一級建築士事務所山田屋のチーム設計とBIMで解く伝統的木造建築物の改修

2019年8月19日

福井県小浜市伏原にある曹洞宗・霊松山発心寺は、1521年に若狭守護・武田元光によって創建されたと伝えられている。今の伽藍は江戸後期から明治・大正にかけて建てられたもので、専門僧堂として多くの修行僧を受け入れてきた。各建物はその歴史とともに増築や改築が繰り返され、さまざまな問題を抱えていた。2012年に小浜市の文化財保護委員会アドバイザーも務める福井大学講師(当時)の高嶋猛氏が、発心寺改築委員会からの依頼で本堂の調査に入ったことをきっかけに、発心寺は平成の大改修に進むことになった。

高嶋氏の監修のもと、約6年に渡る事業に携わってきた設計チームは、福井県の山田健太郎氏を中心に、岐阜・三重・滋賀のパートナー事務所で構成されている。その中で、Vectorworksを共通のプラットフォームとした4人に、BIMに挑んだきっかけや、地域を越えた設計の取り組みについて、お話をうかがった。

発心寺 3Dモデル
本堂正面写真(上:改修前、下:改修後)

BIMに取り組んだきっかけ

山田:発心寺の改修にあたって、3Dモデルの作成は必要不可欠だと考えました。以前、足立さんと福井県内で古民家(文化財)の大規模な改修設計をした際、フリーのモデリングアプリを使って描いた立体の軸組が、大きな手助けとなった経験があったからです。2Dの軸組図だけで伝統的構法の建物を理解することは簡単なことではありません。

足立:設計に入った時、高嶋研究室で行った本堂の詳細な実測調査の記録と、そこからまとめられた基本的な縮尺1/100の図面がありました。その図面から、まずは本堂の構造改修の検討のために、高嶋先生と山田さん指導のもと、研究室の学生が正確な3Dの軸組をVectorworksで作成しました。

山田:私たちも最初から全てBIMでスタートしたわけではありません。本堂の当初設計では軸組以外のモデルは作成していません。むしろほとんどが2Dと言っていい状態でした。その後、2Dから3D、そして BIMへと、改修を進める中で移行しています。

発心寺改修前の平面図
立体で作成した軸組は各部の関係が一目でわかる。このモデルを基本に構造補強や施工手順を検討する

3D設計の手法とBIMの可能性

山田:私は、木造建築の適切な改修を(一社)住宅医協会のスクールで学び、資格も得ましたので、信頼のおける協会のチーム(大阪)に庫裡(くり)と方丈(ほうじょう)の詳細調査を依頼しました。そのデータから、詳細な現況BIMモデルを伊藤さんと足立さんが作成しました。チーム作業にはいろいろな利点があり、伊藤さんが庫裡のモデルをある程度まで作成したところで、足立さんが引き継いで精度を上げ、その間に伊藤さんは方丈のモデルを作成するなど、作業を担当ごとにファイル分けし、クラウドで共有しながら進めました。

伊藤:発心寺で初めて3D設計とBIMに挑戦しました。3Dは現況建物の状況が瞬時にわかり、改修後のイメージも湧きやすいなどメリットがとても多く、今後は2Dに戻れないというのが正直な印象です。操作は2Dから始めて、ときどき3Dというやり方で少しずつ慣れて行きました。今回はBIMが持つ力を設計しながら体感できましたし、自分自身の設計の仕方や図面の描き方について、改めて考えさせられる良い機会になりました。

山田:BIMモデルの上に、調査した部材の劣化・蟻害・建物の変形などのデータを視覚的に反映させると、改修の指針を定めるとても良い資料になります。また発心寺改築委員会での3Dを使ったプレゼンテーションでは「全体への理解を深め、改修の規模などを決める上で、とても分かりやすく良かった」という感想をいただきました。

                 
                  詳細調査、柱の傾斜と蟻害の状況

BIMマネージャー的存在と設計の役割分担

山田:仕事を進めるにあたっては、個別にビデオ会議システムとチャットを使って打ち合わせをして、その内容や図面をチーム全員で共有しました。

足立:私は主に庫裡と回廊を担当しましたが、山田さんは伝統的構法がわかっていて、全体を常に見ながらまとめ役をしてくれました。BIMでいうところのBIMマネージャー的存在です。伊藤さんは整理するのが得意でワークフローを作ってくれました。どの図面を誰が描くかは決まっていたので、大まかなルールの中でうまく仕事が進められました。

