Vectorworks教育シンポジウム2016
デザイン教育におけるCAD活用の現状とこれから
「テーマ:デザインシミュレーション」(エーアンドエー)

2016年10月18日

 2016年8月19日(金)、東京・大手町サンケイプラザで毎年、恒例の「Vectorworks教育シンポジウム2016」が開催された。Vectorworksを教育に活用する教職員をはじめ、学生、企業を対象としたこのイベントは、今年で第8回を迎え「デザインシミュレーション」がテーマとなった。

エーアンドエー代表取締役社長の川瀬英一は、開会のあいさつで「最近、デザインには芸術性だけでなく、周辺の環境負荷やCO2排出量、避難経路や災害対策も含めたシミュレーションが求められるようになってきた」と、デザインシミュレーションをテーマに選んだ背景について語った。

午前の特別講演では、オンデザインパートナーズの西田司氏とシナトの大野力氏が、新しいデザインアプローチについて語った。午後は2つの分科会に分かれ、OASIS加盟校の教職員がVectorworksや熱環境シミュレーションソフトのThermoRender Proなどを活用したデザイン教育について、教育現場の最前線から講演した。

このほかOASIS奨学金の授与者発表や、昨年の授与者による研究成果発表、OASIS加盟校の研究成果の展示コーナーも設けられた。来場した約150人の教職員らはVectorworksの教育現場での活用について情報交換や交流を図っていた。

Vectorworks教育シンポジウム2016の開会あいさつをするエーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長

Vectorworks教育シンポジウム2016の開会あいさつをするエーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長


特別講演

プレゼンテーションの工夫

 20161004-aaa-02
株式会社 オンデザインパートナーズ
西田 司 氏

私の事務所ではVectorworksを使っている。その用途はCGや図面だけに限らず、模型やスケッチ、プレゼンテーション資料のフォーマット作りまで幅広い。今日は、普段心がけているクライアントとのコミュニケーションで行っているプレゼンテーションの工夫についてお話したいと思う。

1999年、23歳で事務所を設立した。当時、まだ駆け出しの若者がデザインを提案するときに心がけたのは、自分からデザインを伝えていくのではなく、他者の要望を引き受けるようにしたことだ。いわば、他者に頼った設計手法だが、この方法によってデザインはどんどん新しくなっていくことを実感した。

例えば、「森に住みたい」、「都心に買った間口3.5mの土地に住宅を建てたい」、「友達同士が1軒の家に集まって住みたい」、「日ごろは会社勤めだが週末だけ店をやりたい」など、さまざまな要望だ。こうした一人ひとりの生き方を実現する建築を作っていくと、建築自体が変わっていくのではないかと感じている。

間口3.5mの土地に建てた住宅

間口3.5mの土地に建てた住宅

その中で私が大切にしていることは、対話やヒアリングといったコミュニケーションだ。この過程では、プレゼンテーションの工夫が欠かせない。その1つ目として、設計事務所の設計環境をオープンにすることを大事にしている。

私の事務所には20人のスタッフがいる。つまり、20人のキャラクターを生かした設計手法がとれるのだ。従来の設計事務所では、一人の建築家のひらめきを実現するためにスタッフが存在する。しかし、その方法は少し古いのではないかと感じている。

最近のサッカーでは、スーパースターが一人で突き進んでゴールするのではなく、チームメンバーがパスを回しながらゴールを目指すという戦術に変わっている。だれがゴールするかでなくボールに触れた分だけ前に進むことが重要だ。建築の設計手法も、パスサッカーに似た方法がとれるのではないだろうか。つまり対話というパスを回しながら、目的となる建築物を実現する方法だ。

私はこの方法を対話によるデザインと呼んでいる。施主や工事関係者、そして建物を使う人など複数の人のアイデアが融合することで、開かれた建築となり、完成後も建物は自走していくことになる。

プレゼンテーションの工夫の2つ目は模型だ。模型を使うとき、重視しているのは生活の楽しさを伝えることだ。例えば、倉庫をリノベーションして住宅にするときは、天井高の高さを模型で表現し、天窓を開けたり、外部空間を中庭として取り入れたりするアイデアの提案に使っている。

模型作りで心がけているのは、一つひとつの部屋の生活風景を丁寧に作り込むことだ。例えばレコード好きのご主人の部屋には、たくさんのレコードを棚に詰め込んだり、絵が趣味の奥さんの部屋にはイーゼルを置いたりといった具合だ。寝室は寝るだけで良いと言われた小さな寝室の場合には、ベッドの模型を置いて部屋に対するベッドの大きさがわかるようにする。

小屋のような家に住みたいという施主の要望をイメージするのにも、模型が活躍した。それまで建築設計はミリ単位で精密な検討を行う作業と思っていたが、そのプロジェクトは地図上に小屋を配置していくような設計手法をとった。模型を使って敷地内の建物や畑、薪置き場などを配置し、施主と共に生活のイメージを作っていった。

また、10階建てのコーポラティブハウスである「コーポラティブガーデン」の設計では、構造部分を「スケルトン」、各戸部分を「インフィル」とする自由度の高い形式を採用し、イメージ作りに模型を活用した。各階で外壁の形や位置、庭の配置も自由で、外部の緑道に近い階は広いテラスも設けた。その結果、犬好きな人、ヨガ教室を開く人など、さまざまなライフスタイルを縦に積み上げたユニークな建物ができ上がった。

「コーポラティブガーデン」の模型。各戸のライフスタイルが具現化されている

「コーポラティブガーデン」の模型。各戸のライフスタイルが具現化されている

模型には言葉の壁も越える力もある。さまざまな国から留学生が集まる国際学生寮の模型や、ベネチア・ビエンナーレで展示した5分の1スケールの模型は、言葉が違っても文化が違うライフスタイルをよく伝えることができたと思う。

3つ目のプレゼンテーションの工夫はスケッチだ。島根県の隠岐の島では築95年の民家を改修し、中に開かれた通路のある学習塾を作った。このコンセプトを伝えるのに、スケッチを使った。

同じ会社に勤めるご夫婦の希望した住宅は、サーフィンが好きなご主人と、音楽が好きな奥さんそれぞれが週末は別々に過ごせる3階建ての家だった。そこで2軒の家を対面させ、吹き抜けでつないだ家を提案した。また、斜面の上に建てたある住宅は、既存の樹木が屋根を貫いたようなデザインだ。これらの建物では建物のコンセプトや、住宅と周囲の木々との連続性などをスケッチで表現し、クライアントとプロジェクトの価値の共有に活用した。

