表する大手建設コンサルタント、八千代エンジニヤリングは、国交省のCIM試行やi-Constructionに先立って、独自のBIM/CIM活用戦略に取り組んできた。

八千代エンジニヤリングの本社がある東京都内のビル

八千代エンジニヤリングの本社がある東京都内のビル

八千代エンジニヤリングが設計した角島大橋。1995年。第1種保護区域の島を迂回したルートを選定し自然と調和する流れるような景観設計/土木学会デザイン賞を受賞した

八千代エンジニヤリングが設計した角島大橋。1995年。第1種保護区域の島を迂回したルートを選定し自然と調和する流れるような景観設計/土木学会デザイン賞を受賞した

下釜ダム。1965年。地質調査、クラウド試験、岩盤せん断試験基礎処理技術の開発を行った

下釜ダム。1965年。地質調査、クラウド試験、岩盤せん断試験基礎処理技術の開発を行った

その背景について、八千代エンジニヤリング 代表取締役社長 執行役員の出水重光氏は「BIM/CIMに取り組む5つの理由」を挙げている。

1つめは「生産性向上と環境の両立」だ。社会インフラは今、機能だけでなく周辺地域への影響に与える影響を最小限にすることが求められている。BIM/CIMなら設計で作った3Dモデルデータを環境解析にも使うことができる。

2つめは「維持管理のデータベース」としての活用だ。実際の構造物を、「デジタルツイン(デジタルデータの双子)」としてコンピューターの中に構築し、点検や維持管理の履歴をひも付けて管理することで、維持管理の効率化や自動化につながるからだ。

3つめは「グローバル化への対応」だ。八千代エンジニヤリングの売り上げは、20~25%が海外プロジェクトによる。世界中にユーザーを持つオートデスクの製品なら、海外の顧客ともスムーズにデータ交換が行える。オートデスク製品で作成したBIM/CIMモデルは、エンジニアにとって「外国語」の代わりになる。

4つめは「情報公開への対応」だ。調査・設計の内容をBIM/CIMを使ってプレゼンテーションすると、地域住民など、建設の専門家以外わかりやすい。これからの社会インフラ事業は、地域の理解や協力を得ることが不可欠だからだ。

5つめは「効率的な人材育成」だ。2D図面を見て頭の中に構造物の立体形状を想像できるようになるまでには、相当な時間が必要だ。直接、構造物を3Dで見られるBIM/CIMを教育や研修に使うことで、短期間にエンジニアを育成することができるのだ。

   ダム設計の経験からCIMの有効性を確信

「初めてCIMソフトを見たとき、これは地盤を扱う建設コンサルタントの業務には欠かせないツールだと直感しました」と出水氏は振り返る。

「私はダムの技術者出身なのですが、あるダムを設計したとき、地下の地盤に複雑に亀裂が入っており、それを表現するのに模型を作ったり、何枚も図面を描いたりして大変でした。その点、コンピューターの中で地盤をそっくりそのまま3Dで表現できるCIMソフトなら、地盤の構造を余すことなく表現でき、発注者や地元住民など誰でも理解しやすいと思ったのです」(出水氏)。

八千代エンジニヤリング 道路・交通部 技術第四課 副主任 向平 政義 氏

八千代エンジニヤリング
道路・交通部 技術第四課 副主任
向平 政義 氏

 
八千代エンジニヤリング 道路・交通部 技術第四課 副主任 向平 政義 氏

八千代エンジニヤリングが、CIMソフトの先駆けともいえるオートデスクの土木用3次元CAD「AutoCAD Land Development Desktop」を導入したのは2005年のことだった。

「3次元で土木設計を行えるソフトは当時、オートデスク製品しかありませんでした」と出水氏は言う。

社内で最も早く3D設計を導入したのは道路・交通部だった。同社道路・交通部 技術第四課 副主任の向平政義氏は「道路の新設計画では、切土・盛土量がバランスするようにルート選定を行う必要がありますが、AutoCADは道路の平面・縦断線形を決めると土量計算を自動的に行ってくれるので、とても作業効率が上がりました」と説明する。

このほか、2本のトンネルを近接施工する工事の設計では、3Dによって空間的な位置関係を様々な角度から検証するなど、従来の2次元図面では手間ひまがかかっていた作業を効率的に行うなど、3Dの強みを生かした。

「通常、2D設計から3D設計に移行するには、大きなギャップを感じるものです。しかしAutoCADの場合は同じソフト、同じメニュー画面を使いながら2Dから3Dへと自然に移行できるので、あまり違和感はありませんでした」と向平氏は言う。

同社ではその後、2013年にCIM推進室を設置し、全社でのCIM導入を進めた。使用ソフトはオートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM関連ソフトがセットになった「AEC Collection」だ。

車載型3Dレーザースキャナー(MMS)で計測した地形の点群データとトンネル、橋梁、土工の3Dモデルを組み合わせた例(©2018 東日本高速道路(株)新潟支社)

車載型3Dレーザースキャナー(MMS)で計測した地形の点群データとトンネル、橋梁、土工の3Dモデルを組み合わせた例(©2018 東日本高速道路(株)新潟支社)

Autodesk Civil 3Dで既存道路の点群データと新設する道路のCIMモデルを組み合わせた例(©2018 東日本高速道路(株)新潟支社)

Autodesk Civil 3Dで既存道路の点群データと新設する道路のCIMモデルを組み合わせた例(©2018 東日本高速道路(株)新潟支社)

