「建設の匠」/緊急指令!名建築をICT技術で保存せよ【後編】
2019年6月24日

「建設ICT×名建築保存」の後編は、ノートルダム大聖堂から日本古来の建築まで俎上に載せて語ります!(編集部)

デジタルアーカイブが名建築を救う

――4月に火災で一部が焼失してしまったフランス・パリのノートルダム大聖堂ですが、点群データを取ってあったんですか?

Notre Dame de Paris Cathedral.Paris. France

家入 そうなんです。亡くなった建築史家のアンドリュー・タロンさんが、5年前ぐらいにレーザースキャンしていたんです。その時のメイキングビデオがYoutubeで公開されています。

――これは、再建に役立つものなんですよね。

家入 ええ、尖塔の部分が焼け落ちたんですが、屋根裏なども点群データで取得していたようですから、元の形がどうだったかはとりあえず分かる。マクロン大統領はコンペをすると言っていますが、それはともかくその気になれば、昔のとおりデータがあるおかげで直せると。

――これまで、名建築のスキャンをした実例はほかにもあるんですか。

家入 山口県下関市の下関市立近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館は、もともと旧逓信省下関電信局電話課庁舎の建築だったんです。別に解体されるわけではないけれど、2015年に建物竣工90周年記念として、トプコンの3Dスキャナーでスキャンして、オートデスクのREVITでモデリングして、それをWEBで公開していますよ。

――3D PDFですね。

写真/下関市立近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館

家入 BIMで上書きしているので、ちょっときれいすぎる感はあるんですけれど。昔のアーチ状の構造とかよく分かる。

――これまでは図面で保存するしかなかったけれど、この10年ぐらいのBIMや3D技術の進化とともに、こういったムーブメントが生まれてきたんですねえ。

家入 そうですね。それと凸版印刷は、本当にクオリティの高い3Dモデルをつくっています。国宝の仏像を表裏から撮って見えるようにするとか、あとマチュピチュや江戸城、日光東照宮を全部VR化するなど、本当にいろいろなことに取り組んでいますね。そのようなかたちで熊本城もVR化しています。

写真/凸版印刷

――凸版印刷は熊本城のVR化のほか、石垣の修復について……。

家入 崩れた石垣の石の表側を一斉に並べて、デジタルアーカイブで移っている写真と同じものを探して、同じ位置に積む。熊本大学と凸版印刷の共同開発した石垣照合システムの賜物です。

写真/凸版印刷

――位置を特定できるんですか! 素晴らしい技術ですね。

家入 城の石垣については、10年ほど前に江戸城の石垣を積み直す工事の際、清水建設が3Dシミュレーションを導入していました。ちょっと形がはらみ出した石垣を昔のようなシャープなかたちにする工事ですが、石の位置をきっちり記録して、石の位置を変えずに押し込んだり積み直したりしていました。

しかし災害などで石垣が崩落してしまうと、石の位置を記録などしていないので困ってしまう。その際に、凸版印刷のデジタルアーカイブってすごい力を発揮するんです。AIが自動的に判断して、人間ができなかったことまで判断する。人間だと適当な石を積んじゃうかもしれないですから。

――しかもデジタルアーカイブはそんなにお金がかからなそう。

家入 だいたい基本的には人件費と、測量機の送料、それからコンピューターによる処理の費用ですかね。都城のクラウドファンディングは50万円目標でしたが、最低限の原価がカバーできるぐらいじゃないですか。

――ビジネスとしてはどこまで成立するか分かりませんが、行政側が「建物をデジタルアーカイブとして残そうか」となった時、コストの安さは魅力的ですよね。壊す話も進みやすくなるかもしれません。

家入 そうですね。たぶん実際に保存する場合の金額1年分より相当安い値段で保存できるんじゃないですか。

続きは、「建設の匠」ウェブサイトで。

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