音楽好きな奥さん、サーフィン好きなご主人それぞれを家に見立てたコンセプトをまとめたイラスト

音楽好きな奥さん、サーフィン好きなご主人それぞれを家に見立てたコンセプトをまとめたイラスト

4つ目の工夫はCGだ。その1つは横浜ベイスターズが進めている横浜スタジアムのボールパーク化構想だ。野球ファン以外の市民も楽しめる横浜スタジアムの改修計画の提案にCGを使っている。日本大通りから球場内が見える様子などを表現した。

横浜スタジアムのボールパーク化構想。日本大通りに開かれた視界などをCGで再現

横浜スタジアムのボールパーク化構想。日本大通りに開かれた視界などをCGで再現

残念ながら落選したが、ペルーのリマの美術館の増築プロジェクトのコンペにもCGを活用した。スロープ状になった前庭からの美術館の見え方などをCGで表現した。地下階の層でも吹き抜け部分から太陽光が差し込んでくる様子や日影空間などを説明した。

人の思いなど、見えないものに構造を与えて見える化するのが建築家の仕事ではないかと思う。これからの建築のデザインは、従来のように建築家だけが提案するのではなく、多くの人の知恵と建築家がインタラクションすることで、双方向からのアイデアを融合することで新しいものができていくのではないかと考えている。


特別講演

つくる方法をつくる

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株式会社シナト
大野 力 氏

今日は5つの作品を通じて、日ごろ私が考えている「つくる方法をつくる」ということについてお話したい。

まずはマンションのリノベーション事例だ。先ほど講演された西田さんが建築部分のリノベーションを担当し、私は5~6戸のインテリア部分を担当した。そのうちの1戸を紹介する。もとは68㎡のごく一般的な3LDKの間取りだ。

場所は南西の角部屋で二面開口されており採光や通風は抜群だ。小高い丘の上に立っているので眺望もよい。施主からは既存の間取りを解体してゼロからリノベーションし、プライバシーの保てる2部屋を作りたいという要望が寄せられた。

通風、採光の良さを最大限に生かすには、間取りを細かく分けず、なるべく大きな空間を作りたい。その一方で、耐力壁があるのでこれを撤去することはできない。そこで、この耐力壁の両側に2部屋のスペースを確保し、南と西の開口部がつながるL型の大きなスペースを残した。

 

耐力壁部分をはさんで2部屋を確保し、西側と南側の窓をつなぐ広いスペースで通風、採光性を生かしたマンションのリノベーション

耐力壁部分をはさんで2部屋を確保し、西側と南側の窓をつなぐ広いスペースで通風、採光性を生かしたマンションのリノベーション

これらの部屋にはあえて建具を設けず、部屋の周辺部に設けた「インナーテラス」というスペースにつながるようにした。この「インナーテラス」は部屋の一部と認識することもできるし、リビングの延長としても認識できる。また、洗面所は窓の横に移設した。もともと居室のために設けられた窓だが、一日の始まりに太陽の光を浴びるための装置として解釈した。

生活の機能をぶつ切りにして作られた3LDKの間取りの各部を “誤読”し、新しいデザインに取り入れたのだ。

次の事例は物販店舗のデザインだ。もともと1階と2階が別々になっていたが、2つの階を1つの店舗として一体的に使うため内部に階段を設けることになった。しかし、建物の構造上、設置できるのは店舗のど真ん中に限られた。

店舗の中でも最も有効に使いたい場所だけに、階段を単なる昇降のための装置にはできず、商品の陳列や試着など家具としての機能を持つ階段にすることを考えた。1段目は大きなステージ、2段目は靴の試着に使えるベンチ、6段目の踊り場は商品の陳列棚を兼ねる、10段目に隣接する試着室の屋根や1階の天井造作はディスプレイテーブルに使う、といった具合だ。

この階段があるため、1階は空間が細かく仕切られてしまう。そのため2階は建物の長さを最大限生かして長さ20mの連続した空間にした。

天井はスケルトンにして配管やダクトがむき出しのまま仕上げた。こうした粗い仕上げは図面では表現できないので、現場と図面をセットで考えるデザインの作り方を採用した。

ステージ、ベンチ、商品陳列棚など店舗の機能を担う家具として設計した階段。天井はスケルトンとして設備がむき出しになっている

ステージ、ベンチ、商品陳列棚など店舗の機能を担う家具として設計した階段。天井はスケルトンとして設備がむき出しになっている

次は柔らかいプロジェクトを紹介しよう。イタリアで毎年、開催されるミラノ・サローネ展に出展した有機ELメーカーからの依頼でデザインしたインスタレーションだ。

有機ELとは紙のようなペラペラの光源が面発光する照明技術だが、一般への普及はこれからだ。そこで有機ELの可能性を感じられる空間を作ってほしいというリクエストだった。

奥に細長い展示スペースを上下2段に斜めの床で区切り、入り口から2階に上がる階段を設けた。坂道の下半分に多数の有機ELを配置し、その床部分に流したフォグに有機ELの光を反射させた。

来場者は階段を上っていくと初め天井と思っていたものが床になり、その奥にフォグに浮かんだ有機ELが見えるという趣向だ。プロジェクションマッピングのように計算され尽くしたプレゼンテーションでなく、自然な動きの中で状況が変わっていくデザインの作り方だった。

有機ELを使ったインスタレーション。有機ELの可能性を表現

有機ELを使ったインスタレーション。有機ELの可能性を表現

去年、フランスのパリ市内で夜通し行われたアートイベントでは、工事中の駅トンネルでのフォグを使った展示を依頼された。しかし、現場は風が吹き抜けるため、フォグはトンネル内にたまらず、すぐに流出してしまう。

そこで考えたのは、30m×20mくらいの巨大な布を使ってフォグを包んでしまう方法だった。そこにいろいろな色の光を拡散させて、さらに新しい色を作り出した。

布なのでフォグを密閉することはできず、フォグは布を通り抜けることができる。フォグが抜け出る量は一定しておらず、風の強さや温度、気圧などの関係によって変わるのだ。

その結果、トンネル内がフォグで充満することもあるし、フォグがはみ出ていないときもある。それがとても自然の気候を感じさせるのだ。

パリで工事中の駅トンネルで行われた展示。布からときどき、フォグがはみ出て自然の気候を感じさせる

パリで工事中の駅トンネルで行われた展示。布からときどき、フォグがはみ出て自然の気候を感じさせる

最後に紹介するのは、JR新宿駅新南エリアのバスターミナル下に設けられた駅施設や商業施設(NEWoMan)、人工地盤上の広場などをデザインした例だ。

これまで、店舗はいくつもデザインしてきたが、複数のテナントが入居する商業施設全体のデザインを手がけたのは、このプロジェクトが初めてだった。

そこで気になったのは、共用部分と専用部分の空間の在り方だ。いろいろな例を調べてみると百貨店の場合は、共用部分と売り場部分が一体的にデザインされていることが多かった。また、郊外型のショッピングモールなどは共用部分の面積や気積が圧倒的に大きい場合もあった。

