Vectorworks Solution Days 2013
EVOLVE -進化-(エーアンドエー)
2013年7月2日

エーアンドエーは2013年5月9日~10日の2日間、東京・品川で「Vectorworks Solution Days 2013」を開催した。今回のテーマは「EVOLVE -進化-」。「Vectorworks 2013シリーズ」で新たに加わったランドスケープデザイン向けの「Landmark」や舞台照明デザイン向けの「Spotlight」でさらに広がったVectorworksの世界を、第一線で活躍する建築家やインテリアデザイナー、照明・舞台の世界で活躍するデザイナーらが、最新のプロジェクトを交えて語った。CADからBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)への移行についての解説セッションや最新ハード・ソフト、OASIS加盟校の作品の展示会も同時開催された。


【内田和子社長あいさつ】

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今年1月に「Vectorworks 2013」が発売されたのと同時に、エーアンドエーでは11の都市を回る「Vectorworks 2013新製品発表会 全国キャラバン」を開催した。1月10日の東京から1月25日の福井まで、移動距離の合計が6000kmを超えるイベントでは、どこの都市も多くのユーザが集まり、Vectorworksの新しい機能に対して多くのご質問をいただいた。

各都市で行ったユーザによる実践セミナーは、大変好評だった。地元ユーザがそれぞれの地域におけるVectorworks活用事例や、自身のノウハウを惜しげもなく紹介し、思いもよらない機能の使い方に何度もうなってしまうことがあった。

そんななかで共通していたことは、施主に対する優しさが感じられたことだ。Vectorworksの柔軟性が、使う人の優しさや柔軟性に合っているのかもしれない。

Vectorworksは汎用CADとして多くのユーザに使っていただいているが、 2013シリーズでは「Landmark」と「Spotlight」も新たに製品化し、土木設計、ランドスケープや舞台照明、空間デザインのデザイナー向けにきめ細かいツールを搭載し、より専門性の高いデザインCADとして利用できるようになった。

今回の「Vectorworks Solution Days 2013」は2日間にわたり、さまざまな分野のデザイナーに講演をいただき、これ以上うれしいことはない。

 


【基調講演】
自作について

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石上純也建築設計事務所
代表
石上 純也 氏

 

今日、紹介するプロジェクトに共通しているのは、建築を外部の自然環境から遮断する「シェルター」としてつくるのではなく、建築の内部や周辺に「新しい外部」としての環境をどのように計画していけるかを考えて設計したことだ。

かつての建築は、人間が住むことのない厳しい自然環境を遮断して、シェルターの内側に快適な住環境を構築してきた。しかしながら、現代においては、人間の活動は、自然環境に影響を与えるまでに大きく広がりつつある。そのなかで、建築は単に自然環境を隔てるだけでは意味がなくなってきていると思う。
そのようなことを踏まえつつ、これからの建築を考えたい。

モスクワ科学技術博物館のリニューアル工事は、18世紀の建物を現代的な建築として再生させるものだった。モスクワの道路は何車線もあり道幅が広い。横断歩道がなく、人々は周囲からこの建物にアクセスするのに地下道を渡ってくる。そこで、このアクティビティーと博物館をいかにして自然につなげていくかを考えた。

具体的には、博物館の周囲をすり鉢状に掘り下げ、建物の地階に連続する広々とした広場として、建物周辺と地下道、そして地上がつながるようにした。

築200年以上たった建物の地下は、構造壁である煉瓦の壁面が入り組み、迷宮のようになっていて劣化も激しい。そのような地下構造を補修するとともに、開放的な広場を作るために、できる限りレンガの壁を取り払い、同時に補強していくという計画。その結果、世界でも例のない広大な列柱空間ができ上がり、その広場のような列柱空間が建物周辺に新しく計画されるすり鉢状の広場に連続していく。この建物は2016年竣工予定だ。

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モスクワ科学技術博物館のリニューアル計画。築200年の建物の地下1階を掘り下げて広場にする

 

東京に建設した「house with garden」では、外部の自然環境を建物内部に取り込んだ。床はほとんど土で、その上に設けたテラスの上で生活するイメージだ。部屋の間は、屋内に設けた飛び石を通って行き来する。

夫婦と子ども1人が生活する住空間に、いかに新しい快適性を与えることができるかを考えた。具体的には、庭の中で生活するようなイメージで住宅を考えた。家の中には木も草も生い茂り、季節によって落葉する。季節を感じ、心地よく生活できる空間を生みだそうと考えていた。

オランダで計画中の「ヴィジターセンター」は、モスクワの博物館と同じく18世紀にできた公園の中に建設される。古い邸宅の隣に建設する建物だ。この公園内のものは歴史的に重要なものが多く、既存の建物や植栽には手が付けられない。

着目したのは、公園内の園路。歴史的な公園の中で唯一、植栽が施されていないヴォイドである。園路がそのまま建築空間になっていくように計画した。細長く続く園路の空間に建物が流し込まれたような形状である。外壁面は園路のように引き延ばされ、100mほどのガラスのファサードをつくり出す。柱はなく、透明感のあるガラスのみで建物全体が支えられている。

柱を構造に用いてしてしまうと、どうしても、その柱のスパンがつくりだすスケール感によって、建築的なスケール感がつよくあらわれてくる。この計画では、どのようにして、建築のスケールとランドスケープのスケール連続させていくことができるかがテーマである。そのため、できる限り透明でシームレスなファサードが、公園の中にフィルターのように立ち現れるようにする。その連続性を損ねないよう、柱などの構造体を限りなく消し去るようにした。

地震や雪の荷重もガラスの構造体で支えるため、梁の形状を調整しながら応力解析を繰り返し行い、力の流れが均質になるように設計した。この「ヴィジターセンター」は来年に竣工の予定だ。

神奈川県内の大学のカフェテリア施設は、長さ約110m、幅約70m、厚さ9mmの巨大な1枚の鉄板の屋根で覆われた構造だ。屋根は周囲で支えられているだけで、内側には1本の柱もない。屋根上には20mmの厚さで土を敷き、緑化し、屋根にはところどころ開口が計画される。

広大な平面に対して、天井高さは低く、2~3m程度である。屋根全体は少し湾曲していて、その曲率をトレースするように、床面もすり鉢状に湾曲している。そのため、向こう側の壁面は見えず、地平線のように天井と屋根が結びついたところに、美しい曲線状の境界線ができあがる。床面にも、屋根同様、草原のような植栽計画を施す。どこまでも広がる、薄く平たい空間である。

建物内部は、鉄板の天井面にたくさんのトップライトが開けられている巨大なワンルームの空間であるが、天井が低いため光が空間に回り込まず、トップライトの配置によって、光の明暗が美しく計画される。ワンルームであるにもかかわらず、さまざまな場所が築かれる。

また、天井の開口部には、ガラスなどははめられず、光や風や雨がそのまま入ってきて、床面の草花を優しく潤す。雨が降ったときには、さまざまな開口から雨が切り取られて入り込み、空間全体に屋外では体験できない、見たこともない美しい雨景色があらわれる。また、ある開口からは、屋根面が受けた雨水が内部空間に流れ落ち、滝となる。

さらに、鉄板による屋根が温度変化によって伸縮するため、天井高は1日の間に約2m~3mとおよそ1m弱も変化する。風が吹いても屋根の形は変わるのだ。このように天気によって屋根下の空間は劇的に変化する。大空が、ある日には雲が低く立ちこめ、ある日にはどこまでも抜けてゆくような高い青空になるように、この空間も、その日その日によって、刻々とその空間の質を変えてゆく。これは、空間が風景としてあらわれる建築である。この施設は来年竣工の予定である。

これらのプロジェクトを通して、何かしらのかたちで、風景を空間としてとらえる方法を試行錯誤している。建築の外部と内部をシームレスに破綻することなく、1つのコンセプトで計画する方法を発見できたら、と考えている。

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長さ約110m、幅約70mの巨大な鋼製の屋根が覆う神奈川県内の大学のカフェテリア

