Vectorworks活用事例 SNARK Inc.編を掲載

2018年5月29日

群馬と東京を拠点に活動する、建築設計事務所「SNARK(スナーク)」。新築住宅、集合住宅、公共施設などの設計・内装だけでなく、デスクや棚などの家具、さらにはアンプやスピーカーといった、ちょっと変わったプロダクトも手がけている。もともとは代表の小阿瀬直さんが独立し、個人事務所としてスタートさせたのが2008年。今年でちょうど10周年を迎えることになる。今回は、小阿瀬さんと取締役の山田優さん、大嶋励さんに、デザインに対するこだわりや、Vectorworksの活用状況をうかがった。

建築とプロダクト、スケールを横断してものをつくっていく

小阿瀬直さん(以下、小阿瀬):SNARKは、もともと僕の個人事務所として群馬でスタートしました。4年前に東京にも事務所をつくり、2016年に法人化したのを機に恵比寿に事務所を構えることになりました。設立当時は戸建住宅の設計が多かったんですが、群馬・東京の2か所に事務所を構えてからは、オフィスや店舗、集合住宅の設計・内装など大きなスケールのものから、スケールの小さいインテリアや什器といったものなど、スケールを横断した依頼が増えてきています。

店舗やオフィスを設計するときは、インテリアや什器といったプロダクトを何かひとつオリジナルでデザインするようにしています。普段から建築でお願いしている職人さんと一緒につくっているので、木工や鉄などの材料を使ったプロダクトが中心です。プロダクトをつくるような視点で建築を考えたり、建築をつくるような視点でプロダクトを考えたり……といったことが、僕らの強みだと思っています。

共通の間取りなのに、部屋ごとに特別感のある集合住宅「ridge.」

「ridge.」は群馬にある、SNARKが手がけた2階建ての木造アパート。それぞれ特徴的な外観をもつEAST棟、WEST棟の2棟で構成されている。メインで設計を手がけたのは、山田さんだ。

山田優さん(以下、山田):クライアントからは、「画一的な建物ではなく、設計やデザインの力で投資物件として価値の高いアパートにしたい」という要望をいただいていました。

凸凹した不思議な外観の「ridge.」(Photo:Ippei Shinzawa)

山田:真正面から見ると、中央に重なる部分があるので異なる形の塊が連結しているように見えますが、実は2棟にわかれています。右側がEAST棟、左側がWEST棟になっています。1棟に8住戸あり、全体で16住戸の住宅です。凸凹した不思議な外観をしていますが、実は部屋の間取りはほぼすべて一緒です。投資物件として、工事費を抑えるために同じ間取りとしています。

同じ間取りなら、一般的には南向きの角部屋がいちばん条件が良く、賃料もほかの部屋より高めなのが普通ですよね。でも、デザインの力でそれぞれの部屋に価値をもたせ、「全戸から好きな部屋を選ぶ楽しさ」のある賃貸住宅にしたいと思いました。

天井の傾斜や床のレベルを変化させ、一般的なワンルームとはちがう見え方になっている(Photo:Ippei Shinzawa)

小阿瀬:それぞれの部屋の天井の傾斜をジグザグにして高さを変えているのが特徴です。ジグザグの度合いがゆるやかな部屋と、傾斜がはっきりしている部屋とがあり、部屋ごとの天井高に合わせて窓の高さもまちまちです。ワンルームですが、リビング、キッチン、寝室を天井の形状で仕切ったりしています。

山田:床のレベル(高さ)を変え、腰壁をつくることで散らかりがちなワンルームを広々とすっきり使うことができます。

天井のジグザグが明らかな、断面図

山田:外観も特徴付けています。一般的なアパートは、同じような間取りの部屋が並んでいるので、どうしても箱っぽいつくりになってしまいますが、この建物は屋根の形をジグザグにして、山並みのような外観にしています。まわりを山に囲まれている群馬の景色にリンクするようなイメージです。

