建築確認にBIMを!吉川充氏の『建築業界変革論』を読んでみた
2012年2月13日

管理人のイエイリです。

BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やクラウドコンピューティングなど、建築業界のIT化が進みつつある一方、建築確認申請や建築士試験、大学での建築教育などは依然として紙図面ベースが主流を占めています。

また、日本の建築市場は今後、縮小していくことが予想され、インドや中国などグローバルな市場を視野に入れた戦略を構築していく必要がありますが、世界標準とは異なる日本独特の“ガラパゴス”的な建築システムに慣れきった日本の建築業界は、本格的な海外展開に踏み出せないのが現状です。

こんなことで日本の建築はいいのかと、吉川充さんはこのほど、『建築業界変革論』(幻冬舎刊。777円)という本を出版しました。

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『建築業界変革論』の表紙

同氏の主張は縮小再生産のスパイラルに落ち込んでいる日本の建築業界を、グローバル市場で闘える産業に変えるイノベーションを起こすには、業界全体のIT化とともに、

ナ、ナ、ナ、ナント、

 

建築確認検査にBIMを導入

 

し、ワンストップサービス化を図ることによってスピードアップさせようという、具体的なものです。

姉歯事件以来、多くの建築設計者が厳格化された建築確認制度に戸惑いを見せている半面、制度だから仕方がないと半ばあきらめているのが現状です。

そんな中、BIMの導入により建築確認検査をスピードアップし、建築業界全体を変革しようという一歩踏み込んだ提案は、大いに評価されるべきではないでしょうか。

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「第4章 確認検査のIT化」と「第5章 日本建築界の展望──確認検査機関のイノベーション戦略」では紙ベースで行われている日本の建築確認検査をIT化する必要性が力説されている

著者の吉川氏は、建築職として約30年間、東京都庁に勤務し、現在は建築確認検査や性能評価などを行う民間指定機関、アウェイ建築評価ネットの代表取締役を務めています。

東京都庁時代には課長として東京・有楽町駅前の東京国際フォーラムの建設を担当しました。日本で初めて実施された国際建築家連合(UIA)の基準による国際公開コンペや、日米の設計チームのコラボレーションを通じて、吉川氏は日米の建築業界の差を感じたそうです。

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著者の吉川氏が建設に携わった東京国際フォーラムのガラス棟内部。2011年9月のUIA2011にて撮影(写真:家入龍太)

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吉川氏が代表取締役を務めるアウェイ建築評価ネットのウェブサイト

このほか、本書で参考になるのは、あまり知られていない

 

建築確認検査機関の業務

 

や、CADやCGが当たり前になった時代なのにいまだに「手描き」で行われている一級建築士試験や大学の建築教育の実情が赤裸々に紹介されていることです。

東京都庁と民間の確認検査機関で建築とIT化にかかわる仕事をしてこられて感じるのは、IT導入は「総論賛成、各論反対」の結果で終わることが多いということだそうです。建築業界をIT化によって革新するために必要なのは、なによりも「意識改革」だと説いています。

1941年生まれの吉川氏は、今年で71歳を迎えます。現在の会社でも携帯電話を使うことにして固定電話を廃止したり、iPadの活用にチャレンジしたりと、そのチャレンジ精神が衰えることを知りません。

吉川氏の本を読んでいて、ついサミュエル・ウルマンの「青春」という有名な詩のことを思い出してしまいました。

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