奥村組は2015年にBIM推進グループを立ち上げて以来、わずか3年で35件の工事にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を活用した。オートデスクのBIMソリューションにより、精密なデジタルモックアップや施工ステップの可視化、さらにはVR(バーチャルリアリティー)、3Dプリンターを駆使した施工性の確認まで、活用の範囲は多岐にわたっている。その現場を直撃した。
VRや3Dプリンターで施工性を徹底検証
ボルト1本まで精密に作られた施工用のBIMモデルを、VRゴーグルを通して見ると目の前にはこれから作られる建物の鉄骨や足場が原寸大で立体的に広がって見える。首を上下・左右に振ると、まるで現場に立っているかのように現場を内側から見回せるのだ。
「施工BIMモデルをVRで見ると、施工計画や手順が適切か、工事所の安全性に問題がないかなどが、リアルに検証できます」というのは、奥村組情報システム部BIM推進室長の脇田明幸氏だ。
VR用のデータは、Revitで作成したBIMモデルデータを、オートデスクの「Revit Live」というソフトで変換することで簡単に作れる。
さらに、複雑に鉄骨が交差する部分は、3Dプリンターで8分の1サイズの模型も作り、あらゆる角度から施工性や施工手順を検討する。
上記の鉄骨部材はあるホールの3階客席を支える立体トラス構造の一部だが、鉄骨工場で製作した部材が、設計通りにでき上がっているかどうかを確認する作業にもBIMモデルを活用した。
BIMモデルをノートパソコンに入れて出張し、複雑な鉄骨部材の寸法を設計と比較して、設計通りにでき上がっているかをチェックしたのだ。
その結果、仕口や鉄骨が複雑に交錯した立体トラス構造を、設計通りに組み立てることができた。
導入から3年で35件の物件にBIM活用
今では最先端の施工BIMを実践する奥村組だが、本格的にBIM活用に取り組み始めたのは2015年に脇田氏と日野元氏の2人がBIM推進グループを立ち上げてからのことだ。
以来、設計、施工、FM(維持管理)の各分野でBIM活用を積極的に進めたほか、中期経営計画の3カ年計画にもBIM活用率などを盛り込んだ結果、2018年3月末までにオフィスビルや商業施設、ホールやホテル、ごみ処理施設、木造建築など35件のプロジェクトでBIMを活用するまでになった。
そしてBIM活用をけん引する組織も、2018年4月にBIM推進室に移行し、メンバーも12人に増えた。
「中堅ゼネコンとしてBIMの導入は後発でした。しかし、ハードやソフトが進化し、公開されている情報を分析し、多様なソフトを臨機応変に使い分けることができたので、短期間にここまでの活用ができるようになりました」と、脇田氏は“後発のメリット”を語る。
使用ソフトもオートデスクのRevitやNavisworksを軸に、多数のベンダーのBIMソフトとIFC形式などでデータ連携しながら活用している。
BIM合意や工程シミュレーションでの活用
奥村組のBIM活用は、施工段階の幅広い業務にわたっている。しかし、「BIMのためのBIM活用」ではなく、「生産性を上げるためのBIM活用」という明確な思想が感じられる。
例えば、同社広島支店社屋のプロジェクトでは、従来の図面による打ち合わせに代わり「BIMモデル合意」という方法を用いた。
BIM推進グループが作成した鉄骨や敷地、仮設のBIMモデルに同社建築工務部による鉄筋コンクリート躯体や3D配筋図、サブコンが作成した設備BIMモデルを、Navisworks上で重ね合わせ、干渉チェック結果を反映した設計変更や納まりの検討を行い、そのBIMモデルによって合意形成を図るという方法だ。
また、狭い敷地で行われる工事では、重機の配置や鉄骨の組み上げ手順などをひとつひとつ検討する必要がある。こうした工事では、Navisworksを使って工程シミュレーションを行い、思わぬ手戻りが生じないように万全の準備を行っている。
BIM推進室の藤原和哉氏は、「Navisworksのタイムライナー機能を使うと、工事全体の工程を時間軸で見える化できます。各工程のビフォー/アフターで、現場がどのように変わるのかを、職員や専門工事会社を含めて簡単に共通認識できるので、とても便利です」と説明する。
内装の“モノ決め”やデジタルモックアップにも活用
建築家のデザイン意図を生かしつつ、いかに合理的な施工を行うかは、常に現場の課題となる。例えば、船の帆のようななだらかな曲面からなるひさしを実際に施工する場合は、施工性を確保しつつ、デザインのイメージを生かすという相反する条件が求められる。
こうした構造物の施工図を作成するためにはBIMモデルで曲面状のスラブを分割する。曲面のイメージを失わず、なるべく大きくフラットなスラブに分割できる形状をBIMモデル上で検討するのだ。こうした検討は2Dの図面だけでは難しく、BIMならではの威力を発揮する。
設計イメージに忠実なものづくりが求められるのは、内装工事も同様だ。これまでは壁材や床材のサンプルをもとに決定することが主流だった。
奥村組ではBIMモデルで内装をシミュレーションしたり、デジタルモックアップを作ったりすることで、建材をより完成イメージに落とし込んだ状態で施主に提示し、“モノ決め”を行っている。
「断片的なサンプルと違って、BIMを使うと建物の完成イメージをそのまま表現できるため、施主からは『イメージ通りの建物ができた』と好評です。工事所からの評価も高いです」と脇田氏は言う。
さらに、一般市民へのPRにもVRを活用している。奥村組は2018年1月28日に開催された「大阪国際女子マラソン」に協賛し、大会中は特設ブースを設け、VR体験会を行った。
13歳以上の子どもや大人には、実寸大で立体視できる本格的なVRゴーグルを使って大阪市内の工事現場などを、バーチャル体験してもらった。また、12歳以下の子どもたちにも、スマートフォン用の簡易ゴーグルを使って工事現場の様子を見てもらった。
こうした企画は、普段は入れない工事現場の中を身近に見られるとあって、大好評を博し、マラソンというイベントの中で、建設業の魅力を大いにPRするのに成功した。
AIやロボットによる工事所のIoT化も視野に
BIM推進室では、これまで社内で蓄積してきたBIM活用の成功例を、社内の会議や研修会などで報告し、工事所の課題をBIMで解決するためのヒントについての情報発信を行っている。
その結果、BIM推進室には全国各地の工事所から、次々とBIM活用についての相談が寄せられるようになり、スタッフは席を温める暇もなく、全国の工事所に対応する毎日だ。
BIMを活用して現場の課題解決をスムーズに行うため、奥村組では「ハイブリッドBIM」というメニュー化を行い、問題や解決策の整理を行っている。
そして、これからのBIM活用では、少子高齢化による労働人口の減少に対応するため、AI(人工知能)やロボット、IoT(モノのインターネット)による自動化も避けて通れない状況だ。
「工事の進ちょく状況とBIMモデルを連携するような構想も考えています。また、2018年4月に設置されたICT戦略室とも連携を取りながら、AIやロボティクスRPAなどと連携したBIMの活用法も模索していきたいと考えています」と脇田氏は将来の展望を語った。
(※RPA:一定のルールに従って繰り返し行われるデータ入力などの単純作業を自動化するシステム。Robotic Process Automationの略)
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