インクの正体はニガリ?ピサの巨大3Dプリンターを見てきた!
2011年7月28日

管理人のイエイリです。

先日、イタリアのピサで小規模な建物くらいは作れるという巨大な3Dプリンター「D-SHAPE」の概略を当コーナーの記事でお伝えしました。

今回、ピサで開催されたバーチャル・リアリティーの専門家会議「「World16 Summer Workshop」を取材しに現地を訪れた私は、D-SHAPEとはどんなマシンで、材料は何を使っているのかを確かめるため、実物を見に出掛けました。

宿泊先のグランド・ホテル・ドゥオーモに迎えに来てくれたのは、開発者であるエンリコ・ディニ氏のお兄さん、リカルド・ディニさんでした。

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兄のリカルドさん(右)と弟のエンリコさん。仲が良さそうな兄弟です(写真:家入龍太。以下同じ)

二人が経営するディニテック社の社屋
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社屋の内部。サイズや構造がやや違うD-SHAPEが2台置いてあった D-SHAPEで造形した出荷前の家具でくつろぐリカルドさん
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オリジナルタイプのD-SHAPE。材料の自動供給装置がなく、シンプルな構造。工場内で移動させるときは天井走行クレーンとフォークリフトを使う 改良型のD-SHAPE。材料の自動供給装置や締め固めローラーなどが追加されている。柱の下には移動用のローラーが付いている

ナ、ナ、ナ、ナント、D-SHAPEは、

 

二人の兄弟で開発

 

され、現在も進化が続いているマシンだったのです。

二人ともピサ大学出身で、エンリコさんは土木工学、リカルドさんは機械工学を専攻しました。エンリコさんが巨大3Dプリンターの開発を数年前に思いついたときから、リカルドさんはサポート。

土木屋さんと機械屋さんの兄弟が二人三脚で、「ディニテック社(Dinitech SpA)」という会社を設立して、機械の構造や造形に使う材料について妥協のない開発を進めています。

現在、3Dプリンターを使ったオブジェや家具の製作の注文が次々と舞い込んでおり、週に一つのペースで製作しているそうです。

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オブジェの出荷準備。空洞部分には発泡性の材料を詰めて損傷を防ぐ

フレーム状になっている部分の上辺と左右は、“梱包材”の役目をするもので、現場に設置後、取り外す

D-SHAPEが3Dモデルのデータを基に模型を作る原理は、石膏などの粉末を薄い層状に敷きならしては「接着剤」を模型の断面部分に噴射して造形するタイプの3Dプリンターとよく似ています。

接着剤となるのは、商品名「d-salt」(別名“構造インク”)と呼ばれる液体です。造形材料となる砂の中には「s-sand」という混和材を混合しておき、20mm間隔で“プリンターヘッド”に取り付けられた300本のノズルから構造インクを建物などの断面部分に吹き付けることにより、反応が始まり、17~20時間で固まります。

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“プリンターヘッド”に20mm間隔で取り付けられた300本のノズル

材料の敷きならしごとに締め固めを行うローラー

一層の敷きならし厚さは5mmで、ノズルはd-saltを1回噴射するたびに5mmほど横方向に移動して再度噴射。これを4回繰り返して5mm幅の精度で構造インクを吹き付けていきます。

面白いのは、次の層を敷きならした後、ローラーで「締め固め」を行うことです。そして、コンクリートの打ち継ぎと同じく、1層の構造インクの噴射が終わった後は、なるべく早く次の層の噴射を行うことが“コールドジョイント”を防ぐために重要とのことです。

ところで、構造インクと混和材とは、いったいどんな材料なのでしょうか。現場には“構造インク”の入ったバケツなどがあちこちに置かれていました。

指を突っ込んでみると、とろとろとした感じの液体です。勇気を出して、恐る恐るなめてみたら、とても苦辛い味でした。リカルドさんに聞いてみると、海底近くの海水を採取し、塩化ナトリウムを何回も取り除いて作った液体だそうです。

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構造インク。とろとろした感じの液体です。固まったり蒸発したりしないとのこと

構造インクと混和材を混ぜたところ
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においをかぐと、硫黄のにおいがします 硬化後の材料は平滑な型枠に入れた場合はつやつやしています

ということは、構造インクの正体とは、豆腐を作るときに使う

  

にがりのようなもの

 

かもしれませんね。また、構造インクと反応させる混和材も、海底の土を加工して作るようです。

現在は人間の手では作れないオブジェや彫刻、家具などをメーンに作っているとのことですが、将来、鉄筋の代わりになる補強材を入れる技術が開発されれば、建築物を作り出すことも夢ではありません。

D-SHAPEを使って建物を作る現実的な方法としては、緊張ケーブルを通す穴やコンクリート打設用の空洞を設けたブロックを作り、これを組み立てる方法が考えられます。

要するに、自由な形状のプレキャストブロックを作って組み立て、プレストレストコンクリートのように緊張力を導入する方法です。

または、内部の空洞にコンクリートを打設するための「打ち込み型枠」のような感覚で使うといいかもしれません。

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自由形状のブロックに分けて造形したものを組み立て、ケーブルで補強して大きなオブジェを造っている例

ブロックの断面。ケーブルを通す穴がいくつか見える

エンリコさんとリカルドさんは、受注したオブジェの制作で多忙な毎日を送っており、マシンや材料の改良などの研究開発には、なかなか時間が割けないのが実情です。

「もし、高い技術を持った日本の機械メーカーと組んで、マシンを改良することができるなら、われわれは大歓迎です。ビジネスマンであるとともに、エンジニアであるわれわれの夢は、実際に使える建物をD-SHAPEで造ることなのです」と、リカルドさんは熱く語ったのでした。

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World16でも、飛び入り的にエンリコさんの講演が行われた

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