「Vectorworks教育シンポジウム2019」レポートを掲載

2020年3月17日
    

教育シンポジウム2019

めざめ  ~  共に築く未来

「建設ITワールド」2019年10月22日掲載

                   

エーアンドエーは2019年8月21日(水)、東京・大手町サンケイプラザで「Vectorworks教育シンポジウム2019」を開催した。CAD・BIMツール「Vectorworks」を使った建築デザインやものづくり教育などに携わる教職員らを対象としたこのイベントは、今回で11回目となり、「めざめ~共に築く未来」というテーマのもとに行われた。

開会のあいさつに立ったエーアンドエー代表取締役社長の横田貴史氏は、「バーチャルリアリティーやクラウドコンピューティングなどの技術革新が進み、CADソフトにもAIが組み込まれていくかもしれない。しかし大事なのはソフトの進化ではなく、人の感性や創造性を引き出し、磨いていくことだ。Vectorworksはそのお役に立てるソフトと自負している」と語った。

今回は午前中に2つの特別講演が行われた。建築家の畝森泰行氏は「建築の公共性」と題して、建築と人間、周囲の環境との関係を「公共性」ととらえる設計の考え方について講演した。続いて株式会社バウハウス丸栄で採用を担当する笠原弘基氏とデザイナーの三浦広基氏が「進化するインテリアコミュニケーション」と題して同社の「営業設計」と呼ばれる職種の業務を通じて顧客とのコミュニケーションのあり方について講演した。

午後はエーアンドエーが学校でのCAD教育を支援する組織「OASIS」加盟校の教職員が講演する分科会や研究成果展示、OASIS研究・調査支援奨学金制度による学生の研究成果発表などが行われた。全国各地から来場した約130人の教職員らは、CAD教育の最前線からの報告に耳を傾けながら、コミュニケーションを図っていた。

           

特別講演:畝森泰行建築設計事務所 畝森 泰行 氏

建築の公共性

設計事務所を設立して今年で10年になるが、いつも建築の公共性について考えてきた。その対象は、個人住宅から公共施設に至るまで同じだ。今日はそのことについてお話ししたいと思う。

公共性にはいろいろな意味がある。例えば、公共施設の設計では、発注者である自治体の職員や設計者、施工者、またワークショップに参加する子どもからお年寄りまで、数千人もの人々が関係する。建築が持つ集合性だ。

一方で、例えばシエナにあるカンポ広場は、緩やかに床が傾斜しているため、人々が寝そべったり、パフォーマンスをしたり、時には競馬などが開催されることもある。建築空間は時として多様な機能や居場所を生み出す場になる。

このほかにも、ミースのトゥーゲントハット邸は、戦争中には馬小屋になり、戦後は障害を持つ子どもたちのリハビリセンターになった後、国の歴史を変える調印式が行われ、世界遺産になった。時代とともに建築の機能や目的が大きく変化することもある。

畝森泰行建築設計事務所 畝森 泰行 氏

公共性とは、駅や道、公共施設のように「誰もがアクセスできる」という意味が一般的だ。私はその延長で建築には「個人を超えて他者に開かれる場」、「複数の可能性を創造できる場」としての公共性もあると考えている。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの普及で自分の興味のある対象だけで生活が成り立ってしまう今だからこそ、自分の想像を超えて他者が存在するリアルな建築空間が重要と考えるのだ。

公共性を持つ建築を目指すために、私はさまざまなスケールの模型を作っている。例えば個人住宅を設計する場合、100分の1の小さな模型から20分の1、10分の1、5分の1、さらには1分の1の部分模型までを作る。いろいろなスケールを横断し、さまざまな角度から検討することで、街からの視点や身体的な視点など複数のイメージを掴んでいく。

図面もフリーハンドのラフスケッチと、精度を重視したCAD図面を同時に描く。ディスカッションも頻繁に行い、事務所のスタッフ、施主、エンジニアなど、さまざまな人たちと打合せや議論を重ねることで、その建築の公共性が見えてくるのだ。

