国土交通省九州技術事務所がBIM・VR研修を実施
職員自らがBIMソフトやBIMチェックソフトを操作(グラフィソフトジャパン)
2020年3月9日

国土交通省では営繕工事における生産性向上策として、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用を基本設計へと拡大した。これを受けて、九州地方整備局九州技術事務所では、営繕業務を担当する職員を対象にBIM研修やVR(バーチャル・リアリティー)研修を実施した。自らグラフィソフトジャパン製のARCHICADなどのソフトを操作した職員からは「思っていたよりも取りつきやすかった」という感想が聞かれ、今後の営繕工事での活用に弾みが付きそうだ。

営繕職員を対象に九州技術事務所で開催されたBIM研修

営繕職員を対象に九州技術事務所で開催されたBIM研修

   国交省の営繕職員が自らBIMソフトを操作

2020年1月22日~24日、福岡県久留米市にある国土交通省 九州地方整備局 九州技術事務所で、営繕部門の発注業務を担う職員向けに「BIM研修」が行われた。

受講したのは国交省や地方公共団体の若手職員やBIMによる業務を担当する職員など合計31人。机上にはARCHICADなどのBIMソフトがインストールされたパソコンが1人1台分用意され、職員自らがマウスやキーボードを操作するハンズオン形式の研修だ。

講師はグラフィソフトジャパンの大阪営業所長でBIMインプリメンテーションマネージャの志茂るみ子氏、道脇設計室代表の道脇力氏、そして麻生建築デザイン専門学校でBIM教育推進担当リーダーを務める福光春子氏と、BIMの第一線で活躍する実務者が担当した。

1日目のカリキュラムは、「BIM概論」から始まった

1日目のカリキュラムは、「BIM概論」から始まった

1日目の午前のカリキュラムでは、「BIM概論」の講義でモデルを一元的に管理する大切さ(信頼できる唯一の情報源 Single Source of Truth)や、設計フェーズごとのモデルへの情報の入力密度(LOD)など、発注者として身につけておくべきBIMの概念を学んだ。そして、午後からはBIMモデルをチェックするソフト「Solibri」を使った実習に入った。

データ交換用の共通フォーマット「IFC形式」で建物のBIMモデルを読み込み、部材同士の干渉チェックや、モデルが建築基準のルールに合致しているかどうかを確かめた。さらにそのチェック結果を、コメントとしてBIMソフトにフィードバックした。

ARCHICADで建物のBIMモデルやプレゼン資料の作成も職員自らが行った

ARCHICADで建物のBIMモデルやプレゼン資料の作成も職員自らが行った

2日目は、ARCHICADの基本操作の習得だ。壁や柱、梁ツールなどの基本的なツールを操作しながら、実際に簡単なBIMモデルを作っていく。そしてBIMモデルから一般図や建具表などを作るという作業の流れを、職員自らが体験した。

九州地方整備局 営繕部整備課建築設計審査係 稲垣 希 氏

九州地方整備局 営繕部整備課建築設計審査係
稲垣 希 氏

九州地方整備局 営繕部整備課積算係 佐々木 真美 氏

九州地方整備局 営繕部整備課積算係
佐々木 真美 氏

そして最終日の3日目は、詳細なBIMモデルのサンプルを使って実施設計の図面を作成したり、建具表を描き出したり、パースや動画などのプレゼンテーション資料を作成したりした。

その過程で、BIMモデルから面積や属性情報などの必要なデータを取り出す方法など、業務でよく使う操作も学んだ。

研修に参加した国土交通省九州地方整備局営繕部整備課積算係の佐々木真美氏は「CADに比べてBIMは難しいというイメージがありましたが、思ったよりも簡単に感じました。数量拾いも紙図面に比べてBIMの方が正確で、図面と数量表の不整合も少なくなりそうです」と感想を語る。

また、営繕部整備課建築設計審査係の稲垣希氏は「実習ではBIMで建物をゼロから立ち上げて1日で完成させることができたので、そのスピードにも驚きました。CADだと平面図や立面図などの図面を1日で1枚描くというペースでしたので、BIMでの業務効率も高いと感じました」と言う。

今回のBIM研修はARCHICADを使用したが、今後はRevitなど他の主要BIMソフトを使った研修も計画されているという。

   国交省が営繕工事でのBIM試行を拡大

職員自らがBIMソフトを操作するという本格的な研修が国交省の営繕としては全国で初めて行われた背景には、国交省が2019年度から営繕工事における生産性向上策として、BIM活用のさらなる取り組みを始めたことがある。