一方、NEWoManのような駅直結の都市型SCでは、レンタブル比の最大化が求められるため、共用部分の面積が極めて小さく、幅2.5m程度の通路だけで成り立っている。この通路をどのようにデザインするのかが私にとって大きな課題だった。

そこで考えたのは、共用部と専用部の境目をぼかし、入り組ませることだった。例えば共用部の中心に通路に沿ってライン照明を設けた場所では、その両側の天井部分は左右にある店舗の天井仕上を通路中心まで延長させて、各テナントが契約面積を越境するようデザイン規定を設けた。

JR新宿駅直結の商業施設 NEWoMan。幅2.5mの通路の天井は中央部分にライン照明を設け、両側の店舗の天井を延長することをデザイン規定に盛り込んだ

JR新宿駅直結の商業施設 NEWoMan。幅2.5mの通路の天井は中央部分にライン照明を設け、両側の店舗の天井を延長することをデザイン規定に盛り込んだ

また通路幅が狭く、見通しが悪い部分は通路に面する店舗の壁を1.5m程度、透明ガラスで作ることをデザイン規定で決めることにより、少しでも通路を広く感じさせ、客動線がスムーズに流れるようにした。

このような商業施設の全体的な風景は、複数の店舗によって作り出される。直接コントロールのできない他者性を内包しながらデザインの質を上げていくには、価値基準となる物差しを決めて、「つくる方法をつくる」こともデザイナーの仕事として重要と考えている。


OASIS研究・調査支援奨学金制度研究成果発表

2015年度のOASIS研究・調査支援奨学金制度のテーマは、「<共存から共生へ>をデザインする」だった。奨学金を授与された5グループの代表者が、研究成果を発表した。


金沢のら地研究

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金沢美術工芸大学 デザイン科
堀場 絵吏さん

金沢には文化的価値が与えられやすい建築物や観光地の陰に、小さいが金沢らしい特徴のある「金沢のら地」という建物や風景が点在する。その隠れた価値を再評価し、魅力を発信していく活動を行った。

活動の内容は町を歩き、気になった建物や風景を写真に撮り、月に1度の打ち合わせの場で報告するフィールドワークがベースだ。そして物件を法規や確認申請書類、土地の歴史に照らして調べ、住民にインタビューした。調査した約50件は、ウェブサイト上の地図に表示し、図や写真、解説文で物件の情報を詳しく見られるようにした。

「のら地」の代表例に「私有橋」がある。沿道から用水路をまたいだ住宅に架けられる橋で、大きさなどが用水保全条例で規制されている。ある住宅では私有橋の両脇を花壇にし、緑が用水路をまたぐ風景が作られていた。切ってはならない保存樹と共存しながら増築した結果、屋根から松の木が突き出しているような風景もある。

私有橋の両側を花壇にした住宅。奥の松の木は屋根から突き出している

私有橋の両側を花壇にした住宅。奥の松の木は屋根から突き出している

また、ある住宅では、コンクリート壁のような用水の堤防にはしごをかけ、犬走りまでアクセスできるようにしていた。そこに樹木や草花を植えて、殺風景な景色をほほえましい風景に変えていた。

「のら地」の風景は、土地と金沢の歴史と住民の個性によって作られ、時代とともに変わっていく。今回の研究は2016年の金沢を切り取ったものだ。研究成果をもとにガイドブックも制作した。今年10月には町歩きを楽しめるイベント型展覧会を開催する計画だ。

研究成果をもとに制作した「のら地」ガイドブック

研究成果をもとに制作した「のら地」ガイドブック


石巻市立町空地リノベーション計画
―東日本大震災において発生した空地活用のための空間づくりの研究―

 20161004-aaa-16
東北学院大学大学院 工学研究科
三浦 悠さん

東日本大震災の被災地では、震災から5年たった今も、建物が取り壊された後、利用価値が見いだせずに放置されているまちなかの空地がある。これらのポケットパーク化した空地を周辺店舗などとネットワーク化することでまちの活性化につなげていくことができないかと思ったのが、この研究を行うきっかけだった。

まずは宮城県石巻市のJR石巻駅の南にある8つの地区を対象に空地の目視調査を行い、石巻駅から徒歩5分、市街地内にある国道398号に面した角地をリノベーション対象に選んだ。学生の通学路にもなっているため、常に人通りが多い場所というのが選定の理由だ。

2015年7月に地元の人を集めて初めてのワークショップを行い、空地の利用方法やデザイン、実施期間などを検討した。8月には空地に机や椅子、芝、パラソルなどを1日限定で仮設置して、地盤や海風の影響を確かめ、9月に最終計画案を作った。

10月から実際の施工に入り、ポケットパークは完成した。一見、シンプルなデザインだが、周囲の落ち着いた街並みや年齢層の高さに配慮したデザインにした。

空地を利用して建設したポケットパーク

空地を利用して建設したポケットパーク

11月には「スペタコペタ市」というイベントを開き、野菜販売や隣接する建物の壁を利用した映画鑑賞会を行ったところ、2日間で約1000人以上が来場してくれた。現在はさらにGISで空地の情報をまとめ、空地カルテを作成している。これらの活動が被災地復興を後押しする力になればうれしい。

11月に開催した「スペタコペタ市」には2日間で1000人以上が来場した(スペタコペタとは石巻の方言で「あーだったり、こうだったり」という意味)

11月に開催した「スペタコペタ市」には2日間で1000人以上が来場した(スペタコペタとは石巻の方言で「あーだったり、こうだったり」という意味)


利用者のアクティビティからみた次世代型の児童館の計画方法-愛知県の児童館を対象として-

 20161004-aaa-19
豊橋技術科学大学大学院 工学研究科
岩谷 有加さん

現在の子育て支援サービスは、乳幼児やその親、小学生向けのものが多い半面、中学生や高校生が注目されることは少ない。公共の子どもの遊び場として、0~18歳までの子どもと保護者が利用できる児童館に注目し、中高生のアクティビティに基づいて「次世代型児童館の計画方法」をテーマに研究した。

特に中高生の利用が多い愛知県と東京都内にあるそれぞれ2つの大型児童館を対象に、2日ずつ調査を行った。その内容は、スタッフへのヒアリングやアンケート、10分ごとに利用者の位置や場所を記録する行動調査だ。

