SketchBook® Pro 活用事例:イラストレーター 山下良平 氏
2014年9月23日

SketchBook® Pro 活用事例:イラストレーター 山下良平 氏

SONY や NIKE など国際企業の広告ビジュアルや SUMMER SONIC でのライヴペイントなど、多彩な活動で世界に知られるアーチスト・山下良平氏。「躍動」をテーマとするパワフルかつ爽快な作品群は、一見して忘れ難い印象を残します。そんな山下氏が今回「Autodesk® SketchBook® Pro」による新作に初挑戦! 早速その使用感などについて伺いました。

 

■忘れていた“自分が本当に描きたいもの”

――現在の活動内容をご紹介ください

山下氏 マガジンハウスの雑誌「Tarzan」の表紙イラスト、またナイキや SONY、ハーレーダビッドソン等の広告ビジュアルを制作してきました。また、ロックファンなら「SUMMER SONIC」で行ったライブペインティングのパフォーマンスをご存知かもしれませんね。最近では「横浜マラソン 2015」の公式ビジュアル制作など、アートディレクションまで行うことも増えています。アーチストとしては個展開催が中心ですね。作品はアートブランド「LIKE A ROLLING STONE」で販売も行っています。

―― イラストレーターと画家という2つの顔をお持ちなんですね

山下氏 イラストレーターの仕事は一種のサービス業なので、多くの方の要望に応えることも重要です。たとえば「山下といえば躍動感!」といった、皆さんが私にお持ちのイメージにも応えたいわけです。一方で、好きなものを好きなように描きたい、という思いも当然あり、そのためにあるのがアーチスト活動。私なりにバランスを取っているんですよ。でも、アーチストとして個展でバーンと出したものがクライアントの目に留まり、それがまた新しいイラストレーターの仕事に繋がることもあるし、いろんな意味で個展の活動は重要ですね。

―― 絵を描くことが仕事になったきっかけは?

山下氏 絵を描くことは子どもの頃から好きでしたが、仕事にしたいと思ったのは大学入学後。ヴィジュアル全般を学ぶ学校で当初は映画監督をめざしていました。イラストはもちろん、CG やビデオ、映画、グラフィックデザインまで学び、就職も CM 関係の会社に決まっていたんですが、学園祭で似顔絵を描く店を出したら大ウケで。絵を描いてお金をもらう楽しさを強烈に刷り込まれました(笑)。それが忘れられず路上で似顔絵描きをするうち絵の仕事をいただくようになり、チャンスを得て横浜にアトリエを開きました。

――当初はカンプイラストが主体だったそうですが?

山下氏 ええ。アトリエ開設は 2002 年ですが、当初はイラストレーションの実績など何もなく、とにかくもらえる仕事は全部やろうとカンプイラスト(プレゼン用デザイン見本のダミーイラスト)をメインに描いていました。すごく忙しかったんですが、これも先方都合で予定がころころ変わる不安定な仕事で、ある時 2 カ月もスケジュールが空いてしまったんです。で、このとき久しぶりに自分と向き合って、忘れていた“自分が本当に描きたいもの”に気づき、これが大きな転機となりました。

■「躍動感」を表現する動的な視点

――イラストレーション制作で大切にしていることは?

山下氏 私のテーマは一貫して「躍動」であり、躍動感をいかに表現するか常に考えています。動いているものはもちろん静止しているものも、その対象が秘めている躍動、すなわちエネルギーを引き出し表現しようと意識しています。この思いの原点は中高生時代まで遡ります。当時、私は陸上部の短距離選手で走ることに力を注いでいました。そして、そうやって走っている時に全身で感じた躍動の、高揚感や爽快感を何とか絵にできないか――と考えたのが出発点です。ようやく 30 代になって表現できるようになったんですよ。

――イラストレーションのアイデアは何処から得ますか

山下氏 アイデアの核となる情報はあらゆる場所に転がっています。むしろ情報過多になって見失ってしまいがちなので、余計なものにフタをして“描きたいもの”を明確にするのがポイントかもしれません。たとえば私は、ジョギング時にアイデアを見つけることが多いんです。走っていると全身に血液が回って酸素が大量に消費されるので、脳には最低限の酸素や栄養しか行かず、余計なことを考えなくなります。すると邪念が削ぎ落とされ、イメージの源泉が見えてくるんです。

――実際の制作工程ではどのようなツールをお使いですか

山下氏 イラストレーションは基本的には下絵からほぼすべて Photoshop で描いています。構図をいじったり変形したり 3D 効果等々も含め、いろいろシミュレーションしやすい点が気に入ってます。一連の作業でもっとも時間がかかるのは描き始めるまでのプランニング段階で、Photoshop 作業も構図を決めることに相当の時間を割いています。でも、描き始めれば後は速いですよ。フィニッシュまで一気に進めて、1 〜 2 日で仕上げることも珍しくありません。

――それにしても「躍動」の表現は難しそうですね

山下氏 私はテクニックを系統的に学んでいないので、大半は独学で工夫しています。たとえばかつて映像分野を目指し映画をたくさん観たり、映像表現の手法を学んだ時の経験も活かされている気がします。オリジナルな工夫としては、「描く対象」を捉える自らの視点がダイナミックに動いている……という感覚が1つのポイントです。今回 SketchBook Pro で描いたスケートボードの絵でも、躍動感の表現にこの「動的な視点」が非常に効果的でした。

 ■SketchBook Pro のブラシの荒々しさと繊細さ

―― この作品における「動く視点」とは?