具体的には、BIMによる基本設計図書の作成と納品、そして施工BIMの活用を改修工事に拡大することだ。後述するが、九州地方整備局では名瀬第2地方合同庁舎が基本設計図書納品の対象となった。

もうひとつの理由としては、鹿児島市内で建設中の鹿児島第3地方合同庁舎(SRC造、地上5階・地下1階、床面積約1万1600m2)の景観デザインや地域の関係者への説明などに、BIMがとても効果を発揮したからだ。

鹿児島第3地方合同庁舎の完成予想図。建物高さ20mを守りながら5階建てを実現した(資料:国土交通省九州地方整備局)

鹿児島第3地方合同庁舎の完成予想図。建物高さ20mを守りながら5階建てを実現した(資料:国土交通省九州地方整備局)

この建物は、鹿児島の史跡や文化施設、官庁施設が集積する「歴史と文化の道地区」に位置しており、国道をはさんで、鹿児島城のシンボルとして復元中の御楼門に面している。

御楼門は高さが20mもあるため、合同庁舎前面のピロティ形状の歩行者用通路から御楼門の全容が見えるかや、敷地内のポケットパークから御楼門の写真を撮影する際に街灯などが重ならないかを確認した。また、城跡の中庭から見える庁舎が圧迫感を感じさせないかをBIMを使ってシミュレーションを行った。

鹿児島第3地方合同庁舎(左)やポケットパーク(右)からの御楼門の見え方もBIMによる景観シミュレーションで検討した(右)(資料:国土交通省九州地方整備局)

鹿児島第3地方合同庁舎(左)やポケットパーク(右)からの御楼門の見え方もBIMによる景観シミュレーションで検討した(右)(資料:国土交通省九州地方整備局)

障がい者から意見をいただくユニバーサルデザインデビューでは、BIMモデルで疑似体験をした。庁舎の入り口に設置する自動ドアは当初の計画では木製のフラッシュ戸にする予定だったが、視覚障がい者の視点で検討した結果、対面から来る歩行者と衝突する危険性がわかった。そのため透明なガラス戸へと変更された。

建物高さ20mを守りながら事務室の床面積を確保するために5階建てにする必要があった。鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)、鉄骨(S造)、鉄筋コンクリート(RC造)を適材適所に使い分けたハイブリッド構造として階高を低くおさえているが、施工段階では天井裏の設備配管の納まりを厳密に調整するといった作業をBIMモデルにより行っている。

   職員自らBIMモデルを操作する段階に

国土交通省九州地方整備局 営繕部 計画課 課長 大槻 泰士 氏

国土交通省九州地方整備局 営繕部 計画課 課長 大槻 泰士 氏

九州地方整備局 営繕部 計画課の大槻泰士課長は「鹿児島第3地方合同庁舎は、職員がじかにBIMソフトを操作するというよりも、受注者の作成したBIMモデルを発注者が事業のプロセスのなかで生かしていくという使い方でした。例えば景観審議会の中でBIMモデルから作った動画で説明したり、着工式などで地域の人にBIMで説明しました」と語る。

BIM活用は、建物の詳細な検討や合意形成に大きな成果を上げたが、BIMモデルの作成や動画の作成は設計業務を受注した梓設計や建築工事を担当する奥村組の大阪本店で行っていた。

「例えば、御楼門の建設に携わる方から『御楼門の扉が動画のなかで開くようにほしい』という要望がありましたが、それが可能かどうか即答できませんでした。やはり設計者や施工者だけでなく、発注者自身もBIMソフトを操作できた方が、コミュニケーションもよくなりますし、無理な指示もなくなるでしょう。その結果、業務の効率化も図れると思います」と大槻課長は説明する。

また、鹿児島県奄美市に建設する名瀬第2地方合同庁舎工事(RC造、地上5階建て、床面積3393m2)では、基本設計へのBIM活用を試行するという国交省の方針を受けて、九州地方整備局の営繕担当職員が自らBIMモデルを使って基本設計の審査や数量チェックなどを行うことになった。営繕部でも近日中にBIMソフトをインストールしたパソコンを導入し、活用していく予定だ。

名瀬第2地方合同庁舎の建設予定地(赤枠内)とマリンタウン地区(写真:奄美市)

名瀬第2地方合同庁舎の建設予定地(赤枠内)とマリンタウン地区(写真:奄美市)