児童館を利用する中高生の位置を10分ごとに調査した行動調査

児童館を利用する中高生の位置を10分ごとに調査した行動調査

その結果、児童館を利用する中高生のアクティビティは、室内の空間や設備に大きく影響を受けることがわかった。例えば室内に机が並べられた空間では学習に集中し、移動動線が多く発生する空間は出入りが多く、にぎやかになる。同じような場所でも行き止まりになった部分は各人の活動が守られるといった具合だ。

中高生が児童館を利用する目的は(1)目的利用型、(2)心的利用型、(3)ホーム利用型、(4)短時間利用型4つの活動タイプに分かれることがわかった。それぞれの活動タイプと、目的別や開放度の違った空間タイプとをうまくマッチングさせることで、利用者のアクティビティが活性化しやすくなる。その要素は、空間、家具、そして家具配置だ。

空間、家具、家具配置によるさまざまな空間タイプ

空間、家具、家具配置によるさまざまな空間タイプ

以上の研究は、次世代型児童館の設計指針を模索する上での1つの手がかりになると考えている。


八王子 蔵発見プロジェクト

 20161004-aaa-22
日本工学院八王子専門学校 建築学科
松石 明香里さん

八王子は東京から約1時間と近く、豊富な観光資源を持つ。しかし、年間約260万人にも及ぶ高尾山の登山客の多くは、それだけで帰ってしまう。もっと八王子の古い街並みなども訪れてほしいと思い、古い蔵を生かした観光プロジェクトの可能性を探った。まずは蔵を再生して観光に生かした例として、茨城県の古河市と桜川市を調査した。

古河市では、古い蔵を訪問客に開放して内部を見学してもらう一方、隣の母屋でみやげ物や地元の農産物を販売する活用例があった。また、蔵をレストランや宿舎、美術館、トイレなどに改修した例もあった。

古河市の蔵再生例。観光客が内部を自由に見学できるようにしている

古河市の蔵再生例。観光客が内部を自由に見学できるようにしている

桜川市は古河市と違って、一般に開放している蔵は少なかったが、蔵を備えた古い民家が約50戸あり、雰囲気のよい街並みだった。

続いて、八王子市内にある2軒の住宅で、明治16年と20年に建てられた蔵を訪れ、どのような観光目的で使えるのかを検討し、Vectorworksで2つの再生提案を作った。

レストランとして活用する案(左)とアートインレジデンスとして活用する案(右)

レストランとして活用する案(左)とアートインレジデンスとして活用する案(右)

1つ目は地域密着型のレストランだ。地元の畑で取れた野菜や果物を使った料理を提供し、地域の人に利用してもらうほか、高尾山に来た人に帰宅前の休憩所として立ち寄ってもらうことを狙った。

2つ目はアーティストを一定期間招いて活動してもらう「アートインレジデンス」としての活用だ。アーティストに対しては自然に囲まれた静かな環境での生活や仕事を支援し、観光客にはその作品を見に来てもらうのが狙いだ。

今後、計画の実現に向けて八王子市や企業などに提案して行きたいと思う。


公共建築の計画に市民がかかわるための研究~米子駅南北一体化事業について~

 20161004-aaa-25
米子工業高等専門学校 専攻科
野津 美晴さん

JR米子駅は線路によって町が南北に分断されている。そのため、交通利便性が悪く、駅の南北で商業施設の発展格差がある。そこで米子駅を南北につなぐ自由通路や駅南広場を備えた半橋上駅の建設計画が進んでいる。平成32年度に完成予定だ。

JR米子駅で計画されている南北自由通路の整備事業

JR米子駅で計画されている南北自由通路の整備事業

米子市は2015年6月にパブリックコメントを行い、意見を募集した。しかし、それだけでは不十分だと感じ、独自の研究を行った。まずは類似の先進事例として、北海道のJR岩見沢複合駅舎と山口県のJR徳山駅新駅ビル(建設中)を現地調査した。

これらの事例では、公開コンペや駅に愛着をもってもらうためのレンガ寄付、仮駅舎への壁画、デザイン会議や学生ワークショップの実施など、市民がプロジェクトに参画できる仕組みが取り入れられているのが特徴だ。

そして米子駅利用者や学生など合計325人を対象に駅の利用頻度や利用目的、南北自由通路事業の認知などをアンケート調査した。その結果、南北自由通路の事業に関心はあるが、内容はあまり知らない人や関係がないと思っている人が多かった。

今年3月と8月には事業に関心ある人や高校生、高専生など約20人によるワークショップも開催した。ブレーンストーミングや事業敷地、米子駅の転車台見学も行い、オブザーバーとして米子市や鳥取県、JR西日本からも参加してもらった。まずは事業への認知を広げ、駅利用者の関心を高めることがまちの玄関口となる建築を実現するために重要だ。

2016年3月に行ったワークショップ

2016年3月に行ったワークショップ


総評

 20161004-aaa-28
エーアンドエー株式会社
非常勤顧問、OASIS研究・調査支援奨学金制度審査委員長
内田 和子

「<共存から共生>へをデザインする」というテーマに沿って、学生のみなさまが地道な研究と活動に取り組み、発表していただいたことに感謝したい。奨学金が十分に生かされたと思う。一つひとつの研究についてコメントしたい。

金沢美術工芸大学の堀場さんが発表した「金沢のら地研究」は地道な活動と、地域の人々にしっかりとヒアリングしてきた点を評価したい。地域のみなさんの郷土愛が高まり、これまでの観光地とは違った金沢の魅力が出てくることを期待する。

東北学院大学の三浦さんが発表した「石巻市立町空地リノベーション計画」では、小さな空地1つに一生懸命手を入れて、地域のみなさんと協働して盛り上げようと奮闘した。そのことは、地域の人たちに大きな活力を与えただろう。引き続き、頑張っていただきたいと思う。

豊橋技術科学大学、岩谷さんが発表した「利用者のアクティビティからみた次世代型の児童館の計画方法」は、なかなか聞く機会がないテーマだったが、女性の社会進出で残された子どもたちの居場所についての問題を考えさせられた。もう一歩進んで、ソフト面での対策の可能性についても追求していただけたらと思う。

日本工学院八王子専門学校の松石さんが発表した「八王子 蔵発見プロジェクト」は、1人でこんな研究をやっているのはもったいない。レストランをやるとなると食品衛生法などの問題もある。その点、休憩所を兼ねたカフェなどは気軽に始められるので蔵の活用方法として考えたらどうだろうか。今の時代、味噌も高い値段で買うこだわりのお客さんもいる。仲間を集って、一緒に研究に取り組むことで、自分たちでカフェを経営するなど活動の幅は大きく広がりそうだ。

