管理人のイエイリです。
大林組は2022年5月から、東京都清瀬市にある同社の技術研究所で、3Dプリンターを使って「3dpod」という実物の建屋を建設していましたが、2023年3月に完成しました。
壁はすべて、現地に据え付けた3Dプリンターで“場所打ち施工”を行ったほか、屋上の床部材も3Dプリンターで製作。さらに電気、空調、水道などの設備や断熱も施しています。
この建物には、大林組の建設用3Dプリンターによる設計・施工技術が集約されており、
ナ、ナ、ナ、ナント、
“用・強・美”を徹底追及
したといっても過言ではないのです。(大林組のプレスリリースはこちら)
まず、建物の快適性や効率性などの「用」については、壁の断面に自由に空洞を作れる3Dプリンターの特性を生かして断熱材や空調ダクトを壁の内部に施工しました。
断熱については、断熱材を躯体の外側に設ける「外断熱」と、内側に設ける「内断熱」がありますが、この建物では“中断熱”というような他にはなかなか見られない方式を採用しました、
次に建物の頑丈さなどの「強」は、地震国日本では特に求められる部分です。この建物は、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した構造形式を採用しました。
3Dプリンターで造形する部分はデンカ(本社:東京都中央区)が開発した特殊モルタル「デンカプリンタル」を使用し、空洞の中にはう鋼繊維入りの「スリムクリート」という材料を流し込みました。
スリムクリートは圧縮強度180N/mm2、引張強度8.8N/mm2、曲げ強度32.6N/mm2を持ち、自己充てん生を持っています。そのため、空洞内のすみずみまで流れ込み、鉄筋コンクリートのような強度を発揮します。
また屋上の床は、曲げ応力などの解析に基づいて最適な断面を設計し、3Dプリンターで埋設型枠を作成。その中にスリムクリートを流し込んで施工しました、
そして、建物のデザイン性についての「美」ですが、自由な形状が作れる3Dプリンターの強みを発揮して、随所に曲面や傾いた壁を使ったデザインになっています。
この建物の名前である「3dpod」の「pod」とは蚕(かいこ)の繭(まゆ)という意味で、建物の外観が3Dプリンター建築ならではの球状の「まゆ」の形をしていることが由来となっています。
型枠による従来のコンクリート構造物ではこうした形を実現するのは難しいでしょう。
建物の「用・強・美」を実現しただけでなく、さらに特筆すべきは
設計・施工の最適化
を行ったこともあります。
例えば、建物の設計では、「最小の材料で最大の空間」を実現するため、コンピュータープログラムで形状を繰り返し検討しました。材料を減らすことにより、建設時のCO2排出量削減にも貢献しました。
また施工に先立って、3Dプリンターの造形手順を作成し、シミュレーションを行って施工可能なことを事前に確認したのです。これは、施工の手戻りによるムダをなくすことに貢献しました。
詳しい設計・施工手順は、大林組が公開したYouTube動画(3Dプリンター実証棟「3dpod」完成)をご覧ください。