さまざまなスケールの模型を作り、いろいろな人とディスカッションを重ねることで建築の公共性が見えてくる

こうした方法で設計した住宅や公共施設について紹介したい。まずは、都内の住宅密集地に建てた小さな住宅だ。34㎡という狭い敷地をぎりぎりまで使うのではなく、建築面積を小さく、その代わりに建物を高くして、塔のような住宅を作った。

それによって住宅の周りに空地ができ、風通しや日当たりのよい場所になるからだ。それは施主のためだけではなく、周囲の民家にも光や風を届けることになる。

この住宅は、地上4階、半地下1階建てで、建物のフットプリントは4m四方しかない。内部はらせん階段が各階をつなぐシンプルな計画だ。建物が小さくなった分、窓から入った光が部屋全体を突き抜け、窓を少し開けただけで風が通り抜けていく。

屋外環境と一緒に暮らしていく感覚が生まれる。この家に暮らす親子3人は、夏は涼しい半地下の部屋に寝て、冬は暖かい3階に布団を敷いて寝るという動物のような暮らし方をしている。プライベートな空間だが、小さな部屋を縦に重ねることで、生活の変化や異なる使い方が生まれた。

周囲の日当たりや風通しを考慮して塔のように建てた住宅

次は東京・山手通りの拡幅に伴ってできた、わずか24㎡の残地に建てた高さ17m、5階建ての店舗併用住宅だ。私と同い年の男性一人が購入し、住居とかばん店として使っている。隣には高さ40mほどの巨大なマンションが建っている特異な場所だ。

狭い敷地なので平面的な自由度はほとんどないが、その分高さ方向には可能性があった。天井高を1階は最も大きくし、5階に行くに従って徐々に低くした。構造の応力が変化し、下の階は柱梁が大きく、上の階ほどそのサイズが小さくなる。そのため1階は天井の高い垂直方向の広がりが生まれ、上にいくにつれて窓が大きく水平方向の広がりが生まれる。

地面から離れるほど山手通りの騒音が薄れ、明るさも変わり、周囲の視界も開けてくる。この都市環境の変化を建築化することで、将来の施主のライフスタイルの変化も受け入れていくと考えた。

上階に行くに従って天井高を低くし、窓を大きくすることで縦方向の音や採光などの環境の変化を建築に取り入れた

3つ目は統廃合された小学校を教育と福祉の複合施設に改修し、校庭に新たに図書館をつくるプロジェクトだ。ここでは校庭のイメージをできるだけ継承するため、外壁をカーブさせて回遊性を生み、校舎や体育館への動線を確保するように設計した。

新築になる図書館の屋根は、天井高が緩やかに変わるように大きくカーブさせた。一つの空間の中に、明るく開けた場所や閉じた場所などさまざまな居場所ができる。それは多世代の人が自由に使う、図書館という機能を現す空間でもある。

東日本大震災の復興事業である福島県須賀川市の須賀川市民交流センターtetteは、東西の通りをつなぎ緩やかに傾斜する敷地に建つ5階建ての公共施設だ。図書館と公民館、子育て支援、ミュージアムなどからなる複合施設で、大手組織設計の石本建築事務所と、アトリエ系の私の事務所がチームを組んで設計した。

さまざまな居場所をつくるため、屋根の高さを緩やかに変化させた

この施設では各階のスラブを少しずつずらして積層している。これによってスラブが飛び出した部分はテラスになり、引っ込んだ部分には吹き抜けができる。テラスで活動する人の姿が被災した街を元気づけ、また内部では、異なる機能やフロアの間に空間的な交流が生まれることを目指した。

約2.5mある敷地の高低差を、1階の床にそのまま取り入れた。さらに吹き抜けを介して各階をつなぐスロープや階段を設け、天井の高いところや低いところ、軒下やサンルームなどさまざまな場所をつくった。

