2011年から本格的にBIMに取り組んだ同社は7年後の今、オートデスクのRevitを中心に図面・CGの作成や各種シミュレーション、干渉チェック・納まり検討までをBIMで行える設計・施工体制が出来上がった。さらにクラウドを通じて現場での施工管理や専門工事会社との連携まで、同社のBIM活用体制は広がっている。
初のBIM物件の落札から施工BIMに取り組む
2011年11月、東洋建設は国土交通省初のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)試行プロジェクト、新宿労働総合庁舎の工事を落札した。社外からも大きな注目を集めたこのプロジェクトをきっかけに、東洋建設は設計から施工へとBIMの活用を拡大してきた。
東洋建設建築事業本部設計部部長でDX(デジタル エクスペリエンス)デザイングループ長を務める前田哲哉氏は「設計部では以前から、3次元CADでCGによるプレゼンテーションなどを行っていましたが、施工での本格的なBIM活用は新宿労働総合庁舎が初めてでした」と振り返る。
あれから約7年間の年月が経過した今、同社ではオートデスクのBIMソフト「Revit」で作成したBIMデータ連携がほぼ完成した。
図面やCGアニメーションの作成から照明・熱流体シミュレーション(CFD)、干渉チェックや納まり検討、さらには4Dによる施工シミュレーションやVR(仮想現実)でのプレゼンテーション、そしてクラウドサーバーを通じた現場や専門工事会社とのBIMデータ連携まで、BIM活用は拡大した。
毎年1件ずつの施工BIMに取り組む
「新宿労働総合庁舎が無事、完成した後は毎年1件程度、施工段階でのBIM活用に取り組み、活用の幅を広げてきました」と前田氏は振り返る。
例えば2014年に施工したビー・ブラウンエースクラップ栃木工場では、設計・施工でBIMを一貫して活用した。設計変更があるたびにBIMモデルからCGパース・アニメーションを作って施主に確認し、施工承認を取りながら工事を進めていくという方法を採用した。
その結果、設計変更を行ったものの、やはり設計変更前の方がいいということになったこともあったという。また、施工段階では専門工事会社が作成した鉄骨や設備のBIMモデルと、意匠のBIMモデルを統合し、干渉チェックと納まりのチェックも行った。
その結果、施主からもイメージ通りの建物を完成することができたと喜ばれた。
また、2020年に開催される東京五輪の会場となる「海の森水上競技場」の工事では、使い慣れたAutoCADを使わず、Revitだけで施工業務をこなすというチャレンジを行っている。
3棟ある計画建物をすべてRevitでモデル化し、現場事務所で施工図まで作成。設備や鉄骨などは専門工事会社が別のCADソフトで作図したBIMモデルをIFC形式によって、オートデスクのRevitやBIMモデル統合ソフトのNavisworksに読み込み、Revitの建築モデルと統合することで納まり検討や干渉チェックなどに利用している。
BIMモデルで光と風をシミュレーション
東洋建設のBIM活用の特徴は、熱流体解析(CFD)や照明解析を自社で行っていることが挙げられる。
建物の省エネルギー性能を高めるためには昼間は太陽光を有効に利用する必要がある。そこで窓からの差し込む光が天井などに反射して、執務室内の照度分布がどのようになるのかを日射解析により求め、快適な室内環境の実現に努めている。
「見た目だけでなく、露出やシャッタースピードを調整して工学的な数値としての照度分布を求め、評価を行い、快適な執務空間が確保できるようにしています」と前田氏は説明する。
また、間接照明による「明るさ感」は、天井や壁面に仕込んだ照明機器の向きや光の反射パターンにより大きく異なるため、単純に照明機器からの距離だけではわからない。
そこで照明設計用の配光データを用いた照明解析を行い、照明器具の選定や配置検討を行っている。さらに昼間は太陽光を取り入れ、夜間は内部に照明がともるガラスブロックの間接照明にも、照明解析を活用している。
また、物流倉庫など大規模な建物は地形の3Dデータや建物のBIMモデルを使ってCFD解析を行い、3次元の風の流れをシミュレーションしたり、建物内部の気流を解析して空調による温度分布を把握したりしながら、設計を最適化することも行っている。
4Dで工程を見える化
施工段階では、工程計画をNavisworksのタイムライナー機能を使ってBIMモデルと連動させてアニメーションを作成し、見える化を行っている。
設計部DXデザイングループの星野早香氏は「現場の人からは工程がわかりやすいと喜んでもらえました。クレーンなどの車両の位置について意見をもらうこともできました」とその効果を語る。
施工性や施工手順、納まりなどを検討するため、詳細設計に基づいたモックアップもBIMの導入でデジタル・モックアップ化することができた。場所や資材を消費することなく、大規模なモデルも詳細かつ正確に表現できるほか、修正も簡単に行えるので、生産性向上に寄与している。
また、施工段階で意匠、構造、設備の図面を統合して作る「総合図」も、Navisworksによって3D化した。
「2Dの総合図を1日中見ていると非常に疲れますが、3Dで見ると疲れ方が全然違うと施工管理者から聞きました。建築、構造、設備の各部材との取り合いがわかりやすく、生産性向上につながっています」と星野氏は言う。
BIMモデルをVR、iPadでも活用
CGでもかなり実際の現場を再現できるが、実施設計レベルや施工レベルの詳細なBIMモデルをVR化し、実寸大で立体視することにより、リアルな環境で設計内容を確認することも行っている。
BIMモデルをVR化するのに使っているのがRevit Liveクラウドサービスだ。Revitで作成したBIMモデルをアップロードするだけで、VR用のデータを作成し、送り返してくれる便利なシステムだ。
設計部DXデザイングループの茂木満美氏は「実物大で設計や施工計画を見ると、細部の納まりや安全性など、VRならではの気づきがあります」と説明する。
そして、最近、力を入れているのがBIMモデルの施工現場での活用だ。オートデスクのクラウドシステム「A360」や「BIM360 DOCS」にBIMモデルをアップロードし、施工管理者が使うタブレット端末「iPad」を使用し、現場で活用する仕組みだ。
このクラウドでは、専門工事会社が作成した鉄骨や設備、エレベーターなどのBIMモデルも統合し、工事の全体像を見ることができる。足場の上や地下の基礎工事現場などでも、最新のBIMモデルを見ながら施工管理を行っているのだ。
東洋建設の建築部門では、山間地などの地方プロジェクトでは土木用のCIMソフト、Infraworksの地形モデルを利用して建物CGの背景に使ったり、Revitによる設計をアルゴリズムで制御するDynamoを使ったりと、使用するソフトの種類も増える一方だ。
2012年に新宿労働総合庁舎の施工を行ったときは、3本のRevitでスタートしたが、現在では建築・土木用のBIMソリューションをまとめたAECコレクションを25本導入するまでになった。使用するBIMソフトの種類が増えた現在は、AECコレクションを使うメリットが、ますます大きくなっているようだ。
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