小規模設計事務所がBIMで生産性を上げるコツとは
アーキ・キューブで実践するフロントローディング(オートデスク)
2013年6月1日

岐阜市の小規模設計事務所、アーキ・キューブは「Autodesk Building Design Suite」などのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソリューションを導入。企画からプレゼンテーションまでの大幅な時間短縮や実施設計、監理業務までBIM活用の幅を広げている。同社の大石佳知代表取締役は4月19日、東京で開催された「Autodesk Solution Day 2013」(主催:大塚商会)で講演し、小規模設計事務所がBIMを活用し、フロントローディングのメリットを生かして設計業務の生産性を上げるコツを解説した。

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「Autodesk Solution Day 2013」で講演するアーキ・キューブの大石佳知代表取締役

   Revitの導入でプレゼンまでの時間が大幅短縮

アーキ・キューブは、岐阜市を拠点に活動するスタッフ5人の小規模設計事務所だ。業務内容は住宅設計が60%、店舗が20%、保育園などの社会福祉施設、工場や倉庫などの生産施設などがそれぞれ10%となっている。

同社に転機が訪れたのは、2008年に意匠設計用BIMソフト「Autodesk Revit Architecture」(以下、Revit)を導入した時だった。「Revitの導入により、設計とパースが連動するようになり、企画から施主へのプレゼンテーションまでの時間が大幅に短縮されました」と、アーキ・キューブ代表取締役の大石佳知氏は語る。

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アーキ・キューブが手がけた住宅の作品例

Revitを基本設計に使うことにより、平面図や立面図、パースの作成だけでなく、ウオークスルーによるプレゼンテーションも新しく行えるようになった。さらに基本設計の段階で仕上げ素材や家具・建具のデザインなど、細かいところまでBIMで行えるようになったのだ。

BIM導入と同時に、それまで2人だったスタッフを5人に増やした。初めてRevitを使うスタッフは、Revitユーザーグループ(以下、RUG)が主催する講習会や実務を通じたトレーニングを行い、今は一級建築士2人、二級建築士1人を含め、全員がRevitを使いこなせるようになった。

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岐阜市にあるアーキ・キューブのオフィス

  8100m2の物流センター設計を2カ月半で完了

BIMによる設計が軌道に乗った同社は、2012年にRevitや3ds MaxなどBIM関連のソフトがパッケージになった「Autodesk Building Design Suite」を導入した。この年、手がけた丸太運輸知多物流センターの設計では、早速、BIMの高い生産性が発揮されることになった。

7600m2の倉庫と500m2の事務所からなるこの施設の設計をわずか2カ月半ほどで設計を完了させることができたのだ。

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Revitで作成した物流センターのBIMモデル
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完成した物流センターの倉庫(左)と事務所(右)

「基本設計を同年4月~5月初旬に行い、続いて実施設計を6月初旬までに行い、建築確認申請や見積入札につなぐことができました」と大石氏は語る。

  フロントローディングで施主の要求を設計に反映

成功のポイントは基本設計段階に行った設計業務の前倒し、つまり「フロントローディング」によって、施主の意向を早めに設計に反映し、手戻りを未然に防いだことが大きかった。

「基本設計段階から家具や階段、天井や梁も入力し、施主との打ち合わせはノートパソコンでCGパースを見せながら行いました。身長1.7mの人が事務所から物流センター内の車両がどう見えるかや、前面道路からのサインの見え方など、細かい点を確認しながら設計を進めていきました」(大石氏)。

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事務所棟のBIMモデル。基本設計段階から家具や階段などを入力した
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身長1.7mの人から見た事務所内の視界。外部のトラックの状態や階段による事務所内の連携などがイメージできるようにした

身長1.7mの人から見た事務所内の視界。外部のトラックの状態や階段による事務所内の連携などがイメージできるようにした

  実施設計や監理もRevitで作業を効率化

実施設計段階では、複雑な事務所棟の平面図や天井伏図、展開図、建具表の作成にRevitを活用した。

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Revitで描いた事務所棟の平面図

監理段階では、倉庫内の明るさや事務所棟内のカーペットの色などをRevitで検討した。「基本設計段階に施主から倉庫内が暗いのではないかとの指摘を受けていました。そこで監理段階ではトップライトを付ける案をレンダリングしたCGで施主にプレゼンしたところ、1回でOKが出ました」(大石氏)。