米子工業高等専門学校の野津さんが発表した米子駅の南北自由通路事業についての研究は、大きな公共事業についてのワークショップを開いた。ワークショップについていつも思うのは、参加者の意見をどのように集約して事業に反映していくかということだ。大きな事業計画から少し離れた利用者目線での提案ができるといいと思った。

今回の発表は全員が女性で、そのパワーを感じた。OASIS奨学金を受けた人が、1年間の活動を行い、それが今回、大きな成果となったことに感謝している。

2016年度のOASIS研究・調査支援奨学金制度には、大小さまざまな10件の応募があった。今年度のテーマは「五感に学ぶ」。委員会で厳正に審査した結果、以下の4つのプロジェクトに奨学金を授与することが決まった。


●2016年度OASIS研究・調査支援奨学金制度授与者

  • 金沢美術工芸大学 堀場 絵吏さん ほか11名
    テーマ:「(仮)材木町における地域デザインの実践と研究―町屋の継承・利用活性化による地域コミュニティ再生―」
  • 成安造形大学 加藤 翠子さん
    テーマ:「京都・宇治養鶏場跡地施設のセルフリノベーションによる地域活性化ショーの実験」
  • 東北学院大学大学院 澁谷 翔さん
    テーマ:「亘理町の仮設庁舎跡地の利活用について」
  • 八戸工業大学 姉帯 愛莉さん
    テーマ:「東北人が都会に出るための教科書」
2016年度のOASIS奨学金の授与者。左端は審査委員長の内田和子非常勤顧問

2016年度のOASIS奨学金の授与者。左端は審査委員長の内田和子非常勤顧問

OASIS加盟校学生作品集に収録された作品の中から、Vectorworks開発元の米ベクターワークス社(Vectorworks Inc.)が最優秀作品を選び、表彰する「Vectorworks
Executive Prize 2016」賞には、日本工学院専門学校の高橋祐輔さん(指導教官:照内創先生)が選ばれた。会場では、同社のCEO、ビプラブ・サーカー(Biplab
Sarkar)氏からのメッセージを、エーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長が代読し、高橋さんに盾と目録が手渡された。

「Vectorworks Executive Prize 2016」賞の授与式。エーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長(左)と日本工学院専門学校の高橋祐輔さん

「Vectorworks Executive Prize 2016」賞の授与式。エーアンドエーの川瀬英一代表取締役社長(左)と日本工学院専門学校の高橋祐輔さん


Vectorworksでビジュアルプログラミング

 kimura  kihara
エーアンドエー研究開発部
木村 謙
エーアンドエー研究開発部
木原 和信

「Vectorworks 2016 デザインシリーズ」には、「マリオネット」というパラメトリックデザインツールが搭載されている。複雑な曲面などをデザインするのに使われる「Grasshopper」と同じように、Vectorworksでも、パラメータを変えながらデザインできるようになったのだ。

ビジュアルプログラミングという手法を使っているので、デザイナー自身がプログラムの部品となる「ノード」を置いて、処理の流れを示す「ワイヤ」でつなぐだけでプログラムが簡単に作れる。基本的な形をプログラムで表し、パラメータを変えながら面白い形を探すという使い方だ。

教育現場では、「環境に配慮したファサードの設計」といった課題で、光と風を最大限に生かす建物を設計する実習などに使えるだろう。

プログラムはノードをワイヤでつなぐだけで簡単に作れる

プログラムはノードをワイヤでつなぐだけで簡単に作れる

バイオクライマティックデザインのご紹介

 takeguchi
エーアンドエー販売推進部
竹口 太郎

2014年の教育シンポジウムで放送大学教授の梅干野晁先生は、「バイオクライマティックデザインのすすめ」と題して講演し、建築教育における環境工学の重要性を説いた。そのとき、提案された環境設計の教育手法とカリキュラムをもとに、温熱環境解析ソフト「ThermoRender Pro」とテキストをセットにした授業用の教材が完成した。

この教材ではテンプレートデータを用意し、初めての学生でも自分が設計した建物や広場などの温熱解析を簡単に行え、その結果をビジュアルに見られるように工夫している。

日本工学院八王子専門学校や金沢工業大学、東京工芸大学で実証授業を行ったところ、学生たちは環境工学に興味を持ち、自発的に課題に取り組んでくれたのが印象的だった。

完成したテキスト

完成したテキスト


分科会1-1
遺跡建造物の保存修復設計における3Dプリンタを用いた取組み

 20161004-aaa-31
安田女子大学
家政学部 生活デザイン学科 助教
山田 俊亮 先生

私は大学院生時代から、日本政府アンコール遺跡救済チーム(JASA)のカンボジア・アンコール遺跡のバイヨン寺院修復事業にかかわってきた。12世紀に造られたこの寺院は砂岩を空積みした構造で、中央の塔は地上高が40mほどある。バイヨン寺院では、現在も考古学・建築史学調査などと併せて、回廊などにおいて修復事業が進められている。

修復事業では、現場をモニタリングするためにセンサーを設置して計測するほか、大阪市立大学原口強先生らによりドローンを用いて各部を4K動画で撮影し、地上からではわかりにくい細部も観察している。現在、複雑な形状をしているのは、砂岩の間に入り込んだ植物の根や風雨によって部分的な崩落が発生したからだとみられる。

ドローンで撮影したカンボジア・アンコール遺跡群のバイヨン寺院の4K動画(大阪市立大学原口強氏提供)

ドローンで撮影したカンボジア・アンコール遺跡群のバイヨン寺院の4K動画(大阪市立大学原口強氏提供)

そこで、100~200年に一度の強風に対する安全性評価を行うため、実験用の50分の1スケールの風圧模型を作り、風洞実験で各部に作用する風圧の評価を行った。複雑な形状をした寺院の3Dモデルは、東京大学池内大石研究室が実施した3Dレーザースキャニングによる点群データを下に作成した。

模型製作用の3Dデータは、高さ5mmピッチで寺院外面を輪切りにして断面を切り出し、それに一定の厚みを持たせて空洞形状のものを作った。この模型を作成したのは2013年で、これら風洞模型を作成するためのアルゴリズムは当時所属していた早稲田大学新谷研究室の大学院生らと開発した。

模型が等高線を積んだようにギザギザしているのは、風圧測定用の穴を開けて風圧センサーにつながる銅パイプを設置するためだ。風工学の専門家に聞いたところ、この程度のギザギザは実験結果に大きな影響は及ぼさないとのことだった。

