グラフィソフトジャパンは、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を組織で活用するためのスキルやノウハウをまとめた「ArchiCAD JUMP!」という教育プログラムを開発した。同社がこれまで経験してきたBIM活用の成功例と失敗例を分析し、BIMを最も有効に活用する方法である“ベストプラクティス”のノウハウを具体化したものだ。ArchiCADを既に実務に使っているユーザーなら、業務と並行して4日間のプログラムを受講すれば、わずか1カ月ほどでBIMマネージャーとして活躍できるようになるという。
完成した「ArchiCAD JUMP!」の元原稿を手にするグラフィソフトジャパンのスタッフ。左からコバーチ・ベンツェ社長、桐木理考氏、飯田貴氏 |
失敗しないBIM活用のノウハウとは
「ArchiCAD」や「Solibri Model Checker」などのBIMソフトを発売するグラフィソフトジャパンは、製品開発だけでなくユーザーが製品を使いこなせるようにするためのトレーニングも重視している。
同社ではArchiCADの入門テキストである「ArchiCAD Magic」や、BIMによる建物モデリングの基準を示した「BIMガイドライン」を作り、無償公開してきた。同時に「グラフィソフトスクール」や「BIMスキルアップセミナー」などでユーザーに対する講習を行ったり、ユーザーからの問い合わせに対するサポートを行ったりしてきた。
入門者用の「ArchiCAD Magic」 |
BIMモデルの作り方やテンプレートの設定方法などを定めた「BIMガイドライン」 |
こうしたトレーニングやサポートを通じて、同社のスタッフが経験したのは、初心者向けの「ArchiCAD Magic」を終えた後、「BIMガイドライン」で示された成果品の作成にたどり着けないユーザーがいることだった。また、BIM活用で成功する会社と失敗する会社もあった。
また、BIMを成功している会社には共通点があった。例えば、設計上の様々な意思決定をBIMで行える、BIMを使う目的や範囲を明確にしている、設計段階に応じてBIMモデルの密度を高めている、設計者間でBIMを活用するための意識を共通化している、といった要素だ。
一方、BIMソフトを導入したものの、設計実務の中で見えない壁にぶち当たり、うまく活用できていないという会社には、設計段階に合った情報がBIMモデルに入力されていない、BIMを使うのが1人の設計者だけだったり、責任や権限がない設計者だけだったりする、といった問題点が見つかった。
そこでグラフィソフトジャパンでは、これらの成功例と失敗例を分析し、BIMを組織の中で有効に活用できるようにするためのプログラム「ArchiCAD JUMP!」を開発したのだ。いわば、「ArchiCAD Magic」と「BIMガイドライン」の間を埋めるためのプログラムである。
グラフィソフトジャパンのスタッフが、トレーニングやサポートを通じて経験してきた数多くのBIM活用の成功例や失敗例が「ArchiCAD JUMP!」に生かされている |
BIMマネージャーまでの3つステップ
プログラムは3つのステップに分かれている。ArchiCADの基本操作をおぼえ、建物のモデリングを行えるようになるまでの「JUMP! 1」、設計を企画レベルから実施レベルへと詳細化し、モデルから図面を作れるようになるまでの「JUMP! 2」、そしてモデルから図面を作るテンプレートやライブラリーを整備し、「BIMマネージャー」として組織でのBIM活用をリードできるようになるまでの「JUMP! 3」だ。
プロダクトマーケティングを担当する飯田貴氏は「JUMP! 1」ではまず、BIMが従来のCADと違う点として、建物のモデルが情報を持っていることを理解してもらいます」と説明する。まずは建物のモデルが作れるようになるまでが、ベーシックな段階だ。「JUMP! 1」ではテキストを2冊に分けて、片方はArchiCADの基本的な機能を1つずつ解説し、もう片方は建物モデルを1から作り上げていく過程を体験できるようにしている。この両輪によってArchiCADで建物モデルが作れるようになるまでの力を付けるのだ。
建物のモデリングをマスターしたユーザーは、次の図面作成の段階で見えない壁にぶつかりことが多い。そこで「JUMP! 2」では、建物のモデルから実施設計レベルの図面を作れるようになるまでのコツを学ぶ。
ArchiCAD JUMP!のプログラムには、様々なBIM活用の成功例、失敗例を分析した結果が込められている |
「図面を効率的に作るためには、BIMモデルから部屋名や仕上げなどの情報を取り出してうまく活用することが重要です。そこで「JUMP! 2」ではどんな段階で、どんな情報をBIMモデルに入力するか、という手順を学びます」と飯田氏は説明する。