営繕部門の職員向けBIM研修は、こうした背景からBIMソフトを扱える職員を育成する必要になったことで始まったのだ。

国土交通省九州地方整備局 営繕部 整備課 営繕設計審査官 宮崎 裕巳 氏

国土交通省九州地方整備局 営繕部 整備課 営繕設計審査官
宮崎 裕巳 氏

「ただ、国交省の職員が一からBIMモデルを作ることは考えていません。設計者や施工者から納品されたBIMモデルが正しいかをチェックしたり、微修正を行ったり、プレゼンテーションに使ったりという業務を、職員自身で行えるようにすることを想定しています」(大槻氏)。

名瀬第2地方合同庁舎工事を担当する九州地方整備局 営繕部整備課の営繕設計審査官、宮崎裕巳氏も、この研修に参加した一人だ。

「名瀬のマリンタウン地区ではまちづくり関係者が協議する場として地域連携検討分科会があります。その場でのプレゼンテーションなどにBIMを使ってわかりやすい説明ができたらと思います」と宮崎氏は語る。

   2月にはVR研修も実施

九州地方整備局 九州技術事務所では、2020年2月20日に、職員を対象とした「VR制作研修」も行った。

BIMモデルに様々なオブジェクトを配置して、人物やクルマを動かしたり、木の葉を風になびかせたり、時間を昼間や夜間に切り替えたりして、さらにリアルなVR作品に仕上げる研修だ。

BIM研修やVR制作研修が行われた九州技術事務所

BIM研修やVR制作研修が行われた九州技術事務所

自作のBIMモデルをTwinmotionに読み込み、映画のような動きや表情を与えていく

自作のBIMモデルをTwinmotionに読み込み、映画のような動きや表情を与えていく

元となるBIMモデルは、九州地方整備局が営繕部門の職員を対象に行ったコンペの応募作品として、職員自身が作成したものだ。

研修ではそのBIMモデルを、建築ビジュアライゼーションソフト「Twinmotion」に読み込み、ソフトに付属する人物や家具、樹木などの様々なオブジェクトを配置して行った。作業はメニューからオブジェクトを選んで配置するだけなので、マウス1つで簡単に行える。

研修に参加した国交省の職員たちは、作業開始から30分もたたないうちにコツを習得し、BIMモデルに映画のような生き生きとした動きや表情を与えていった。

最後はVRゴーグルにより実寸大・立体視で作品の出来栄えを確認する

最後はVRゴーグルにより実寸大・立体視で作品の出来栄えを確認する

そして、最後は本格的なVRゴーグルを使って、実寸大・立体視によって作品の出来栄えを確認した。

九州地方整備局 営繕部計画課 調査係長 本多 裕章 氏

九州地方整備局 営繕部計画課 調査係長
本多 裕章 氏

BIMやVRは、地域の関係者への説明会などで事業の内容をわかりやすく説明し、合意形成をスムーズに行うために欠かせない。

BIMやVRのソフトで「できること、できないこと」を知っていたほうが、設計などの業務を受注した企業に対して、的確な指示を行うことができる。

国交省職員自らがBIMやVRのソフトを操作してそのプロセスを学ぶことで、BIMモデルやVR作品に、発注者側の意図に基づく脚本や演出を積極的に盛り込んだ生きた作品作りが可能になる。

今回の研修を企画・運営した営繕部計画課調査係長の本多裕章氏は「われわれ発注者は、建物のユーザーに対してきちんと説明する必要があります。その合意形成のツールとして、BIMは非常に有効と感じている。研修を通してBIMを使える人を増やしていくのが目標です」と抱負を語った。

国交省営繕分野のBIM活用は今後、基本設計から施工BIM、そしてプロジェクトの全段階に求められる合意形成のためのプレゼンテーションと、広がっていきそうだ。

 【問い合わせ】
●BIM研修や営繕事業でのBIM活用に関して
国土交通省 九州地方整備局 営繕部 計画課
〒812-0013 福岡市博多区博多駅東2-10-7 福岡第二合同庁舎
tel 092-471-6331(内線5151 または5181)
ウェブサイト http://www.qsr.mlit.go.jp/n-tatemono/

●BIMのソフトウェアに関して
グラフィソフトジャパン株式会社
<本 社>
〒107-0052 東京都港区赤坂3-2-12 赤坂ノアビル4階
TEL:03-5545-3800
<大阪事業所>
〒532-0011 大阪市淀川区西中島7-5-25 新大阪ドイビル6F
TEL:06-6838-3080
ウェブサイト https://www.graphisoft.co.jp/

(Visited 52 times, 1 visits today)

関連記事
Translate »