デンバー国際空港の拡張計画をBIMモデル化
Autodesk RevitやAutodesk Infraworksなどをフル活用(オートデスク)
2013年9月26日

米国コロラド州にあるデンバー国際空港の拡張工事では、Autodesk RevitやAutodesk Infraworks、AutodeskNavisworksなどのオートデスクのBIM/CIMソフトをフルに活用し、設計・施工を行っている。設計チームのオフィスには「BIMルーム」と呼ばれる部屋があり、毎週、各社のBIMマネジャーが集まり、干渉部分の調整や施工法の検討を行う。施工チームは現場でタブレット端末を携帯し、3Dによる施工管理を行っている。BIM/CIMの活用は工事現場の姿を大きく変えた。

ひっきりなしに資材を運び上げるタワークレーン、現場に出入りする大型のコンクリートポンプ車―敷地面積が米国の空港の中で最も広いデンバー国際空港で今、既存のターミナルビルに隣接するホテルと鉄道駅の工事が最盛期を迎えている。行政と民間が連携したPPP(Public PrivatePartnership)方式で行われ、総額26億ドル(約2500億円)という大規模プロジェクトだ。

このプロジェクトでは、建物や駅舎などの建築物、橋梁や法面などの土木構造物の設計・施工にオートデスク社のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソフトがフルに活用されている。

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デンバー国際空港の拡張工事で建設されるホテルと駅舎部分。Autodesk Infraworksで周辺地形を再現し、Autodesk Revitで設計した建物のBIMモデルなどを配置した(資料:Denver International Airport)
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既存ターミナルに隣接したホテルの建設現場。タワークレーンが工事の主役だ

   BIMルームで毎週、各社の設計を調整

導入されたオートデスクのソリューション
[BIM/CIM ソリューション]
Autodesk® Revit®
Autodesk® AutoCAD® Civil 3D®
Autodesk® Navisworks®
Autodesk® Buzzsaw®
BIM to Maximo(維持管理DB)
[クラウドソリューション]
Autodesk® BIM 360™ Glue®
Autodesk® BIM 360™ Field
Autodesk® Infraworks™(試用)

空港の南側に位置する巨大な平屋建てオフィスでは、HNTBやAECOM、ゲンスラーなど米国を代表する設計事務所の設計者が一堂に集結し、BIM/CIMによる設計を進めている。

建物の一角には「BIMルーム」と呼ばれる部屋がある。ここでは各設計事務所と発注者側からそれぞれBIMマネジャーが出席し、毎週、設計の調整会議が行われる。中央にあるタッチパネル式のスクリーンに、各事務所がAutodesk RevitやAutoCADCivil 3Dなどで作成した意匠、構造、設備や地形などのBIM/CIMモデルを統合して表示し、干渉チェックや施工法の検討などを行うのだ。

この作業に活躍しているのがAutodesk Navisworksだ。オートデスク以外の製品も含め、様々なソフトで作られたBIM/CIMモデルを1つにまとめて表示するほか、干渉チェックや施工シミュレーションを行うことができる。

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BIMルームでの設計調整会議(左)。各社の設計者が一堂に集まる建物(右)

部材同士の干渉問題が発見された時には、その場でBIMマネジャー同士が話し合い、次々と問題を解決。各社の設計に反映させる。ここでは発注者側のBIMマネジャーも設計チームの一員だ。この会議は毎週行われ、週ごとにBIM/CIMモデルもバージョンアップされていく。Autodesk Navisworksを軸に、受発注者間の情報交換とコラボレーションが実現しているのだ。

ちゃんと施工できるかどうも設計に織り込んでおかなければならない。例えば工事現場で中核的な役割を果たす2基のタワークレーンを使った施工手順だ。タワークレーンはホテルのすぐ脇に立っており、ホテルは下から上に広がる翼のような形をしている。そのため、施工が進むと建物の幅が広がり、その下の階にはクレーンで資材を運びにくくなる。そこでBIMモデルによってクレーンの作業範囲を確認しながら、施工計画が立てられた。

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Autodesk Navisworks上に意匠、構造、設備、地盤のBIMモデルを読み込み、施工手順などを検討する

      発注者作成のBIMテンプレートが“設計標準”に

複数の設計事務所が協力しながら設計業務を進めていくためには、BIMモデルの作り方や属性情報の入れ方などを統一しておくことが必要だ。その“設計標準”として機能しているのが、発注者が作成したテンプレートだ。

テンプレートとは、BIM/CIMソフトで3Dモデルや図面を作成するうえでの「ひな形」となるデータのことだ。このプロジェクトでは、建築の意匠、構造、設備のほか地盤用のテンプレートを各設計事務所が協力して作成し、それを発注者から各設計事務所に配布している。

