モンゴルの古代都市を奈良大学がレーザースキャナーで再現
2014年7月21日

モンゴルの広大な草原の下に眠る古代都市を奈良大学がファローレーザースキャナーで再現

2013年01月14日

関西国際空港から飛行機でわずか4時間のフライトを経て、モンゴル国の首都、ウランバートルに到着します。オペラ座や高層住宅が建ち並ぶその都市を西へさらに400kmほど進むと、カラコルムという都市にたどり着きます。カラコルムは13世紀初めにチンギス・ハーンが兵站基地をこの地に造営したのち、モンゴル帝国の首都に定められました。日本政府の無償資金協力によって2011年に建築されたカラコルム博物館には、奈良大学が2009年に発掘調査した契丹時代における出土品が展示されています。

モンゴル地図

首都ウランバートルからハルブフまで、車で約6時間の道のり

奈良大学では、モンゴル国のモンゴル科学アカデミー考古学研究所との協定に基づく共同研究プロジェクトとして、2009年からモンゴルの考古学的遺跡の調査、研究を行っています。2011年までの3年間で第1期から第3期調査を終え、今回2012年より第4期調査が始まり、今後3年間にわたりモンゴルの遺跡調査を継続していく予定になっています。

■ 3Dレーザースキャナーを導入

2012年の現地調査は8月4日から12日まで、現地ドライバー4名を含む15名の調査隊によって、バイバリク、ハルブフ、ハルバルガスの各遺跡で行われました。今回の調査の目的の一つに、遺跡のデジタルアーカイブ化があります。第3期調査までは単焦点(近距離型)の3D計測器を使用していましたが、レンジが狭く広い範囲をデータにするのは困難でした。今回の研究の代表者である奈良大学社会学部、正司准教授は、他の大学との情報交換の中でファローレーザースキャナーのことを知り、データを見せてもらう機会を得ました。「これなら使えそう」だと判断、またカラーカメラ内蔵、コンパスの搭載、ヘリカルスキャンにも対応していることもあって、今回の調査ではフォーカス3Dを導入することになったのです。フォーカス3Dは1秒間に約976,000点という大量の点群情報を取得する3Dレーザースキャナーです。重さはわずか5Kg、小型で持ち運びに便利なため、調査隊と一緒に海を渡ることとなりました。

モンゴル遺跡をフォーカス3D でスキャン

ハルブフ遺跡の仏塔をファローフォーカス3Dでスキャン

■ 古代遺跡における問題点

ハルブフ遺跡スキャンデータ(左)ハルブフ遺跡の仏塔をデジタルアーカイブしたデータ

まず向かった先はハルブフと呼ばれる9から11世紀の契丹時代の遺跡です。ここは16世紀に城壁内に石造物や壁を築いて再利用していたため、他の2カ所の遺跡に比べて、比較的良好な状態で残っています。

バイバリク遺跡スキャン

(左)バイバリク遺跡に残る城壁の一部を車の屋根からスキャン (右)版築のデジタルアーカイブ

次にバイバリクへ。ここは、「オルホン渓谷の文化的景観」の名称で世界遺産に登録されていますが、一部の版築が残っているのみで、あとは見渡す限りの草原となっています。遊牧民が羊を連れてのんびりと遺跡を横切って行きます。

ハルバルガス遺跡スキャン

(左)ハルバルガス遺跡に残る仏塔。頂上に立っているものはオボーと呼ばれる標柱。(右)ハルバルガス遺跡の仏塔のデジタルデータ

最後がハルバルガス遺跡。カラコルムの北西約40kmに位置するこの遺跡もバイバリクと同じく世界遺産に登録されていますが、一部の版築や仏塔などが残っているのみです。

これら遺跡に共通している問題点を、正司准教授はこう指摘します。「これらの遺跡はいずれ崩れてしまい、10年後にはおそらく残っていないと思います。現在の技術で可能な限り忠実に残すことが、私たちが今やるべきことなのです。」例えば、バイバリクの城壁にはハチが巣を作っているため、その部分から崩壊して行きます。また、遊牧民や羊の生活の場ですし、誰でも遺跡に登ることができるなど、まったく「保存」がされていないのが現状です。

■ スキャン時間の短縮

この3カ所で調査隊は、フォーカス3Dを使って遺跡の形状をスキャンし、デジタルアーカイブ化する試みを行いました。調査隊が現地に滞在できたのはわずか9日。この短い期間ですべてのスキャンを終えなければなりません。広い遺跡を調査するにあたり、「ファローのフォーカス3Dのおかげで、スキャンにかかる作業時間はかなり短縮されました」と正司准教授は言います。

■ 3Dデータの今後の活用

デジタルアーカイブという考えは20年くらい前からありましたが、レーザースキャナーなどの機材が高価すぎて国家レベルのプロジェクトでないととても無理でした。この5年くらいでレーザースキャナーの価格も下がってきたため、昨今考古学の分野に投入されてきています。「今後はこのようにして集めたデジタルデータをどう活かしていくか、活用方法を考えていかないといけない」と、正司准教授が述べている通り、例えば当時の姿をCGで再現する、デジタルデータを元に遺跡の構造比較をするなど、3Dデータをどう活用するのかが今後の課題となってきます。

また、来年の調査では、フォーカス3Dを台車に載せて遺跡の上を歩くヘリカルスキャンを実施し、遺跡の表面の状態をデータ化することができたら、と正司准教授が語るように、既に来年の研究に向けて、準備が進められています。モンゴル科学アカデミーとの協定は2022年までとなっており、それまでに、一見広大なただの草原の下に眠る古代都市の様子を、できる限り多く再現してほしいと願っています。

奈良大学について:

奈良大学数多くの遺跡、寺社に囲まれた閑静な高台に建つ奈良大学は、1925年に設立された南都正強中学校を前進として1969年に開学しました。稀にみる歴史学に特化した大学であり、学生は全国から集い、高い専門性を誇ります。また、日本初の文化財学科設置大学であり、歴史・考古学関連に多くの有名教授を擁しています。さらに、2010年に開設した「社会調査学科」は、社会科学と情報学を融合した新しい学科です。情報メディアを利活用しながら、社会調査の実施と分析方法を学びます。

今回の調査は、文化財学科と社会調査学科が連携して行っており、それぞれの学科の特徴を活かしたものです。文化財学科では、遺跡の考古学的な学術調査を実施し、社会調査学科では、情報技術を利用した遺跡のディジタルアーカイブ化を行っております。

〒631-8502 奈良県奈良市山陵町1500 TEL: 0742-44-1251 / FAX: 0742-41-0650 e-mail: webmaster@aogaki.nara-u.ac.jp URL: http://www.nara-u.ac.jp/

詳しくは、FAROのウェブサイトで。

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