【特別講演】
仕事のしかた

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文田昭仁デザインオフィス
代表
文田 昭仁 氏

 

私は主に商空間のインテリアデザインを手がけている。仕事で心がけていることは、空間ができたことによってクライアントに喜んでもらうだけでなく、その場所でビジネスが成功するようにすることだ。

そして大事にしているのは言葉の意味や範囲、定義に気を付けることだ。例えば、「床、壁、天井」という概念は、室内の空間を表現するために人間が決めた概念にすぎない。

しかし、空間としての違いはない。例えば、床と天井が飛行機のような円断面でつながった建物の場合、床、壁、天井の境目はどこなのか。言葉を取り外してみれば、いろいろなデザインが見えてくる。

私の仕事では、閉じた空間の中でいかにフィクションを構成するかということも大事にしている。ボリュームを整理、グループ化、相対化という視点でとらえ、構築していくのだ。

例えば、抽象的な空間の中に、ある物体を置く場合、天井の外にある構造体にぶら下がっている、室外のひさしのような構造体が室内に侵入している、床の一部が伸びてきているなど、さまざまなとらえ方がある。どのように存在させるか、壁と梁、床と台などディテールの接続やつながりの在り方を変えることで、さらに空間構築のバリエーションは広がる。

これをブティックに応用すると、空間全体を凹凸で成り立たせることによって、棚板や、ハンガーの機能を網羅させることができている。さらには、設備の点検口なども同様に壁面でカムフラージュを可能にしている。

日産自動車の横浜本社ギャラリーは、車の展示スペース、カフェ、物販店からなり、プレゼンテーションルームとしても使う空間だ。カルロス・ゴーン社長から「大きな空間だが、空虚感のあるような、ガランとしたものは作らないでほしい」と間接的にリクエストを受けた。

そこで講堂を仕切る開閉式の大きな壁を設け、線状にLED照明を配置した。角度によってはライン状に見えるが、近づいて見ると比較的粗いピッチになっている。

LEDが点灯していない時は、電解着色されたアルミのストライプが見えるようにした。幅、テクスチャとも3種類ずつの壁のユニットを作り、ランダムに見えるように一定のルールで配置した。

複合的な機能を持った建築なので、多くの開口部などがあるが、目地によってカムフラージュした。こうして、大空間でありながら、バリエーション豊かな複合空間を実現した。

また、その他においてもさまざまな工夫を施し、ここで時間を過ごすことを楽しんでもらえるような空間を実現した。

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日産自動車の横浜本社ギャラリー

NTTドコモの携帯電話のショールームは、三井住友銀行のATMコーナーと隣接する空間に設けた。ショールームとATMの営業時間が違い、ショールームが閉店した後も、ATM側から入れるようになっている。そこで、閉店後はショーケースのふたを閉めたり、内部に携帯電話を格納したりできる仕組みにするなど工夫した。

この空間のデザインではさまざまな部材の重なりで壁、床、天井を構成した。空調の吹き出し口や防災用のスプリンクラー、照明器具などは、部材のすき間に設置した。設計では、CADによる作図と手描きによる修正を繰り返し、面の重なりを3Dで把握しながら行った。施工に際しては90cm間隔で3Dモデルを切断し、吊りボルトの位置などを現場で確認した。

これと似た方法は、マンションのエントランスでも使用した。天井を高く見せるため、上の階の配管が突き出している部分を隠すように天井板を取り付け、他の部分の天井板は高くし、その裏から間接照明でエントランスを照らすようにしたのだ。

ブラックダイヤモンドを販売する「CORE JEWELS」東京・青山の店舗は、スラブの下端が2.4mだった。そこに照明や空調ダクトを設けると、さらに天井高が下がってしまう。しかし、高級商材を扱っている店なので、照明や空調設備をむき出しにすることはできない。

そこで考えたのは、できるだけお客様のじゃまにならないところに空調ダクトを設け、その下にブラックダイヤモンドの展示カウンターを設けるという方法だった。

ダクトの下面にはダウンライトを配置し、展示カウンターを置いた。ダクトの側面は斜めにすることで天井から下がった照明器具のように見せた。そのアイデアを壁面に設けた棚にも応用し、棚の上下も斜めにすることで壁から緩やかに隆起したデザインにした。

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ダクトのため低くなった天井を照明に利用した「CORE JEWELS」の店舗

もともと必要から生まれたデザインのルールが天井、壁、そして商品の展示台までに広がっていったのだ。

私は光の透過、反射、陰影、効果といった要素を使ったデザインも意識して採り入れているし、前述したような、さまざまな手法を活用して空間を構成している。

それらを幅広く応用しながら、リラクゼーションサロンから時計店、ブティック、ギャラリーなど、クライアントのビジネスが成功するインテリアデザインを実践している。


【BIM実践講演】
BIMをいつ始めるか?今でしょ!

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株式会社山設計工房
井上 直樹 氏
  株式会社山設計工房
飯塚 啓吾 氏

スタッフ11人の小規模設計事務所である当社は、1年半ほど前からVectorworksのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)機能を使って設計を行っている。BIMは大手企業でないと活用が難しいと思っていたが、そんなことはなかった。

BIMの特性とは、(1)電子化された情報、(2)3次元形状の情報、(3)属性情報が付加されている、ということだ。

CADは平面図、立面図、断面図など複数の図面で建物を表すのに対し、BIMはまずパソコンの中に仮想の建物を建て、必要な図面は3Dモデルから取り出すという感覚で設計を行うところが違う。

当社は1998年にVectorworks 8を導入し、以来、13年間設計に使ってきた。2011年11月に大きなデータを扱う業務があったのを機に、パソコンを買い換え、Vectorworksも最新版を導入した。その時、「BIMをやってみたい」と上司にお願いしたのがBIM導入のきっかけだった。

翌2012年1月には初めてのBIMプロジェクトとして、マンションの自転車置き場やごみ置き場を設計した。分からないなりに3Dモデルから断面図や立面図を取り出して確認したり、パースを作ったり、ボリューム検討を行ったりした。通り芯や仕上げは2D図面上で描き込んだ。図面とパースを同時進行で扱えるのが便利だった。

参考にしたのは、エーアンドエーのウェブサイトで無料公開されている電子書籍「BIM実践講座」だった。プリントアウトして、社内で回し読みしながら勉強した。

続いてBIMで8階建て、78戸のマンションの実施設計にも挑戦した。階段ツールや窓ツールなどを初めて使い、属性情報の魅力を体感した。階段は踏面などを入力するだけ、窓はパラメータで引き違い窓や縦すべり窓などを簡単に選べた。

そんな時、施主からパースを出してほしいと急に言われた。以前は図面を基にCGソフトで作っていたが、BIMの場合はテクスチャを設定し、レンダリングを行うだけですぐにパースができた。BIMのスピード感を実感した。

苦手だった面積の求積も数量集計機能を使って自動化してみたが、かなりの精度で面積を拾うことができた。

設計とコスト計算も連動させてみた。畳とフローリングのモデルに属性情報として単価を入れておき、畳の部屋をフローリングに変えるといくらコストが変わるのかを自動計算できるようにしたのだ。

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BIMモデルと連動したコストの算出

さらに意匠と設備、構造のモデルを統合した「フルBIM」や、4Dによる工程計画も試してみたい。

一般的に、BIMの導入から運用・展開までは、運用体制の整備や設計環境の整備、そして標準化という準備を行った後に、実案件を手がけるという順序が望ましいと言われる。

一方、当社の場合はBIMを少しさわってみた後、いきなり実案件にチャレンジした。その後で運用体制や設計環境の整備などを行っている。つまり、BIMの面白そうなところをつまみ食いしているわけだ。

無計画に思われるかもしれないが、当社のような小規模な組織ではBIMについての役割分担を決めるまでもなく、お互いにパソコンの画面をのぞき込みながらスタッフ全体でスキルアップを図っている。小さな設計事務所ならではのメリットだろう。