伊藤:私は主に本堂と方丈を担当しました。山田さんが基本的なフォルダの分け方やファイル名の付け方などのルールを決めたのですが、ファイル数は本堂だけでも30近くになり、とても複雑な参照関係になったので、私はそれらの相関を示すチャートを書いて整理をして、わからなくなりそうなところだけタグを使いながら設計を進めました。

山田:伊藤さんが具体的に整理してくれた図はとても役に立ちました。今回は、構造の野口さんも含めてそれぞれ得意な部分が違っていたからこそ、チームで取り組む相乗効果が生まれたと思います。

                 
                  発心寺 本堂改修実施図面のファイルチャート

設計から構造そして施工につないだBIMの役割

山田:構造設計は、本堂と庫裡を滋賀県の川端眞さん(川端建築計画)に、書院と方丈を野口さんに担当していただきました。川端さんはJW-CADを使われるので、苦労してDXFファイルを作成しましたが、野口さんには3Dモデルをそのまま渡しました。

野口:構造設計では、材料の重量を拾う時に材積(材料の体積)を出します。今までは2Dで伏せ図や軸組図を描いて、材料一本一本の長さを拾って計算していました。今回は、3Dの軸組をいただいたので、材積もVectorworksのワークシートで集計ができ、非常に効率的に仕事を進められました。とてもありがたかったですし3D設計とBIMのメリットに気づくことができました。発心寺で木造の構造設計におけるBIMの有効性を実感したので、現在は別の物件でも3DBIMで構造設計を進めています。

                 
                  舟肘木・火灯窓・格子・腰壁・礎石・面取りの詳細も正確にモデル化し、大工職と綿密な意見交換をしながら進めていく

山田:施工者の選定にあたって概算設計を行いました。その際、できるだけ正確に見積もりをしてもらうために、2D図面も色で示したり、工種ごとに図面を分けるなどの工夫をしました。設計者は自分の考えを間違いなく施工者に伝えなければなりません。こういった2D表現の工夫も大切ですが、3Dはいっそう効果的です。施工中は現場事務所にモニターを持ち込んで、現場監督や各職方と3Dを一緒に見ながら打ち合わせをしました。

大工棟梁がモニターに映る3Dの軸組を見て、そこに現場があるような感覚で、さまざまな判断を即座にしてくれたことに驚きました。経験値の高い職人の目にはすごいものがありますが、それは2Dでは伝えきれない情報を表現できるBIMのすごさでもあると感じました。こういった打ち合わせを反映したモデルから、さまざまな施工図や原寸図を取り出して施工者に提供することができました。

                 
                  書院の構造計算用検討モデルとワークシート

設計と構造の関係性

野口:伝統的構法の構造設計では、どこにどういう壁があるか、柱や梁の仕口はどうなっているのか、そこにどのくらいの耐力が取れるのかを図面から読み取って検討していきます。山田さんは構法のことも理解していて、検討をする際も意思の疎通がスムーズだったので仕事が進めやすかったです。通常は意匠事務所との仕事がほとんどで、その場合のやりとりは意匠事務所からの要望に応えるかたちで縦のつながりになってしまいます。今回は、チームとして横のつながりでデータと意識を共有して仕事ができたのでとても楽しかったです。そして、場所は離れていましたが、非常にシームレスで円滑に仕事が進められたのはVectorworksという同じツールを全員が使っていたことも大きかったと思います。

                 
                  野帳はタブレットのノートアプリに手描きで共有

伝統的木造建築物の改修をBIMで行う効果と今回の反省点

山田:モデル上で、解体撤去の範囲や入れ替える部材を色分けして示したり、改修後にどのような形状になるのかを詳細に検討することができました。十分に事前調査・検討をしても、現場ではその場面にならないと判らないことが少なからずあります。施工しながらの改修方針の決定には、その都度、検討と議論が必要になりました。特に本堂屋根の復元と他の屋根との取り合いはとても複雑で、BIMを使わなければこの解にたどりつかなかったと思います。