各階のスラブをずらして重ねることでテラスや吹き抜けを作り、人々の活動が見えるようにした

設計当初に行ったワークショップでは、参加した市民から「調理室の近くに料理や食育の本を置いてほしい」「屋内遊び場のエリアに絵本を置いてほしい」などの意見も出た。つまり、利用する市民は機能を横断的に使うことを求めているのではないかと気づかされたのだ。

そこからわれわれの考えが変わり、図書館や公民館といった管理的な機能で分けるのではなく、活動に合わせて情報や本を配置する、施設全体が図書館であり活動の場であるような、機能の融合を目指すことになった。この機能融合を実現するのは大変なことだったが、開館し利用する人々の姿を見ると、街のなかを歩くような、さまざまな発見や出会いが生まれる場になっていると思う。

いま、改めて建築がつくる公共性が求められているのではないか。実空間だからこそ生まれ得る、他者との関わりや発見、創造性が、建築をつくること自体が問われるいまの時代に必要に思うのだ。決して一人ではできない、多くの人とつくりあげる建築という大きな可能性に今後も挑戦していきたい。

       

特別講演:株式会社バウハウス丸栄 三浦 広基 氏、笠原 弘基 氏

進化するインテリアコミュニケーション

バウハウス丸栄は建設業の中でも、建物の内装工事を行う「内装仕上工事業」に分類される。住宅・インテリアの空間デザインやディスプレイを行う職種ととらえられることもある。

公共施設やオフィス、レジャー、イベントなど、人が集まる商業施設のデザインを主に手がけている。営業から設計、施工、メンテナンスへと続く業務フローがあるが、当社の社員の約70%がその初めから終わりまで一貫して行う「営業設計」を担当しているのが特徴だ。その一方で、企画・デザインを専門とするデザイナーなどの専門職もいる。

では、実際に新入社員として入社した学生が、当社内でどのように成長していくのかを、デザイナーの三浦を例にとって紹介しよう。

株式会社バウハウス丸栄 バムプランニングオフィス デザイナー 三浦 広基 氏(左)業務管理部主任 笠原 弘基 氏(右)

名古屋市立大学芸術工学部都市環境デザイン学科で学んだ三浦は、2010年に当社に入社し営業設計職に配属された。その1年後、企画・デザインの専門職に異動し、現在に至っている。この中で「進化するインテリアコミュニケーション」を体感することができた。

Vectorworksとの出会いは、大学3年生で「インテリアデザイン」という選択授業を取ったときだった。名古屋市内の実際の空き物件を対象に企画設計の課題が出た。そこでカメラ好きの若者を対象にしたギャラリーのような場を企画して、プレゼンテーションを行った。このとき、初めてVectorworksを使って、3Dパースを立ち上げたのだ。

表現としてはつたないものだったが、3D表現ができ、提案の中に盛り込めるのは大きな魅力だった。

2007年には初代iPhoneが登場した。今から思えば、こうした直感的なデバイスが登場したときが、コミュニケーションのターニングポイントになったと思う。

就職活動を行った2009年は、リーマンショックの翌年ということもあって大変だったが、なんとかバウハウス丸栄に入社し、営業設計職となった。それからの仕事を紹介しよう。

大学3年の「インテリアデザイン」の授業がVectorworksとの出会いだった

初めに担当したのは、大手靴チェーン店のエスカレーター開口部の脇に貼るグラフィックのデザインだった。学生時代と違って、絵に描いたものがそのまま実物になることに対して、大変な緊張を感じたのを覚えている。

顧客への提案には合成写真を使ってコミュニケーションを図った。担当する仕事の範囲も、店内の家具からコーナー、店舗全体と広がっていった。

靴店のあるブランドコーナーを担当したときは、顧客とのコミュニケーションには3Dパースを使って打ち合わせを進めた。コーナーの形や色味、柄などを変えたCGパースを作成した。