窓やイスなどのライブラリも、プロジェクトを行う中で必要になった3Dモデルを作成し、蓄積している。将来的にはテンプレートとしてまとめる予定だ。

Vectorworksが安心できるのは、BIMで無理だと思ったら、すぐに2Dに切り替えられることだ。そのため、BIMに気楽に取り組めるのだ。

現在の最新プロジェクトとして、団地の改修を行っている。BIMモデルを使って通風解析や構造解析も行っている。

BIMを1年半ほどやってみた感想は、肩ひじはらず、手を動かしてBIMに取り組んでみたのが良かったと感じている。まだBIMの活用は基礎的な段階だが、設計者やデザイナーの職能が変わっていくことを実感し、BIMの可能性を直感として感じている。

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さまざまなシミュレーション

 


【すぐにはじめられるVectorworks BIM】
 - CADから一歩踏み出そう -

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エーアンドエー
BIM・環境デザイン推進課
佐藤 和孝
  エーアンドエー
研究開発室
木村 謙

まだVectorworksを2次元CADとして使っている人も多いだろう。そこで、簡単に2DからBIMのワークフローに移る方法を紹介したい。

BIMの説明でよく使われるのは、中心にBIMモデルを置き、周囲に図面の作成や構造解析、エネルギー解析などの業務を配置した図だ。すべてをBIMで行わなければいけない印象を与えてしまうが、そんなことはない。

また、Vectorworksなら、大きなビルだけでなく、木造戸建て住宅も図面を描くような操作で、2Dから3Dにスムーズに移行し、BIMのワークフローを活用できる。また、これ以上3Dは難しいと感じたら、2Dに戻って作業を続けられる。

例えば、BIMで木造住宅の3Dモックアップを作るときは、2次元CADで作業するように基礎や壁などを描き、柱を配列複写で配置していく。床はVectorworksのスラブ機能を使って描くと、軸組や根太、束も自動生成される。こうして3Dのモデルができ上がる。

この3Dモデルをいろいろな方向から見た図をビューポートで取り出し、図面に張り付けて、通り芯などを2D機能で描くと平面図や立面図などが作れるのだ。

Vectorworksで壁やスラブ、柱、屋根などを作図する時にはCAD用とBIM用のコマンドがある。

例えば、壁を描く時にはCAD用のダブルライン多角形コマンドとBIM用の壁ツールがある。どちらにも断熱材や仕上げ材などを設定することができるが、壁ツールには配置情報などさまざまな属性情報が入れられるようになっている。

そして、壁を移動した場合などには、ダブルライン多角形だと断熱材などがバラバラになってしまうが、壁ツールは断熱材などがすべて連動するようになっている。

またスラブを描くときも、四角形ツールのほか床コマンド、そしてVectorworks Architectにあるスラブツールが使える。スラブツールは床と壁の「勝ち負け」を後から切り替えられ、大きさや形を変えると面積表示も自動的に変わる。

このように、Vectorworksに内蔵されているBIM用のツールはCAD用のコマンドとは違った便利さがある。2Dの作業方法を少し変えるだけで、BIMに移行できるのだ。まずは壁ツールからさわってみるとその面白さを感じられるだろう。

エーアンドエーでは、Vectorworksユーザのために日本仕様のツールも独自に開発し、ウェブサイトで公開している。近く建具表作成用のツールも公開する予定だ。

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Vectorworksで作成した木造軸組構造のBIMモデル

BIMが便利なのは、Vectorworksで作成した3Dモデルを他のソフトの入力データとして使うことにより、設計の生産性や、品質や信頼性を高められることだ。Vectorworksには専用のシミュレーションプログラムや、他のソフトとデータ連携を行うための機能が豊富にそろっている。

例えば「Windworks」というシミュレーションプログラムを使うと、Vectorworksで作成した平面図から、風の通り道を解析して視覚的に表現できる。Vectorworksで作成した3Dモデルを「DIALuxツール」で取り出すと、照明シミュレーションソフト「DIALux」に取り込んでシミュレーションが行える。その結果を設計にフィードバックすることで、電力消費量を減らすなど検討が可能になる。また「THERMO Render 4Pro」を使うと、ヒートアイランド現象緩和につながる熱環境解析を行える。

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DIALuxツールによる照明解析

歩行者シミュレーションソフト「SimTread 2」は、Vectorworks上で人の動きをシミュレーションするものだ。火災などで建物の中から人が避難する時間や経路をシミュレーションすることで、必要な扉の数などが分かり、安心安全な建物を計画する上で役立つ。

このソフトは街のスケールでも使うことができる。日建設計のボランティアチームが東日本大震災の被災地を対象に作った「逃げ地図」の作成にも使われた。このようにVectorworksは建物から街まで、さまざまなものを対象にシミュレーションを活用でき、デザインの質を高められるのが特徴だ。

省エネルギー法による建物の届け出制度では、年間熱負荷係数を算出する大変な作業が必要となるが、近くエーアンドエーが発売する「PALツール」を使うと、Vectorworksで作った3Dモデルから自動的に計算できる。

Vectorworks Architect以上のパッケージでは、BIMモデルデータの交換に使われるIFC形式の入出力機能が付いている。この機能を使うことで、他社のBIMソフトとの連携も可能だ。

例えば、Vectorworksで設計した建物の3DモデルをIFC形式で取り出し、アドバンスドナレッジ研究所の3次元流体解析ソフト「FlowDesigner」に読み込んで通風性などを検討することができる。

設備設計との連携では、Vectorworksから取り出したIFCデータをNYKシステムズの「Rebro」や、ダイテックの「CADWe’ll Tfas」に読み込んで配管やダクトなどの設備設計を行い、その3Dモデルを再びIFC形式によってVectorworksに取り込んで「フルBIM」のモデルも作れるのだ。

このほか、エーアンドエーでは多数の3Dモデルデータを取り込んで干渉チェックや法的チェックなどを行える「Solibri Model Checker」というソフトも販売している。


【建築・ランドスケープデザイン1】
環境建築デザインとシミュレーション

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株式会社SUEP. 代表取締役
末光 弘和 氏

大学卒業後、伊東豊雄建築設計事務所を経て、2007年に妻であり、ビジネスパートナーである末光陽子と建築設計事務所 SUEP.(スープ)を設立した。

戸建て住宅から大きな公共建築、アーバンデザインまで幅広く手がけるなか、環境建築の新しい形を模索することをテーマとして活動している。今日は設計プロセスの中でのシミュレーションソフトの使い方と、その背後にある建築に対する考え方をお話したいと思う。

普段の仕事では、「自然の合理性に基づく建築」を実現するため、次の3つのことを大切にしている。自然の秩序に従う美しさを持つ建築(Form)、人の振る舞いを自然に誘発する建築(Activity)、そして自然の循環系の一部となるシステムを持つ建築(Eco System)だ。これらをどう実現しているのかを、事例を交えながらお話しよう。

福岡市中央区の小高い丘の斜面に建つ「地中の棲処」は、風シミュレーションと地中の安定した熱環境を利用した事例だ。地下3mの地中温度は夏と冬の温度差が5度くらいしかなく、安定している。これを空調に利用するため、住宅全体を半分地下に埋めた建物を提案した。

玄関からリビングルーム、寝室、子ども部屋と移動するたびに、地下をくぐっていく。ありの巣のようなクラスター状の建物だ。外気を屋内に取り入れる際に、地中に埋設したチューブを通して予冷する「クールチューブ」という手法があるが、建物全体をクールチューブにしたような設計だ。

風が建物内をスムーズに通り抜けるようにするため、部屋の配置を変えた6種類の平面パターンの通風性を「FlowDesigner」等の熱流体解析ソフトで検証した。10年前に比べるとシミュレーションソフトは設計者にとって使いやすくなった。そのため、設計の早い段階でシミュレーションによるフィードバックを行うことができる。

