東急建設が「NVIDIA GRID」の仮想デスクトップを導入
建築・土木で3Dデータを共有し生産性を向上(NVIDIA)
2018年11月4日

総合建設業の東急建設が、ビジネスの生産性を飛躍的に向上させるために「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」を全社に展開中だ。この基盤として、2016年から「NVIDIA GRID」を活用したVDI(仮想デスクトップ環境)の導入を開始。高性能なワークステーションがなくても、インターネット回線が利用できれば、いつでもどこでも高度な3次元グラフィックス処理を実行することが可能になり、現場の機動力が大きく向上した。

UiMデータの一例

UiMデータの一例

「Town Value-up Management」というブランドメッセージを掲げる東急建設は、東急グルー線などにおける豊富な施工実績を生かし、地域に密接に関わる生活産業を営む東急グループの一員として、生活者に安心で快適な生活環境を提供し、街の価値向上に貢献することを目指している。

東急建設が入居する渋谷地下鉄ビル

東急建設が入居する渋谷地下鉄ビル

また、現在進められている渋谷駅周辺の再開発工事では、大型複合ビルの建設やインフラ整備などを同社が手掛けている。

東急建設では「Shinka2020」という企業ビジョンのもと、「Shinka(深化×進化=真価)し続けるゼネコン」をキーワードにさまざまな事業領域に挑戦し、新たなゼネコン像の確立に向けた取り組みを推進している。

このビジョンに基づいた施策である「ShinkaxICT」の下でICT推進体制を整備中だ。この取り組みの中核が「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデル)」の全社展開である。

   チャレンジ

BIMは、コンピューター上に建物の3次元モデルを作成して、設計から施工・維持管理といった建築物ライフサイクルの多くの局面で情報を蓄積・活用するためのソリューション。意匠を表現するためのモデルだけではなく、構造や設備の部材、完成すれば隠ぺいされる部分までモデル化する。

さらにコストや面積などの数量情報、部材ごとの強度や物性などの付加情報も含めて、統合されたデータベースのように管理できることが大きな特徴だ。

設計に変更が生じた場合は3次元モデルそのものを修正することで、平面図やパース、数量表など関連する情報にも修正が自動的に反映される。手戻りが大きく削減できることから、建設業におけるワークフロー改革、生産性の向上が期待されている。

同社ではBIMの全社展開に備えて、現在の「BIM推進部」の前身となる「BIM推進グループ」を2013年に設置。これらの組織で連綿とBIMの導入・普及を推進してきたが、全社への展開を確実なものとするには、BIM実行環境の基盤を再構築する必要があった。

BIMでは大量の3次元データを常時扱うことになるので、GPUを搭載した高性能ワークステーション(WS)が必要になる。同社が標準機として社員に配布しているノートPCはこういった用途を想定したスペックではなく、満足に動かないのも当然のことだった。

「今から5年ほど前のBIM導入黎明期、限られた部署から普及に着手した場面では、高性能WSをその都度少しずつ導入していったのです。普及に弾みがつき始めると、このまま高性能WSを増やし続けたら、管理面などで収拾がつかなくなるのでは?と危機感を抱き始めました。中長期的な視点で考えると得策ではないとJBIM推進部で専任部長を務める越前昌和氏は当時をそのように振り返る。

「BIMを全社展開させるためのスキームを考える時、シンクライアントの一形態としてのVDIに魅力を感じてはいたのですが、高性能な実行環境、特にグラフィックス性能がネックだったんですよね。BIMソフトは操作している間じゅう、3Dデータを動かし続けることが多いものですから」と越前氏は続ける。

(左から)前保俊洋氏/越前昌和氏

(左から)前保俊洋氏/越前昌和氏

   ソリューション

そのような悩みを抱えている中、様々な情報収集やセミナー参加、デモなどを通じて出会ったのが、「NVIDIA GRID」たった。

VDIの環境にNVIDIA GRIDを導入すると、サーバーに搭載しているGPUを仮想マシンで利用できるようになる。仮想マシン1台ごとに1基のGPUを接続する形態ではなく、高性能物理GPUを仮想化し分割も可能にする「VGPU」というテクノロジーを提供することが大きな特徴だ。

この仕組みをVDIに適用すれば、BIMのような重い3次元データを頻繁に処理するユーザーへ高いグラフィックス性能を割り当てることが可能になる。仮想マシン上で実行する処理は全てサーバーが担うので、クライアント端末にはそれほど処理性能を要求しない。同社の標準機でも、BIMが利用できるようになるのだ。

同社は2016年初頭に「デルGPUソリューションラボ」(デルが検証・稼働確認用に設置している施設)でNVIDIA GRIDの検証機を試用、クライアントが汎用的なノートPCでも、高性能WSと同等の性能が得られることを確認。さらに同様の評価機器を借用して社内での運用検証を経て導入を決断する。

