橋やトンネルから土工まで全国の約60現場に広がる
大林組のCIM活用戦略を支えるソリューション(オートデスク)
2015年3月2日

2012年2月にCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の取り組みを始めた大林組は、3年弱で全国57カ所の現場に導入。オートデスクのCIMソフトウェアなどに、UAV(無人機)や3Dレーザースキャナー、3Dプリンターなどを組み合わせることによって、判断の迅速化や施工の効率化、維持管理モデルの構築などの成果を出している。

3Dレーザースキャナーで計測した点群データをもとに作成した地形モデルに、切り土や盛り土などを組み合わせたCIMモデル。地山との境界が詳細かつ正確に把握できる

3Dレーザースキャナーで計測した点群データをもとに作成した地形モデルに、切り土や盛り土などを組み合わせたCIMモデル。地山との境界が詳細かつ正確に把握できる

   現場のお困りごとをオートデスクのCIMソフトで解決

大林組は国土交通省が2012年10月にCIM試行プロジェクトを始める前の同年32月から、土木部門でCIMの導入を始めた。同社土木本部本部長室
情報企画課課長の杉浦伸哉氏は、「取り組み始めた1年目は右も左も分からず、現場にもなかなか受け入れてもらえなかった」と振り返る。

そこで「CIMをどう使うか」というCIM中心の考え方から、「CIMで現場のお困りごとをどう解決できるか」といった現場業務中心の考え方に変えた。すると現場の担当者にもCIMの便利さをだんだん、理解してもらえるようになった。

それをきっかけに、2年目は十数現場、3年目の2014年12月には、57カ所(うち4カ所は完成)の現場でCIMを活用するまでになった。

CIMの対象となる工種もバラエティーに富んでいる。初めはトンネルや橋梁、地下構造物などのコンクリート構造や鋼構造が多かったが、最近は道路や住宅地の盛り土や切り土、トンネル坑口付近、メガソーラー発電所などの土工などにも広がってきた。

同社ではこれらの現場のCIMモデル作成には、オートデスクのCIMソフトをフル活用している。例えば、道路の盛り土・切り土の設計にはAutoCAD Civil 3D、鉄筋コンクリート構造物の設計にはAutodesk Revit、造成地など広範囲のモデル化にはAutodesk Infraworksといった具合だ。

また、トンネルや橋梁などの施工管理にはAutodesk Navisworks、3DレーザースキャナーやUAVによる空撮で地上の3D形状を記録した「点群データ」の処理にはAutodesk ReCap、そして現場内で使用するタブレット端末でCIMモデルを共有するためにはBIM360 GlueやInfraworks360、Autodesk 360(A360)といったオートデスクのクラウドシステムを活用している

多岐にわたる工種のCIMモデル作成や施工管理での利用に、オートデスクの様々なソフトやクラウドシステムが使われている

多岐にわたる工種のCIMモデル作成や施工管理での利用に、オートデスクの様々なソフトやクラウドシステムが使われている

工種ごとのCIM活用工事件数(2014年12月現在)

トンネル 13件
橋梁 8件
シールド 2件
ダム 2件
造成 13件
鉄道 2件
地下躯体 10件
電力 3件

   全員参加型のCIMで施工でのメリットを追求

大林組のCIM活用の特徴は、施工業務でどこまでCIMを活用し、効果を上げられるのかを、発注者の指示とは別に、独自で挑戦していることだ。杉浦氏は「判断の迅速化、施工の効率化、工期短縮とコスト削減という3つのことに絞ってCIM活用を行っている」語る。

土木構造物は工種ごとに構造や施工管理で求められる内容も違う。例えば、トンネルでは施工中に内壁の変位量を管理したり、橋梁では橋桁の架設段階によって完成形より上下する「上げ越し、下げ越し」という施工管理が求められたりする。

建築分野のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)では、基本的に建物の大きさや形が変わらないという前提なので、時間とともに変形する土木構造物を扱うCIMは、BIMと同じように運用することは難しい。