完成した建物の地中の階段を通ると、トンネルに入ったときのように冷輻射の効果もあり、下からひやっとした空気が入ってくるのを感じる。

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地中に埋まったように建つ「地中の棲処」

太陽光の影を解析する日射シミュレーションは、福岡市内の「葉陰の段床」で保水性のセラミックタイルを使って効果的な蒸散作用により葉陰の快適性を再現するのに活用した。また、東京・世田谷の「バーディー・テラス(Birdy Terrace)」は、風シミュレーションをもう少し広域な風の流れに適用し、点在するクールスポットをつなぐような住宅を実現した。

山口県下関市に建つ「二重屋根の家」は、その名の通り、平屋建ての母屋の上に巨大なすだれのような屋根をかけたデザインになっている。太陽位置や外気温に応じて日射取得と遮へいを行えるようにしたものだ。この作品ではシミュレーションだけでなく、気候解析も行った。

まず日影図を作った。350坪の大きな敷地に建つ住宅のため、周囲の建物からの影はほとんどないことが分かった。続いて気温や湿度、日射量、卓越風などの気候解析も行った。現場は盆地のような地形のため、気温の年較差が大きい。いかに二重屋根によって夏の日射を遮へいしつつ必要な日射を取り入れ、冬はできるだけ日射を取得するかが重要な課題となった。

そこで二重屋根を開口率50%のルーバー状の屋根とした。日射を遮へいするとともに、日射を取り入れる天窓には太陽光が差し込むように、ルーバーのすき間を広くする必要もあった。3次元デザインソフト「SketchUp」でルーバーが各季節にどのような影を落とすかをシミュレーションし、太陽の高度と方位のグラフを見て、ルーバーの開口部の位置を決めた。また「Ecotect」を使って熱負荷シミュレーションも行った。

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日影シミュレーションなどを駆使し、太陽光を制御する設計を行った「二重屋根の家」

このほか佐賀県嬉野市の塩田中学校と社会文化体育館の一体整備では、10年に1度の割合で発生する洪水に備えて高床式の避難用通路を計画した。その際、歩行者シミュレーションソフト「SimTread」を使って、地域の人々が、計画した避難用通路で安全に逃げられるかを検証した。

また、社会文化体育館の内装設計では、折り紙をモチーフにコンサートホールの壁と天井のデザインを「ミウラ折り」の形状とし、形態を決めるのに、音響シミュレーションを使って最適な折り数や折りの深さを求めた。

シミュレーションソフトは安価に利用できるツールになった。通風性による建物の配置検討から、地域の防災までシミュレーションをどのように設計に生かしていくのかが、今後の設計者のテーマになってくるだろう。


【建築・ランドスケープデザイン2】
豊かな表情を生み出すためにプログラムを探る

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株式会社竹中工務店 DESIGN MANAGER
石澤 宰 氏
当日は仕事の都合で帰国できず、急遽海外からSkypeによる講演となった

現在、私はシンガポールで超高層ビルのデザインマネジャーとBIMマネジャーを担当している。シンガポール政府は2013年から段階的にBIM導入を進めており、2015年には5000㎡を超える建物は意匠、構造、設備のBIMモデルを提出することが義務づけられる。

今日はパラメトリックデザインについて、私が過去にデザインを担当したプロジェクトとVectorScriptの活用を紹介したい。

パラメトリックデザインと聞いて、デザインで有機的な形や、割付などで整ったかたちを生み出すために使われるツールや技術と解釈する人も多い。しかし、設計者にとって寸法や配置を図面化していく作業は、その1つ1つがパラメータを設定する行為と考えることができないだろうか。こうした観点からは、すべての設計は、本質的にはパラメータの設定に還元できる。

例えば階段の設計では、幅や踏面、蹴上げ、扉の幅員など法規的な要求によって決まる寸法、壁の厚さやタイルの寸法など製品や製作の条件によって決まる寸法、あるいは扉枠やささら桁の取り合いなど実際の納まりによって決まる寸法、また構造や設備の寸法などによって形態が決定されてゆく。

こうした寸法を1つずつ満足させながら、最終的なデザインを決定していくのが設計者の役割だ。これらの寸法は、設計を決めていくうえでの定数と言える。それ以外、つまり変数をいかにコントロールしていくかは、設計者の表現の部分になる。

私はパラメトリックデザインを配置、表現、生産性という3つの観点で活用できないかを考えて取り組んできた。

今回は過去のプロジェクトの中から、東京・台東区に建設された「松坂屋パークプレイス24」という駐車場のデザインについて説明したい。上野松坂屋の南館とJR御徒町駅南口の間に位置する敷地に建設した310台収容の自走式駐車場だ。御徒町駅側に面した部分は駅の顔となる駅前広場を作ることも求められた。

駐車場というと無機質な建物になりがちだ。この建物をアメヤ横町やジュエリータウンなど周囲の街並みとどのように関連付け、街並みに何をすることができるのかを設計担当として考えた。

そこでファサードに採用したのがアルミフレームを使ったメタルワークシェードだ。275mm角の鋳造アルミフレームを16枚組み合わせ、その上にカトレアの花を図案化したアルミの鋳物を配置した1100mm角のユニットを3種類作り、これを並べたシンプルな構造だ。これらのユニットは、中国の天津で製作した。

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松坂屋パークプレイス24で使われたメタルワークシェード

このファサードのデザインで、パラメータとなったのは、カトレアの花の配置である。3種類のユニットを並べることで、ランダムな感じの配置を作ること、建築基準法や駐車場法で定められた開口部を設けること、自然換気を確保するため80%の開口率を確保すること、その上で見飽きず、リズム感を与えるデザインを実現するのが課題だった。

また、自走式駐車場なので自動車のヘッドライトやテールライトが外から見える部分を特別に扱うかどうか、全体的に均一な配置にするか、それともグラデーションをつけるかといったこともデザインに影響を与える要素となった。

これらの条件や要素をパラメータとして組み込んだプログラムをVectorScriptで作り、カトレアの花の配置を発生させ、デザインを検討。その結果をパラメータに反映してはデザインを改良する、という作業を繰り返した。

何回目かで、左上から右下に流れる斜めのラインが見えてきた。それは花吹雪をイメージさせるものだった。ファサードの右上には松坂屋のロゴサインを配置することが決まっていたため、花吹雪の流れが右上になるようにパラメータを調整した。

上下方向にグラデーションを設けることで、視覚的にどう変化するかも検証したが、あまり影響はなさそうなことが分かった。つまり、設定はしてみたものの、このパラメータは私のデザインにとっては重要ではないということだ。そこでパラメータを中立に戻した。

そしてヘッドライトやテールライトが見える部分には、縦方向の帯を少し強調することで、光を隠すようにしてみた。この段階になると、右上への花吹雪の流れや全体的なランダム感も私が求めるものに近づいてきた。ここでパラメータの値をすべて固定して、同じ条件でスタディーを繰り返した。

いくつかの候補案をプリントアウトして、プロジェクトメンバーの意見を聞いたりしながら、最終的なデザイン案を決定した。

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完成したファサードのデザイン

VectorScriptをデザインに生かした例としてはこのほか、山形県酒田市の東北公益文科大学の多目的ホールで座席の配色を決めたり、木造住宅のコンペで樹木と住宅の配置を100年のライフサイクルを考慮して決めたり、多次元住宅をテーマにしたコンペでは、何もないところから動線を作り出し、そこから住宅のデザインを決めるという手法に挑戦した。

設計者の役割とは制約や制限のパラメータをクリアしながら、意匠的、表現的なパラメータを集約し、ストーリーにのっとってすべてのパラメータを制御し、調和を求めることだ。


 

【建築・ランドスケープデザイン3】
東日本大震災におけるコミュニティケア型仮設住宅と福祉サポートについて

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東京大学大学院
冨安 亮輔 氏

東日本大震災の被災地などに建設した2つのコミュニティケア型仮設住宅は、東京大学の建築、都市工学、地域看護の3専攻が共同で行ったプロジェクトだ。私は震災後の2011年6月から1年半にわたり岩手県遠野市に常駐し、現地の生の声に接しながら支援活動や研究を行った。

