前田建設工業がCIM試行工事にRevit、Civil 3Dを活用
トンネル施工の問題点を事前に解決(オートデスク)
2014年7月5日

住宅地にはさまれた国道298号の地下に外かく環状道路のトンネルを構築する―――国土交通省の平成25年度CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)試行工事で「希望型」に指定された工事で、前田建設工業はオートデスクのCIMソフト「Autodesk
Revit Structure」、「AutoCAD Civil 3D」や「Autodesk Navisworks」を活用。施工上の問題点を施工計画の段階で発見し、解決する「フロントローディング」を実現した。

仮設構造物で支えられた国道298号の下で行われている東京外かく環状道路のトンネル工事

仮設構造物で支えられた国道298号の下で行われている東京外かく環状道路のトンネル工事

   複雑な施工手順をCIMで検討

千葉県松戸市で行われている東京外かく環状道路工事(矢切函渠その9工事)は、仮設構造物で支えられた国道298号の下に延長約240mのトンネル用のボックスカルバートを構築する難しい工事である。当工事では、仮設構造物の撤去や移設、工事用道路の切り回しを行いながら、ボックスカルバートを構築する複雑な施工方法が求められている。

東京外かく環状道路のトンネルとなる掘割スリット構造のボックスカルバートの施工手順。仮設構造物の撤去・移設と道路の切り回しを行いながらの複雑な工程だ

東京外かく環状道路のトンネルとなる掘割スリット構造のボックスカルバートの施工手順。仮設構造物の撤去・移設と道路の切り回しを行いながらの複雑な工程だ

当工事を受注した前田建設工業は、CIMの活用が業務効率を向上させることができると判断し、施工管理でCIMを試行することを決定した。CIM試行は以下の2つの活用目的を掲げて進めることとなった。
1つは、複雑な施工ステップや周辺構造物との取り合いを3次元モデルで「見える化」すること。2つめは、様々な「属性情報」を付与したCIMプロダクトモデルを構築することだ。
工事現場の状況を3DのCIMモデルで見える化すると、工事関係者の意思統一がスムーズになり、意思決定のプロセスが迅速になる。施工の進ちょくに伴う道路の切り回しは、2次元の図面のみでは理解しづらいが、CIMモデルによる説明であれば工事関係者はもちろん、一般の人にも一目で理解してもらえる。また、様々な属性情報を内蔵したCIMモデルは、設計から施工までの業務を効率化するだけでなく、将来の維持管理にも活用が期待される。
国土交通省はこの工事を平成25年度のCIM試行工事(希望型)に指定している。

図面を使った施工手順の表現(上段)は経験ある技術者でないと理解が難しいが、CIMを使った表現(下段)は誰でもわかりやすく、施工上の問題点も発見しやすい

図面を使った施工手順の表現(上段)は経験ある技術者でないと理解が難しいが、CIMを使った表現(下段)は誰でもわかりやすく、施工上の問題点も発見しやすい

   3種類のCIMソフトを使い分け、現場全体を統合

これらの検討を行うため前田建設工業が構築したCIMモデルは、周辺地形、国道が通る仮設構造物、構築するボックスカルバートなどを詳細に3次元化した「全体モデル」と属性(コンクリート強度、鉄筋種別、打設日などの施工データ)が付与された「詳細モデル」から構成されており、そしてモデル作成にはオートデスクのCIMソフトを活用している。

3次元による可視化を実現する「全体モデル」には「AutoCAD Civil 3D」、設計~施工~維持管理に関する属性が付与された詳細モデルの作成には「Autodesk
Revit Structure」を使用した。

そして別々のファイルで作成されたこれらの3Dモデルを「Autodesk Navisworks」上でCIMモデルとして統合している。その結果、構築されたCIMモデルは、施工ステップ確認、躯体・仮設構造物の位置関係の見える化が実現できると同時に、様々な工事情報の「3次元目次」としての役割を果たしている。また、「詳細モデル」はサーバー上に保存された設計図書、施工写真等の関連データとリンクしており、CIMモデルからダイレクトに確認することも可能となっている。

それぞれのCIMソフトの強みを生かして使い分けながら、現場全体のCIMモデルや施工管理情報を一括管理するという方法だ。

Autodesk NavisworksによるCIMモデルと設計図書、施工写真などの一括管理イメージ

Autodesk NavisworksによるCIMモデルと設計図書、施工写真などの一括管理イメージ

   仮設構造物との干渉をCIMで事前に解決

前田建設工業土木設計部のリーダー工藤敏邦氏は「支柱、ブレス等が多数存在する中でボックスカルバートの躯体を構築するため、現場では仮設構造物の位置と新設するボックススカルバートの干渉をどう解決するかが大きな課題だった」と語る。

「しかし、山留め、仮設構台等の仮設構造物や、ボックスカルバートが複数の2次元図面で表現されていると干渉部分が理解しにくい。そこで施工計画の作成段階でCIMを導入し、新設するボックスカルバートと仮設構造物の位置関係を3次元的に可視化する検討を行った」(工藤氏)。