そこで大林組がとった手法は、変形をCIMモデルの3D形状で表すのではなく、CIMモデルの各部分に埋め込まれている「属性情報」として表現する方法だ。

CIMモデルの3D形状の部分は本社の情報企画課が作り、日々の現場データを属性情報としてCIMモデルに入れて活用するのは現場の技術者が行うのだ。こうして3D形状と属性情報を切り離すことで、CIMソフトを使えない現場の技術者もCIMのワークフローに全員参加できるというメリットも生まれた。

本社情報企画課でCIMの社内展開を担う杉浦伸哉課長(左)と後藤直美主任(右)

本社情報企画課でCIMの社内展開を担う杉浦伸哉課長(左)と後藤直美主任(右)

例えば、和歌山県白浜町で行った近畿自動車道紀勢線の見草トンネルの工事では、現場の職員はこれまで通り、切り羽の写真撮影や覆工コンクリートのスランプ試験、支保工の変位測定など、日常業務を行い、そのデータをCIMモデルの属性情報にとして更新した。

近畿自動車道紀勢線 見草トンネルのCIMモデル

近畿自動車道紀勢線 見草トンネルのCIMモデル

その手順はまず、Civil 3DでトンネルのCIMモデルを作る。そのデータをCIMモデル閲覧ソフトNavisworksに読み込み、伊藤忠テクノソリューションのNavis+というソフトを使って各部材の番号と属性情報をExcel形式で書き出す。

この表にコンクリートのスランプ値や支保工の仕様、内壁の変位などのデータを書き込み、もう一度Navis+でNavisworksの属性情報に戻す。すると、トンネルの設計情報や地質、施工後の変化など、施工管理の情報がCIMモデルと一体化して扱えるようになる。

Excelによる施工データの管理は、これまでも現場で行っていた。そのデータをCIMモデルにインプットできるようにしたことで、現場全員がCIMのワークフローに参加できるようになったのだ。

日常業務で作成しているExcelのデータをCIMモデル属性情報として自動的に更新する

日常業務で作成しているExcelのデータをCIMモデル属性情報として自動的に更新する

CIMモデル上で見た地盤データやトンネル内壁の変位

CIMモデル上で見た地盤データやトンネル内壁の変位

「この現場では切り羽の観察や岩判定、発注者との打ち合わせといった業務が多い。しかも技術的判断が求められる。こうしたニーズにこたえることを目指してCIMを導入した」と杉浦氏は言う。

さらに、このCIMモデルはオートデスクのクラウドシステム、A360によって携帯端末のiPadに入れて、現場内のどこでも見られるようにした。「CIMモデルでトンネルのデータ、計測したデータ、そしてトンネル上の現況地形データを重ねて総合的に見ることで、迅速かつ的確な判断が行えるようになった」と杉浦氏は説明する。

支保パターンごとに色分けされたCIMモデル。そのまま現場の最前線まで持って行き、施工管理に使える

支保パターンごとに色分けされたCIMモデル。そのまま現場の最前線まで持って行き、施工管理に使える

3D形状と属性情報を分けて管理するCIMシステムは、橋梁工事にも適用することができた。神奈川県相模原市緑区で行われたさがみ縦貫相模川橋上部工事の現場でも、施工中の橋桁の「上げ越し、下げ越し」の施工管理を見える化するのに使われた。

相模川橋のCIMモデル全景(左)と属性情報による上げ越し・下げ越しの見える化(右)

相模川橋のCIMモデル全景(左)と属性情報による上げ越し・下げ越しの見える化(右)

   3DレーザースキャナーやUAVをCIMと連携

CIM活用で特に難しいのは、盛り土や切り土などの土工だ。これまで土工に使われてきた2次元図面は、等高線で自然の地形が表しているが実際の地盤高と誤差が大きく、どうしても“現場合わせ”が欠かせなかった。

つまり、設計者が作成した設計図は提供されているものの、自然地形との境界部分では、現場で測量を行い、盛り土などが実際の地形に合うように現場で調整しながら施工する必要があったのだ。