仮設住宅は震災後の2011年3~6月に建て始められ、一時避難所の体育館や公民館などからすぐに入居した被災者が多いと思われがちだ。しかし、実際には半分以上の被災者が3カ所以上を転々とした後、ようやく仮設住宅に入居できたという人が多い。

例えば、釜石市に住んでいたある60代の夫婦は、震災から4カ月の間に釜石市、遠野市の実家、静岡県の息子宅、盛岡市の娘宅、そして花巻温泉を転々として7月中旬に5回目の引っ越しでようやく仮設住宅に入居できた。

急きょ建設された仮設住宅は、画一的な造りが問題だった。出入り口が南面に1カ所しかなく、住民同士が顔を合わせる機会があまりなかった。1995年の阪神淡路大震災で問題になった孤独死は、仮設住宅におけるコミュニティの欠如が大きな原因と指摘されている。

また、9坪、30㎡、2DKの画一的な間取りだと、住む人も同じような家族構成ばかりで、昼間は働きに出る人が多く、仮設住宅には高齢者や未就学児の子どもを持つ母親だけになってしまうことが多かった。また、玄関から室内に上がるには450~600mmの高低差があったり、砂利が敷き詰められた外構は、車イスやシルバーカーが通りにくかったりと、高齢者や障害者にとってはバリアが多い住環境だった。

そこで超高齢社会の課題に対応するため、さまざまな分野の専門が結集した組織である東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)は、ケアタウン構想を掲げて被災地の自治体に対し、仮設住宅についての4つの提案を行った。

(1)車イスで出入りを容易にするなどバリアを限りなく少なくする「バリアフリー化」、(2)入居者同士が顔を合わせる機会を増やす「向かい合わせの玄関」、(3)リビングルームを玄関近くに配置した「リビングアクセス型住戸」、そして(4)多様な入居者を受け入れられる「異なる間取りで長屋を構成」する、ということだ。

この提案は2つの仮設住宅で実現された。まず1つ目は釜石市平田第6仮設団地だ。同市内の仮設住宅としては最後に建設された最大規模のものだ。約2万7000㎡の敷地に、住宅240戸のほかサポートセンター1棟と仮設店舗2棟が建設された。

住宅はケアゾーンと一般ゾーンに分かれている。ケアゾーンでは玄関と屋根付きデッキが同じ高さになっているため、歩行が難しい方でも出入りが簡単だ。玄関は向かい合って設けられているので、入居者同士が顔を合わせる機会も多い。一方、一般ゾーンは通常タイプの仮設住宅だが、玄関は向かい合うように設置された。(建築家である山本理顕氏の尽力による。)

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釜石市の仮設住宅に設けられたケアゾーン

サポートセンターは高齢者や要介護者の生活支援を行う施設で、デイサービスや食事の配達などを行う拠点だ。

遠野市では、もと市職員の駐車場だった約5000㎡の敷地に40戸の住宅とサポートセンターを建設した。間取りは1人用の7.5坪、2~4人用の9坪、4人以上用の12坪と3パターンを用意した。一般の仮設住宅より広いのは、仮設としての使用が終わった後に、本設の住宅としてサービス付き高齢者向け住宅に転用することを想定したためだった。

資材には地場産材であるスギやカラマツを使用した。フローリングにはスギのムク材を使い、木の香りがする仮設住宅となった。廊下にはところどころに木のベンチが配置され、入居者が腰掛けて談笑している姿も見られる。またデッキの縁に腰掛けている人もいる。お互い、会話をしていない時でも、その場にいる人々はお互いに存在を感じながら暮らしているようだ。

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車イスや台車などでのアクセスがしやすいデッキ

仮設住宅に入居した高齢者が最初に行ったことは、津波で失った家族の位牌を設置する仏壇や神棚を手作りすることだったという例もある。私もそうだが、設計者の中には仏壇や神棚の必要性を思い浮かべた人はおそらくいなかっただろう。

玄関を向かい合わせにしたことで、当初は玄関前を誰かが通ることに対し、否定的に感じている人もいた。しかしお互いに顔見知りになった1年後には、むしろ誰が通るのかがわかったり、向かいの家の明かりが見えたりする方がいいと考える人が増えたことがインタビュー調査でも明らかになっている。

今回の仮設住宅プロジェクトにかかわって感じたことは、仮設住宅は1つのルールだけで作ってはいけないということだ。そして郵便ポスト、自動販売機、コイン式公衆電話はぜひ仮設住宅整備と同時に備えてほしい。今後、東海・東南海・南海地震などが万が一発生した時は、今回の教訓を踏まえた仮設住宅づくりを行ってほしいと願っている。


【建築・ランドスケープデザイン4】
建築の自由

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長谷川豪建築設計事務所
代表

長谷川 豪 氏

僕はいつも設計する時に、自由を感じられる建築を作ろうとしているように思う。そこで今回は3つの「建築の自由」について話したい。「身体の自由」、「領有からの自由」、そして「歴史と自由」について。

「身体の自由」は僕たちの身体感覚と建築の新たな関係について。僕は建築を、シェルターとして外部環境から我々の生活を守るだけでなく、外部環境や風景に向けて自分の身体感覚を拡張する装置として考えたいと思っている。特に空間のスケールとプロポーションについて考えることが新たな身体感覚が呼び覚ますことに繋がるように感じる。

「領有からの自由」はプライベートとパブリックの新たな性質について。住宅のなかに誰のものでもないような空間を設けることで、結果としてその住人にとっても、さらにはその周辺環境にとっても良好な状態をつくれるように感じている。

「歴史と自由」は、時間をつなぐ建築について。建築というのは何千年も前から存在してきたある種の崇高さが感じられる存在であると同時に、今も常に少しずつ変化している。この変化するところばかりに我々は気をとられがちなのだが、建築は古くて図太いものであり、同時に新しくて繊細でもある。その両方に大きな魅力を感じるのだ。古さと新しさの両方に開く空間。それが長い歴史をもちながら変わり続けてきた建築が獲得できる自由といえるのではないか。

これらの「建築の自由」への指向性がよく表れているプロジェクトをいくつか紹介したい。

長野県北軽井沢に建つ「森のピロティ」は森のなかに建つ別荘だが、特徴は1階部分のピロティが高さ6.5mととても高いことだ。1階はコンクリートの土間床をもつ、周囲の森と地続きの空間になっている。2階の木造家屋を支える鉄骨柱にハンモックを吊るして昼寝をしたり、緑に囲まれたなかでワインを飲んだり、子どもが遊びまわったりできる。

木造の2階へは鉄骨階段で出入りする。まるで森の木に登っていくような体験だ。2階は4方向に大きなガラス窓を設けており、周囲の木々の緑が濃い部分とだいたい同じ高さになっているため、緑に囲まれている贅沢さを感じながら過ごす空間になっている。

湿気の多いこのエリアの多くの別荘がもつピロティという形式をつかいながら、そこに新たな森の生活のイメージを重ね合わせようとした。

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「森のピロティ」の高さ6.5mのピロティ

三重県四日市市にある「桜台の住宅」は、家の中心に4m四方の吹き抜けがある。天井を大きなガラスのトップライトにして空まで見渡せるようにしており、さらにその吹き抜けを占める4m四方の大きなテーブルを設けた。このテーブルは4人家族のそれぞれの個室に面するようになっている。

例えば寂しくなったらテーブルに近づけば空間を介して家族と繋がりコミュニケーションが図れ、テーブルから離れればプライバシーが保たれる。個室のドアでコミュニケーションを「オン・オフ」するのではなく、グラデーション状の関係性がこの住宅のなかに備わっており、気分に応じてそれを調整できるようになっている。

東京・世田谷の「駒沢の家」は、既成部材であるツーバイスリー材(38mm×64mm角)を30mmの間隔を空けてルーバー状に作った2階の床が特徴的だ。1階からはルーバー床を通して天窓で空とつながっている感覚がある。一方、2階からは床を通して1階の大窓で道路とつながっていることが感じられる。木造・家型・2階建てという平凡な形式のなかに、新たな経験を見いだそうとしている。

