大分県中津市の川原建設は、名勝地・耶馬溪を通る国道212号が、自然景観に配慮した山国川の石積護岸と併走する護岸や樋門構造物を、オートデスクの「AutoCAD Civil 3D」で精密にCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)モデル化、発注者との設計変更の協議や住民説明会のほか、現場での職人との打ち合わせや出来形管理、さらには広報活動まで幅広く活用した。
現況地形の点群データとCIMモデルを合成
「国道212号から親水護岸に下りる道をCIMモデルで作り、現況地形の点群データと合成しました。こうすると既存の石垣など撤去が必要な部分がよくわかります」と、川原建設工務第三課課長の中尾昌勝氏は液晶モニターを指さしながら説明する。
大分県中津市の名勝地、耶馬溪に本社を置く川原建設では2015年に、3Dマシンガイダンス付きのバックホーを導入したのと同時に、Civil 3DやInfraWorksなどオートデスクのBIM/CIMソフトがセットになった「AECコレクション」を導入し、会社を挙げてCIM活用に取り組んできた。
その努力の結果、中津市で施工中の「多志田地区(下流)築堤工事」では、国道と景観に配慮した河川が隣接する複雑な護岸構造物を約200mにわたって精密にCIMモデル化できるまでになったのだ。
現場周辺は約20m間隔で、3Dレーザースキャナーによる点群計測を行い、その点群データとCivil 3Dで作成したCIMモデルを、AECコレクションに含まれるNavisworks上で合体させて、現況地形と新設する構造物との対比など、様々な検討に使っている。
「当社の仕事は8割が河川工事です。以前は他社の3次元土木設計ソフトを使っていましたが、道路と河川が近接する部分では、道路中心線と標準横断面で3Dモデル化するソフトでは、施工図を作成するのが難しかったのです。そこで、AECコレクションを導入しました」(中尾氏)
山国川の奇岩を生かした景観設計
耶馬溪の渓谷を流れる山国川は、奇岩で有名だ。そのため、河川改修などの工事では、景観に配慮することが求められている。そのため、護岸も単純なコンクリートの三面張りではなく、景観に配慮したコンクリート二次製品や玉石積みなどが用いられる。その結果、自然な曲線を生かした設計や施工が求められるのだ。
「こうした場所で、既存の護岸と道路をうまく納めるためには、現場の地形に合わせた精密な施工図が欠かせません。2次元CADによる設計では、護岸の基礎形状と擁壁の横断面を連続的にすり付けることができない場合もあります」と言うのは工務第二課 副主任の田本哲也氏だ。
「そこで、AutoCAD Civil 3Dを使って護岸の軸方向にスイープをかけながら、同時に断面形状を変化させるモデリング手法を独自で編みだし、施工図の作成に活用しています」(同)。
河川の曲線に合わせた護岸を3Dでモデリングする際、実際の施工性も考慮して、曲線に限りなく近い折れ線を使って行うのだという。
「既存の構造物を撤去したり、維持管理しやすいように設計変更したりする場合にも、発注者に3Dで説明すると、その場で了解してもらえることが多いです」と、中尾氏は発注者とのスムーズな意思疎通が、工事の品質や工程に好影響を与えていると説明する。
CIMモデルとタブレットパソコンで施工管理
現場での施工が始まる前に作成したCIMモデルは、施工管理業務でも大活躍する。例えば、用水路の水を山国川に排水する樋門の施工だ。
「樋門のコンクリート躯体は、複雑な形をしているので2次元図面だと完成形や施工手順を、現場の作業員に説明するのが難しいです。そこで、CIMモデルからCGパースを作り、現場での打ち合わせに使っています」と、工務第二課の長友悠氏は説明する。
また、CIMモデルはNavisworksを使って現場用のタブレットパソコンに入れて、出来形管理にも使っている。
「Navisworksのデータは軽いので、タブレットパソコン上でもサクサク動きます。構造物の寸法や形状だけでなく、コンクリートの試験結果などの書類を属性情報としてCIMモデルにリンクしておくことができます。現場で必要な情報をすぐに取り出せるし、立ち会い検査の時には発注者側監督官のサインも画面上でしてもらえます」と長友氏は言う。
CIMモデルは、新規入場者や道路管理者、近隣住民に工事の内容や交通規制などをわかりやすく説明するのにも役立っている。
「例えば交通規制の計画は、現場の点群データ上にカラーコーンや案内標識などの3Dパーツを配置して作ります。点群には周辺の家屋なども写っているため、初めて説明を受ける人も『ああ、あの家が建っているあたりから交通規制が始まるのだな』と、すぐに理解してくれます」(田本氏)
このほか、工事の案内板や現場事務所が近隣住民向けに発行している「現場だより」にも、工事の手順や進ちょく状況などを説明するため、CIMモデルは有力な広報手段になっている。
今回の工事では、初めて本格的なCIMモデルを作った。その間、ソフトの使い方を勉強したり、熟練不足による作業ロスもあったりしたため、モデルの作成には合計24日間を要した。「しかし、次に同じようなCIMモデルを作る場合は、この半分の日数でできそうです」と田本氏は語る。
この現場でのCIM活用は社内でも注目を集めている。夕方になると他の現場から若手の技術者がよく見学にくるほどだ。こうした日々の活動によって、川原建設の社内では日々、CIMの水平展開が進んでいる。
施工管理者の大半がCIM教育を受講
川原建設ではCIMを導入するに当たって、福岡市にあるパートナー企業から講師を招き、CIM講習会を行った。受講したのは施工管理技術者の3分の2にも上り、40代以下は全員だ。
代表取締役社長の川原修幸氏は、CIMを社内でしっかりと根付かせるため、1人1台のワークステーションを使った講習にこだわった。そこでレンタルのワークステーションも導入し、定員8人、6日間にわたる講習を2回に分けて実施したのだ。
CIMモデルの作成も、当初は社外の専門家に依頼していたが、最近は社内でのCIM活用が習熟してきたため、社員自らが作成することが増えてきた。
地域に密着した河川工事を中心に手がける川原建設では今後、工事で使用したCIMモデルをInfraWorks上に配置し、施工記録などのデータをリンクさせて社内用の工事データベースを構築することも計画している。
さらに、VR(バーチャルリアリティー)やAR(拡張現実)の技術を使い、交通規制のほか重機やクレーン作業などのシミュレーションも行っていく予定だ。
【問い合わせ】
Autodesk CIM 日本公式Facebook
|