全国で約300人の設計者を擁する大建設計は、オートデスクのRevitを中心としたBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトを100本以上活用し、独自の実践型BIMワークフローを全社で展開している。その目的は、高品質の設計・解析を誰もが効率的に行えるようにすることだ。
業務の効率化につながる機能だけを使う
全国15都市に拠点を持ち、約300人の設計者を擁する大建設計は、5年前にBIM部会を発足させ、全社横並びでのBIM導入を進めている。
同社のBIM活用の目的は明快だ。大建設計取締役 執行役員 デザインセンター総括の井上久誉氏は「BIMは設計業務の効率化につながる機能を優先して使い、非効率な部分は無理に使わないようにすることで、高い品質の設計を簡単に行えるようにしています」と説明する。
「お客さまからは高い品質の設計、高度な解析、迅速な対応を求められています。こうしたニーズに対応するためBIMを戦略的に活用し、誰もが簡単に使える実践型のBIMワークフロー構築を目指しています」(井上氏)。
目的を明確にして取り組み始めたBIM部会の活動により、成果は短期間で現れはじめた。その一つの例は医療対応型特別養護老人ホーム「ひびのファミリア」の設計業務だ。
延べ床面積約5000m2の建物の基本設計から実施設計までをわずか4カ月ほどで終えることができたのだ。
ひびのファミリアには入居者やその家族から医療・介護スタッフ、日常的に出入りするサービス企業まで、多数の人々が関わる。
運営業務が行いやすいレイアウトや動線の最適化や、誰もが受け入れやすいデザインや色使いを、様々な視点で検討するためにはBIMモデルによるプレゼンテーションが、合意形成を早めるのに大きく貢献した。これもBIMならではの業務の効率化だ。
もう一つの業務効率化は、BIMモデルデータの有効活用に見られた。基本設計で作成したデータを実施設計に引き継いて実施設計図を作成し、さらには実施設計のデータを施工段階に引き継いで色決めシミュレーションを行ったのだ。
「意匠設計ではCGパースの作成や基本設計レベルの図面作成をかなりBIMで作成できるようになりました。また実施設計用としてBIM部会ではテンプレートやファミリの作成や、BIMによる実施設計マニュアルを整備し、設計業務を高い効率で行えるようになりつつあります」と井上氏は説明する。
全社が参加するBIM部会の取り組み
大建設計が短期間で実施設計までBIMを活用できるようになったのは、社内の各拠点やグループ会社の大建情報システム、大建テクノが参加する、BIM部会の取り組みによるところが大きい。
「社内にBIMを根付かせるため、Revitの講習会を全国の各拠点で行っています。講習カリキュラムは設計者用、BIMオペレーター用のほか、管理者用に分けて用意し、設計に関わる社員全員に教育を行っています。そのため、今では約5割の設計者がBIMを使うまでになりました」(井上氏)
同部会では意匠・構造・設備の設計におけるBIM活用の問題点を洗い出し、解決を探る活動も行っている。
「BIMソフトを使って設計効率を上げるため、標準のファミリやテンプレートを整備したほか、建物のサイズに応じて大きさを調整できるパラメトリックモデル、姿図付きの建具表を自動的に作成するアドオンソフトなども開発しました」と井上氏は説明する。
これらの標準化活動は、グループ会社の大建情報システムや大建テクノとの協働によるところが大きい。
大建情報システムはBIMソフトを社内用にカスタマイズし、リアルタイムで概算コストをマネジメントできるアドオンの開発や、BIMソフトの操作性を改善するライブラリーの構築、コマンドのカスタマイズ、実施設計用ツールの開発などを行った。
一方、多数のBIMオペレーターを抱える大建テクノは、複雑なBIMモデルの入力やパラメトリックやライブラリーの構築を行った。
構造計算結果をRevitと連携
そして最近は、意匠設計だけでなく、構造設計や設備設計にもBIMを活用し始めた。構造設計ではRC断面図や伏図・軸組図の作成をRevitによって効率化している。
「一貫構造計算プログラムのSS7やBUSの計算結果を、ST-Bridge型式でデータ交換しRevitに取り込み、構造BIMモデルを作成しています。そして配筋の干渉チェックをRevitで行うことで、高品質の構造設計をスピーディーに行っています」と大建設計構造設計室課長の伊藤裕一氏は説明する。
大建設計の構造設計部門内では、構造計算結果→構造BIMモデル→構造図というワークフローを構築し、計算モデルの確認や配筋の干渉チェックを効率化している。
「現時点では、構造計算→BIMモデル→作図という一方向のみで運用していますが、図面を修正してから再度、構造計算を行うケースもあります。BIMモデル→構造計算という逆のワークフローにも対応できるように、従来のSS3Linkのようなアプリが、SS7用にも開発されると助かります」(伊藤氏)。
さらに他部門とは、構造BIMモデルを意匠や設備のBIMモデルと合わせて干渉チェックを行うほか、構造躯体数量から積算を行うという部門間をまたいだワークフローもできている。
意匠、構造、設備のフルBIMも
BIM部会の地道な取り組みにより、2018年には意匠、構造、設備をすべてBIMで設計する「フルBIM」のプロジェクトも1件手がけた。
意匠設計と構造設計はRevitで行い、設備設計にはCADWe’ll Tfasを使った。RevitとCADWe’ll Tfasのデータ交換は、IFC形式を介して行った。さらにこのプロジェクトでは、自社開発のアプリを使って積算にもBIMモデルを使用した。
このほか、加工図レベルまでの詳細な構造図が求められる国内のごみ焼却工場の設計では、構造解析ソフトの結果を「Tekla Structures」に読み込んで加工図レベルの詳細な構造BIMモデルを作成。その構造モデルをRevitにリンクさせて意匠図を作成するワークフローを開発した。
こうした異なるベンダーのBIMソフトが混在する設計プロジェクトでは、Revitがデータ交換の軸となり、BIMモデルデータを柔軟に連携させるケースが多い。
「設計段階で詰め切れなかった部分があると、施工段階で設計変更が起こり、それだけお金がかかってしまいます。その点、BIMを使ってしっかり干渉チェックなどを行うと手戻りが減ります。建設ワークフローの中で、設計段階におけるフロントローディングはますます求められているように感じています」と井上氏は語った。
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