「五反田の住宅」は、都心の狭い敷地に建つ鉄筋コンクリート造4階建ての住宅だ。3階建てと4階建ての2つの建物が並んで建ち、両者を繋ぐらせん階段で各部屋を行き来する構成になっている。部屋と部屋の間を行き来する時に、2棟の隙間からフッと一瞬街の風景が見える。家のなかというよりも、常に街のなかに暮らしているように感じられる。

東京・練馬区の江古田に建つ「練馬のアパートメント」は、7階建ての賃貸集合住宅だ。このエリアは都営地下鉄大江戸線の開業によって新宿まで15分で行けるようになり、賃貸物件が増えてきている。若いサラリーマンや学生などさまざまな入居者に対応できるようにするため、画一的なプランではなく各住戸にバリエーションをもたせることなどが求められた。

ここで提案したことは、テラスで各住戸の個性をつくるということだ。例えば「L形テラスタイプ」は玄関扉を開けるとすぐにL形のテラスがある。そこを通って居間に行ったり、浴室に直行したりできる。室内から見るとテラスがぐるっと巻き付いているため、カーテンなしで外部との距離感をとることができる。

居室の側面に長いテラスがつく「ロングテラスタイプ」や、部屋の真ん中にテラスと水回りを配置した「中庭テラスタイプ」もある。さらに3層メゾネット住戸の脇に高さ8mの吹き抜けテラスを設けた「トールテラスタイプ」もある。メゾネットの上階の部屋からテラスを覗くと、斜め下に道路を行き来する人々の様子を見ることができる。

このように各住戸は集合住宅の1ピースでありながら、多様なプロポーションのテラスの空間によって身体感覚が外部環境に色々なかたちで広がっていく。

最後に紹介するのは「石巻の鐘楼」だ。2012年の春に東京・乃木坂の「TOTOギャラリー・間(ま)」で開催された個展で展示した小さな建築を、東日本大震災の被災地にある教会が運営する幼稚園に移設したものだ。

半年間この幼稚園の園長夫妻と話し合いを重ね、園庭に鐘楼を建てることにした。鐘はドイツの市役所で90年間使われてきたものを欧州の鐘メーカーに譲ってもらった。東京での2ヶ月の個展を終えると、鐘楼は分解され6トントラック1台に詰め込まれて石巻に輸送され、現地の若い大工の手によって再建築された。

地震や津波で「日常」というかけがえのない時間を失ってしまった石巻の住宅地に、異国の地で90年間鳴らされてきた音色が毎朝鳴り響く。建築することというのは時間と場所と人をつなぐ物語なのだということを、このプロジェクトで改めて感じた。

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幼稚園の園庭に建った「石巻の鐘楼」

【舞台照明・空間デザイン1】
言葉よりも明確な意思疎通ツール
-ファンとアーティストがつながる照明デザイン-

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Greenlighting Co., Ltd., Designer
キム・ヨギョン 氏

私は2002年から舞台照明デザインの仕事をしており、今年で11年目を迎えた。最近は母国の韓国よりも、海外の仕事の方が多くなった。

最近ではBoAのデビュー15周年で初めて韓国で行ったライブや、韓国最大級の音楽イベントである「ドリームコンサート」、昨年、シンガポールのマリーナベイサンズホテルで行ったSMTOWN海外ツアー、チャン・グンソクのコンサートなどを手がけた。この講演の前日も韓国で舞台づくりを行っていた。

私がアーティストの海外ツアーなどで、Vectorworksをどのように使っているのかを紹介しよう。

海外の仕事で現地スタッフとの意思疎通を行うためには、図面はとても重要だ。図面には(1)舞台や照明のイメージづくり、(2)公演を支えるスタッフ間のコミュニケーション、(3)現場を完成させるための詳細な検討、という重要な役割がある。

舞台照明の世界でよく使われているシミュレーションソフトに「Light Converse」というものがある。舞台装置や照明を3Dでモデル化し、歌や演奏に合わせた照明の効果を本番さながらにシミュレーションできるものだ。

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Vectorworksで作成した舞台の3Dモデル

数年前から、Vectorworksと「Light Converse」の間でデータ交換が行えるようになった。Vectorworksの図面にさまざまな照明機器を配置し、3Dモデルを作ると、そのデータを「Light Converse」に読み込んで舞台照明のシミュレーションが行えるのだ。

舞台のデザインをそのままVectorworksから「Light Converse」に持っていってシミュレーションできるようになったことで、現場の作業も楽になった。以前は現場での調整や、やり直しが多かったため、徹夜作業も珍しくなかったが、最近は会社でお茶を飲みながらの作業に変わった。

私は2007年から2年間、日本語とVectorworksを日本の専門学校で学んだ。Vectorworksの図面を「Light Converse」のシミュレーションに使えるようになったことで、作業の効率は上がり、舞台照明デザインの世界でもVectorworksのユーザが増えてきた。

そのため、「Light Converse」のユーザからVectorworksの使い方を教えてほしいと頼まれることも多くなっている。以前は知らなかったVectorworksの機能を発見し、やってみると他のソフトよりもVectorworksの方がずっと楽にできることも多い。

「Light Converse」でシミュレーションすると、本番そっくりの舞台が見られるが、やはり、客席にお客様がぎっしり入った本番の迫力にはかなわない。単にCDで曲を聴くのと、人や照明など目でも楽しめるものが入った状態で聴くのでは全然違う。

コンサートに来たファンをいかに楽しませるかも舞台照明の重要な役割だ。お客様の楽しみ方も国によって違いがある。日本のお客様は舞台で演奏するアーティストの曲を聴くことが目的なのに対し、韓国のお客様は自分たちが歌うためにコンサートに来るのだ。

最近の舞台では東京ドームくらいの広い会場をワイヤで飛び回る演出もあり、ワイヤアクションなどが増えると、照明とワイヤの干渉などが起こりやすい。また、アーティストが動く範囲が広くなると、音響や照明の仕事はやりづらい。

そして韓国の舞台関係者は新しい機材を好んで使う。海外ツアーを終えて会社に戻ると見慣れない機材が置いてあることもしばしばだ。初めて使う機材の場合は、どのような効果があるのかをよく理解し、問題なく配置できるかを確認する必要がある。

このように現場で起こる可能性のある問題は、Vectorworksの3Dモデルで事前に確認し、解決できる。そして言葉より分かりやすく説明したり、理解できたりする。これがVectorworksの強みだ。

お客様はアーティストを近くで見たいと思い、アーティストはお客様の期待にこたえたいと思う。舞台照明デザイナーは両者の希望を、シミュレーションすることで実現していくことが大切なのだ。

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BoAのステージの「Light Converse」によるシミュレーション

私はVectorworksと出会い、舞台照明の仕事で使っていたことを運がよかったと思っている。そして、Vectorworksが使えると、世界中で照明の仕事がやりやすくなると感じる。

 


【舞台照明・空間デザイン2】
インテリアデザインの役割

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設計事務所 ima(イマ)
小林 恭 氏 + マナ 氏

私たちは主にインテリアの設計を行っており、中でも物販店の仕事が多い。そこで今回は私たちが物販店を設計する上で重要と考えている4つの視点から、設計の手法をお話したいと思う。

1つ目の視点は「ブランドのイメージをわかりやすく伝えること」である。2006年に東京の表参道にオープンしたフィンランドのファッションブランド「マリメッコ」の店舗設計を例にお話したい。

マリメッコはフィンランドで60年の歴史を持つブランドである。フィンランドと聞いて思い浮かぶのは、森や湖、シラカバの林など豊かな自然とクリーンなイメージである。

私たちの店舗設計の手法は、ブランドの歴史や商品構成などを調べるとともに、ブランドを象徴するキーワードのイメージを膨らませることである。その上で、主役である商品を引き立たせるための器として店舗設計に落とし込むというものだ。