越前氏はこう語る。

「これら実機を使った検証で、当初問題としていたVDI上での高グラフィックス処理が、複数のBIMソフトで実用レベルと確認できました。さらに実機をお借りすることで、社内の実運用環境そのものでの検証ができたことが決め手になりました。ただ、最後にコストの問題が残ったんです。VDIが提供する仮想PC1台あたりの価格は、同等性能の物理WSと比べるとやはり高くなってしまいます」

この問題を乗り超えるヒントはソフトウェアの運用方法にあった。

「社内で使用本数が多いソフトはフローティングライセンスという管理方式が多いです。ネットワーク上にライセンスを管理するサーバーを置き、使用数を動的に監視します。一人のユーザーが一日中ソフトを使い続けるケースは少ないので、限られた本数のソフトをより多くのユーザーでシェアするライセンス形態が成立します。それなら、ハードウェアの『フローティング化』はどうかと考えると、VDIなら可能ではないかと気づいたのです。100人のVDIユーザーに供給する仮想PCの実数はかなり減らせますし、それを100人に物理PCを配布する場合と比較すれば、コストメリットのあるストーリーが描けます。これで導入の了解を得ました」

   リザルト

こうして2016年5月には、同社における過去の実績や高度な技術力、優れたサポートカなどを評価して兼松エレクトロニクスをシステム構築業者として選定。
2016年の9月から自社内に実機導入を開始した。

3カ月あまりの期間に順次サーバー数を増やしながらさまざまな実行環境をテストした結果、「これなら行ける」という感触をつかんだという。これを受けて2017年度から全社展開へ向けた本格導入を開始した。今後のスケールアウト環境を考慮した仮想ストレージとしてVSANも採用している。

2018年3月現在でVDI(VMware)のサーバーとして、建築部門で8台、土木部門で2台が稼働中だ。1台のサーバーで最大16台の仮想マシンが稼働する仕組みを標準としている。全国の拠点向けにBIMの講習会をVDIで実施し、着実にBIMユーザーの増加につなげている。「講習会の環境構築が、いつでも、どこでもできるのもVDIだからこそ。やってみて気づいた大きなメリットでした」

同社は「UiM(アーバン・インフォメーション・モデリング)」という独自のコンセプト/ワークフローへの本システムの応用も試行している。UiMは、建築におけるBIMと、土木における「CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)」を融合させた革新的な手法だ。

BIMが主に建築物を扱うのに対し、CIMでは道路や鉄道、橋梁や地下埋設物など土木部門が扱うものを管理する構造物を扱う。どちらもソフトの仕組みは似ているが、運用する部門が違えば、同時に扱われることは業界内でも少なかった。

東急建設は前述のように渋谷駅周辺の再開発工事を多く手がける中で、隣接・集中する土木や建築の工事を円滑に進めるため、部門の垣根を超えてBIMとCIMのデータを統合し、工事の計画や調整に役立ててきた。都市レベルの膨大なデータとなるUiMのハンドリングにVGPUの可変性能を活かせる環境を実現し、UiMの多地域展開に繋げたいと越前氏は語る。

運用管理の手間も大きく削減できた。ICTインフラの開発・運用を担っているICT戦略推進部システムセンターの前保俊洋氏は、その実感を次のように語る。

「BIMソフトはファイルサイズも大きく、導入時のキッティングや毎年のバージョンアップ作業にかかる時間もばかになりません。物理PCでの作業は、台数が多くても1台ずつやっていくので膨大な時間を要します。VDIならマスター環境に1回インストールすれば、あとは複数の仮想PCに自動展開。業務効率はもう、比較にならないレベルです。クライアントのPCが故障しても、仕事の続きは代替のPCがあればOK。出張先でもいつものデスクトップ、慣れた環境で仕事ができます」

前保氏はNVIDIAの技術力への大きな期待として、次のように続ける。

「GRIDの次世代機では、GPUをGPGPUとして利用できるようになると聞いて、これまでは取り組めなかった多種多様なことが実現できると期待しています。機械学習をはじめとして最新テクノロジーを駆使した新しいサービスが開発できるようになると考えています」

東急建設にとって、NVIDIA GRIDがデジタルトランスフォーメーションの基盤となる可能性を秘めているのだ。

(左から)東急建設経営戦略本部ICT戦略推進部システムセンター(インフラ担当)前保俊洋氏/建築事業本部技術統括部BIM推進部専任部長越前昌和氏

(左から)東急建設経営戦略本部ICT戦略推進部システムセンター(インフラ担当)前保俊洋氏/建築事業本部技術統括部BIM推進部専任部長越前昌和氏


【ユーザープロフィール】
東急建設株式会社
本社所在地:〒150-8340 東京都渋谷区渋谷1-16-14(渋谷地下鉄ビル)
創業:1946年3月
資本金:163億5444万円

【導入ソリューション】
仮想デスクトップ環境:VMwareHorizon、VMwarevSphere
キーアプリケーション:Autodesk Revit、ARCHICAD、S0libri Model Checker、Lumion

【問い合わせ】
NVIDIA Japan<本 社>
〒107-0052 東京都港区赤坂2-11-7 ATT新館13F
Email: https://nvj-inquiry.jp/
ホームページ http://www.nvidia.co.jp/
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