Vectorworks事例●ワダスタジオ 一級建築士事務所

2018年10月2日

金沢市から車で約一時間。車窓に見える加賀市の空は青く、そして大きく開けている。
住宅地と田園が入り混じる地域に、目的とする建物(プロジェクト名「ICK」)の足場が見えてきた。現場近くでは北陸新幹線の延伸工事が行われており、広い空に高架橋を支える橋脚だけが天高くそびえている。ワダスタジオとパートナーの設計事務所がBIMで設計した「ICK」は、プレカットされたばかりの木材の香りと、打設されて日が短い基礎コンクリートの青さ、そしてBIMで設計された意欲的な建築の熱量が同居しており、独特な緊張感を生み出していた。

ワダスタジオ一級建築士事務所

プロジェクトの度に進化するBIM

大学を出た後、野老朝雄さんの手伝いをしていた時期がありまして、その関係で野老正昭さんの設計事務所に勤務していました。その後、阿部仁史アトリエを経て、現在のワダスタジオを設立しました。

野老さんとの関係性しかり、建築においてもわりと雑食で、今まで住宅や店舗、古民家改修など専門を決めず、幅広く手がけています。実は少しの期間ブランクはあるのですが、Vectorworksは学生時代からずっと使い続けてきたアプリケーションで、私にとっては馴染みが深いものです。困った時も欲しい情報がネットやブログにあり、大変助かっていますね。

「ICK」施工現場

ただ、今でも試行錯誤の連続で、この使い方が正しいのか、正直不安でもあります。Vectorworksは懐が広いっていうか、自由すぎるっていうか(笑)、とにかく掘り下げるとそれに応えてくれる部分が多くあります。BIMをやり始めて、プロジェクト数としてはまだ少ないですが、その都度効率性を考え、使い方などをブラッシュアップさせています。

例えば、クラスの使い方も見えてきた感じがあり、一つのモデルだけで異なる図面表記が必要な場合でも、どうすれば「シートレイヤで図面ごとに表現を変えやすいか」、「オブジェクトの変更による図面表現を変更しやすいか」、ということを見すえてクラスの整理をしています。

「ICK」現場監理図

「クラス」「ビューポート」「シートレイヤ」

以前、共同住宅の仕事をいただいたのですが、設計期間がかなりタイトでして、どうしたら効率良く設計ができるか模索したことがありました。

プランのひな形を複数つくり、ファイル参照でそれぞれのひな形を呼び出し、組み合わせるような設計に取り組んだことがあります。2Dでの設計でしたが、今考えるとその経験が、BIMとして活用するための足がかりとなった気がします。常に修正にかかる重複作業を減らし、効率的に作業ができる環境の構築を図りたいと考えています。

Vectorworksは、3DやBIMに移行しやすいアプリケーションだと思いますが、その際は「クラス」「ビューポート」「シートレイヤ」の概念をしっかりと理解しておく必要があります。逆に言えば、これを理解しておけば、BIMへの移行は比較的容易とも言えます。2D作図においても、「クラス」「ビューポート」「シートレイヤ」を使うことで効率化が図れますから、使ってない人は是非チャレンジして欲しいです。

「ICK」配置検討図

思考と手作業のバランス

プロジェクトごとに協力してもらえるパートナーの増減はありますが、基本的には一人で設計を行っています。共同作業は設計のクオリティを維持しやすいのですが、いつもこれが可能とはいえません。

一人で設計し、かつ時間という制約で設計のクオリティを落とすことはしたくないと考えた時、Vectorworksの使い方をBIM的な方向へシフトしようと考えました。最初は少し手こずることもありましたが、馴れてしまえば凄く効率が良いです。

例えば、従来からの設計であれば、客先プレゼンの前日までには図面類を用意しておかなければならないのですが、BIMの場合は、午後からの打ち合わせなら午前中までプラン(モデル)を検討することが可能です。ここから図面化してもプレゼンに間に合うほど、検討に時間を割り当てることが可能となりました。

何プランも検討できて、しかも3Dで分かりやすいので、クライアントからのフィードバックも的確で明瞭です。これをまた設計に反映できる。設計の濃度が格段に上がりました。また、私にとっては、「正しい情報・最新の情報」がいつでも手元にあり、確認・閲覧・変更が可能であることがとても重要だと考えています。

「JAK」プロポーザル案

ワイガヤ デザインレビュー

直近のプロポーザルのプロジェクトでは、個人設計事務所2社、地元の組織設計事務所1社とJVを組んで仕事を進めていますが、ここでもBIMが威力を発揮しました。

私のVectorworksの画面を投影して、そこに関係者たちがワイガヤで注釈を描き込んでいきます。同業者であってもBIMは分かりやすいですし、プロポーザル時の検討スピードも早く、変更にも柔軟に対応できることから情報共有がスムーズに進みました。

「JAK」プロポーザル案

ワークシート

先にも言いましたが、作業効率を上げて無駄を減らしたい。これは、ワークシートも同じです。ワークシートって凄く便利なんですよね。図形やモデルと連動することに気がついてから、手離せません。ただ、使い勝手をもう少し洗練させてくれれば、もっと良くなると感じていますが(笑)。

私はワークシートのデータベース機能を使い、あまり文字入力をしないようにしています。設計に変更は付き物ですが、変更のたびに表の修正を行っていると間違いが起こる可能性もあります。例えば、仕上げ表なら、仕上げの番号を打ち変えるだけで、自動で仕上げ情報が変更されるようにしています。もちろん、図面に表記される情報もこれに連動しています。

ワークシートの関数を利用した求積図

建築家としての仕事

進行中プロジェクトの一つとして、金沢の中心街で大正初期に作られた木造3階建てのリノベーションを行っています。この建物は、金沢の歴史を色濃く残す重要な建物だと感じています。現在、施主や行政とともに、より良い形での保存・再生・活用と次代への継承方法について検討を重ねています。

現調からBIMモデルを起こし、計画を進めている最中ですが、BIMが今回のプロジェクトにどのように関与していくのか、私自身がこのチャレンジに対してどのような解決策を提示できるのか、非常に楽しみですね。

KOh
HPH
IMR#01
IMR#02
和田  吉史 氏
経歴
  • 2001年3月    日本大学大学院修士課程修了
  •  ~2003年   株式会社ワイディー
  •  〜2007年   TOKOLO.com 参加
  •  〜2007年   株式会社 野老設計事務所
  •  〜2009年   有限会社 阿部仁史
  • 2010年1月    ワダスタジオ設立
  • 2011年〜2015年 総合資格学院一級建築士講座 非常勤講師
  • 2018年〜    金沢科学技術専門学校非常勤講師

詳しくは、エーアンドエーのウェブサイトで。

    取材協力
    • ワダスタジオ一級建築士事務所 和田 吉史 氏