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3Dプリンターで作った風洞実験用の模型。表面には430個の穴が開いており、パイプによって風圧センサーにつながっている

3Dプリンターで作った風洞実験用の模型。表面には430個の穴が開いており、パイプによって風圧センサーにつながっている

風洞実験は東京工芸大学の田村幸雄先生と吉田昭仁先生のご協力を得て行った。模型を5°ずつ回転させながら全方位から風を当てて、各部の風圧を測定し、どこに正圧や負圧が発生しているのかを、流体解析結果と比較しながら調べた。

その結果、石材を引きはがそうとする負圧の力は、円柱や角柱よりも小さいことがわかった。いびつな形をした塔なので、強い負圧が作用しているのではという当初の心配は、この実験によって和らいだ。

超高層ビルでは、ビル風を緩和するためにビルの角を「隅切り」することが多い。この寺院では、隅切りのような効果で風圧が低減されているとも考えられる。また、既に風圧が強い部分は崩落しており、そのため今の形状になっていることも推察される。

これまでは塔全体を補強する必要があるのではと考えられたこともあったが、風洞実験の結果、補強すべき箇所も絞られてきた。現在、補強案を作成しているところだ。

安田女子大学家政学部生活デザイン学科では3年生の建築CADの授業を担当している。本学では今年、プロダクトデザインを学ぶ造形デザイン学科が発足したのに伴い、3Dプリンターやレーザーカッター、大判プリンターなどが導入された。

生活デザイン学科も、これらの機器を使った教育も取り入れていきたいという方針の下、今年6月にはエーアンドエーの協力を得て、Vectorworksを使った特別授業を行った。90分×2コマの授業では、1コマ目に椅子の模型をVectorworksでモデリングした。2コマ目にはRenderworksでのレンダリングと、石こうを材料に造形するフルカラーの3Dプリンターによる造形を行った。

また、バイヨン寺院をドローンで撮影した4K動画から、フルカラーの模型を作ることも共同研究者らの協力を得て実施した。動画から数百枚の静止画をキャプチャーし、それをPhotoscanというソフトで処理してテクスチャ付きの3Dモデルを作った。それを3Dプリンターで造形したのだ。

模型の製作には、授業で椅子の模型を作った学生も協力してくれた。2回目だったので大分、手慣れた様子だった。現場調査だけではわからないこと、写真やCGではわからないことも、3Dプリンターで作ったフルカラー模型だとわかることもある。今後は部分的に拡大した模型も作り、修復計画に生かしていきたい。


分科会1-2
建築設計の根拠とバイオクライマティックデザイン

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東京工芸大学
工学部建築学科 非常勤講師
森谷 靖彦 先生

東京工芸大学で私が受け持っている授業で、エーアンドエーが制作した環境設計教材、「バイオクライマティックデザインガイドブック」と、熱環境シミュレーションソフト「ThermoRender Pro」を使った実証授業を行った。今日はそのことについて報告したいと思う。

現在、設計の実務では一定規模以上の建築物を建てる際に環境計画書の届け出を義務付ける自治体が増えており、環境配慮型建築物の設計は当たり前になってきている。

しかし、高校や大学の教育で環境問題を扱うのは主に環境工学の授業だ。設計製図の課題では、意匠デザインや模型づくりに労力と時間が割かれ、環境問題を扱うことはほとんどない。

とは言え、従来の環境解析ツールだと、簡単な環境解析でも多大な手間と時間、そして費用がかかる。こうした状況の中で、設計製図の授業で環境設計を教えるには、シミュレーションを簡単に行えるツールが必要なのだ。そこで選んだのがVectorworksとThermoRender Proだ。

Vectorworksで作った建物モデルをThermoRender Proで解析すれば、20~30分の計算でその環境評価をヒートマップ表示でわかりやすく理解することができる。学生も楽しく、設計と環境の関係を学べるので有効だろうと考えた。

今回、バイオクライマティックデザインの教材を共同で作成した放送大学の梅干野晁教授や金沢工業大学の円井基史准教授の協力も得て、90分×全7回の実証授業を試行した。

最新のシミュレーションソフトを使う授業は学生の関心も高く、履修者は100人を超えた。そのため1班の人数も10人くらいになってしまった。理想的には4〜5人くらいが望ましいだろう。コンピューター演習室は学生であふれかえった。

1回目の授業では、東京・代官山に実在する敷地を取り上げ、そこに熱環境を意識して現在よりも気持ちの良い空間を設計するという挑戦的なテーマを設定した。

2回目では、まずはどういったデザインが環境に優しいのか、紙と鉛筆を使って自分たちのアイデアを表現してもらった。設計製図の授業構成として、このプロセスは重要である。

3回目では、Vectorworksを使ってアイデアを3Dモデル化し、ThermoRender Proを実際に動かして熱収支シミュレーションを行った。

4回目、5回目の授業は、シミュレーション結果のヒートマップを見ながら、改善案のエスキースを作る作業を行った。ヒートマップを見ると、ひと目で問題のある個所がわかるので、学生たちも真剣な表情で一生懸命、問題点をどう解決するかについて知恵を絞っていた。これが今回の教材の良いところだ。

学生は改善案のモデリングと熱収支シミュレーションを繰り返し行い、改善案の効果を定量的に検証していった。

エーアンドエーの社員も支援スタッフとして授業をサポートしてくれた。ThermoRender Proの画面を前に、学生の質問に丁寧に答えながら指導してくれたので、熱環境シミュレーションの理解もより深まったと思う。

エーアンドエースタッフによる ThermoRender Pro の説明。熱心に授業に聞き入る学生たち

エーアンドエースタッフによる ThermoRender Pro の説明。熱心に授業に聞き入る学生たち

6回目は発表会の準備として、PowerPointによるプレゼンボードの作成作業を行い、7回目に各班がそれぞれ順番にプレゼンテーションを行なった。

学生たちには、自分たちの案の特徴とそれのどこが優れているのかを発表してもらった。その中には、エスキース前後の「ビフォー・アフター」の比較を必ず入れるように指導した。そして教員は「施主」として彼らのアピールを聞くというスタイルをとった。

ある班は、日本の里山をイメージして、代官山の敷地に快適な通り道を作る案を発表した。夏場は木陰や建物の影で涼しく、冬場は落葉によって日光を差し込ませ、体感的に暖かくするというコンセプトだ。

学生たちはこの計画のために樹種についても独自に研究し、「クヌギをメインとしてクリ、ケヤキ、モミジなどの在来種を植える」といったことまでコメントしたのには驚かされた。

