鴻池組、GyroEye Holoを使ったトンネル用MRシステムを開発
現場で地質や切り羽写真などを実寸大で見る(インフォマティクス)
2018年2月5日

鴻池組はMR(複合現実)技術を使って、トンネル周辺地質や施工時の切り羽写真などを現場で見られるシステムを開発した。インフォマティクスが開発したソフト「GyroEye Holo」を使い、図面や3Dモデルなど維持管理に必要な様々な情報やデータを、MR用のゴーグル型コンピューター「Microsoft HoloLens」上で現場の風景に重ねて実寸大、立体的に見られるようにしたものだ。両社は鳥取市内で施工中の山陰自動車道のトンネル現場で実証実験を行い、その実用性を確認した。その様子を現場からリポートしよう。

鳥取市内で施工中の「鳥取西道路 気高第2トンネル」の現場で、MR用ゴーグル型コンピューター「HoloLens」を装着し実証実験を行う鴻池組の現場代理人、長沼諭氏

鳥取市内で施工中の「鳥取西道路 気高第2トンネル」の現場で、MR用ゴーグル型コンピューター「HoloLens」を装着し実証実験を行う鴻池組の現場代理人、長沼諭氏

   現場の状況と地質などと重ねて確認

2017年12月21日、鴻池組が鳥取市内で施工中の山陰道 鳥取市西道路の「気高第2トンネル」の現場には、MR用ゴーグル型コンピューター「Microsoft(マイクロソフト) HoloLens(ホロレンズ)」を着け、現場内のあちこちを見て回る土木技術者の姿があった。

「トンネルの現況と地質などを現場で重ねて見られるのが、これほど便利とは。完成後の維持管理段階で、トンネル内壁に変位やひび割れ、漏水などの不具合が生じた時にも、設計・施工との因果関係を容易に確認できそうです」と語るのは、鴻池組 鳥取西道路気高第2トンネル工事の現場代理人を務める長沼諭氏だ。

HoloLensを通して見たトンネル内。現場と地質展開図などが重なって見える

HoloLensを通して見たトンネル内。現場と地質展開図などが重なって見える

HoloLensの液晶画面には、現場の位置や視角に応じた図面や3Dモデルなどが映し出される●


HoloLensを通すとトンネル現場と図面などを重ねて見ることができる(YouTubeより)

長沼氏は、HoloLensを通して施工中のトンネル内部の現況風景とともに、施工時の地質展開図や切り羽写真、覆工(ふっこう)などを重ねて見ていたのだ。トンネル内なので直射日光が差し込まない。こうしたトンネル特有の条件もHoloLensの画面を見やすくした。

「これまでは図面などの紙資料を現場に持ち込み、現場での位置と照合する必要がありましたが、HoloLensだと照合の手間がなく、さらに地質展開図なども現場スケールで見られるので、様々な現象を直感的に理解できます」と長沼氏は言う。

   CIMモデルや施工管理データをMR化

国土交通省が進めるICT施策「i-Construction」によって、設計や施工だけでなく、維持管理段階でもCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)モデルを活用しようという気運が高まっている。

そこでトンネルのCIMモデルや属性情報を、タブレット端末などによって現場で見られるシステムは、これまでも市販されていた。

今回、鴻池組とインフォマティクスが共同で実施した実証実験は、CIMモデルをさらに実寸大、立体視によって現場の風景と重ねて見られるようにしたものだ。これによって設計、施工や維持管理用のCIMモデルや2Dの切り羽観察記録、地質展開図、そして様々な計測結果やトンネル覆工の施工記録などを、現場で起こっている現象と関連づけて見られるようになり、業務効率をより高めることができるのだ。

トンネルの内部を見上げる

トンネルの内部を見上げる

HoloLensを通して見た現場。ひび割れに見立てた線と地質展開図の位置関係などが一目でわかる(注:ひび割れは本トンネルのものではありません)

HoloLensを通して見た現場。ひび割れに見立てた線と地質展開図の位置関係などが一目でわかる(注:ひび割れは本トンネルのものではありません)

下を見ればこれから施工される床版や排水溝などの構造物が見える

下を見ればこれから施工される床版や排水溝などの構造物が見える

「ひび割れなどの損傷箇所が見つかった場合も、現場で設計・施工との因果関係を容易に確認することができます」と、鴻池組 土木事業総括本部 技術企画部ICT推進課の藤原祐一郎氏は説明する。

維持管理に必要なトンネル内や図面、施工管理資料などの情報をHoloLens上で見られるようにしたのは、インフォマティクスが開発した「GyroEye(ジャイロアイ) Holo(ホロ)」というソフトだ。同社は鴻池組が用意した施工管理用のデータを、GyroEye Holoにインポートし、様々なデータとリンクさせて維持管理に使えるようにする作業も担当した。