同じテンプレートを各社で使うことにより、BIM/CIMモデルの内容が統一され、データを統合したときも同じ品質のモデルとなる。テンプレートに対する質問を受け付ける窓口も決まっている。文章などで表したBIM設計標準は、ともすれば解釈にバラツキが出たり、入力の際に見落としたりしがちだ。このプロジェクトでは共通のテンプレートがBIM設計標準として機能している。

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ホテルと駅舎の完成予想図。左奥は既存のターミナルビル(資料:Denver International Airport)

  わずか10時間でマスタープランを作成

デンバー国際空港の特徴は、敷地内にかなりの高低差があることだ。特に駅舎部分は周囲の地盤を深く掘り込んだ構造になっているため、周囲の地盤面の傾斜が厳しい。その周囲にはアクセス道路の橋梁が複雑に入り組んでいる。

そのため、トラッククレーンなど重機をホテル棟の反対側に搬入するための進入路をつくる時も、傾斜した地盤の高度や橋梁との干渉を考慮しながら計画する必要がある。

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現場の地盤高低差は大きく、橋梁が複雑に交差している。トラッククレーンなどの進入路も3次元での検討が必要だ(左)。周囲を斜面に囲まれた鉄道駅の施工現場(右)

こうした検討に威力を発揮するのが3次元のマスタープランだ。そこでデンバー国際空港の拡張計画全体のマスタープラン(基本計画)が一つの巨大なBIM/CIMモデルとして作られた。64k㎡の背景地形、4GBの航空写真、4つのAutodesk Revitモデル、1つの詳細地形モデル、6つの橋梁モデルなど、35の組織が関与して作られたモデルを、一つにまとめ上げたのだ。

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わずか10時間で作られたデンバー空港拡張計画のマスタープラン(資料:Denver International Airport)

その作業に要した時間はわずか10時間だったという。設計をBIM/CIMソフトで行うことで、こうした離れ業も可能になった。

マスタープランをBIMモデル化することで、建設プロジェクトに直接かかわる技術者以外にも活用の幅は広がる。例えば、管制塔からの視界を確認したり、空港拡張計画のPRに使ったり、警備の計画を立てたりと、まだ工事中にもかかわらず、完成後の空港をイメージした様々な業務に展開できる。これがBIMのメリットと言えるだろう。

  現場最前線で使われるタブレット端末

施工チームの技術者は、各自、タブレット端末「iPad」を持ち歩き、施工管理業務に活用している。過去の工事写真や施工管理の記録とともに、BIM/CIMモデルを元に作成した3Dモデルも、現場の最前線で大いに役立っている。

例えば、“バナナ”という愛称で呼ばれる複雑な形をしたコンクリート構造物の施工だ。ホテルと駅舎の接続部分に設ける屋根の基礎となる部分で、内部には簡単には曲げられない太い鉄筋がぎっしりと入り、外観は複雑な3次元曲面をしている。

そのため、型枠は普通の四角形の板では作れず、様々な台形を組み合わせて作ったのだ。型枠の展開図作成や、現場での鉄筋や型枠の施工管理などにBIMモデルの3次元情報が大いに役立ったという。

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通称“バナナ”と呼ばれる屋根の基礎部分の型枠組みなどの施工管理には、iPadに入れた3Dモデルが役立った

施工チームは、施工図の作成や工程管理などの施工管理業務用にさらに詳細なBIMモデルを作成している。その特徴は、工事計画に合わせてBIM/CIMモデルに時系列を取り入れて「4D」で管理していることだ。

そうすることで、将来のある日、工事現場がどのような状況になっているのかを3次元で確認できるようになっている。また、このBIM/CIMモデルは実際の工事進ちょくに合わせて毎日修正され、施工計画と実行分の管理にも使われている。

現場の技術者は、このBIM/CIMモデルと拡張現実感(AR)の技術を組み合わせて、現場の将来の状態を仮想的にiPad上で見られるようにしたいという。その場にいた米国オートデスクの担当者は、すでにAutodesk Infraworksにこのような機能が搭載され、可能であることをアドバイスしていた。

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現場の施工管理を担当する技術者。オートデスクの担当者も現場で工事関係者にBIM/CIMソフトの使い方などをアドバイスしている

デンバー国際空港の拡張工事でBIM/CIMが導入されたきっかけは、米国オートデスクが発注者のデンバー空港当局に提案したことだった。発注者はその後、BIM/CIMの有効性を高く評価し、現在ではBIM/CIMの活用が義務化されている。今後、発注される公共工事にもBIM/CIMが活用される予定だ。

その決め手は、生産性向上などの効果により、同市が支出するコストを圧縮できることだったようだ。

【問い合わせ】
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autodeskrevitjapan@facebook.com
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