同時に新しい情報が行き交う土地柄を配慮し、国内ブランドのカフェやセレクトショップを集めるといった意匠的な配慮も忘れていなかった。

 

日本の里山をイメージした空間を作る案。ThermoRender Proによる熱収支シミュレーションによって、涼しい場所が増えていることがひと目でわかる

日本の里山をイメージした空間を作る案。ThermoRender Proによる熱収支シミュレーションによって、涼しい場所が増えていることがひと目でわかる

 

番外編として、8回目の授業では学生同士が講評を行い、実証授業は無事に終了した。授業後に行なったアンケートで、ある学生は「設計者自身もいろいろなシミュレーションを行うことがBIMによって可能になった。こうしたことが恣意的な建築設計から、数学的根拠を持った設計に変えていく流れを作っていくと思う」と書いた。

意匠設計者自身が、環境工学の考え方を設計製図に取り入れるという実証授業の意図を、学生も感じ取ってくれたのだ。そして学生自身も、この授業に対して高い満足を感じてくれたことに大きな意義があったと思う。


分科会2-1
デジタル時代の手描き表現力

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呉工業高等専門学校
建築学科 教授
間瀬 実郎 先生

本校の建築学科でも4、5年生は完全にCADで製図を行っている。しかし、手描きパースによる表現力は、CADやCGの時代になってもデザインの基礎と考えている。そして手描きは設計者にとって最も素早いデザインシミュレーションツールでもある。

しかし、手描きパースを苦手と感じる建築学生は最近、多くなりつつある。建築を学び始めた学生が、従来の透視図法でパースを描こうとしたとたん、苦手意識を感じる学生が多いその理由は、従来図法(足線法、基線法等の2点透視図)の難解さが、苦手意識の1つの原因になっていると考えられる。

そこで学生が苦手意識なく手描きパースを作図できるようにと、「Perspeedy(パースピーディ)」という手描きパースキットを独自に開発した。キットの内訳は、専用方眼紙と専用定規、そして消点に定規を合わせやすくするための消点ストッパという部品だ。

開発された手描きパースキット「パースピーディ」と、グリッド法によるパース作成方法。製図板は必要ない

開発された手描きパースキット「パースピーディ」と、グリッド法によるパース作成方法。製図板は必要ない

このキットは「グリッド法」という図法に基づいている。専用方眼紙にはあらかじめ平面図と立面図を描くための方眼がパースのマス目で描いてある。それぞれの方眼部分に平面透視図、立面透視図を描き、平面透視図からは垂直線を引き、立面透視図からは建物の点と消点ストッパを定規で結んだパース線を引き、両者が交わるところがパースの点になる。

作図の最初の段階で平面透視図と立面透視図を描くのがやや面倒だが、方眼紙の目盛りを追って図面と同じように描いていけばよいだけなので、それほど難しくはない。

パースを描くうえで、難しいのは視点位置の設定だ。これを間違えると、勾配屋根の面が見えなかったり、妻面が見えなかったりして、カッコ悪いパースになってしまう。その点、このキットを使うと日本の住宅で標準的に使われている軒高が6.5m以下で、屋根勾配が4寸勾配より急な場合は確実に屋根面、妻面が見えるように描けるように設定してある。

従来図法に比べて、このパースピーディがどのような効果を発揮したのかを検証してみた。まずは作図時間と精度という物理面の計測をした。同じ建物の図をA2サイズで従来図法とパースピーディで、建築を学び始めてから1カ月しかたっていない1年生45人の学生に描かせてみた。

従来図法ではパースを完成できなかった学生が5人いた。しかし、これらの学生も含めて、パースピーディだとほぼ全員が完成できた。

また作図時間、作図精度ともパースピーディの方が良好であった。

その後、パースピーディでパースの練習を続けたところ、この5人を含め全員がテキストを見ながら2階建て住宅のパースを約6時間で描けるようになり、さらにサヴォア邸のパースをテキストがなくても全員が約4時間で描けるようになった。

重要なのは、パースピーディによってこの5人を救えたことだと感じている。建築を学び始めた時期に、パースが描けないことで建築を嫌いになってほしくはないからだ。次は心理面の分析をアンケート調査で行った。従来図法とパースピーディの「どちらが使いやすいか」の質問では、圧倒的にパースピーディを挙げる学生が多かった。その理由は(1)簡単、(2)方眼紙があるので楽、(3)どのような点でも同じ方法で描ける、(4)方眼紙で空間がイメージしやすい、というものだった。

従来図法が描きにく理由は、(1)線が多くなる、(2)作図が煩雑というものだった。

その一方で「面白さ・達成感」の質問では、従来図法にも一定の達成感があることが分かった。

上記の実験結果から、パースピーディは誰でもパースが描ける初心者向けのツールとして有効と考えられる。これに対して従来図法は白紙の状態の0から描き上げる難しさと面白さがある、専門的(あるいはマニアック)な手法といえる。

両者を併用することで、学生もパースを楽しんで描くようになり、苦手意識を持つ学生をほとんど出さないような、効果的な手描きパース教育が実現できると感じている。また、パースピーディを使うようになって、学生同士の教え合いが増え、教員の指導の負担は大幅に軽減した。このキットが教員の負担軽減に寄与することも見逃せないと考えている。

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パースピーディによって上達したパース力

パースピーディによって上達したパース力

学生の実利的な効果としては、設計事務所等での就職試験に注目したい。最近の就職試験ではあえて手描きパースを提出させたり、即日設計試験でフリーハンドパースを描かせたりする企業も多くなった。近年の学生の図面はCAD、3DCGを多用しており、個性や実力が見えにくいためと考えられる。

本校の学生たちはパースピーディによる完成度の高い手描きパースがポートフォリオを賑わすこともできる。また手描きパースに慣れている彼らは即日設計のトレーニングも抵抗がない。その結果、大手設計事務所などに就職を果たした学生も少なくない。


分科会2-2
シミュレーションを活用したデザインコミュニケーション
~いくつかのプロジェクトを通して~

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成安造形大学
芸術学部芸術学科 准教授
三宅 正浩 先生

私は成安造形大学での教育や、建築家としての設計業務におけるデザインコミュニケーションを図る手段として、風解析や温熱解析などの「デジタルシミュレーション」と、建築模型やポスター、ワークショップなどの「アナログシミュレーション」を活用している。今日はこれらの実例を、いくつかのプロジェクトを通じて紹介しよう。