デザインの方向性が決まった後は、陳列壁面の形や商品の量などを考慮しながら、現実的にどのようなものを作るのかについて、打ち合わせを進めた。その間、3Dのパースで意思疎通を図りながら、製作・施工のための図面化を行うという流れだ。

施工の打ち合わせになると、打ち合わせの相手も家具や大工工事、電気工事、照明、塗装など専門工事会社の数だけ増える。この工事の場合は14社にものぼった。店舗改装は営業終了後から翌日の朝までの間に、解体から施工までを終えなければならないという緊張感がある。

靴ブランドショップのエスカレーター脇のグラフィックプラン

2年目には企画・デザイン職に異動した。ここでは居酒屋から化粧品店まで、幅広い業種を対象に提案業務に特化した仕事を行っている。商業デザインでは、来店客に入ってみたいと思わせる「売れる店舗」作りが重要だ。

ある居酒屋の店舗デザインでは、外装のデザインも3Dで提案し、打ち合わせによってカジュアルなイメージに修正した後、3Dパースそっくりに完成した。

また、ある書店の内装デザインは「新たな興味のキッカケとなる導線」「子どもの好奇心を刺激する」など5つのポイントを色分けして平面図上に示した。その脇に鳥瞰(ちょうかん)パースもつけて意図が伝わりやすいようにした。

クライアントは本のジャンルを示すサインが、店内のあちこちから見やすいかを気にしていた。そこで新たなコミュニケーション手段として動画を使った。店内を歩き回る人が見た店内の風景を、Vectorworksの3Dモデルを使ってウォークスルームービーにしたのだ。

サインの見やすさを確認する目的もあったが、これから造る店内の様子がわかったことでクライアントにはとても喜ばれた。その結果、コンペを勝ち抜いて工事の受注につながった。店舗もムービーのイメージ通りに完成したため、特にトラブルもなかった。

カジュアルなイメージで入りやすくした居酒屋の外装デザイン

ある洋菓子店のデザインでは、内装にケーキやホイップクリームの形を生かした。この物件では、クライアントとは3Dパースや動画を使って打ち合わせを進め、基本図の作成まで3Dモデルを生かしたのが特徴だ。

動画でのプレゼンには、iPhoneも使った。iPhoneの画面上で指をスライドさせると、店舗がぐるりと回転するような見せ方をしたのだ。2007年に登場したiPhoneは、建築プレゼンにも進化を及ぼした。

iPhoneによる洋菓子店デザインのプレゼンテーション

最近の打ち合わせでは、ノートパソコンを持ち込むことが多くなった。アパレルショップの試着室のデザインでは、3Dパースを使って色や構造の打ち合わせを行った。試着室の内部構造を説明するときは、その場で壁を透明にして意思疎通を図った。試着室の上にある梁との位置関係もわかりやすいと好評だった。

このようなパース作りを繰り返していると、だんだん、手になじんできて粘土細工や建築模型を作っているのと同じ感覚になる。どんどん進化していくコミュニケーションツールを追い続けていくことは重要だ。

当社は新卒者には即戦力ではなく、「企業が求める人材に成長できる」ことを求めている。そのためには謙虚な姿勢や元気さとともに、他人と直接的にかかわるコミュニケーション能力が欠かせない。建物や店舗づくりは、多くの人々とかかわる仕事だからだ。

最近の打ち合わせでは、ノートパソコンを持ち込むことが増えてきた

               

  • このほかの特別講演、分科会、OASIS研究・調査支援奨学金制度成果発表、展示会場などの詳細はPDFファイルをご覧ください。
  • この事例は株式会社イエイリ・ラボの許可により「建設ITワールド」で2019年10月22日より掲載された記事をもとに編集したものです。講演者の所属、肩書き等は取材当時のものです。
  • 記載されている会社名及び商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。 製品の仕様は予告なく変更することがあります。

 詳しくは、エーアンドエーのウェブサイトで。


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