また建具の設計でも、格子の割り付けや組子の比率、さまざまに面取りされた部材同士の関係といったディテールの検討に、BIMが非常に有効でした。反省点としては、規模が大きかったこともあって担当ごとにBIMモデルを作成したのですが、クラスやレイヤその他の設定が完全に統一されておらず、最終的に各モデルを統合することが難しくなってしまったことです。

                 
                  改修内容を色分けして示した庫裡の3Dモデルと構造用軸組図

今後取り組みたいこと

山田:木造BIMのワークフローを確立するために基準になる標準モデルを雛形として作り、モデリングが早く確実にできるようになりたいです。Vectorworksは建物を完成させるために必要な情報を、3Dオブジェクトのデータベースとして構築できるCADです。レコードフォーマット・データタグ・ワークシートといった独自の機能で、食い違いの全くない図面を効率的に作成していけたらなと思います。マリオネットや3Dスキャナによる点群データを活用する計画もしています。多くの人々の手によって長く守り伝えられてきた建物に、先人の意図を読みとりながら現代の改修を加え、次の世代にきちんとお渡ししていく。その品質を高めるために最新の技術をどう使いこなしていくかを、いつも考えています。

足立:今回は、瓦屋根の調査にドローンを飛ばしたり、アクションカメラで内部の動画撮影をするなど、さまざまな実験的試みを行いました。BIMも手探りで始めましたが、いろんな発見があって本当に楽しかったです。これからも設計に新しい技術を取り入れながら、一軒丸ごとフルBIMで設計してみたいです。

                 
                  ドローンで空撮の様子

伊藤:2Dでは自分なりの描き方は確立していました。今度は3Dでも自分なりの描き方を確立したいと思っています。会得した手順は、その都度、操作画面を録画して描き方の蓄積をしています。それが今後の布石になるのではないかと思っています。今回、自分がわからないところを教えてもらったり、考え方の違いに気づかされたり、視野も広がったりとチームで設計する醍醐味を味わえました。

野口:木造の構造設計でBIMが有効であることは、間違いありませんが、作り込みすぎるとワークシートだけで材積を拾うのが難しくなる面もあります。モデリングした3Dで部材の積算ができることが理想で、BIMとしてどこまで情報を持たせるかはこれからも試行錯誤が必要です。そして、またこのようなチームでの仕事がしたいなと思います。

本堂内部改修後
庫裡内部改修後
                 
山田 健太郎(やまだ けんたろう)氏
一級建築士事務所山田屋

経歴

  • 1963年 生まれ
  • 1987年 福井大学 工学部 建築学科 卒業
  • 1990年 株式会社環境計画・長田雅弘 入社
  • 1993年 株式会社センボー建築事務所 入社
  • 2004年 一級建築士事務所山田屋 設立
  • 2014〜2018年 福井大学非常勤講師
  • JIA日本建築家協会会員
                 
野口 浩春(のぐち ひろはる)氏
Legno建築設計事務所

経歴

  • 1964年 生まれ
  • 1984年 岐阜工業高等専門学校 建築学科 卒業
  • 1984年 株式会社土屋組 入社
  • 1989年 株式会社空間工房 入社
  • 1996年 株式会社スギヤマ 入社
  • 2013年 Legno建築設計事務所 設立
  • 日本建築構造技術者協会(JSCA)会員
                 
足立 徳康(あだち とくやす)氏
足立徳康建築設計事務所

経歴

  • 1968年  生まれ
  • 1989年 東京デザイナー学院 建築デザイン専攻 卒業
  • 1989年 株式会社環境計画・長田雅弘 入社
  • 1996年 個人にて活動開始
  • 1999年 足立徳康建築設計事務所 設立
                 
伊藤 麻紀子(いとう まきこ)氏
伊藤マキコ建築デザイン+

経歴

  • 1969年 生まれ
  • 1990年 愛知大学短期大学部 国文科 卒業
  • 1997年 株式会社環境計画・長田雅弘 入社
  • 2006年 伊藤マキコ建築デザイン+ 設立

詳しくは、エーアンドエーのウェブサイトで。