小阿瀬:さらに、外壁も全部同じ素材でありながら、パーツの形や貼る方向を変えて、テクスチャーに変化をつけています。

山田:このように外観も部屋の中もそれぞれの住戸でまったく印象は違うのですが、各戸のフレームは左右反転パターンがあるだけで、基本的にはまったく一緒なんです。図面を見るとよくわかると思います。架構を共通にすることで施工性が上がり、工事費を抑えることができます。

外壁のパーツを貼る方向が、縦・横とちがっており、表情を生み出している(Photo:Ippei Shinzawa)

山田:図面は全部、Vectorworksで描いています。住戸の平面詳細図は全住戸同じ間取りの集合住宅なので、一住戸分のデータを使いまわしています。展開図は普通のアパートだったら一戸分を描けば全部使いまわせますが、天井の高さや角度、窓の位置や形が全住戸違うので、実際にはかなりの量の図面を描きました。それらを全部管理するのが大変でしたね。

でもVectorworksにはビューポート機能があるので、楽に作業できて助かりました。各住戸ごとに違う部分の細かい作図をシートレイヤ上で編集できたのは、本当に画期的。ridge.では、共通の図面(各戸の共通フレーム)に対して、注釈や寸法などの追記(天井や床など、各戸の個別のレベル差)をすることで、各戸の図面を仕上げています。Vectorworksは直感的に使えるので、図面を整えていく作業が行いやすいと思います。

小阿瀬:天井が高い部屋、低い部屋といろいろあるので、自分がどの部屋にいるのかがわからなくなるんですよ(笑)。

  • ビューポート機能…レイヤやクラスの表示・非表示、縮尺を変更することで、いろいろな図面を自由な縮尺で取り出すことができる機能。取り出された図面はそれぞれ必要な注釈や寸法を追記して、異なる図面に仕上げられる。取り出された図面は同じ図形から引用しているため、設計変更の場合も複数の図面に同時に反映される。
1階 図面
断面図

行きかう人とのコミュニケーションを重視した『Let It Be Coffee』

二子玉川のメインストリートから1本入った商店街にあるコーヒースタンド。バリスタのご夫婦が出店する新規店だ。設計のメイン担当者は、大嶋さん。

大嶋励さん(以下、大嶋):この店のオーナーは元『ブルーボトル』1号店の店長さんで、その後、フリーランスのバリスタとして活動されているご夫妻です。

小阿瀬:『インスパイアード バイ スターバックス』や『ブルーボトル』の立ち上げに関わった方々で、コーヒー業界でかなり注目されているおふたりです。

Let It Be Coffee 外観ファサード画像(Photo:Koji Honda)

大嶋:性格がとても明るくて、ホスピタリティも本当に素晴らしいんですね。もともと二子玉川に縁があって、地元の商店街にもなじみ深い。街の人たちとも積極的にコミュニケーションを取りたいというご要望から、設計のプランを立てる際も外とのつながりを大切にしました。考えたのは、入口前面にカウンターを置き、カウンターから商店街を歩いている人たちにどんどん声をかけていくというスタイルです(笑)。

小阿瀬:コーヒースタンドというと客席が手前にあって、カウンターが奥というつくりが多いですけどね。あえてカウンターが前面。客席は奥にしました。

カウンターが入口すぐにあるデザイン(Photo:Koji Honda)

大嶋:場所柄、子連れのお客さまも多いので、ベビーカーも入れるように間口を広くとりました。奥には近所の人同士で話せるように、コーヒースタンドでは珍しく、向き合うような配置の席があるのも特徴的だと思います。

小阿瀬:さらに、客席とカウンターにいるご夫妻が話せる空間になりました。店長がホストになり、店全体のコミュニケーションが展開していくイメージです。

シンプルながらも印象に残るテーブルとベンチも、オリジナルでつくられた(Photo:Koji Honda)

大嶋:客席のベンチやテーブルも全部、既製品を使わずにオリジナルでデザインしています。要所要所にスチールを取り入れて、素材感や色味のおもしろさが引き立つようなデザインを考えました。こういった提案をするときには、意図が伝わりやすいように図面に色を付けてプレゼンしています。