このころになると、施主もBIMによる設計に慣れてきて、施主側から「ここに家具を置いてほしい」「カーペットの色を変えたらどうか」といった細かい提案が出るようになりました。アーキ・キューブでは、これらの施主からの要望にひとつずつ答えていった。そして、8月から12月までの短い間に、無事、物流センターは完成した。

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倉庫内をレンダリングしたCGパースで明るさを検討した例
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事務所内のカーペットの色をレンダリングしたCGパース
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階段付近のリアルな完成予想パース(左)と施主の要望で検討した家具の配置例(右)

  Revitで生産性を高める4つのコツ

アーキ・キューブは2000年の創業後、2001~2005年の間、ベンチャー企業を育成するインキュベーション施設に入居していたこともあった。施設では3次元CADや3Dプリンター、バーチャルリアリティーなどのハードやソフトが手軽に利用できる環境にあったため、これらの3D技術には、BIMが普及し始める前から親しんでいた。

●アーキ・キューブのRevit導入・活用までの経緯
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熱心な受講者で満員の講演会場

十数年にわたる3次元設計やBIMの経験を踏まえて、大石氏はRevit活用のコツを、次の4点にまとめた。

  1. 最初から「100%BIMで」と張り切らない!
  2. ノリと勢いと妥協が重要!
  3. ファミリ、テンプレート、ネットワークなど何でも活用する!
  4. サブスクリプションを利用しない手はない!

最初はプレゼンテーションから初めて、徐々に実施設計で活用し、無理にすべてを3Dで描こうとしないこと。リーダーが強い意志でRevitを導入し、細かい図面表現にこだわらず、初めの数件を乗り切ること。そして、RUGが開発した図面作成用のテンプレートや、オートデスクが運営する「ディスカッションフォーラム」、Revitユーザーが運営するウェブサイトなど、利用できる物的、人的資産を最大限に活用しようという実践的な提案だ。

「すべてを3次元で描こうとすると大変です。そこでRevitの2次元作図機能も併用し、赤で表現すると区別しやすくなり、プリンターからモノクロで打ち出した時にはほぼ黒い線になります。こうしたノウハウをRUGで学び、すぐに実践しました」(大石氏)。

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Revitの2次元作図機能で描いた部分は赤で表現すると区別しやすい。プリンターからモノクロで打ち出した図面上ではほぼ黒い線になる

そして、これからのRevitユーザーに不可欠なのは、サブスクリプションサービスを最大限に活用することだ。

サブスクリプションサービスとは、ソフトを“定期購読”するようなシステムだ。毎年、少額の料金を払うことで、最新版やエクステンションが入手でき、オンライン技術サポートや25GBのオンラインストレージ、そして高画質のレンダリングや解析・シミュレーションなどをクラウドサービスで提供する「Autodesk 360」が利用できる。

アーキ・キューブはサブスクリプションサービスで提供される、最大4000ピクセル幅の高画質レンダリングやパノラマ、日影、照度などのレンダリングサービスを利用している。「レンダリング中も手元のワークステーションやパソコンでRevitによる設計作業を継続できるというメリットがあります」と大石氏はその生産性向上の効果について説明した。

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クラウドサービス「Autodesk 360」による物流倉庫内の照度レンダリングの例。天窓なしの場合(上)と天窓ありの場合(下)による照度の違いがはっきりと分かる

「今後は、Revitを木造住宅やリフォーム、改修工事などにも活用していく予定です。BIMは仕事を獲得するためのプレゼンテーションで効果を発揮し、その資産を実施設計まで活用する。これが設計事務所におけるフロントローディングのあり方だと思います。もう2次元だけの設計環境には戻れません」という言葉で、大石氏は講演を締めくくった。

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【問い合わせ】
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