九州大学がドライビング・シミュレータを導入
人間とクルマ、交通流の相互作用を研究(フォーラムエイト)
2012年7月11日

今年3月、九州大学伊都キャンパスにある教育研究施設にフォーラムエイトのドライビング・シミュレータが導入された。車体の動きを忠実に再現する6軸モーション、運転席に実車同様の視覚情報を提供する計11台の液晶ディスプレーや、リアルタイムにクルマの動きをシミュレーションする「HILS」も連携した本格的な仕様だ。九州大学では省エネ走行や高齢者向けのクルマの開発、安全運転を促進する道路デザイン、危険運転防止策などの研究にこのドライビング・シミュレータを活用していく。

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九州大学大学院統合新領域学府の教育研究施設に導入されたフォーラムエイトのドライビング・シミュレータ

 

   人間、クルマ、交通流の動きをリアルタイムに解析

 九州大学が導入したドライビング・シミュレータは、人間とクルマ、交通流の相互作用を再現した研究が行える本格的なものだ。九州大学大学院統合新領域学府で研究指導を行う川邊武俊教授(システム情報科学研究院)は「あるドライバーの運転は、周囲の交通流にも影響を及ぼし、結果的に自分自身にその影響が返ってくる。人間とクルマ、交通流の相互作用をリアルタイムに解析できるドライビング・シミュレータが研究には不可欠だ」と語る。

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高性能ドライビング・シミュレータの必要性を語る九州大学大学院システム情報科学研究院の川邊武俊教授

 フォーラムエイトの「UC-win/Roadドライビング・シミュレータ」をベースとし、車種に応じた車両の運動を再現する車両運動シミュレータ「CarSim」、リアルタイムに交通流をシミュレーションする「Aimsun」、そして実車同様にクルマの電子制御装置の動きをシミュレーションする「HILS」というシステムを組み合わせている。

 運転席は加減速や道路線形などに応じた車体の動きを再現する6軸の電動モーションシステムで実車同様の動きが体感できるほか、運転席を囲むように設置された5台の大型液晶ディスプレーによって運転中の風景が体感できる。また、小型の液晶ディスプレーで作られたバックミラーやサイドミラー、ダッシュボードには、それぞれ動画が表示される。

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運転席にリアルな動きを与える6軸モーションベース(左)とバックミラーの映像を再現する小型液晶モニター(右)
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実車の開発にも使われる「HILS」(手前)とモニター1台ずつに割り当てられたパソコン群(奥)。操作するのは向井正和助教

 クルマに搭載された電子制御装置をリアルタイムにシミュレーションする「HILS」は、実車の開発にも使われる連携した本格的な機器だ。「最近のクルマは、モーターでハンドルの操作力をアシストする『電動パワーステアリング』や、路面状況に応じてブレーキをかける力を調整する『ABS』など、電子制御システムの塊です。ドライブ・シミュレータにその動きをリアルタイムにフィードバックするためにHILSを連携させました」(川邊教授)。

  クルマの省エネ運転や高齢者向けクルマの開発に

 川邊教授は日産自動車でクルマの制御システムの研究に携わった後、2005年に九州大学に移籍した。「人が疲れずに最適な運転ができるようにするためには、クルマの内部や外部情報をいかに人間に伝えるかが問題です。情報が多すぎても少なすぎてもよくない」と川邊教授は説明する。

 ドライビング・シミュレータでの研究テーマとして、一番燃費を上げられる省エネ運転の研究を挙げている。「ドライバーによって、燃費は20%も違います。運転方法の最適化を図ることで、かなりの省エネを実現できるでしょう。坂道の勾配情報や、信号が変わるまでの時間などの情報提供の仕方を変えて、ドライビング・シミュレータで再現することにより、どんな情報提供が省エネ運転に効果的なのかを検証できます」(川邊教授)。

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研究テーマを説明する川邊教授

 簡単なシミュレーションならば、1台のパソコンでシミュレーションすることも可能だ。しかし、自分の運転行動が周囲の交通流に影響を及ぼし、その交通流から自分も影響を受けるという相互作用をリアルタイムにシミュレーションするためには、高性能のドライビング・シミュレータが不可欠なのだ。