京都市内に建てた「軒下の家」は、景観条例によって勾配屋根を使う必要があった。そこで大小6つの切り妻屋根を使ったデザインを考えた。屋根のすき間から風が入ってきたり、光が入ってきたりして室内環境を構成するつくりだ。

このプロジェクトでは風解析をWindworksで行った。7月の昼間に吹く卓越風が、住宅の中心にある通り土間を吹き抜けていくように設計したのだ。目に見えない風が住宅の中をどのように吹き抜けていくのかを、風解析によって可視化した。また、温熱環境解析も行い、6つの屋根が重なり合って影を作っている部分は温度が低くなることをわかりやすく説明することができた。

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風の効果をWindworksでビジュアルに表現した例

風の効果をWindworksでビジュアルに表現した例

鳥取県米子市に建てた「雨やどりの家」や愛媛県今治市に建てた「被衣(かずき)の家」、兵庫県神戸市の斜面に建てた「Slide House」などでも、通風性や涼しさを理解してもらうため、同様のデジタルシミュレーションを活用した。

一方、「アナログシミュレーション」は大学の授業で行った事例を中心に紹介しよう。まずは滋賀県にある琵琶湖博物館から依頼された「マイクロアクアリウムプロジェクト」だ。博物館で上映する微生物の生態を紹介するビデオを座って鑑賞するための椅子を学生がデザインした。

微生物をモチーフとした椅子をデザインするため、学生は琵琶湖に出掛けて微生物を採取し、顕微鏡でのぞきながらスケッチした。その絵からイメージした椅子のデザインを模型で表現して博物館の研究員とデザインコミュニケーションを行い、意見をもらいながらデザイン案を固めていった。そして最終的に完成した椅子は湖底をイメージした床の上に並べられた。

琵琶湖の微生物をモチーフにデザインし、博物館に並べられた椅子

琵琶湖の微生物をモチーフにデザインし、博物館に並べられた椅子

「おごと温泉プロジェクト」は、大学の近くにあるおごと温泉の観光協会からの依頼で行ったものだ。おごと温泉では、旅館やホテルそれぞれが独自でデザインに力を入れていたため、温泉街としての統一したデザイン性に欠けるという問題が出ていた。

そこで学生たちは現地調査を行い、その町のポテンシャルを調べた。その結果をもとに「Oh!go to ONSEN(そうだ!温泉へ行こう)」というキャッチフレーズをポスターやバスのデザインに取り入れたり、JRおごと温泉駅のホーム上に設ける待合室を、外から見ると温泉に人がつかっているようなデザインにしたり、灯篭祭りのイベントを行うという案を考えた。

これらの提案はパネルにして、大津市役所のギャラリーに展示し、職員や来訪した市民、市会議員や県会議員などからパブリックコメントをもらうようにした。

次は成安造形大学の学生を対象に建設するアパートのデザイン「YOHAKUプロジェクト」だ。ユーザとなるのは学内にいる学生であるため、リサーチを行った。そこで学生たちがアパートのデザイン案を50分の1スケールの模型で表現し、学内に展示してアンケートや投票を行った。

得票が多かった案は30分の1スケールの模型にして、さらに投票を行った。全部で3棟建てるアパートは1棟が完成し、もう2棟が建設中だ。学生たちは自分たちがデザインした建物が実現するのを高揚した気分で見ている。

風解析や温熱解析などのデジタルシミュレーションと、展示や投票、模型というアナログシミュレーションを、クライアントとのデザインコミュニケーション手段として、今後も使い分けていきたいと考えている。


展示会場報告

講演会場の後方には、OASIS加盟校の授業や研究などの取り組みをまとめたパネルや模型などを展示したコーナーが設けられ、その内容は年々、レベルが上がっているようだ。

今回は3Dプリンターを使って作られた模型の展示が目立った。ドローンによる空撮ビデオで作成したアンコール遺跡群バイヨン寺院のテクスチャ付き模型や、安田女子大学の学生がVectorworksの特別授業で作った椅子の模型などの作品が目を引いた。Vectorworksによるモデリングやレンダリングとともに、3Dプリンターの授業での活用が増える中、学生の模型作成技術のレベルも年々、上がっていることがうかがえた。

呉工業高等専門学校の学生が卒業設計で作成した広島駅周辺の精密な模型や、同校教授の間瀬実郎先生が開発した手描きパースキットからは、3次元CADによるデジタルな設計教育を行っていくうえで、基礎力を養うアナログな手描きパースや模型作成は重要であり、これらをいかにわかりやすく、効率的に教育に取り入れていくかという工夫が感じられた。

このほか、OASIS加盟校でのVectorworksを活用した教育についてのパネル展示やエーアンドエーが作成した教材、Vectorworksに米国フィラデルフィア美術館の3D点群データを取り込み、3Dプリンターで作成した模型などの展示も行われた。

展示コーナーには、講演の合間に来場者や講演者が絶え間なく訪れ、熱心に見入っていた。デジタルなデータを使った講演と、アナログの重みを持つ展示が媒体となって、来場者の間では活発なコミュニケーションが行われた。そして、この展示会場で見た作品や情報交換に刺激を受けたOASIS加盟校の教員や学生は、自校での教育をさらにレベルアップしていくのだ。

OASIS加盟校でのVectorworksを活用した教育や作品などの展示コーナーには、今年も3Dプリンターを使って制作された建築模型など力作の数々が集まった

OASIS加盟校でのVectorworksを活用した教育や作品などの展示コーナーには、今年も3Dプリンターを使って制作された建築模型など力作の数々が集まった

成安造形大学の学生が琵琶湖の微生物をモチーフにデザインした椅子の模型(左)。安田女子大学の学生がVectorworksの特別授業で作った椅子の模型(右)

成安造形大学の学生が琵琶湖の微生物をモチーフにデザインした椅子の模型(左)。安田女子大学の学生がVectorworksの特別授業で作った椅子の模型(右)

呉工業高等専門学校の学生の卒業設計。レーザ加工機を用いて作成した広島駅周辺開発模型(左)。OASIS加盟校のVectorworksを使った授業の取り組みなどのパネル展示(右)

呉工業高等専門学校の学生の卒業設計。レーザ加工機を用いて作成した広島駅周辺開発模型(左)。OASIS加盟校のVectorworksを使った授業の取り組みなどのパネル展示(右)

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今後もエーアンドエーは、Vectorworks教育支援プログラム「OASIS」や、学生の自由な研究を支援するOASIS奨学金制度などによって、学校におけるVectorworksによるデザイン教育を支援し、加盟校同士の情報交流を支援していく。

【A&A.Vectorworks教育支援プログラム】OASIS(オアシス)についてのお問い合せはこちらをご確認ください。