「こうした方法だと、土量の見積もりに誤差が大きくなったり、盛り土の境界線が敷地からはみ出したりすることもあり、その解決に手戻り作業が発生しがちだった」と杉浦氏は語る。

「これを解決するためには、自然の地形や既存の構造物などを正確に3D化し、その上に土工のCIMモデルを作ればよい。しかし、既存の盛り土などは複雑な形状をした自然地形にすり付くようにつながっていて、コンクリート構造物や鋼構造物のように角がない。これをCIMモデルで正確に表現するのは難しい」(杉浦氏)。

そこで大林組は、3Dレーザースキャナーで計測した点群データからCIMモデルを作ることにより、この問題を克服した。

現場の地形を3Dレーザースキャナーで計測し、膨大な3D座標点からなる「点群」データを作成する。その点群をオートデスクのReCapで不要なデータの削除や点群密度の調整を行い、Civil 3DでCIMモデル化している。

このCIMモデルを施工段階ごとに作り、CIMソフト上で比較し、差分の体積を求めることで1カ月間の盛り土量や切り土量を正確に算出し、CIMモデル上に色分け表示することもできる。

「高精度のCIMモデルを使って設計を確認することにより、現場合わせの作業を減らすことができれば、大幅な効率化につながる」と杉浦氏は語る。

20150302-obayashi-10
20150302-obayashi-arrow

2つのCIMモデルを比較し、切り盛り土量を色分け表示した例

2つのCIMモデルを比較し、切り盛り土量を色分け表示した例

また、広い範囲の計測には、3Dレーザースキャナーの代わりにUAVによる空撮を行い、その写真データをオートデスクのクラウドシステムReCap360などで処理することにより、複数の写真から点群データ化している。その後、点群からCIMモデルにする手順は、3Dレーザースキャナーの場合と同じだ。

「時々刻々と変わる現場の施工管理に使うためには、UAVでの撮影からCIMモデルの作成までをスピーディーに行う必要がある。当社の現場では撮影から点群データの作成までを1日で行っている」(杉浦氏)。

2015年2月現在、UAVは6ローターを備えたヘリコプター型を2機、より広い範囲の空撮に適した飛行機型を1機保有している。ヘリコプター型のUAVは、高画質の写真撮影が可能な1眼レフクラスのカメラを搭載できる。

UAVはGPS(地理情報システム)によって位置と高度を自動分析し、自律的に飛行するので操縦は比較的簡単だ。飛行経路の設定もソフト上で行っている。

「UAVは人が行けない場所からでも短時間に測量でき、概略の土量を把握するのに役に立つ」と杉浦氏は説明する。

20150302-obayashi-12 20150302-obayashi-13
大林組が点群データの作成に使っているUAV。6ローターを備えたヘリコプター型(左)と広い範囲の空撮に適した飛行機型(右)

数百枚もの空撮写真を処理して作成した点群データの例。各点には写真の色が付けられている

数百枚もの空撮写真を処理して作成した点群データの例。各点には写真の色が付けられている

3DレーザースキャナーやUAVは、現実の地形などをデータ化するために使われるが、逆にデータから現物を作り出す機器が3Dプリンターだ。

土木構造物は土やコンクリートに埋まっている部分が多い。地盤の掘削や仮設材の設置、コンクリートの打設などの施工計画も3次元的に手順を考えなければならない。そこでCIMモデルのデータをもとに、3Dプリンターで現場の模型を作り、CIMで設計した構造物の安全性や施工手順の検討などに活用している。

CIMモデルから3Dプリンターで作成したNATM工法の模型。土の部分を透明アクリルで造形し、土中のロックボルトや支保工などを見える化している

CIMモデルから3Dプリンターで作成したNATM工法の模型。土の部分を透明アクリルで造形し、土中のロックボルトや支保工などを見える化している

   維持管理を視野に入れたCIM活用

東日本大震災で津波の被害にあった岩手県山田町では、織笠地区と山田地区で住宅地の高台移転計画が進んでいる。設計施工一括発注方式のプロジェクトを受注した大林組JVは、AutoCAD
Civil 3DやInfraworksなどのCIMソフトで、山間地を切り開いて住宅地を造成する工程を工事段階ごとに3Dでモデル化した。