小阿瀬:展開図だけでなく、家具図も全部Vectorworksで描いています。色を付けて素材の質感も表現できますし、配置も細かく指定して、お客さんにも現場にもわかりやすく仕上げます。既製品を使っていないから、なおさら具体的に伝えなければいけないと思うんですよね。

大嶋:あとは図面と一緒に模型をつくることも多いですね。この案件でも、1/1スケールでテーブルの模型をつくりました。もちろん、大規模な案件の場合は3Dのほうが説得力はあるんでしょうけれど……。こじんまりとした規模の場合、3DのCGをつくってプレゼンするよりも模型のほうがわかりやすいですから。

Let It Be Coffee 展開図

カルチャーから生まれる、想像力を掻き立てるようなものづくり

頭で考えた想像の産物をつくりたい——SNARKが掲げる思い

小阿瀬:「社名のSNARKってどういう意味?」と、よく聞かれるんですが、僕の名前「Sunao Koase(スナオコアセ)」と「アーキテクチャ(建築、設計、様式などの意)」を合わせた造語。でもそれだけじゃちょっと弱いかなと(笑)、『不思議の国のアリス』で有名なルイス・キャロルの『スナーク狩り』という小説にも掛けています。これはスナークという怪物を探しに行く話なのですが、結果的にはスナークなんて怪物は実際にはいなくて、みんなが頭の中で勝手に考えた想像の産物だった——というところから、“想像力で新しいものを生み出していく”という意味を込めて、SNARKと名付けました。

会社のロゴマークも、正体のわからない怪物のイメージです。ただ、手だけが見えるので、何かがいることはわかる。どんな怪物なのか、そもそも怪物なのか何なのか、みんなの想像力を掻き立てるようなものが、ものづくりの中でできればいいなと思っています。

SNARKのロゴマーク。ケモノの腕が印象的

新しい試みにも貪欲にチャレンジするSNARK。2012年に「山小屋に居るように、シンプルで豊かな生活を送るための道具」をコンセプトにした、インテリア、家具などのプロダクトレーベル『Lodge Store』も立ち上げた。

小阿瀬:内装デザインのたびに新しいオリジナルのプロダクト——例えば、オフィスの設計をやったときにはデスクや棚を毎回、図面を描き直してつくってきたんですね。それをレーベルとしてまとめたのが『Lodge Store』です。どの商品もオーダーメイドで受注しているので、結局は毎回設計し直しているような形です。

Lodge Store ロゴマーク

小阿瀬:目指しているのは、使う人が自分なりに工夫して、制作に参加できること。例えばベニヤ材に色を塗ったり、カットして幅を変えたり。ゼロから全部つくるのは難しくても、板を好きな長さに切るだけだったら、それほどハードルは高くない。これをきっかけに、次は色を塗ってみようとか、新しいパーツをつけてみようとか、いろいろな発想が生まれるといいなと思っています。

ネーミングは、ロッジ(山小屋)でのシンプルな生活をイメージしてつけました。ロッジでの生活は、住環境として必要最低限の設備しかそろっていない分、なおさら「生活する」ことに敏感になれる気がします。日々の生活も、今あるものを使いながら、D.I.Y.でその時々の状況によってカスタマイズしながらやっていくほうが楽しいんじゃないかなぁと。

大嶋:生活するうえで、自分が使うものを自分でつくれるのはすごく素敵だなと感じています。そのきっかけになれたらいいなという思いから、このレーベルが始まりました。

Photo:Lo.cul.p

大嶋:Steel seriesは、スチールの骨組みと木のパーツでできている組み立て式の棚です。

小阿瀬:僕たちがデザインしているのはスチールの骨組みのほうで、木のパーツはホームセンターで手に入る材料を想定しています。だから、棚板や背板をカットしたり、木材を新しく買ってくれば後から好きなサイズや材質に変更できます。スチールの骨組みだけあれば、例えば引っ越し先の部屋に合わせてリサイズすることができるんですね。

Steel series(左が完成した形、右は組み立て前のもの)Photo:Lo.cul.p

小阿瀬:設計する際は、図面だけではどのくらいの重さでどのくらいたわむのかなどの加減がわからないので、自分たちの手で実際につくって確認しています。

山田:それが、次の図面を描くときにフィードバックになります。改良していくのは経験則に頼るしかないので、つくっては改良し、つくっては改良しての繰り返しですね(笑)。