 リアルな実験結果が必要なら、実車での走行試験の方が現実に近い結果がえられそうだが、なぜ、ドライビング・シミュレータが必要なのだろうか。この問いに対し、川邊教授は「公道を実車で走行しながらの実験では、交通流が毎回異なるため、実験結果を比較・検討できません。その点、ドライビング・シミュレータなら何度でも同じ交通流を再現でき、実験結果を同じ条件で比較できます」と語る。「また、酒酔い運転や居眠り運転など、公道ではできないような危険な実験もドライビング・シミュレータなら安全に行えます」(同)。

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実車そっくりに作られたリアルな運転席

 川邊教授と向井正和助教らは、空気抵抗が小さくなるように、トラックを一列に並べて走らせ、省燃費化する「トラックの隊列走行」や、高齢者ドライバーの運転特性を研究し、高齢者に合った制御システムを開発することも計画している。

  交通心理学を安全運転のアドバイスに活用

 九州大学大学院システム情報科学研究院の志堂寺和則教授は、交通心理学に基づく実験をドライビング・シミュレータで行うことを計画している。驚くことに、志堂寺教授は博士(文学)号を持つ文系の研究者だ。

 「交通心理学とは、運転者や歩行者などの行動特性を明らかにし、交通事故の防止や安全運転に役立てる学問分野です。その研究成果は、身近なところでは運転適性検査や道路標識のデザインなどに生かされています」と志堂寺教授は言う。

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交通心理学の専門家としてドライビング・シミュレータを研究に活用する九州大学大学院システム情報科学研究院の志堂寺和則教授

 志堂寺教授は15年前から運転シミュレータを研究室の学生とともに開発し、毎年、機能を追加しながら研究を行ってきた。クルマと道路を情報でつなぐ高度道路交通システム「ITS」や、先進技術を利用して安全運転を支援する「ASV」での警報装置や警報の種類などが主な研究対象だ。今回、フォーラムエイトのドライブ・シミュレータが導入されたことで、さらに研究領域が広がりそうだ。

 「研究室で開発してきたシミュレータは、わき見運転の実験の時に視界内に赤い点を点灯させたりしていましたがリアルさに欠ける面がありました。その点、今回導入されたドライビング・シミュレータは、運転者の興味を引きそうな物体や人を実物同様に表示させたり、動かしたりすることができます。動くものを見る運転者の目の動きなども、調べられます」(志堂寺教授)。

 「また交通心理学の実験では、様々な気象や交通条件などを再現した『シナリオ』が必要です。その点、フォーラムエイトのドライビング・シミュレータはシナリオが自由自在に設定できるほか、ソフト開発キット『SDK』によって細かいカスタマイズも行えます」と志堂寺教授は語る。

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実験前にシートベルトを締める修士2回生の坂田昂亮さん。ドライビング・シミュレータとはいえ実車同様の緊張感がある

  創立100年祭でリアルな街並みを公開

 5月13日に、九州大学の創立100年を祝うイベントが開催された時、このドライビング・シミュレータは一般公開された。その時、博多駅前の街路や建物を実物同様にモデル化し、仮想ドライブを行えるようにしたところ、来場者はそのリアルさに驚いた。

 「新しくなった博多駅の駅ビルなどもモデルに作り込みました。モデル化を担当したのは4月に研究室に入ったばかりのタイ人学生です。1~2週間でUC-win/Roadのモデリング方法をマスターし、あっという間に博多の街並みを再現できました」(志堂寺教授)。

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リアルな博多の街並みをドライブ体験

 画面だけのドライビング・シミュレータは、画面が大きくなると被験者が車酔いしやすく、実験が中断されることもあったという。その点、モーションベースが付きのドライブ・シミュレータは視覚と体の動きのズレがなくなり、車酔いしにくいという。そのため、長時間の実験もスムーズに行える。

 志堂寺教授はドライビング・シミュレータの画像表示能力を生かして、運転者が負担なく減速できるような路面のデザインや、危険運転を行うドライバーに安全運転アドバイスを行うシステムなどを研究・開発していく方針だ。

 九州大学が導入したドライビング・シミュレータは、高齢化が進む日本の交通安全や省エネを実現するため、高齢者に優しいクルマの開発や、安全運転や省エネ運転のノウハウ開発など、今後、様々な研究成果を生み出すことが期待できそうだ。

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九州大学伊都キャンパスの昼下がり

 

【問い合わせ】

株式会社フォーラムエイト

東京都目黒区上目黒2-1-1 中目黒GTタワー15F
TEL : 03-5773-1888  FAX : 03-5720-5688
(各営業窓口はこちらをご覧ください
E-mail : forum8@forum8.co.jp
ホームページ : http://www.forum8.co.jp


 
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