管理人のイエイリです。
2022年はPolyuse(本社:東京都港区)らが建築確認済証を取得した建物を、セレンディクス(本社:兵庫県西宮市)は日本初の球形住宅を、それぞれ日本で始めて3Dプリンターで建設しました。
そのため、2022年は“日本の3Dプリンター元年”とも言われ始めています。
そして、大林組はこのほど、セメント系材料を用いて3Dプリンターで建設する「(仮称)3Dプリンター実証棟」を、東京都清瀬市内にある同社の技術研究所内で建設に着手したことを明らかにしました。
これまでは建物の部材を3Dプリンターによって別のところで作り、現場で組み立てていました。
一方、大林組のプロジェクトでは壁や階段などの地上構造部材を、
ナ、ナ、ナ、ナント、
3Dプリンターで“現地施工”
する点がさらに進化しているのです。
材料には3Dプリンター用の特殊モルタルと、補強用の「スリムクリート」の2種類を使います。
スリムクリートは、曲げ強度(32.6N/mm2)や引っ張り強度(8.8N/mm2)があるので鉄筋なしでも強度が高い構造物を作れます。
また、スランプフローが600mm程度と高いので、特殊モルタルで作った打ち込み型枠のすき間にしっかり流れ込み、密実に充てんできます。
2階の床版はデッキ部分を3Dプリンターで造形し、建物に設置した後、スリムクリートを充てんします。その後、3Dプリンターを床上に設置することを繰り返せば、複数階の建物でも施工可能です。
今回のプロジェクトに際し、大林組は3Dプリント建築に適応した意匠・構造・設備の設計・施工フローを開発しました。
空調ダクトや電線などを収納するため、躯体内部のあちこちに空洞を作りました。この空洞に空調空気を通すことで、「壁面放射冷暖房」が可能になるのです。
またこの空洞は、電線ケーブルの隠ぺい配線用のスペースや断熱層としても活用されます。
3Dプリンターによる造形作業と同時に、断熱や設備工事の一部を行えるので、工期短縮や省力化が実現できます。
このほかの特長としては、床構造を最適化したことが挙げられます。
周囲を壁で支えられた床は、コンクリート内部に発生する引っ張り応力の方向や大きさが場所によって異なります。
そこで
力の流れに沿ったリブ
で床版を補強し、最小の材料で最大の強度が発揮できるようにしたのです。
こうした複雑なデザインや構造をスムーズに施工するため、3Dプリンターによるプリント経路の自動生成や、傾斜部の積層性、障害物との干渉確認用のソフトを開発しました。
このプロジェクトは日本建築センターの性能評価審査を受け、国土交通大臣の認定を取得した3Dプリント建築という点でも、日本初となりました。設備図を含めた建築確認や、スリムクリートを材料とする個別評定も取得しています。
建物は2022年11月の完成を予定しており、その後、3Dプリント技術のPR施設として公開されるほか、耐久性や構造、環境性能の評価も行う予定です。
大林組は2019年に3Dプリンターで国内最大規模となるシェル型ベンチを製作するなどの技術開発を進めてきました。
今後は複雑やデザインや強度と耐久性を備えたセメント系材料や3Dプリンター建設の研究を進め、実用化を目指していくとのことです。