大嶋:天板の厚さも、この厚みだと薄くてたわむから次はもう少し厚くしようとか、重すぎるようだったら軽くするとか調整して。そういうのは、失敗しながらでもつくっていかないとわかりませんからね。

Steel series 図面

山田:写真のオーディオシステムは、レコードのターンテーブルと真空管アンプ、スピーカーをひとつの什器に埋め込んだもの。オフィス設計の際につくったオリジナルプロダクトです。図面を原寸大でも出力し、いろいろ検証しながらつくりました。

小阿瀬:Vectorworksもすごく活用していて、特にビューポートの機能はたくさん使いましたね。描いた図面の一部を切り取って、別の図面にレイアウトしたり。プロダクトやインテリアなどでは、1/2レベルの詳細図を部分的に作成したりしています。ひとつのプロダクトやインテリアで、複数の詳細図が必要な箇所をビューポートで基本図から取り出し、複数の詳細図を同時に仕上げていきます。

SNARKが手がけた、TRAIL HEADS,Inc Office。写真左のオーディオシステムもオリジナルでつくったもの(Photo:Kei Ohnaka)

大嶋:データを切り貼りするときに、拡大・縮小できるのも便利でした。例えば、1/50の縮尺の図面にも、実は表示しきれないぐらい多くの情報が描かれているので……。これを1/2の縮尺に拡大すると細かい部分も見えてくるんですね。ひとつの図面をつくったら、縮尺を変えて切り貼りすることが簡単にできるのもVectorworksのよさですね。

山田:さらに、取り込んだ画像も貼っていけるので、プレゼン用の資料もつくりやすい。感覚的にビジュアルを操作しやすいのはVectorworksがいちばんだと思っています。

新しいプロダクトが生まれるきっかけは、「音楽が好き」「山が好き」といった、みんなのカルチャーから始まることも多いですね。

トレイルオーディオ什器 図面

小阿瀬:僕らは山に登るのが好きなので、ものをつくる以外のところでも仕事と地続きになっているってところはありますね。先日も、山のロッジの改修についての相談があり、3人で2〜3時間登って現場に視察に行ったりして。普段から山に登っていないと、こういう仕事はできませんよね(笑)。とにかくなんでもできそうなこと、面白そうなことは全部やりたいと思っています。

群馬・東京の2か所に事務所がありますが、どちらも大事な拠点です。群馬の事務所は、シェアオフィスやイベントスペースの運営もしていますし、東京の事務所も最近、イベントスペースとして貸し出すことを始めました。今後、この2拠点を軸にさまざまなジャンルのクリエイターたちとの交流の場にして、自分たちの視野も広げていけたらいいなと考えています。外部の人たちと何か新しいことにチャレンジできる、そういう場所がもてるのは、会社として重要なことだと思いますね。

小阿瀬直(こあせ・すなお)
SNARK Inc. 代表取締役/一級建築士

1981年 群馬県出身。工学院大学卒業後、日建設計など設計事務所に勤務。2008年に小阿瀬直建築設計事務所設立 。2016年 SNARK Inc. 設立。前橋市美術館プロポーザルコンペティション 佳作。

山田優(やまだ・ゆう)
SNARK Inc. 取締役/一級建築士

1988年 新潟県出身。市立前橋工科大学 建築学科 石田敏明研究室 卒業後、小阿瀬直建築設計事務所、大成建設株式会社に勤務(新国立競技場 ザハ案、ホテルオークラなどのプロジェクトに従事)。2017年にSNARK Inc.参画。

大嶋励(おおしま・れい)
SNARK Inc. 取締役

1986年 群馬県生まれ。桑沢デザイン研究所 卒業後、小阿瀬直建築設計事務所、ZYCC株式会社に勤務。2017年にSNARK Inc.参画。

  • 構成・文:佐藤理子(Playce) 撮影:田実雄大

詳しくは、エーアンドエーのウェブサイトで。