山下氏 絵をご覧ください。スケートボーダーを捉えた視点はぐっと低く、3 人が疾走していく流れに合わせ、画面全体を大胆にデフォルメしています。これは描き手である私も後からスケボーで追いかけている感覚で、画面は走っている私の視界そのままです。いわば疾走する対象をムービーカメラが追いかけている感覚、といったらお分かりでしょうか。

 

 

【山下氏がSketchBook Proを使用して描いた作品(1作品目)】

――スケボー経験がおありなのですか

山下氏 スケボーはかじった程度です。しかし、スケボーの形やウェア、背景の風景にしても細かい設定は資料を見れば分かるし、それらは単なる素材に過ぎません。大切なのはやはり、躍動感を生み出すそれら素材の構成と「ダイナミックに動いている視点」を感じさせるセンス。そして、このセンスを培ったのが陸上選手時代の経験なんですね。だからこれは題材が変わっても応用できます。ドリフトするクルマを描いても、たぶん同じように「動き」を描けるでしょう。

 

――その感覚を「絵」として形にする上で SketchBook Pro が役に立った?

山下 ええ、特に今回、SketchBook Pro の特徴を最大限生かそうとしたら、結果としてこういう絵になったという感じです。……実は最初カルチャーショックを受けたんですよ、Photoshop に比べなんて機能が少ないんだ!って(笑)。でも、いろいろ触っていくうちに分かりました。これは文字通りコンピュータ上のスケッチブックなんですね。キャンバスに絵の具で思いきりガシガシ描いていく感じの便利ツールで、そのためにあえて機能を絞って余計なものを排除し描きやすさに徹している。それに気づいて頭を切り替えたらすごく使いやすくなりました。

――「使いやすさ」とは具体的にどのような部分でしょう?

山下 ペイントソフトの「キモ」はブラシのユーザビリティですが、SketchBook Pro のブラシライブラリの見やすさ、ブラシの選びやすさ等々がとても心地良いんです。特にカラーパック、ブラシパックといった円形ウィンドウで、サイズや色の明暗を手軽に調整できる点はすごく重宝しました。おかげで非常にレスポンス良く作業を進められましたね。描き手にフィットしているというか、直感的に操作できますね。

――SketchBook Pro の特長は絵のどんな部分で発揮されましたか

山下 スケートボードの絵でいえば、空を走る雲の荒々しい筆のタッチを再現した表現等ですね。この筆っぽいケバケバした力強い動線など、Photoshop ではもちろん他のペイント系ソフトでもなかなか出せません。こういった、SketchBook Pro ならではの疑似マテリアル風の表現は私の作風にも合っていますし、凄く「使える!」という実感があります。その一方で手前の女性のヘルメットの映り込みの背景等も、なかなか細かく描けましたし……。描き殴った感を出しながらも繊細な線を引けるというか、荒々しさと繊細さのコントラストまで幅広く表現できるんです。

【山下氏がSketchBook Proを使用して描いた作品(2作品目)】

それぞれの強みを生かし上手く組合せて

――SketchBook を使うことでいろいろ発見があったようですね?

山下 ずっと Photoshop 一本でやっていたので、ある意味これに縛られていたのかなと気づきました。多機能な Photoshop は一筆描いてはフィルターをかけたり色を調整したり、やらずにいられないというか、とてもやることが多いんです。ところが SketchBook Pro ではとにかく描きたいものを直感的に、一気に書き進められる良さがある。ずっと描き続けても、ブラシのレスポンスは変わらずに軽快だし、描き終えると心地よい腕の疲労感がありますね。一方、驚いたのはコピック等の実在する画材との緊密な連携です。

――コピックカラーパレットですね?

山下 そうです。「コピック」といえば、グラフィックデザイナーなら誰でも知っているカラーマーカー。私も路上で似顔絵を描いている時よく使いました。SketchBook Pro ではこのコピックの345色もの色が再現され、アナログなアートワーク同様に使えるのですから驚きです。実際のコピックの色番号とリンクしているので、ノート PC や iPad に SketchBook Pro を入れていけば、出先や外でもいつも通りの作業環境を再現できるでしょう。プロはコピックの色を色番で記憶していますから、とても便利なはずですよ。

――この新ツールを実務に導入できそうですか?

山下 ええ、自分にとって久しぶりに1つ新しいツールが増えましたね。SketchBook Pro でガシガシ描いて、それを Photoshop に持っていって変形をかけたり色調整する、作業フローを考えています。それぞれの強みを生かして上手く組合せていきたいですね。これは初心者にもお勧めできます。雲の筆っぽいけば立ち感とか、SketchBook Pro は「素人目にプロっぽい」表現が簡単にできるので、上手くなったような気分になれるんですよ。そういう気になれるのって、すごく大事ですから……価格も驚きの安さだし(笑)。

――これから絵を描こうという方にアドバイスをお願いします

山下 絵はなかなか上手くなれないものですが、描かないでいると、すぐ下手になってしまいます。だからとにかく描くしかありません。苦手意識やためらいがある方もいるでしょうが、壁を取っ払って描くことでしか道は開けないのです。幸い現在は SketchBook Pro をはじめ様々なツールがあふれ、イメージの具現化をアシストしてくれます。いろいろ触って自分に合ったツールを探すことも一つの喜びになるでしょう。どうか頑張ってください。

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山下良平 氏について

福岡県出身。九州芸術工科大卒業後、横浜にアトリエ開設。雑誌の表紙や大手企業の製品広告を次々制作。SUMMER SONIC でのライヴペイントパフォーマンスやアートブランド「LIKE A ROLLING STONE」等の展開に加え、画家としても活動。【主な仕事】 SONY「SRS-BTS50」広告、NIKE iD ウォールアート「wazzawall」、マガジンハウス「Tarzan」表紙他多数

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詳しくは、オートデスクのウェブサイトで。

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