表参道店は地上2階、地下1階からなる。1階はシラカバの林のような空間に商品が並んでいるというイメージで、シラカバやパイン材を使い、白を基調としたデザインにした。男性のお客様も入りやすいように、文房具やクラシックなキャンバスバッグを並べて、ユニセックスな印象の導入をつくった。階段の壁面はギャラリーとし、マリメッコの歴史を紹介する写真を飾っている。

地下1階は、インテリア雑貨のコーナーで、マリメッコの原点であるファブリックを壁一面に使い、ダイナミックに見せている。布製品やインテリアからマグカップ、トレーのほか、クッションやタオル、ベッドカバーと取り扱う商品は幅広い。天井の高さを利用して、布をつるして展示する手法も採り入れた。

そして2階はファッションコーナー。メンズ、レディース、子ども服を並べた売り場のフローリングにもパイン材を使うなどして、ブランドのイメージをつたえている。

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フィンランドのイメージをモチーフにデザインしたマリメッコ表参道店

2つ目の視点は「敷地や場を生かしたコンセプト」である。2010年から本国フィンランドのマリメッコ社から世界展開を依頼された。

2011年秋にOPENしたニューヨーク店の場合、マンハッタン島の真ん中だが、店の周囲にはスーパーや生活用品を売る店が多く、目の前にはマジソンスクエアパークが広がるといった、老若男女が集う生活感が感じられる場であった。

この場を生かすために考えたのは、ファッション性よりも入りやすい店にすることだった。外と内がつながって見えてくる様に、店の外にあるキヨスクの様な箱形の什器を店内に点在させ、エントランスには、カラフルな布地が見えるようにした。

入り口の風除室はガラスケースのように演出し、店内にはミシンでカーテンを縫う職人の作業場やパーティーが開けるようにキッチンも配置した。広い店内は意識的に視界をさえぎるようにし、店の奥に入っていくに従って新しい商品が目に入るようにして、店の奥に進んでいくのが楽しくなるような演出を行った。

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マリメッコのニューヨーク店

3つ目の視点は「入りやすさと滞留時間の関係性」である。クライアントから、お客様が入りやすくするために、入り口は大きくして欲しいと、度々言われることがある。しかし、必ずしも店舗への入りやすさと居心地の良さは比例しない、ということを実感したのは、2006年にオープンしたマリメッコ京都店の改装を、開店からわずか半年で依頼された時だった。

当時、マリメッコはこの京都店とほぼ同時に表参道店、大阪店、博多店をオープンした。他の3店舗は売上を順調に伸ばしているにもかかわらず、京都店だけは、なぜか売上が伸びなかった。その結果、開店後わずか半年にして改装を依頼されてしまった。

この店には入り口が2カ所あった。メインとなる入り口からは店の奥までが見渡せ、その手前にキャッシャーがあった。キャッシャーの前は通りにくいうえ、奥にある布地のコーナーは年間通じて変化がない。そのため、メインの入り口から入ったお客様は店内を素通りして別の入り口から出ていくという状況が発生していた。

そこで入り口を1つにし、キャッシャーは目立たない場所に移動した。そして店の奥には季節によって商品が変わるファッションのコーナーとし、店内をまっすぐに見通せないように改装した。そうした工夫の結果、売上は倍に跳ね上がった。

4つ目の視点は「独自のバランス感覚やユーモアで時代感を出す」ことである。イタリアの革製品ブランド「イルビゾンテ」の博多店では、ワインセラーやワインの木箱、ワイングラスなどを使って、まるでイタリアワインのお店のような雰囲気をかもし出した。こうしたユーモアは、お客様の関心を引き、リラックスさせる効果がある。

また、「デスペラード」というセレクトショップは、2000年にデザインしたお店をリデザインした。お客様が気軽に立ち寄れ、コンシェルジュのようにフレンドリーなサービスを受けられる空間を作りたいとクライアントから要望があった。そこで以前からのキーワードの「3つ星ホテル」を新しいデザインで表現した。

このイメージからホテルのロビーや、それにつながる「じゅうたんの部屋」や「レンガの部屋」といったイメージの内装をデザインしていった。フィッティングルームはシャワールームを模したデザインにするなど、遊び心を随所に取り入れた。

そして什器類はすべて可動式とし、部屋の模様替えという感覚でレイアウト変更ができるようにした。什器類を片づけると店の中央に大きなイベントスペースができる。ここでファッションショーや映画会など、多目的のイベントを開催できるようにした。

今、商品は店舗で見て、ネット通販で注文するケースが増えてきている。お客様が買い物をしたくなる場として、店舗をどのような空間にしたらよいのかを深く考えた。デスペラードの店舗でイベントを開催できるようにしたのは、その答えの1つともいえる。

これらの視点を常に意識して、人々がワクワクして集まりたくなるようなリアルな空間を作ると、人と人、人とモノのコミュニケーションが生まれる。そして店舗の価値も高まる。私たちはこうした店舗デザインをこれからも追求していきたいと考えている。


【舞台照明・空間デザイン3】
ビジュアライザーの現状のこれから
「輝く!日本レコード大賞」における使用例

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TBSテレビ 技術局 制作技術部
柴崎 友美氏
テクニカル サプライ ジャパン
鈴木 聖人氏

TBSテレビでは毎年、年末に「輝く!日本レコード大賞」というテレビ番組を放送しており、2010年からこの番組の照明プランニングに「ビジュアライザー」を導入している。ビジュアライザーとは、照明という実体のないものを3D空間の中でリアルタイムに再現できる、照明用シミュレーションソフトの総称である。

レコード大賞の舞台計画は本番の約1カ月前に始まり、プロデューサー、ディレクター、美術デザイナー、照明担当などが話し合い、セットや転換、演出プランを決める。話し合いの結果をもとにトータルコストや会場の条件を考慮しつつ、照明機器を選定し仕込み図を作成する。

日本照明家協会賞・テレビ部門大賞および文部科学大臣賞を受賞した2011年のレコード大賞の場合、灯りの向きや色味、模様を自由自在に動かすことができるムービングライトといわれるものが約100台、また照明スタッフも約40名と、テレビ番組としてはとても大掛かりであった。

だが、舞台の施工は本番5日前に始まり、うち照明の仕込み日数は2日間しか確保されていない。この限られた時間の中でよりよい灯りを創り上げるには、作業の手戻りや修正をいかに最小限に抑えられるかが課題であり、そのため仕込み図の「整合性」がとても重要となる。

そこで、我々は「Light Converse」というビジュアライザーソフトを活用した。施工前に「Light Converse」で創り上げた3D空間内で照明シミュレーションを行い、照明プランと舞台セットとの整合性を確認した。

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「Light Converse」によるレコード大賞の舞台シミュレーション

例えば、セットとセットの隙間から光を出す目的で、事前にセット裏側に照明を仕込んだが、実際には少々吊り位置がずれていて、まったく光が隙間から抜けなかった、という失敗がよくある。こういった事態を、事前に3D空間内でシミュレーションを行い、吊り位置を精査していくことで最小限に抑えることができる。

2010年には、シミュレーションで事前にセット位置を考慮した結果、照明トラスを丸ごと一棟省くという決断をした。実際にセットが建ってみて、この決断が英断だったことが判明し、ビジュアライザーの利便性をこのとき大いに感じた。

「Light Converse」は、もとは1997年にウクライナで開発された「Roboshop」というライティングコントロールソフトだった。それが2004年にビジュアライザー機能がメインとなって現在の名前で発売され、2009年ころから照明デザインの世界で話題になり始め、2010年1月に日本でも発売された。

我々は2010年9月にこのソフトを購入し、同12月のレコード大賞で使うことにした。シミュレーションに関しては「Light Converse」発売元のテクニカル サプライ ジャパンの鈴木聖人氏にお願いした。

当時は「Light Converse」上で一からセットを作成していかなければならず、時間と手間が大いにかかった。だが、2012年にLight Converse社からVectorworksと連動するためのプラグインがリリースされ、Vectorworksの図面データから簡易に「Light Converse」の3D空間内に立体物を作成できるようになり、作業が効率化した。

