第18回:設計図と違う位置に構造物が建設された場合の対処は?
図面とずれた位置に建物を建設した場合、建て直す必要はある?
ゴミ処理施設の建設工事を受注し、浄水場を完成させました。測量でミスがあり、図面より北側に10cmほど寄った位置に建設してしまいました。
発注者からは、設計図どおりの位置に作り直すように要望されています。
この場合は、建設し直すしかないのでしょうか。また仮に、その必要がない場合も、何らかの損害賠償責任を負うのでしょうか。
(※写真はイメージであり、本記事とは無関係です。)
目立った不備がない場合は 建て直す必要はない可能性が高いものの、 ミスなのでしっかりとした管理がおすすめ。
この事例には、4つのポイントがあります。
- 契約図面の記載と瑕疵
- 建物配置ミスに関する参考裁判例
- 軽微な瑕疵と修補義務
- 相談事例に対する検討
順に説明いたします。
1.契約図面の記載と瑕疵
設計図書は、合意された工事内容を表す書証です。そのため、設計図書に違反した施工は、契約に違反していると考えられる場合が多いです。
しかし、少しでも設計図書に違反すれば瑕疵となるわけではありません。工事目的物の価値・機能等に影響を与えず、特に発注者の要求に反しない場合、瑕疵にあたらないと考えられています(松本克美ほか編『建築訴訟』314頁(民事法研究会、第2版、2013))。
建物の配置も、この考え方が妥当するといえます。
2.建物配置ミスに関する参考裁判例
今回の事例と似た内容の裁判例があります。神戸地裁平成15年4月21日判決の事案は、図面よりも北側に7cm、東側に10cmずれて建物が建設された点の瑕疵について争われました。
裁判所は、「本件建物は、〔中略〕図面とは僅かに異なった位置に建っているが、図面よりも北側に7cm〔中略〕、東側に10cm寄っているだけで、その相違は僅かなものである」と認定し、また、「本件建物を図面より北側に7㎝寄せられたのは、南側の駐車場から道路への通り道が本件建物によって狭められるのを避け、自動車の出入りを容易にするためである。また、東側に10㎝寄せられたのは、平成10年4月ころの本件建物の建築確認申請時に、神戸市(建築主事)より、道路車線の関係から、建物を東側に後退させるように行政指導を受けたためである。このように、いずれも正当な理由に基づくものである」として、瑕疵に該当しないとの判断を行っています。
この裁判例は、設計図書との違いが軽微であり、設計図書と異なる施工に正当な理由があったという事実関係を重視したと考えられます。つまり、建物の配置が設計図書と異ななる場合、その違いの程度と理由に着目して瑕疵かどうかを判断するべきでしょう。そして、本事例でも「正当な理由」がなければ、瑕疵と判断される可能性が高いです。
3.軽微な瑕疵と修補義務
建物の位置のずれが瑕疵だと評価される場合、建物を正確な配置に移動させる修補責任が発生するのでしょうか。
建物の配置の修正は、物理的に不可能ではないものの、相当高額の補修費用が発生します。一方、建物の配置のずれに機能上の不備がないのであれば、補修すべき必要性は低いでしょう。こうした場合、大規模な補修工事は、経済的見地から、合理性があるとはいえません。そのため、よほど極端な場合を除き、「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するとき」(民634①ただし書)に該当するでしょう。
4.相談事例に対する検討
今回の事例では、設計図書と実際の配置が異なり、契約どおりに施設が建設されていません。ただし、その程度が前記神戸地裁平成15年4月21日判決と同程度に軽微であることを考慮すれば、瑕疵の可能性は低いと考えられます。