住宅地の造成完了までの間、仮設道路の位置が変わったり、山を20mほど切り下げたりする。こうした施工過程を住民説明会で説明するのに、CIMモデルが大活躍しているのだ。

岩手県山田町の高台移転計画のCIMモデル

岩手県山田町の高台移転計画のCIMモデル

CIMモデルを使った住民説明会の様子

CIMモデルを使った住民説明会の様子

このプロジェクトでは掘削土量が多いため、運搬用にベルトコンベヤーを設置する計画を立てた。その際、空中の電線とコンベヤーが干渉してしまうことが分かり、電話会社に依頼して電柱を移設してもらう必要があった。

3次元的な干渉問題のため、電話会社の担当者に図面で説明しても、どこが問題なのかがなかなか理解してもらえそうもない。そこで3Dモデルで電線とコンベヤーの干渉状態を 説明したところ、すぐに理解してもらうことができた。

ベルトコンベヤーと既設電柱との位置関係もCIMモデルなら一目瞭然

ベルトコンベヤーと既設電柱との位置関係もCIMモデルなら一目瞭然

そして、このプロジェクトではCIMの新しい活用方法を発注者に提案している。それは維持管理業務での利用だ。

上水道や下水道管などの埋設管を施工する際に、干渉チェックなどで利用したCIMモデルを再利用し、維持管理に必要な属性情報を入力している。出来形そのままのCIMモデルがあれば、維持管理業務はこれまでと違い、大幅に効率化できそうだ。

例えば、携帯端末用のAR(拡張現実感)アプリを使い、道路下の埋設管を“透視”しながら、維持管理業務を行うことも夢ではない。

「CIMモデルはまず、施工段階での効率化のために作るが、その副産物として維持管理にも有効活用できると考えている」と杉浦氏は言う。

このほか、前述の見草トンネルも、竣工時に3Dレーザースキャナーやデジタルカメラなどを搭載した車両で内壁の3D形状を計測し、コンクリート表面などを撮影して写真に残すことで、将来の維持管理の基礎データとして活用することを発注者に提案している。

   CIMで成功するコツとは

大林組が独自に進めてきたCIM活用は、国土交通省も注目している。産学官が連携して実プロジェクトでのCIM活用についての課題や対応を検討する全国5つのプロジェクトの1つとして、大林組が施工中の佐久間道路浦川地区第一トンネル(中部地方整備局浜松河川国道事務所発注)が、ただ1つのトンネルプロジェクトとして選ばれたのだ。

このプロジェクトでは2014年度から15年度にかけて、「施工から設計へのフィードバック」というテーマで建設生産プロセスの各段階で必要なモデルの精度や属性情報、データの受け渡しや共有についてCIM技術検討会、土木学会、国交省が共同で検討を行う。

大林組のCIM活用は本社の専門家と現場スタッフの間で密接な話し合い、現場のニーズに合ったシステムを本社が提案し、構築していくところにある。そのため、杉浦氏と後藤氏は全国各地の現場を頻繁に往復し、現場との情報共有に努めてきた。

今後、さらにCIM導入現場が増えるのを見越して、これからは各支店にCIMの専門家を置き、現場のニーズを把握しながら本社の専門スタッフとも情報交換を行ってCIMの実践を進めていく計画だ。

質・量ともに充実してきた大林組のCIM活用だが、その成功のコツとは何だろうか。「CIM活用を成功させるためには、施工者だけでなく発注者の参画とリーダーシップが必要だ」と、杉浦氏は締めくくった。

【問い合わせ】
Autodesk CIM 日本公式Facebook
(Visited 1 times, 1 visits today)

関連記事
Translate »