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2次元の資料を基に、3次元のステージを作成することも比較的容易である

「Light Converse」によるリアルなシミュレーション映像を一旦見てしまうと、現場でもその場面を100%再現したくなってしまう。しかし照明の仕事は現場を大事にしなければならないと我々は考えている。そのため、現場では臨機応変な変更も必然であることを、シミュレーションを行う者は必ず考慮しておくべきだと思う。

使い方を間違わなければ、ビジュアライザーはとても効果的な手法である。適切な場面で、現場での創造性を失わないよう注意しつつ、ビジュアライザーを今後も活用していきたい。


【舞台照明・空間デザイン4】
3.11 Vectorworksで繋がる沿岸と内陸
-3D表現とコストのせめぎ合い-

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テックアートデザインオフィス
宮野 利行 氏

岩手大学で美術を学び、大阪ダイハツ工業でデザイナーを務めた後、1991年に実家のある岩手県盛岡に戻り、市内にある小さな建設会社、カイソに就職した。

実務ではWindowsが普及したころ、CADに魅せられ、jw_cadを半年使った後、Vectorworksの前身であるMiniCadを自前で購入した。その使いやすさには驚いた。そしてCADで手描きの味を出すことに夢中になった。

2000年に店舗の内装業を行う現在のテックアートデザインオフィスに移った後は、不況が続いていたこともあり、Vectorworksのバージョンアップも行わずじまいだった。

そんなときに起こったのが、2011年3月11日の東日本大震災だ。4月に友人と一緒に被災地を見て回った。それは想像を絶する惨状だった。その時は、自分が1年間に、津波で被災した三陸海岸沿岸の大船渡、釜石、そして大槌町にある店舗10軒を設計し、再開させるという仕事が待っているとは思いもしなかった。

5月11日、大船渡の焼き肉店主から電話が入った。店が津波で流されたので、場所を変えて営業を再開するため、店舗を設計してほしいという依頼だった。

被災地の惨状を見ていた私は、設計料を通常の半額にした。お店のオープンは9月を目標にした。そしてエーアンドエーが行っていた被災地支援のバージョンアッププログラムに応募し、Vectorworksを最新版にして、設計に取りかかった。

古い建物に開口部を設け、店舗に改装するプランだ。被災地はどこも人手不足なので、通常なら外注する厨房の設計も自分で行った。そして、9月22日にオープンを迎えたが、被災地で営業を再開するお店への期待は高く、開店前にはすでにかなりの予約が入っていた。

焼き肉店の内装を行っているうちに、大船渡では居酒屋やラーメン店、スナックの内装の仕事も飛び込んできた。

スナックの内装では、ビルオーナーのパブで使っていた古いソファを寄付していただき、そのソファの寸法を基準に内装設計を行った。お店のポイントとなるカラオケモニターの位置は、室内のCGを作って店内で最も見やすい場所を選んで設置した。

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被災した大船渡市内のラーメン店
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Vectorworksによる店舗デザイン

釜石では別の会社から被災した焼き肉店の内装設計を依頼された。ここでは使える厨房機器を再利用してほしいという注文だった。そしてVectorworksで12案ものプランを作って提案した。

工事が始まると、大工さんも他の現場と掛け持ちなので、なかなか施工が進まない。そんな苦労をしながらも、何とか2カ月後にはオープンにこぎ着くことができた。その大工さんからは、別のラーメン店の図面を描いてほしいという依頼を受けた。このように、次から次へと口コミで仕事が舞い込んできた。

釜石市のすぐ北に位置する大槌町は、津波で町長が犠牲になるなど大きな被害を受けた。大槌町では被災したショッピングモール「シーサイドタウンマスト」の営業再開に向けて、モール内の青果店、クレープ店、ファーストフード店、焼き肉店の設計を依頼された。

これらの店舗でもかつて使用していた厨房機器やステンレスフード10台などをできるだけ再利用してほしいという施主からの要望があった。大槌町でも設計・施工の人手不足は深刻で、クレープ店の設計ではとうとう排水設備の配管図も自分で初めて描くことになった。

どの店のプロジェクトも、施主との間に別の会社が入っていたため、デザインの意図などがうまく施主に伝わらず、もどかしい思いもした。一部、工事が遅れたお店もあったが、2011年12月にはショッピングモールがついに開店し、被災地では明るいニュースとしてメディアにも取り上げられた。

震災以降の10カ月ほどの間、人手不足にも苦しめられながら、めまぐるしいスケジュールで10店舗の設計を行い、オープンにこぎ着くことができた。2012年になると被災地からの仕事のオファーはうそのようになくなった。

私は2007年から2010年まで東北地方で開催されたクラシックカーイベントの運営にかかわった。盛岡を起点に数十台のクラシックカーが三陸海岸など400kmの道のりを走るクイズラリーだ。その時、ドライバーが使った地図は私がVectorworksで作成したものだ。

行く先々の街では、日ごろ見ることのできないクラシックカーをひと目見ようと、子供からお年寄りまでが沿道に集まり、声援を送っていた光景が脳裏に浮かんでくる。当時、これらの思い出が残る街で復興の仕事をすることになるとは夢にも思わなかった。私の仕事が少しでも被災地の復興につながることを願っている。


【展示ゾーン】

セミナー会場に併設された展示ゾーンでは、エーアンドエーのほか協力・出展メーカー18社が最新のソフト、ハードを展示した。Vectorworks2013シリーズから新たに加わったランドスケープデザイン用の「Landmark」や、舞台照明デザインに特化した「Spotlight」のほか、THERMO Render 4 Pro、SimTread、A&A SHADOWなどのシミュレーションソフトや、IFCモデルチェッカーのSolibri Model Checkerなども展示され、ブースでは熱心な質問が飛び交った。

また、話題の3Dプリンターや模型作成のデモンストレーションも行われ、講演の合間には展示ゾーンは多くのVectorworksユーザでにぎわった。展示ゾーンの一角には、エーアンドエー本社のカフェ「SweetJAM」も出店し、フリードリンクを提供した。作品展示コーナーでは、OASIS加盟校の学生がVectorworksなどで制作した作品のパネルが展示され、学生らしいアイデアを生かした斬新な作品を前に立ち止まる人の姿も見られた。 

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セミナーの合間ににぎわう展示ゾーン(左)。ユーザとベンダーとのコミュニケーションも活発(右)
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人気の3Dプリンターも展示(左)。OASIS加盟校の作品展示も行われた(右)

 

(協力・出展メーカー)

(株)アドバンスドナレッジ研究所(株)アプリクラフトエプソン販売(株)(株)NYKシステムズ(株)OKIデータスマートスケープ(株)生活産業研究所(株)(株)ダイテック(株)テクニカル・サプライ・ジャパン(株)豊通マシナリーEIZO(株)日本ヒューレット・パッカード(株)福井コンピュータアーキテクト(株)富士ゼロックス東京(株)MAXON Computer Japan丸紅情報システムズ(株)武藤工業(株)レノボ・ジャパン(株)

(敬称略、50音順)

「Vectorworks Solution Days 2013」では、建築分野における最新BIMからサステナブルデザイン、東日本大震災の復興などに関するセミナーのほか、Vectorworks2013シリーズから新たに加わった「Landmark」や「Spotlight」関連の舞台照明、空間デザインに関するセミナーが開催され、来場者の幅も広がった。そのため来場者数も400人近い数となった。

規模は大きくなったものの、ベンダーとユーザが直接コミュニケーションする場であることは以前から変わらない。セミナー会場や展示ブースなどでは、ベンダーとユーザ、ユーザ同士が談笑する風景があちこちで見られた。ユーザが増えても、こうしたコミュニティが生き続けているところに、Vectorworksの強みがあるようだ。

【問い合わせ先】
エーアンドエー株式会社
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-3-15
TEL:03-3518-0131(営業部) FAX: 03-3518-0122
URL http://www.aanda.co.jp/
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