また、実際に現場に存在する仮設構台は、受領した図面と正確に整合していない場合もある。そこで、前田建設工業は現場の仮設構造物を測量してCIMモデルで正確に再現し、部材の干渉部分を事前に把握した。そして、完成したCIMモデルをもとに発注者と打合せを行い、カルバートと干渉する細かいブレス材や横梁の移設、撤去、補強等の対策を1本1本決定していった。

「これらの対策は、現場で施工を始める前に発注者と協議して設計変更をしていただいた。その結果、施工段階になってからの作業の手戻りなどはほとんど発生せず、スムーズに施工が進んでいる。」と工藤氏は語る。いわば施工段階での“フロントローディング”(業務の前倒し)による効果を実現できたわけだ。

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2次元図面(上)ではわかりにくい干渉部分。現場(左下)を正確にに再現したCIMモデル(右下)に、これから造るボックスカルバートを重ねて干渉チェックし、細かいブレス材などを撤去・補強する設計変更を事前に行うことができた

2次元図面(上)ではわかりにくい干渉部分。現場(左下)を正確にに再現したCIMモデル(右下)に、これから造るボックスカルバートを重ねて干渉チェックし、細かいブレス材などを撤去・補強する設計変更を事前に行うことができた

CIMモデルによる干渉部分の検討

CIMモデルによる干渉部分の検討

   3Dプリンターで現場の模型を作成

前田建設ではCIMモデルのデータを生かして、3Dプリンターによって模型も作成した。「Autodesk Revit Structure」や「AutoCAD
Civil 3D」などオートデスクのCIMソフトは、3Dプリンターに対応した「STL形式」のデータを書き出せるようになっている。

今回は「AutoCAD Civil 3D」で作成したCIMモデルが存在したため、3Dプリンターでの模型作成は迅速に実施することができた。CIMモデルを模型用に切り出した後にSTL形式のデータで書き出し、社内にある3Dプリンターで模型を作成した。

「パソコンの画面でCIMモデルを見るのと違い、複数の人がいろいろな角度から模型を見て議論すると、新しい発想が生まれてくる。CIMの時代になっても模型の良さは変わらない。発注者もこの模型はとても気に入ったようだった。」と土木技術部のリーダー、笹倉伸晃氏は説明する。

施工中の現場を先取りし、3Dプリンターで作成した模型。発注者にも好評だった

施工中の現場を先取りし、3Dプリンターで作成した模型。発注者にも好評だった

   維持管理でのCIM活用をにらみ属性情報をフル活用

CIMの大きな特徴は3Dモデルの各部分に「属性情報」を付与できることだ。3次元で表現された構造物の必要な箇所をクリックするだけで、設計、施工から維持管理までの構造物に関わる情報を簡単に参照することができる。また、付与された属性を活用すれば、帳票の自動作成等、日常業務の効率化に繋げていくことも可能となる。

この工事では、維持管理段階での使用も想定して100個近い属性情報を設定している。その中にはコンクリートを打設した日の気温なども含まれている。後の維持管理段階でひび割れが発生したとき、その部分のコンクリートを打設した日の施工データから、ひび割れ発生の原因が経年劣化によるものか否かを特定し、将来予測にも活用しやすくなるからだ。

また、属性情報には施工写真や点検記録などのファイルへのリンクも設定することができる。将来の維持管理段階で、新たなデータが蓄積されていったとき、属性情報に埋め込まれたリンクからすぐに必要な情報を取り出して業務に活かせるのだ。

ボックスカルバートのCIMモデル(右)の各部分には100項目近い属性情報(左)が設定されている

ボックスカルバートのCIMモデル(右)の各部分には100項目近い属性情報(左)が設定されている

今回、CIMモデルに入力する属性情報は、日ごろからCIM勉強会を共同で開いている中央復建コンサルタンツ(株)と協力して必要項目を洗い出し、内容を決めていった。

「例えば、将来の維持管理段階でボックスカルバートにコンクリートにひび割れが起こったとき、その原因究明と対策を行うために必要な属性は何か、といった視点で属性情報の項目をピックアップしていった」と工藤氏は語る。

前田建設工業の土木部門では「CIM」という言葉が生まれる前の2006年ごろから「AutoCAD Civil 3D」を導入し、トンネルやダムなどの工事で景観検討や施工計画、情報化施工などに活用してきた。

矢切函渠その9工事でのCIM試行の経験を生かし、同社は今後、CIMの本格運用に向けてCIMモデルと各種業務ツールの連携や統合データベースとの連携などを進めていく方針だ。

CIM活用に取り組む前田建設工業の技術者たち。左から土木設計・技術部の平澤江梨氏、土木設計部の工藤敏邦リーダー、同・笹倉伸晃リーダー

CIM活用に取り組む前田建設工業の技術者たち。左から土木設計・技術部の平澤江梨氏、土木設計部の工藤敏邦リーダー、同・笹倉伸晃リーダー

 

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