3年前から本格的なBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)活用を行ってきた西松建設は、2018年4月にBIM推進室を立ち上げた。その狙いは、BIM化自体を目的化せず、BIMで生産性向上を実現することだ。そこで今後3年間をめどに、BIMが有効な建物の規模や複雑さなどを見極め、会社の業績向上につなぐ取り組みを始めた。
「VRでお客様の声が引き出せた」
西松建設は中部地方に建設した物流倉庫の工事で、エントランスなどの内装材を選んだり、仕上げを確認したりする際、施主や現場職員に建物のBIMモデルデータをもとにして作ったVR(バーチャルリアリティー)を見てもらった。
「VRゴーグルを着けたお客様が、周囲を指さして『ここはこんな仕上げにしたい』『ここはこんな感じに変えたい』と、具体的な要望をどんどん出してくれたときは驚きました」と、西松建設建築事業本部建築設計部BIM推進室長の木村暁彦氏は振り返る。
同社では以前からいろいろな工事でBIMを活用していたが、工事ごとの散発的な取り組みにすぎなかった。そこで3年前から、社内のBIM活用についての情報を一元化するべく、会社として本格的な活用を始めた。
その中で、効果的なプロジェクトの1つだったのが、上記の物流倉庫のVRによる施主や現場職員との仕上げ確認だった。
施主にはスマートフォンでVRを見る簡易ビューワーを渡してじっくり見てもらった。
2018年4月にBIM推進室を立ち上げ
西松建設では以前、様々なBIMソフトを使っていたが、BIM活用に向けて社内のBIMソリューションは、オートデスクのRevitやNavisworksなどに統一していく方針だ。現在は、国土交通省の「i-Construction」に対応する土木部門を含めて、BIM/CIMソリューションを集めたAECコレクションを約30ライセンス導入している。
「オートデスク製品を選んだ理由は、以前よりソフトが使いやすくなったことと、BIM活用を拡大していく中で、様々な業務を行えるAECコレクションを使うことが割安と感じられるようになったからです。もちろん、オートデスクというブランドにも信頼感がありました」と木村氏は語る。
そして西松建設は2018年4月に、8人のメンバーからなるBIM推進室を立ち上げた。大手建設会社に比べると、BIM専門の部署が設けられるのはやや遅めと思われるかもしれない。しかし、そこには“後発”ならではのミッションがあった。
「BIM化すること自体が目的ではなく、BIMによっていかに会社の業績を上げていくかがBIM推進室の課題です。そのため、今後3年間をかけて、BIMが最も効果を発揮するプロジェクトの規模や複雑さをじっくり見極めて、狙いを絞ったBIM活用を進めていきます」(木村氏)。
工程計画、安全管理、干渉チェックも有望
西松建設がこれまで手がけてきたBIM活用で効果が大きかったものには、BIMモデルによる鉄骨の建て方ステップシミュレーションもあった。
クレーンのファミリを作り、現場内でクレーンを配置する位置やアウトリガーを張り出す範囲の確認、クレーンのアームやブームと足場や鉄骨部材との干渉を確かめた。また、吊り荷を地上から建物の設置場所に移動する間、障害となる部分がないかを「4D」による干渉チェックで確かめた。
このほか、アームの傾きによって変わる定格荷重を自動計算できる機能を仕込んだり、Revitで作成した鉄骨のBIMモデルで部材の重量を自動計算したりすることで、クレーンの転倒などの事故防止も行えるようにした。
また、建物のBIMモデルをもとに作成した、その物件独自の安全教育用VRコンテンツも、現場での危険予知活動に大いに役立った。
近く行う作業を、VRゴーグルによって体験することで、実際に現場で作業を行っているかのような気づきがある。その結果、作業で気をつけるべき注意事項が、施工管理者や作業員で共通認識でき、無事故無災害に貢献した。
「BIM360 DOCS」クラウドの有効性を体感
このほか空調・衛生設備や防災設備、エレベーターなどの昇降機設備工事では、部材同士のぶつかりを、BIMモデルの干渉チェックによって事前に解決しておくことも、有効性が認められた。
設備の専門工事会社は、オートデスク以外の設備用BIMソフトを使っていることが多い。そこで、各専門工事会社が作成したBIMモデルのデータを、BIMの共通フォーマットである「IFC形式」によってNavisworksに読み込み、意匠、構造、設備を統合した干渉チェックを行ったのだ。
「倉庫では、梁の下で設備同士が交差により、倉庫内に貨物を積める有効高さが減ってしまいます。少しでも有効高さを確保するうえでも、干渉チェック機能による設計の最適化は効果が高いと認識しています」と、BIM設計室長の木村氏は語る。
ある物流倉庫の工事では、設備の専門工事会社の技術者が、西松建設が作成したBIMモデルを常に見て、実務に役立てていた。
タブレット端末のiPadにBIMモデルを入れて現場で活用することは、図面を見るために現場事務所に戻る時間を節約するほか、ペーパーレス化にも役立つ。さらにCAD図面や施工管理用の帳票類も持ち歩くことで、工事現場の生産性向上には、大いに貢献する。
iPadでのBIMモデル活用には、オートデスクの「BIM 360 DOCS」というクラウドシステムを活用し、西松建設はBIMモデルをiPadに入力するだけでなく、最新情報を現場関係者がリアルタイムに共有できるという点でもクラウドの効果を認識。現場でのクラウドシステム活用にも力を入れていく方針だ。
西松建設では、施工管理に携わる社員が約580人おり、そのほとんどにiPadを配布している。
「50歳以上のベテラン社員も、iPadを使ったクラウドベースでの活用が仕事でも有効だということがわかってくれているようです。今後、クラウドとBIMを組み合わせた効率的な運用方法も、研究していきたいと思います」と、木村氏は語った。
少子高齢化が進む日本では、これからの建設業も以前より少ない人数で工事を行う必要がある。さらに顧客対応の重要性も年々増している。
西松建設では、オートデスクのBIMソリューションを、効果のある部分に絞って徹底活用することで、現場の省人化と生産性向上を両立させていく方針だ。
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