HoloLensを着用して現場を見る藤原氏。今回、HoloLensをピッタリ取り付けられるヘルメットも用意した

HoloLensを着用して現場を見る藤原氏。今回、HoloLensをピッタリ取り付けられるヘルメットも用意した

HoloLensを着用して、トンネル内を眺めると、トンネル覆工の断面図や軸方向の距離程、舗装や敷石などの3Dモデルなどのデータが実寸大で表示される。歩き回ったり首をあちこちに向けたりすると、その動きにデータの見え方も追随する。

   ハンズフリーで、資料を取りに戻る手間もない

今回は実証実験のため、トンネルの30m区間分のデータを使い、現場での維持管理での実用性や効率、改善点などを現場で検証した。

HoloLensの画面内にはところどころ、赤色や黄色などの仮想的な“玉”も浮いている。ここに近づくと、PDF形式の切り羽写真や覆工施工記録などの施工管理書類が自動的に開き、内容を確認することができる。

この仕組みを利用して、トンネル内の換気ファンや照明灯の交換時期などの属性情報を現場で見ることもできそうだ。

トンネルの覆工を見る

トンネルの覆工を見る

HoloLensを通して見ると赤い玉があちこちに見え、近づくとその場所の切り羽写真など、施工管理記録が見られる

HoloLensを通して見ると赤い玉があちこちに見え、近づくとその場所の切り羽写真など、施工管理記録が見られる

長沼氏は「資料をPDF化し、必要なものはHoloLensを通して現場で見られます。両手はハンズフリーになるし、紙の資料のように持ち出しを忘れて現場事務所に取りに戻る手間もないので、維持管理の労働生産性も上がりそうです」と感想を語った。

このほか、前回の点検で覆工コンクリートにひび割れが発見されたことを想定して、トンネル内壁にひび割れ箇所を重ねて表示する実験も行った。「前回のひび割れ箇所や長さを現場で見ることで、ひび割れを見落とすこともなくなり、ひび割れが拡大している場合もすぐに気づきます」(長沼氏)という。

また「トンネルの線形は、微妙にS字カーブを描いているが、30~50mくらいの範囲なら、直線近似でシンプルにモデル化できます。観察系の業務には精度的にも問題なさそうです」と、鴻池組土木技術部施工技術課の若林宏彰課長は言う。

トンネル現場と3Dモデルなどの位置・方向を合わせるマーカー

トンネル現場と3Dモデルなどの位置・方向を合わせるマーカー

   発破の削孔作業や余掘り管理も

今回の実証実験では、維持管理業務でのHoloLens活用を中心に検証したが、山岳トンネルの掘削や支保工などの施工管理にも活用できそうだ。

例えば、切り羽の発破時に爆薬を装塡(そうてん)するための孔をドリルジャンボなどで掘削する作業では、削孔パターンやドリル孔の角度を3Dモデル化しておけば、掘削作業員が正確でスピーディーな位置決めを行うことができるので生産性が高まりそうだ。

掘削断面の余掘り管理にも使えそうだ。切り羽近くのトンネル断面を垂直回転するレーザーで照射し、その線とHoloLens上の断面図を見比べることで、余掘りの量が適切か、掘削不足はないかといったことがわかる。また、トンネル底部のインバートと呼ばれる部分の掘削深やカーブした形状も一目で確認できるだろう。

トンネル断面図。将来はドリルジャンボの削孔パターンの位置決めや余掘り量の管理などにも使えそうだ

トンネル断面図。将来はドリルジャンボの削孔パターンの位置決めや余掘り量の管理などにも使えそうだ

トンネル内壁を支える支保工と呼ばれる鋼材の設置間隔も、支保工の3DモデルをHoloLensで見ることにより簡単に確認できる。地盤条件によって支保工の設置間隔が細かく変化する現場でも、施工ミスを起こす心配がなくなるのだ。

GyroEye Holoを開発するインフォマティクスではこれまで、HoloLensを各社の工事現場に持ち込み、図面やBIM/CIMモデルを実寸大で立体視しながら活用する実証実験を2017年だけでも40件以上、行ってきた。その中には学校やオフィスビルといった建築物や設備から、鉄道や橋梁などの土木構造物まで、様々な現場が含まれている。

各現場の技術者の意見を取り入れながら、製品に対する妥協のない改良を続けてきたGyroEye Holoは、2018年1月15日、ついにリリースされた。さらに1月18日、インフォマティクスは厳しい審査を通過し、日本マイクロソフトの「Microsoft Mixed Realityパートナープログラム」のパートナーとしても認定された。

鳥取西道路 気高第2トンネルの現場で、HoloLensの実証実験を行った鴻池組とインフォマティクスの社員たち

鳥取西道路 気高第2トンネルの現場で、HoloLensの実証実験を行った鴻池組とインフォマティクスの社員たち

【問い合わせ】
株式会社インフォマティクス 営業部
<本社>
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メール gyroeye@informatix.co.jp
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