管理人のイエイリです。
山岳トンネルの工事で、「切羽」と呼ばれる掘削最前面に出た岩質を評価する作業は、最も重要な判断と言っても過言ではありません。
トンネルの内面や周囲を支える「支保工」のパターンを決めたり、切羽の先にある地山状況を予測したりする決め手となるからです。
これまでは、ベテランの技術者が経験と知識に基づき、この作業を行ってきましたが、技術者によって判断がばらつくほか、掘削後にすぐ、吹き付けコンクリートを施工する都合上、切羽の観察時間が十分にとれないといった課題がありました。
そこで戸田建設はRist(本社:東京都目黒区)と共同で、山岳トンネルの切羽評価を行うシステムの開発に取り組んでいます。
ナ、ナ、ナ、ナント、
AIで切羽の評価
を行う「T-Face AI(ティー・フェイス・アイ)」というシステムなのです。(戸田建設のプレスリリースはこちら)
このシステムは、人間の脳が日常的に行っている学習と判定を、AI(人工知能)で行えるようにしたものです。
経験したものを記憶する「学習システム」は、切羽写真と評価点をセットにした「教師データ」をパソコンに読み込ませ、「学習開始ボタン」を押すだけなので、現場でも日々の学習が行えます。
また、新しく出現した切羽を見て評価する「判定システム」は、切羽写真を選択して「予測開始ボタン」を押すだけで判定できます。
高速道路トンネルの場合は、切羽の上半断面を「天端」「左肩部」「右肩部」の3つのパーツに分割して、圧縮強度など7項目を評価し、その結果から支保パターン決定します。
このうち、AIは画像から認識しやすい風化変質や割れ目間隔、割れ目状態の3項目の判定を行い、残りの4項目は人間の技術者が判定します。
このシステムは、NEXCO西日本が発注した「新名神高速道路宇治田原トンネル東工事」の現場で試行的に使われています。
同トンネルと似た地質のトンネル切羽画像を教師データとして、切羽評価を行ったところ、現時点で
約84パーセントの正答率
が得られており、この切羽評価を参考資料として活用しています。
宇治田原トンネル東小路では、上り線の掘削が進むにつれ、学習できる教師データが増えるため、AIによる判定精度も向上していきそうです。
その後、施工する下り線の施工時には、かなり高い精度で判定結果が得られることが期待されています。
少子高齢化によって、生産年齢人口は今後、数十年にわたり減少の一途をたどることが確実になっています。AIは今後、経験がものを言うトンネル工事でも、ベテラン技術者の“クローン”として助っ人になっていきそうですね。