現在、ライセンス数は380にも上る。同社には約800人の技術者がいるが、その4割が同時にBIM/CIMソフトを使って業務を遂行できるようにしたものだ。これだけのライセンスを保有する建設コンサルタントは珍しい。

その狙いを出水氏は「建設コンサルタントの業務は、ピークの時期になると一時的に業務量が急増します。そのとき、ライセンスが足りなくなると納期遅れなどが生じるため、常に2~3割の余裕をみた本数を用意しておくためです」と説明する。

八千代エンジニヤリングの特徴は、建設コンサルタント業務のうち、地質や道路、電気・電子、建設環境など多岐にわたる部門にバランスよく技術者がいることも挙げられる。

「構造や環境など、異分野の技術者同士が情報交換しながら業務を進めることがよくあります。技術情報の交換するプラットフォームとしてBIM/CIMを活用する狙いもありました。オートデスク製品を選んだのは、土木・建築から機械、電気、設備まで幅広い分野のソリューションがそろっており、相互のデータ交換がスムーズに行えることを期待してのことです」(出水氏)。

   BIM導入直後にコンペに挑戦

八千代エンジニヤリングは、2014年夏にオートデスクのBIMソフト「Revit」を使い始めた。その成果は早速、現れた。導入から約1カ月後の9月、沖縄・石垣島の敷地を舞台に開催されたBIM仮想コンペ「Build Live Japan 2014」にグループ会社で参加したのだ。

八千代エンジニヤリング 建築部 専門課長 遠藤 隆之 氏

八千代エンジニヤリング
建築部 専門課長
遠藤 隆之 氏

BIMコンペに参加した狙いを、同社建築部専門課長の遠藤隆之氏は「せっかくBIMを導入するのだから、チャレンジしようという気持ちで参加しました」と説明する。

20~30代の有志がチームを組んで参加したもので、日常業務をこなしながら、100時間という制約時間の中で施設を設計し、チャレンジ賞を獲得したのだ。

翌年も新たなメンバーが「Build Live Japan2015」に参加し、大分・杵築市役所前通りを再開発するというテーマに沿って、複数の建物を設計。一歩進んだ「BIMプログレス賞」を受賞した。

初めて参加した「Build Live Japan 2014」で設計した作品

初めて参加した「Build Live Japan 2014」で設計した作品

翌年の「Build Live 2015」で設計した作品。1年間で格段のレベルアップが感じられる

翌年の「Build Live 2015」で設計した作品。1年間で格段のレベルアップが感じられる

出水社長は「BIM導入からわずか1カ月くらいで、それなりに建物の設計ができているのには驚きました。その翌年はさらにレベルが上がっている。若い社員がBIMソフトをどんどん使いこなすと、以前は考えられなかった成果が出せることを目の当たりにしました」と当時の衝撃を語る。

   ダム監査廊内の排水ポンプ交換に3Dモデルを活用

八千代エンジニヤリングの機電部は、その名の通り、建設コンサルタントの中でも機械と電気設備を中心に扱う部署だ。2014年にRevitを導入したほか、機械設計用の3次元CAD、Inventorも使っているのが特徴だ。

八千代エンジニヤリング 機電部 技術第一課 主幹 阿部 匡浩 氏

八千代エンジニヤリング
機電部 技術第一課 主幹
阿部 匡浩 氏

同社機電部 技術第一課 主幹の阿部匡浩氏は「あるダムの排水ポンプ設備を交換するプロジェクトなどの計画では、3Dモデルが必要になりました」と言う。

ポンプ室はダム堤体内の漏水を排水するため、最下部に埋め込まれるようにある。既存のポンプを取り外して、ダム堤体を貫く「監査廊」という通路から搬出し、新しいポンプを搬入するという作業だ。この作業は今後も必要となるため、監査廊には長期に亘って利用できる常設型の鋼製レールを設置した。

「新旧ポンプが監査廊内の設備と接触することなく、搬出できることを確認するため、監査廊内部を3Dレーザースキャナーで点群計測し、そのデータを活用することで問題なく通過できることを確認できました。従来の紙図面に比べるとより精度よく検討できるので、2Dの図面を使った検討に比べて施工時の手戻りが少ない計画が作れました」と、阿部氏は振り返る。

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ダム監査廊内の排水ポンプ更新設計で作成した点群データとBIMモデルの統合モデル(資料提供:国土交通省)

ダム監査廊内の排水ポンプ更新設計で作成した点群データとBIMモデルの統合モデル(資料提供:国土交通省)

   技術者自身がBIM/CIMソフトを使うメリット

今後の日本は、社会インフラの新設は徐々に減り、既存インフラの補修や維持管理の比率が高まってくる。既存構造物を点群計測し、新設する土木・建築構造物や機械・電気設備のBIM/CIMモデルと合わせて計画するニースはどんどん増えてくるだろう。

出水社長は「技術者自身がBIM/CIMソフトを使うことで、現場や業務を深く理解することができ、新しい設計手法や工法などのアイデアが生まれてきます。これを他人任せにしていてはいけません。今後はBIM/CIMの属性情報をうまく活用した業務の進め方が、社員から生まれてくることを期待しています」と話を締めくくった。

技術者自身がBIM/CIMソフトを使うことの重要性を語る出水重光氏。社長室にて

技術者自身がBIM/CIMソフトを使うことの重要性を語る出水重光氏。社長室にて

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