最後の「JUMP! 3」は、ArchiCADを組織で使うためのテンプレートやレイヤーの設定方法、設計に使う3次元BIMパーツ(GDL)のライブラリー作成方法などを学ぶ。テンプレートやレイヤー、ライブラリーなどを設定することは、組織におけるBIM活用の標準化を行うことでもある。「JUMP! 3」ではBIMマネージャーとして組織内でBIM活用を実践し、効果を上げられるようにするためのスキルやノウハウが身に付くようになっている。
「BIMの組織活用を行うために、BIMマネージャーには裏のロジックを理解し、テンプレートやレイヤー、ライブラリーによって図面作成がどう効率化できるのかを理論的に説明できることが必要です」と、コバーチ・ベンツェ社長は説明する。
BIMのベストプラクティスとは
様々なBIMの成功例、失敗例を分析したグラフィソフトジャパンが導き出したBIMを組織でうまく使うためのベストプラクティスとは、次のような手順だ。
まず、BIMは1人ではなく設計チーム全体の30%くらいで取り組むこと。BIMの成果が出始めたら次にチームの70%くらいに活用を広げること。そしてBIMですべてのことをやろうとしないことだ。
「設計者はついBIMモデルを詳細に作りたがります。しかし、一度にすべて情報を入力しようとすると大変なうえに、かえって非効率です。プロジェクトの段階に応じた細かさの情報を入れるようにすることが大切です」(飯田氏)
BIMの導入に苦労しながらも、慣れてしまうと2次元CADにはもう戻れないという企業が多い。しかし、彼らも最初のうちはBIMモデルにいつ、どんな情報を入力するのかという問題について試行錯誤し、悩みながら自社の活用方法を見つけていったのだ。
先人の知恵を結集したプログラム、ArchiCAD JUMP!で学ぶと、その過程をショートカットしてスピーディーにベストプラクティスが身に付く。
ArchiCAD JUMP!のテキスト。どの段階で、どんな情報をBIMモデルに入力するべきなのかを分かりやすく解説している |
約1カ月でBIMマネージャー級の実力に
グラフィソフトジャパンでは「ArchiCAD JUMP!」を教材に使用したセミナーを今年4月からスタートさせる。ArchiCADのコマンドやモデリングの基本を学ぶ「JUMP! 1」は2日間コース、実施設計レベルまでの図面作成を学ぶ「JUMP! 2」と、テンプレートやライブラリーなど設定を学ぶ「JUMP! 3」はそれぞれ1日間コースとなっている。
「JUMP! 1~3」までを全部通して行えば4日間で済んでしまうことになるが、グラフィソフトジャパンではあえて3回に分けている。各ステップで学んだことを設計実務で実践し、実務に応用できるようになってから次のステップに進む方が実力として身につくと考えているためだ。各ステップの最後には、クリアすべき項目がまとめられており、学習のチェックリストとして活用できる。
ArchiCAD JUMP!のステップごとに設けられたチェックリスト |
既にArchiCADを実務に使っているユーザーなら、ArchiCAD JUMP!のプログラムでBIMを効果的に活用していくための知識やノウハウを順次、学ぶことにより、1カ月ほどでBIMマネージャーとして活躍することも可能だ。
企業のBIM活用力が分かる認定制度も
グラフィソフトでは、同社WEBサイトでArchiCADに対する製品知識・操作・技術・技能について評価する「ArchiCAD認定試験」を、世界のユーザーを対象にオンラインで実施している。
得点によってチームリーダーとして実際の業務に即した設定や操作ができる「ArchiCADマスター」と、BIMマネージャーとして適切な指示や判断ができる「ArchiCADゴールドマスター」という2つの資格を取得できる。これらの資格は世界共通の基準に基づいてArchiCADの活用能力を認定するものだ。
「ArchiCAD認定試験」のウェブサイト。メニューの中に日本語版も用意されている |
ArchiCAD JUMP!の受講者数や、ArchiCADゴールドマスターなどの資格取得者数は、企業としてのBIM活用力を客観的に表すものだ。BIMによる設計業務を発注したり、BIMによるフロントローディングを実施したりする際のパートナー企業を選ぶ際にも今後、大きな参考材料となることは間違いないだろう。
【ArchiCAD JUMP!について】
ArchiCAD JUMP!の詳細についてはグラフィソフト ホームページ(http://www.graphisoft.co.jp/school/ArchiCADJUMP/)にてご確認くださ い。
【問い合わせ】 グラフィソフトジャパン株式会社 <本 社> 〒107-0052 東京都港区赤坂3-2-12 赤坂ノアビル4階 TEL:03-5545-3800/ FAX:03-5545-3804 <大阪事業所> 〒532-0004 大阪府大阪市淀川区西宮原2-27-53 Maruta 2F-A ホームページ www.graphisoft.co.jp |